おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

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基本的にサブタイはもう無視しちゃってもいいです。
本編さえ読んで頂ければ良いので。

と言うかそんなサブタイ付けんなよ、と言う話だよな。
すいません、許してください。










兄貴は妹の為なら命を捨てる事すら厭わない。 だけど死んだら妹達が世界を滅ぼすんで死ねません!!

 

 

 

 

「佐々木殿、今回は共に戦えることを光栄に思います」

 

「固っ苦しいのは抜きだ、取り敢えず束の説明通りに俺が接近戦を担当すっから遠距離でサイレント・ゼフィルスの牽制を頼む」

 

「了解です」

 

クラリッサと共に、訓練機である打鉄を俺は身に纏い山の上を飛んで進んでいた。

俺達よりも前に出撃した他の黒兎隊の面々は旅館から300km洋上で戦闘中。

 

ただし、広域殲滅型で軍用ともなるとその性能は第二世代機しか装備していない黒兎隊では荷が重いらしく押され気味との事だった。

クラリッサが居ればまだ幾らかはマシだったのだろうがクラリッサは俺と共にサイレント・ゼフィルスの牽制をしなければならかったから仕方が無い。

 

俺は自分一人であいつらと戦えるなんて自惚れちゃいない。

 

厳しいだろうが、何とか踏ん張って貰うしか他無い。

 

「束、敵さんの位置は?」

 

「そのまま真っ直ぐに進んで3km。ISの反応が二つにその周りに人間の反応が46」

 

「分かった。取り敢えず、もうそろそろサイレント・ゼフィルスの射程に入るだろうから通信出来るか分からんからな。そんじゃ、生きてたらまた会おうや」

 

「おじさん、気を付けてね。おじさんに何かあったら本気で世界を滅ぼすから。あんな告白させて、期待させるような返答して娘も二人残して死ぬとかありえないからね?」

 

「おっかねぇな。あぁ言ったがお前達を泣かせるような真似はしねぇよ」

 

「信じてるからね」

 

「おう」

 

「兄さん、気を付けて」

 

「あぁ」

 

「それと、帰ってきたら束の告白が云々の話をちゃんと聞かせて貰うからな」

 

それを最後に束達との通信を切った。

 

最後の千冬の声、ガチボイスだったんですけど……これはあれだね、隣にいる束がガクブルしてるやつっすね。

と言うかなんで敵よりも身内の千冬にビビらなきゃならないんだよホント……

こういう事があるたびに俺は敵よりも千冬にビビってる気がするんだけど気のせいじゃないと思うんだよなぁ……

 

「クラリッサ、照準付けとけ。そろそろ奴らの射程に入る」

 

「分かっております。こちらの射程は凡そ2kmでサイレント・ゼフィルスの予想射程は3~5km。まだ撃って来ていないことを考えると射程外なのか、それとも必中を期すために敢えて引き付けているのか」

 

「どちらにせよ、殴り合うのは間違いない」

 

それから更に1km進むと、機体からデカい警告音が鳴り響いた。

 

「避けろ!」

 

「ッ!?」

 

寸での所で躱したビームは、クラリッサを直撃した。

 

それから、二度、三度とビームが飛んで来るが俺を捉えた射撃は一度として無かった。

 

野郎、俺を狙わないで居やがる。

 

ハイパーセンサーで覗いた敵さんの口元はニヤリと歪んでいた。

 

そうかい、俺は大事な商品ってことかい。

アラクネもサイレント・ゼフィルスもクラリッサばかり狙って俺には興味無し。

歩兵の連中はそのまま進んで旅館に向かおうとしている。

 

となれば、先に狙うべきは歩兵連中だな。

旅館に辿り着かれちゃ人質取られちまう、そうなったら何もできない。

千冬達が居るにはいるが、殺しとかそう言う役回りはさせたくねぇからな。

 

「クラリッサァ!五分だけ持ち堪えられるか!?」

 

「十分までなら幾らでも!」

 

「良し!なら少しばかり任せるぞ!俺ァ下の歩兵どもを片付けてくっからよォ!」

 

「分かりました!お気を付けて!」

 

クラリッサが二機の猛攻を凌いでいるのを尻目に、俺は歩兵連中の目の前に降り立つ。

ISは解除しておくのを忘れない。

 

「初めまして、こんにちは。佐々木洋介と申します。そして、さようなら」

 

「なっ!?馬鹿が、自分からISを解除して絶対的な有利を捨てるとは愚か者め!」

 

「奴を捕らえろ!良いか、殺すんじゃないぞ!Mさんとオータムさんから言われてるんだ、殺したら俺達が殺されるぞ!」

 

そう大声で怒鳴りながら、俺の周りを囲んでいく兵士ども。

連中、ただの雇われたチンピラなんかじゃねぇな。動きがこの山の中だってのに機敏過ぎる。

 

恐らくはISの登場で軍を追われた連中の一部だろうな。

 

「ハッハァ!俺をISが無いからって侮りやがったな!?もうてめぇらの負けだよ!」

 

「なっ!?この山の斜面で我々以上に機敏に動くだと!?」

 

「オラ!一人目ェ!」

 

「ゴッ!?」

 

速攻で距離を詰めて、右端の奴の顔面に一発叩き込む。

ゴシャッ、と言う音がしたから骨が折れたか砕けたか。

一応、手加減はしておいたから死にはしないだろう。

 

「貴様ァ!ただの一般人が何故躊躇いも無く人を殴れる!?」

 

「うるせぇ!!こっちは後ろに戦う術を持たない十五、十六の嬢ちゃん達に加えて世界で一番大切な、死んでも良いってぐらい愛してる妹達が居るんだ!お前らみたいな奴を今更殴る蹴る事に一々躊躇いなんざ在る訳ねぇだろ!!とっくにあいつらの為に死ぬ覚悟なんざ出来てんだ!なんならぶっ殺してやろうかァ!?」

 

「ただそれだけで人間を殺すのか!?関係無い人間が大多数であるというのに!?」

 

「その通りだよ!こちとら大切なもん守るためなら何でもしてやるって妹がドイツで誘拐された時に覚悟決めてんだ!妹達が笑って幸せに暮らすためならどんなことでもやってやるよ!」

 

「クソッ!イカれていやがる!えぇい構わん、撃て!最悪死んでさえいなければ何とでもなる!」

 

そう指揮官らしき男が怒鳴った瞬間に俺に向けて何百発と銃弾の雨が降り注ぐ。

俺はそれらを木の後ろに隠れたり、岩陰なんかに飛び込みながら避けていく。

 

そもそも、俺が何故ISを使わないのか。

 

そんなもん束が作ったISは、人を傷付けたり殺すためのもんじゃねぇからに決まってる。他の連中がそうだからと言っても俺だけは絶対にやらん。

 

束が幾ら天才だと言っても、ISを開発して、作り上げるのにどれだけの努力と情熱を注いできたかなんて隣で見てた俺が一番分かってんだよ。

 

だからこそ、俺だけはISを汚してなるものか。

 

他の連中のせいでISが汚れたとしても、俺の分だけは汚して堪るか。

だったら自分の手を真っ赤に染めた方が、億万倍マシだ。

試合とかで殴り合ってはいるから言えた義理じゃねぇんだけどな。

 

確かに純粋な殺し合いなのだから馬鹿な事をしているというのは分かっているし、俺だって出来る事ならISを展開したまま戦いてぇよ?だけどさ。

 

「世界中に裏切られた妹を、兄貴の俺まで裏切る訳にゃ行かねぇだろうがよ!」

 

「あいつ狂っていやがる!」

 

「撃て撃て撃て!」

 

「あいつ銃弾が当たってるのに何で血の一滴も出ないんだよ!?」

 

試合ならまだしも、こんな実戦で、しかもIS相手じゃないってんなら尚更だ。

流石にIS相手は俺もIS使うけどな。じゃなきゃ俺が死んじまう。そうなったら世界滅亡だよ。

まぁ、束のお陰で身体の強度とかIS以上だから生身でも戦えないことは無いから最悪、生身で殴り掛かりゃ勝てないとしても何とかなるだろうさ。

 

今だって何発か銃弾が身体に当たったりするが、IS装甲以上の強度と硬度を持つ身体はそんなもん何発食らおうが貫通しやしない。

流石に眼球や股間なんかの急所は守っているが、胴体や足、腕は全くの無防御でも痛くも痒くもない。

 

山の中を駆け周りながらヒット&アウェイ、偶に乱戦に持ち込んで一人、一人と殴って蹴って潰して回る。

 

 

 

 

 

 

「テメェで最後だ!」

 

「ゴブッ!!」

 

最後の一人の腹に一撃叩き込んで終わりだ。

 

「クラリッサ!今から応援に行く!状況は!?」

 

『ク……!かなり押されています!と言うか負けます!』

 

「あと十秒耐えろ!」

 

クラリッサに通信を取ってみたが、声からしてかなり追い込まれているようだ。

流石にこれ以上は無理か。

 

アラクネの方だけでも引き受けてやらにゃならんな。

歩兵連中を優先したのが不味かったか。だがそうでもしないと今頃コイツらは旅館に到達してただろう。

 

 

 

 

すぐさま打鉄を展開して、飛んで行く。

 

「クラリッサ!アラクネの方は引き受けた!サイレント・ゼフィルスは牽制程度に留めて構わん!」

 

「はいッ!有難うございます!」

 

一応、クラリッサの方のSEを見てみたが結構削られている。

ほぼ半分は削られてしまっているからサイレント・ゼフィルスの相手は長く出来なさそうだ。これは早めにアラクネを片付けて応援に向かわないと不味い。

 

アラクネは飛行をせずに森の中を木々を薙ぎ倒しながら進んでいた。

ちょっと開けた所で目の前に降りる。

 

「テロリストォ!テメェの相手は俺だ!掛かってこいや!」

 

「本命登場ってか!?ったくブラコンのお守も楽じゃねぇな!」

 

アラクネに乗っているのは、腰の辺りまである茶髪に釣り目だったり多分町中に居れば男共の視線を釘付けにすること間違い無しの美人だ。

 

俺を見るとすぐに好戦的な、獰猛そうな笑みを浮かべて八本足のISと共に飛び掛かってくるが、俺からしたらお世辞にも動きは良いは言えない。

ただ、口が悪いなこいつ。

一夏達がこんな言葉遣いしたら俺は間違いなく卒倒して寝込むレベルで。

 

まぁ、こんな何処ぞの誰とも知らん、俺達の命を狙っているような女相手には一切の手加減も容赦も要らない。

 

口汚く罵ってくるってんならこっちだってそれ相応に相手してやんよ。

 

「オヤジはさっさと帰って自分の粗末なもん扱いて寝てろや!それとも妹に世話してもらう方が良いか!?」

 

「その汚ねぇ口閉じやがれアバズレ!洒落にならん事言うんじゃねぇよ馬鹿!テメェこそスラムで客でも取ってろ!」

 

「んだと!?」

 

煽り耐性が異常なほど低いなこいつ!?

自分から言い始めたくせにアッサリとキレ始めて直線的に殴り掛かってきやがる。

 

それでも本能なのか、なんなのか分からんが蜘蛛を模したであろうISを巧みに木々まで使って襲い掛かって来れるだけの技量はある。

 

恐らく、技術面でもそうだが何よりも精神的な面が冷静であれば一夏達じゃ敵わんかもしれんな。

一夏や鈴、セシリアも十分に強いがそれはあくまでもルールが決められた試合と言う枠組みの中でだけの話だ。

こんな命の取り合いじゃ勝てっこない。

覚悟が出来ているかそうでないか、の差ってことだ。

 

地形なんかの条件とかで左右されるだろうがこの女、それを簡単に補えるだけの技量がある。裏組織の実行部隊所属は伊達じゃないってこったな。

こっちの射線を避けるのも上手いし一撃一撃に殺意が込められていて本当に俺を拉致しに来たのか?と疑うぐらいには重い。

 

だがまだまだ弱い。

IS学園の生徒会長さんには負けるな。

ってことは俺よりもずっと弱いってことだ。

 

何よりも致命的なのはちょっとしたことで冷静さを直ぐに欠くところだろう。

自分から煽り始めたのに、相手に煽り返されるとすぐにキレるとかお前はガキンチョかよ。

 

「煽るだけ煽って、煽り返されたら直ぐにキレるとかガキかクソ女!」

 

「黙りやがれクソオヤジ!脳みそブチ撒ける前に遺言でも残したらどうだ!?テメェの大事な妹に伝えといてやるよ!生首と一緒になぁ!?」

 

「やれるもんならやってみやがれビッチ!逆にお前の生首をボスんところに送り付けてやるよ!」

 

この女のお陰であったかくなっていた俺の脳みそが急に冷たくなっていくのが良く分かる程に冷静に成れる。

口じゃ罵り合って入るがヒートアップしていくのは女だけだ。

 

「煽り耐性低すぎんだろお前。流石にびっくりしすぎたわ」

 

「ア”ァ”ン”!?その口二度と叩けない様にしてやるよ!」

 

「えー、これだけでキレるの……?流石に心配になるレベルなんだけど……まぁいいや。取り敢えず気絶しとけや」

 

「オ”フ”ッ”!?」

 

死なない程度に、だが絶対防御を貫通する威力で腹に一撃、拳をめり込ませる。

流石に、さっきの歩兵共の方が良い腹筋してたわな。

 

女としちゃ十分以上に鍛えているんだろうが、まだまだ柔らかい。

顔面突っ込んでそのまま抱き枕にして寝れるぐらいには柔らかい。

千冬なんか割れちゃいないがそりゃもう、ダイヤモンドが千冬なんだよ、と言われても納得出来るぐらいには鍛えている。

ここ何年かは先生やってるから鍛える暇が無かったのだろう、柔らかくなっていたがそれでも公式での人類最強の名は伊達じゃないってことだ。

 

俺の拳をまともに食らったからか、女がだして良い声とは思えない声と、口から吐瀉物を吐き出しながらそのまま落ちて行った。

まぁ今までも口汚かったから言えたもんじゃねぇけどさ。

 

と言うかこいつ、乖離剤を俺に取り付けるって目的を完全に忘れてただろ。

殴る事しか考えて無さそうだったし、乖離剤を俺に向けた瞬間なんて一度も見てないんだが。

まぁいいや。気絶させたからもしそのままノびてても歩兵の連中で生きてるやつがいたら回収するだろうし。

まぁ生きてる奴は居ても結構強めに殴ったから女とはいえ人を抱えて逃げれるかどうか分からんけども。

 

 

 

「クラリッサ、大丈夫か!?」

 

飛び上がってクラリッサとサイレント・ゼフィルスの撃ち合いの間に無理矢理割って入る。

 

「SEがもうギリギリです……!残弾も残り少ない!」

 

そう言うクラリッサの機体はかなりボロボロにやられていた。

レールカノンの砲身は中程から先端辺りまでどこかに吹っ飛んでしまっているし装甲もベコベコだ。

スラスターの調子も宜しくないらしい。

 

「なら一旦下がれ!補給するなりしてからもう一度来い!」

 

「ですが!」

 

「どちらにしろ今のお前じゃ足手纏いだ、さっさと退け!別に二度と来るなとは言ってねェだろ!?」

 

「……分かりました!どうか御武運を!」

 

クラリッサを一度、旅館まで後退させて補給と整備をさせる為に俺に注意を引き付ける。

束なら、十分かそこらで修理も完了させられる筈だ。

 

 

事前の情報通り、サイレント・ゼフィルスの操縦者はまだ15、16ぐらいの子供らしい。確かに顔の上半分は隠れてはいるが身体付きなんかがまだ子供だ。

 

「おいクソガキ!お前の相手をしてやんよ!掛かって来いや!」

 

サイレント・ゼフィルスの前に躍り出て、何時でも殴り掛かれる準備をして構える。

だがどういう訳か、全く俺に向かってクラリッサの時の様にバカスカ撃って来ない。

 

弾切れか?いや、それは有り得んな。拡張領域に恐らくエネルギーパックを幾つか持っているだろうし、武装は見た感じ遠距離用のライフルだけだ。

恐らくは近接用のハンドガンか、ブレードなりも装備している筈。

 

「あは……!」

 

「あ?」

 

「あはは、あははは!あははははははは!!!」

 

何だコイツ、急に笑い出しやがった?

しかも心底愉快だと言わんばかりに、声だけで無く口元は今の状況に似つかわしくないぐらいに笑っている。

 

「頭イかれてんのか……?」

 

そして俺がそう言った次の瞬間、これまたとんでもなく訳の分からない事を言い出した。

 

 

 

 

「あぁ、兄さん!やっと会えた……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツ、今なんて言った?

俺の事を兄さん、と言ったのか?いや、そんな馬鹿な話あるか。

俺には千冬と一夏、束と箒の四人だけだ。俺の記憶の無い所でそう呼ばれる理由も無いし見当も付かない。

 

どういうこった、いよいよ訳分からなくなって来たぞ……

 

「待て待て待て。お前一体何者だ?俺の事を兄貴って言ったか?」

 

「そうだ」

 

「俺には妹は四人しかいない筈なんだがね?五人目なんて聞いた事無いんだが?」

 

「……?あぁ、それなら私の顔を見れば分かる筈」

 

そう言って、顔を覆っていた装甲を外し素顔を露わにした。

その顔を見てそりゃぁもう驚いたよ。何せ。

 

 

 

「お前……千冬か……!?」

 

 

 

高一ぐらいの時の千冬がそのままそこに立っていたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「私は織斑マドカ。織斑千冬じゃない」

 

「苗字が一緒、ってことは何か繋がりがあると見て間違いなさそうだな?マドカちゃんよ」

 

「ッ!そうだ、私は織斑千冬を元に作られた」

 

一瞬、俺がマドカと呼んだ時に滅茶苦茶嬉しそうな顔をして身を少し捩ったが気のせいだと思いたい。

それよりも滅茶苦茶気になる言葉が一つ。

 

「作られたぁ?そりゃお前、ラウラとクロエみたいな出生ってことかよ」

 

そう、この織斑マドカと名乗る少女は千冬を元に作られたと言った。

俺が言った通りならば、この少女はラウラやクロエと同じような出生、所謂デザインベビーという事になる。

 

あの時、束に説明された事と同じことがまだ世界のどこかで行われているかもしれないのだが……腹が煮えくり返りそうだよ。

何よりも癪に障るのは千冬がモデルだ、という事だ。

 

まぁ、出会った時の状況を考えれば何か裏がありそうっちゃありそうだったがあんまり突っ込まなかった。

一夏は勿論まだ赤ん坊だったから記憶なんてある訳無いし、千冬だって記憶は定かじゃないはずだ。もし覚えていたとしても思い出したくないような記憶だとしたら、と思うと聞けるようなことじゃない。

 

「その通りだ。だが絶対的に違うのは、ドイツのあの計画はあくまでも私や織斑千冬、織斑一夏が作られた織斑計画の劣化版でしか無いという事だ。私達は意図的に〔最高の人間〕を創るための計画だ。ドイツの様な人造兵士を作るなんて中途半端な計画じゃない」

 

「ほぅ、で?」

 

「織斑千冬が第一成功体で織斑一夏は第二成功体。私はもしもの時の為に作られたスペアだ。例えるならば、私と織斑千冬は一卵性の双子、とでも言えば良いのか?歳は離れているがな。それに、二人とは違って私は失敗作だから」

 

「織斑計画、ねぇ……」

 

なんとも馬鹿な事を考えた人間が居るもんだ。

最高の人間を創り出すだぁ?神にでもなったつもりか?

 

ま、神様にゃ碌なのが居ないってのが普通なんだがね。

ギリシャ神話とか見てみろよ。神様関連でどんだけの被害が出たことか。

ゼウスなんざ下半身で物事考えてそうな種蒔きマシーンだぜ?

 

人間にも、神を気取った大馬鹿野郎がいたってことだ。

そんな奴らのせいでどれだけの命が弄ばれたのか、考えるだけでおぞましいし全身の血管がはち切れそうになるぐらいには怒りが込み上げてくる。

 

「一つ質問だ。なんであの時、俺が千冬と一夏に出会った時にお前は居なかった?」

 

「それに関してはスペア、と言う意味合いが大きく関わっている。元々私は何らかの原因で織斑千冬が失われた場合の代用品だった。だからこそ後から作られたし、織斑一夏よりも生まれが遅い。あの時には私はまだ鉄の子宮の中だったんだ」

 

「なら何で千冬と一夏はあのアパートに居た?」

 

「ハッキリ言ってしまえば、研究員の一人が二人を連れだして逃げたんだ。彼女は織斑千冬と織斑一夏の教育係、言うなれば母親代わりの様な役割を任されていたんだ。だからある時に本当に母親としての愛情が芽生えて、二人を連れて逃げたと言う訳だ」

 

「泣ける話だな、と言いたいところだが計画に関わってた時点でギルティだな。ま、最後の最後にそうやってくれた事に関しては頭を下げるよ」

 

確か、千冬と一夏の部屋に初めて入ったときに机の上に手紙が置いてあったはず。

あれは、俺は読んでいないから分からないがどんな思いが綴ってあったんだろうか?

 

「まぁ、その人は既にこの世には居ないし私とは関わりが無いし、この話も私の教育係から聞いただけだ。だが私の教育係にはもし逃げることが出来たのなら兄さんの所に行きなさい、と言われた」

 

「俺の所に?そりゃまた何で」

 

「織斑千冬と織斑一夏を、まだ若いにも関わらずあれだけ愛情を注いで立派に育てていたからだろう。彼女はあの人なら絶対に大丈夫、って言っていた」

 

「そりゃ嬉しいね。で、その千冬と一夏の教育係の名前は?お前さんの教育係はどこに行った?」

 

「二人の教育係の名前はオリビア・フォスター。私の教育係は直属の上司だな」

 

組織に対して反旗を翻したんだからその末路がどうなるか、なんて分かり切った話だ。

それが裏組織ともなればどうやったって生きていることは出来ないに決まってる。

 

「で、今回出張って来た理由は?と言うか俺の事をなんで兄さんなんて呼ぶんだ?」

 

「今回、私が出て来たのは上からの命令だから。私は逆らうことが出来ないんだ、体に入れられたナノマシンのせいで」

 

「ナノマシン?そりゃまた一体どういうこった?」

 

「逃げ出そうとした時に、捕まったと言っただろう?あの時、盛大に暴れまくったんだ。そしたら反抗出来ない様に、と。兄さん、と呼ぶ理由はあの二人の兄なんだから姉妹の私もそう呼んでも問題無いだろう?それに、元々話を聞いた時から憧れていたんだ」

 

「いやまぁ、姉妹っちゃ姉妹だろうけど、俺に憧れただぁ?」

 

「あぁ、あの二人に対する兄さんの接する姿勢と言うか、在り方に凄く、酷く憧れたんだ。格好良い、って。私にもあんな兄が居たらな、って。あんな風に私も褒めて貰ったりしたい、って」

 

「それで、俺を兄さんって呼ぶのか」

 

「そうだな。今日初めて出会ったから私も兄さんも互いの事は全く分からないし知らない。好きな食べ物も動物も趣味も知らない。だけど私の中ではもう兄さんは兄さんなんだ」

 

「大層な評価を頂いてるな、俺は。そんなら何で今回俺を拉致る任務なんて参加したんだ?」

 

「ナノマシンを投与されていて逆らいたくても逆らえないからだ。私の直属の上司は今回の任務に大反対していたからその意見が通っていれば私が兄さんと初めて会うのはもっと後になっていただろうな」

 

そう言って、少し悲しそうに笑うマドカはそりゃもう千冬そのままだった。

そりゃ千冬を元にうんたら言ってたからそのままってのもしょうがないんだけど。

 

ったく、あんな顔見せられちゃぁほっとけなくなっちゃうじゃねぇか。

 

千冬と一夏と血が繋がってるってんならそりゃもう俺の妹でしょうよ!(暴論)

 

 

 

 

 

「あうっ……!」

 

「おい、どうした?」

 

「何時まで経っても私が兄さんと戦わないから命令を受けたナノマシンが、私に早く兄さんを戦って捕らえさせるために暴れ出した……!」

 

「はぁ!?ちくしょう、話し合いで解決するイイ感じの流れだったじゃねぇか!」

 

「すまない兄さん……!」

 

そう謝ったマドカの苦しそうな顔と共に今まで下げられていた銃口が俺に向けられた。

 

「しゃぁねぇ、相手してやるよ!」

 

ったく、俺の妹達は好戦的で困るぜ全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっぶねぇ!?」

 

なんだかんだで十分くらい逃げ回っているが、射撃精度がセシリアやシャルロットの比じゃない。

あれだけ大見え切ったくせに全くの防戦一方だった。

 

こりゃ確かに俺と相性悪すぎだわ!

 

毎回毎回エグイ角度で偏光射撃を撃ってきやがる。

流石に直角とまでは行かないが、見た感じ六十度くらいの角度なら余裕で曲げてくる。

今までで一番角度が付いていたのは、八十度ぐらいだ。

 

これは恐らく、九十度くらいなら多分曲げてこれるんじゃねぇのか……?

 

「ダァラッシャァ!」

 

打鉄の標準装備である近接ブレード、葵で少し角度を付けてビームが当たった瞬間に一気に角度を付けて無理矢理ビームを弾く。

弾いた次の瞬間には背後に回ったビットが即座に撃ってくる。

 

振り向きざまに同じようにビームを弾いてやる。

 

「ヌぉ!?やってくれるじゃねぇの!」

 

流石に何発か食らう。

と言うかアリーナと違って、それなりに高い高度で、大体二千mぐらいでやり合っているから上下左右、ありとあらゆる方向からビームが放たれる。

 

「こりゃマジで厄介だな!?オラァッ!」

 

大体、1kmの距離を維持してマドカはバカスカ撃ってきやがるしその合間合間を隙無く、絶え間無くビットの射撃が襲い掛かってくる。

 

いや、分かってはいたがかなり厳しいぞ。

ただでさえ、全盛期の千冬ってだけで勝てるかどうか五分五分なのに、千冬レベルの強さを持つ奴が射撃特化になるとこれだけ俺と相性悪くなるのは流石に予想の遥か上を行くな。

 

こっちは防ぐので精一杯、反撃なんてままならない。

と言うよりも接近戦に持ち込むことが出来ない。

 

「兄さん!逃げてくれ!頼むから!」

 

「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」

 

必死に、身体の内側からナノマシンに操られて、抗って、激痛が走っているだろうに必死に逃げろと叫ぶ。

 

「俺の心配をしてる暇があるなら自分の心配しやがれ!お前が兄貴だと慕う男はそんなに弱くはねぇんだよ!黙って見てろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんて言ったものの。

解決策が本当に無い。と言うのも遠距離武器なんて俺は装備していないからだ。

だってド素人の俺が撃ったって当たりゃしねぇ。一応、セシリア教官の元で射撃訓練は積んでいるんだがそれも中、近距離で尚且つ静止目標だし、移動目標、それも滅茶苦茶に複雑な三次元立体機動を行う遠距離目標なんざどうやったって命中させることは出来ない。

 

「おぉとアブねぇ!?」

 

クソ、マジでマドカ自身からの射撃もそうだが何よりビットからの射撃が油断ならない。

精々二十mか三十mの距離からビームがバカスカ飛んで来るのだ。

しかもセシリアは四機なのに、マドカは六機の同時運用をやってのけるんだから一・五倍の火力量だしそこにマドカからの射撃も加わるとなると一・七五倍。

 

ぶっちゃけ避けて剣で弾くので精一杯だから反撃もクソも無い。と言うか出来ない。

流石は、千冬に匹敵するだけはある。

先ほども言ったが千冬クラスの実力者が射撃特化になるとここまで厄介だとは。

あんまり知りたくない、と言うか体験したい事じゃない。

 

さて、本当にどうしたものか。

 

ただ、やり様が無いって訳じゃない。

と言うのも、基本的にBT兵器と言うのは発展途上であり、今俺の周りを飛び回りバカスカ撃って来ているビットには、通常の実弾兵器で言う所の残弾数、BT兵器ではエネルギー残量とでも言えばいいのだろうか。

セシリアを基準で話せば、予想でしかないがビット一機につき撃てる回数は精々が五十~七十と言ったところだ。

実弾兵器と比べると、圧倒的に少ない。

 

一応、エネルギーパックを拡張領域に幾つか装備していることは予想出来るがそのエネルギーパックも技術不足故に容量が大きい物では無く、一つのエネルギーパックを丸々使用して一機分補給可能、と言った感じだ。

これでも十分かと思われるかもしれないが考えてもみろ、六機のビットを同時運用するだけでなく自分のライフルまであるんだから精々、それぞれのビットにエネルギーパックを一回分用意するので精一杯な筈だ。

まぁ、予備としてもう一つか二つ分程度なら用意出来るかもしれないがそれでも高が知れる。

一応、出力に応じて使用するエネルギー量は上下するので低めの威力にしておけば長く戦えるだろうがそうなると射程は短くなるし威力も弱くなるから低くても三十%ぐらいの出力は必要となる。

 

 

まぁ何が言いたいのかと言うと、セシリアの専用機であるブルー・ティアーズの姉妹機であるのならば、亡国機業が何らかの方法でエネルギー残量問題を解決していない限りは恐らくそう遠くない内にエネルギー切れを起こすだろう、と思われる。

しかもかなりの勢いでバカスカ撃ってるし、剣で弾いた感じだと出力も三十どころかその倍は出ていると思う。

 

とすればエネルギー切れを起こすはず。

 

それを狙えば勝機がある筈だ。

狙うのは補給に向かった瞬間だろう。

 

どんな射撃武器にも言える事だが、持っている弾を使い切ったら精々が鈍器程度の価値しか存在しなくなる。

弓矢は飛んできた矢を使えば良いが、銃弾はそうもいかない。

なにせ弾頭部だけじゃ撃てない。

火薬は必要だしその火薬の爆発に耐えられるだけの銃身やらなんやら、色々と複雑な機構が必要になる。

大昔の火縄銃みたいなやつなら今の銃器ほど複雑じゃないが連射性能は無い。

聞いた話じゃ火縄銃の弾込めには三十秒掛かるとかなんとか。慣れている人間でも二十秒は掛かるらしい。

 

話を戻すとだ、どんな射撃武器も弾切れしちまえばなんて事は無いという事だ。

 

それを考えると、刃毀れしたり折れたりしなければ剣の方がまだ武器として長時間の連続使用にはまだ耐えられる。

俺は自分で殴って蹴った方が速いしやり易いからな、それを選んでる。

ってなわけで。

 

 

 

そんじゃまぁ!持久戦と行こうか!

 

 

 

 

 

 

 

 










マドカちゃん、ちょっと性格マイルドにし過ぎたかもしれへん……
まぁ、いっか。可愛げがあって淑やかな感じのマドカちゃんもアリだよね。

基本的に、おいこれ違うだろ!誰だよ!とか思った場合は作者が暴走と言うか、妄想しすぎた結果ですのでご了承下さい。









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