おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

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書ける時にバンバン書いちゃう作者なのでした。













クソッタレのシルバリオ・ゴスペルに報いを!

 

 

 

 

 

 

 

確かに千冬が居ないな、とは思っていた。

確かにいざってときは千冬が、と決まっていたし恐らくそうなんじゃないかと思っていた。

 

だけどまさか一夏達まで出ているとは……

 

それだけ、状況が逼迫しているという事だろう。

現状、ISの性能だけを見れば第三世代機を所持している一夏、セシリア、鈴の三人が最高戦力であることは間違いない。

 

力量は、お察しの通りだが……

 

兎に角、今は一人でも多く戦える人間が欲しい状況ってことなんだろう。

専用機とはいえ第二世代機のシャルロットまで駆り出されている時点で相当ヤバイ。

 

「今の所、ちーちゃんが前線を張ってるお陰で持ち堪えてる。それ以外の子はひたすら支援に回ってるけど倒す事は出来ないと思う」

 

「だろうよ。ブランクがある千冬じゃ荷が重い。それに一夏達のお守も加わってるんだから寧ろ持ち堪えてるだけスゲェさ」

 

「おじさん、今すぐ出られる?」

 

「当たりめぇだろ、何のために打鉄の準備進めてると思ってんだ」

 

「それもそうだね。それじゃ準備が終わるまで待ってて。あと十分もあれば終わるから」

 

そう束は言って、打鉄の準備を進めていく。

もう今更だけどこの打鉄、ほぼほぼ俺の専用機みたいな感じになって来てるよな。

 

入学してからずっとこの打鉄使っててVTシステムの時もそれ以降もずっとこいつに世話んなってる。

そうくると愛着が湧くってもんよ。

 

ま、今回も無茶させっけど頼むぜ。

 

それに、今回ばかりは殴り合いだけに留めてたらただじゃぁ済まんだろうからちったぁ本気出してやるかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後。

 

「準備出来たよ」

 

俺を呼びに来た束にそう言われて打鉄を纏う。

 

「そんじゃ行ってくる」

 

「絶対に死んだら駄目だからね?」

 

「分かってる」

 

束に念を押された。

まぁ、VTシステムの時もそうだけど生きてりゃ束が多臓器不全だろうが四肢欠損だろうが何とかしてくれるだろうから安心して戦う事は出来る。

いや流石の俺でもそれは避けたいんだけどさ、覚悟しとかないといけない事ではあるだろう。

 

打鉄のブースターを吹かして千冬達の元に向かう。

 

 

 

 

 

暫くすると、遠くの方で閃光が迸っているのが見えた。

多分、千冬達がシルバリオ・ゴスペルと戦っているのだろう。

 

しかし、随分と派手にやっていやがるねぇ。

幾つもの爆炎が同時に、もしくは数舜程度のタイムラグの後に光る。

 

「おーおー、やってんじゃないの!」

 

ハイパーセンサーで見てみると、千冬を前衛に一夏がその支援、中衛に鈴とシャルロットが、後衛にセシリアが就いている。

 

パッと見た感じだとバランスが整った構成だが、はっきり言って一夏達が千冬に付いていけていない。

やっぱり経験の差ってのもあるんだろうが、地の能力が圧倒的に足りていない。

千冬は教職に就いてからその実力が鈍っているとはいえ、それでも初代ブリュンヒルデ、はっきり言って一番激戦だった世代、黄金世代とでも言えば良いのだろうか、その頂点だ。

 

幾ら本人も鈍ったとは言っているが、やはり他者を寄せ付けない実力はある。

でなきゃセカンドシフトした第三世代軍用IS、実質第四世代相当の機体性能がある軍用ISを第二世代機の打鉄で食い止めるとか、渡り合うとか国家代表だろうが普通出来る芸当じゃぁない。

しかも剣一本だけで、となるとこの世界で出来るのは千冬ぐらいだろう。

 

ただ、千冬の顔も相当追い込まれているのかギリギリ、と言うか切羽詰まった表情だ。

一夏も必死になって援護しようとするが、千冬とシルバリオ・ゴスペルの攻防に付いて行くので精一杯、なんなら置いて行かれてすらいる。

 

中衛後衛の三人に至ってはそもそもの役割を果たせていない。

そりゃ、えげつない速度で行われている攻防に手を出そうものなら、千冬に攻撃を当ててしまう可能性すらあるし、なんならシルバリオ・ゴスペルのヘイトを集めて手痛い竹箆返しを食らう可能性だって大いにある。

 

そうなったら接近戦が出来る鈴ならまだしも、セシリアとシャルロットの二人はどうなるか分からない。

鈴だって無事じゃぁ、済まないだろうさ。

 

 

兎に角、さっさと千冬とシルバリオ・ゴスペルの間に割り込んでやろうか!

 

 

 

 

一度、高度を取って千冬とシルバリオ・ゴスペルの上を取る。

 

「千冬!合図で一気にセシリアの所まで退け!」

 

「兄さん!?」

 

「良いな!?」

 

「っ!あ、あぁ!」

 

千冬にそう伝えて、タイミングを計る。

すると、一瞬シルバリオ・ゴスペルが退く動きを見せた。

 

その瞬間に合図を出す。

 

「今!」

 

「ッ!!」

 

千冬が一気にブースターを吹かせて退く。

合図を出したと同時に急降下、シルバリオ・ゴスペルのブースターを狙って葵を振る。

 

「ダァラッシャァ!!」

 

一瞬の擦れ違いの間に両手に持っている葵二本で背部の八つある内の二つのブースターを無理矢理ぶっ壊す。

 

「ハッハァッ!!ザマァ見やがれ木偶の坊!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「一夏ァ!お前も一旦退け!」

 

「でも!」

 

「五月蠅ェ!さっさと退けバカタレ!」

 

一夏を千冬共々セシリアの所まで退かせると、シルバリオ・ゴスペルの目標が俺に代わる。

そら自分に手傷を負わせたんだ、逃げていく奴よりも優先するだろう。

あれは人間が操っている訳じゃない。

 

ISコアと言う、一種の人工知能の暴走によって動いている訳だ。

そうなると、単純な脅威度によって敵を判別している可能性が高い。

 

見た感じ、千冬が与えられた手傷は恐らく装甲に付いているデカい裂傷だけ。

簡単に言えば初撃での一撃のみってことになる。

 

千冬は、何度も言うが短期決戦型、もっと言えば一撃で敵を仕留める事が一番得意だ。

高機動広域殲滅型の名を持つ、近距離と中距離で一番の攻撃力を発揮する相手じゃぁ、分が悪すぎる。

それでも今の今まで二世代もの差を自身の力量のみで凌いでいたというのだから鈍ったとは言うものの、凄まじいの一言に尽きる。

 

 

まぁ、話を戻すとだ。

シルバリオ・ゴスペルの目標が俺に代わったってこった。

 

脅威度に換算すれば、装甲に裂傷を与えた千冬よりもブースター二つを持って行った俺の方が絶対的に脅威度が高いと判断するだろう。

 

しかも高機動が売りなのだから、単純計算で10割中その内の2.5割の機動力を失ったと考えれば、相当だ。

 

どれほどの速度と機動力なのか分からないが小さくない程の被害。

 

「おうおう!血気盛んなこったなぁ!?」

 

余程、頭に来たらしいのかエネルギー弾を滅茶苦茶に放ってくる。

見た感じ、あの推進用のブースターは攻撃用と併用らしい。

 

『兄さん!』

 

「あぁ!?」

 

『どうしてここに!?』

 

「お前達がピンチだって言うからに決まってんだろ!」

 

『だけど連戦ってことだろう!?それなら私が!』

 

「馬鹿野郎!兄貴の事を信用出来ねぇってのか!?」

 

『そう言う訳じゃない!でもそいつは!』

 

「知ってるよ!セカンドシフトしたことも!多分第四世代機相当だって事もなァ!」

 

『ならなんで!』

 

「兄貴ってのが何で一番に生まれたか知ってるか!?何で存在しているのか知ってるか!?」

 

『はぁ!?何を急に!』

 

「答えはな!」

 

 

 

 

 

「妹弟を守るためにいるんだよ!」

 

 

 

 

 

「お前達をこんな戦場に出しちまって今更だがそう言うもんなんだよ!兄貴ってのは!特に俺はな!」

 

そう言いきってから、通信を一方的に切る。

 

 

シルバリオ・ゴスペルの猛攻を防ぐ。

エネルギー弾を剣で無理矢理弾いては逸らす。

 

それを幾度と無く続ける。

 

「やっぱしこっちから攻撃は出来ねぇなぁ!」

 

思わずそう叫ぶ。

やっぱし、近距離特化、それも殴る事を一番得意としている俺だと、自分と同じ実力、もしくは格上相手だと防戦一方になる。

 

マドカみたいに持久戦をやっても良いんだが、そうなると千冬達に被害が行くかもしれない。

となると、持久戦は無し。

 

だけど俺では遠距離武装が無いしあったとしても扱えない。

となれば。

 

肉を切らせて骨を断つ作戦を実行するしかねぇよなぁ!?

 

そう思い立った瞬間、今まで逃げ回っていた面影はどこへやら。

 

シルバリオ・ゴスペルに向かって瞬時加速を使って思いっ切り突っ込んだ。

 

「こんにちはってなぁ!」

 

切り掛かると、シルバリオ・ゴスペルは俺から距離を取ろうとするが遅い。

その瞬間にもう一度瞬時加速を行って更に距離を詰めると右肩の辺りから左の腰に向かって袈裟懸けをする。

 

本当は殴ったり蹴ったりで戦いたいんだが、こんな状況で更に自分を不利にする必要は無いだろうさ。

 

袈裟懸けを右手の剣でやると同時に回し蹴りを一発、勢いそのままに叩き込む。

多分、サマーソルトキックみたいになっているがまぁいい。

 

続いて左手に持っている剣で横一文字に左から切りつける。

 

流石にここまでくるとスラスターを吹かして逃げる。

四撃目を与える事は出来なかったが、これで随分と怒らせる事だけは出来たらしい。

 

完全に俺だけをロックオンしていやがる。

 

 

 

「そんじゃまぁお付き合い頂きましょうかねぇ!?フロイライン!」

 

さぁ、楽しい楽しい時間の始まりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 千冬 ----

 

 

 

 

 

 

 

シュヴァルツェア・ハーゼがやられた。

幸いにも、全員命に関わる様な大事には至っていないのがせめてもの救いだろう。

 

だがこれで、シルバリオ・ゴスペルを足止めする人間が誰一人として居なくなった。

 

「私の出番、という事か」

 

「うん、そうだね。じゃないとおじさんが挟まれちゃう」

 

隣にいた束と、そう話す。

束の声色は、真面目そのもの。

普段ならもっとふざけているような感じなのに何時に無く真剣で切羽詰まっている感じだ。

 

多分、最後にこの声を聞いたのは高校生の時だ。

ISがまだ開発中の時で、私と兄さんに語っていた時のこと。

あの時は切羽詰まっている感じでは無く、自分の夢を語る熱さがあったがな。

 

束がそんな声を出して、真面目な顔をすると言うことは余程追い込まれている状況という事だ。

 

「取り敢えず、現状のシルバリオ・ゴスペルに付いて説明するね。多分、セカンド・シフトしてる」

 

「はっ、冗談は止せ。そんなことを言っている場合じゃ無いだろう」

 

束の言葉が信じられず思わずそう返した。

セカンドシフトだと?

 

あれは、搭乗者とISコアの結びつきが深くなければ出来ない。

暴走状態のISが出来る様な事じゃない。

 

それを、暴走状態のISが、しかも第三世代軍用ISがだと?

 

そんなもの信じられる訳があるか。

 

「冗談でも何でもないよ。流石の私だって時と場合ぐらい弁えるってば」

 

「今までの行いを省みるんだな。……それで、もしそれが本当だとしたら、どうなる?」

 

「多分、第四世代機相当の性能になってる」

 

「ハッ、第三世代と言うだけでも厄介なのに第四世代だと?」

 

「うん。正直言って、ちーちゃんでも多分凌ぐので精一杯だと思う」

 

束がそう言うが、当然だ。

なにせ、普段私達が使っている打鉄やラファールはリミッターが掛けられた状態の、所謂試合用だ。

 

リミッター無しの、純粋に軍用として開発されたISと比べるとその性能差は同世代機だとしても大きな差がある。

私は打鉄を使うが、それでも一世代分の性能差があるのだ。

 

まだ一世代なら、幾ら腕が鈍ったとはいえ技量で何とかなるかもしれない。

 

だが第四世代機、それも軍用ともなれば無理がある。

ただでさえ性能差に開きがあるのに第四世代ともなったら想像を絶するほどの開きが出来てしまう。

まだ、試合用ならやり様があったかもしれない。

 

だが軍用は無理だ。倒せない。

断言出来る。

 

「おじさんにも連絡しようとしてるけど、全然繋がらないんだ。多分、余裕が無いんだと思う」

 

兄さんの相手も、遠距離特化型だから相性としては最悪。

攻めあぐねて決定打に欠けているのかもしれない。

 

そんな状況の兄さんの元にシルバリオ・ゴスペルを向かわせたらどうなるか目に見えている。

 

それがまだ格下ならば勝てるだろうけれど、兄さんと同格かそれ以上の相手となったら幾ら兄さんとはいえ、ニ対一ではやられてしまうだろう。

 

「分かった。予定通り私が出よう。一応、後の事は山田先生に任せるから頼むぞ」

 

「うん。打鉄の一機をちーちゃん用に調整しといたからさ」

 

「ありがとう。……ん?おいまて、私はそんな許可出していないぞ」

 

「……えー、まぁ、その非常事態ってことで許してください……」

 

「はぁ……後でちゃんと後始末だけはしてもらうからな」

 

「りょーかいです」

 

「なら今すぐにでも出る。出来るだけ此処にも兄さんにも近付けたくない」

 

「そう言うと思った。とっくに準備は終わってるから何時でも行けるよ」

 

束のその言葉通り、打鉄の一機が私用に調整された状態で待機していた。

全く、この短時間で私専用に調整するなんてな。

 

普通なら数週間の時間を掛けて個人のデータ収集を行って漸くと言うのに。

流石は天災とでもいうべきか。

 

「いっちゃん達は連れて行かないの?」

 

「連れて行けるわけあるか。精々ひよっこの一夏達じゃどうやったって手も足も出んだろうさ。それに、生徒を守るのは教師の務めだ。なに、毎回毎回兄さんにばかりカッコつけさせられん」

 

そう言ってニヤリ、と意識して笑うと束も笑った。

 

「それじゃぁ、行ってくる。生徒達を頼んだぞ」

 

「まっかせてよ!」

 

そう、最後に言葉を交わして飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、シルバリオ・ゴスペルと会敵して戦闘状態に入った。

やはり予想通り強い。

しかも高機動広域殲滅型と言うだけあって相性が最悪だ。

 

私はたったの一度、会敵したときにしか攻撃を当てられていないのにあいつ、中距離からエネルギー弾をバカみたいに撃ちまくってくる。

お陰で全くと行っていい程に近寄れない。近寄った瞬間に蜂の巣になる。

 

右手に持った打鉄用近接ブレードの葵を必死に振るってエネルギー弾を弾いたりするがそれでも被弾は免れない。

 

このままじゃジリ貧。

 

遠くない内にやられる……!何か打つ手は無いものか!

 

 

 

 

 

 

必死にシルバリオ・ゴスペルからの攻撃を凌いで躱し続けていると束からの通信が入った。

 

『ちーちゃん!』

 

「なんだ!耳元で大声を出すな!こっちは大忙しなんだぞ!」

 

『いっちゃん達がちーちゃん追い掛けて出てっちゃった!』

 

「はぁ!?おま、お前どうして止めなかった!?」

 

『止めたに決まってんじゃん!だけど静止を振り切って行っちゃったんだよ!ちーちゃんだけじゃ荷が重いからって言ってさ!それにおじさんの為に、友達を守らないとって!』

 

「あの馬鹿小娘共め……!今どこにいる!?」

 

『ちーちゃんから五十四km離れたところ!四人ともかなり飛ばしてるからもうすぐ着いちゃうよ!』

 

束がそう言った。

事実、レーダーには確かに四機分の機影が映っていた。

 

あの小娘共、無事に帰れたらただじゃ済まさんからな!待機命令無視、独断での出撃。夏休み中反省させてやる。

 

『千冬姉!』

 

「大馬鹿者!どうして来たんだ!ここはお前達が知っているアリーナでの試合じゃなくて本物の命を懸けた戦場なんだぞ!?」

 

『それでも!前のお兄ちゃんみたいにただ見てるだけは嫌だ!何時も助けて貰ってばかりなのも!』

 

そう大声で叫ぶ一夏は、聞き分けの無い子供のようだった。

でも、確かにVTシステムの時、兄さんがボロボロになっていくのを私達は何も出来ずにただ見て居る事しか出来なかった。

 

あの時のくやしさは私だって覚えているし、一夏の取り乱し方も尋常じゃなかった。恐らく一夏の中であの出来事は相当トラウマと言うか、大きく引っ掛かっている出来事なのだろう。

 

どちらにせよ、一夏達を帰らせようにも遅い。

シルバリオ・ゴスペルが一夏達を脅威として認識したのか攻撃を加え始めた。

 

「えぇいクソ!良いかお前達!兎に角攻撃を回避する事に集中しろ!一撃でもまともに食らったらSEを持ってかれるからな!無茶をして攻撃を加えようなんて思うんじゃないぞ!」

 

『『『『はいッ!』』』』

 

四人はあらかじめ決めていたのか、オルコットを後衛に、中衛を鳳とデュノアを置いて一夏を前衛に出して来る。

 

確かにバランスが良いのかもしれないが、シルバリオ・ゴスペル相手では通じないだろう。

 

前衛の一夏が私を援護しようとするがそもそも私とシルバリオ・ゴスペルの戦闘速度に付いてくる事も危うい。こんなでは到底戦闘に参加するなんて出来る訳が無い。

中衛と後衛の三人もどうにか援護しようとするが、照準が付けられていない。

 

三人は早々に援護射撃を行う事を諦めてはいないものの、鳴りを潜めた。

 

だが、それでいい。

下手に撃ってヘイトを集めるよりもいいし何よりも私を誤射する可能性が高い。

代表候補生とは言えその判断は正しい。

 

シルバリオ・ゴスペルも四人の脅威度は低い、若しくは無いと判断したのか無視を決め込んでいる。

 

ともかく、これでいい。

さて、どうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬!合図で一気にセシリアの所まで退け!」

 

「兄さん!?」

 

「良いな!?」

 

「っ!あ、あぁ!」

 

唐突に兄さんの声が響き渡る。

その指示に、殆ど反射的に従う事を決めて合図を待つ。

 

「今!」

 

「ッ!!」

 

合図が出た瞬間一気にブースターを吹かせて退く。

 

「ダァラッシャァ!!」

 

兄さんはそのまま急降下で一撃を加え、ブースターを二つも破壊する。

今の今まで私が攻めあぐねて、攻撃を加える事すら出来なかった相手に奇襲、いや強襲か?とはいえかなりの損害を出させたのだ。

 

流石としか言いようがない。

やはり、毎日鍛錬していた成果が出ているのだろうか。

 

IS学園に入学してからは、暇な時間が特に多くなったからか鍛錬に費やす時間が大きく増えている。

何しろ、会社は退職という名のクビだし、やる事と言えば学生の時の座学の記憶を引っ張り出して勉強をするか、運動するぐらい。

 

元々、兄さんは頭が悪い訳じゃない。

学生の時にやらなさ過ぎたと言うだけで、それも束とISを開発する時に小学校の勉強から教わり直した為にそれなりに出来る。

 

IS学園は、一般教養科目、世間一般で言う所の数学や現代文、日本史などは午後の二時間分しか存在しない。

 

一応、入学をする為に要求される一般教養科目の最底偏差値は60。

これは普通の学校と比較しても相当上位の学校だ。

 

それに加えてISにおける基礎知識と幾らかの応用も必要となってくる為に総合の偏差値は70を超える。

県内で一番優秀な高校でも届く高校がどれほどあるか分からない。

 

まぁ、IS学園は国内屈指の難関校と言われてはいる。

そもそも受験倍率がおかしい。

 

こっちは四クラス分、160人しか採用しないと言うのに全国合わせて受験者は5万人を超える。倍率にして312倍。

とんでもない数字だ。

 

それの上位160名が入学出来るのだ。

 

まぁ、その殆どが技術職に進むのだが。

ともかく、実技こそあれど一年生の内はやはり座学が中心となってくる。

 

二年生になれば、整備課程に進んだ者は一日六時間授業の五時間を整備の実技や座学になって休日も格納庫に籠って整備をする生徒が殆どだ。

 

なにせ、企業や国家に就職するにはそれぐらいしないとならない。

なにせ、女尊男卑思想があちらこちらに蔓延っているとは言ってもやはり技術職などにおいても男性が占める割合が多い。

 

元々技術職に就いていた人が現在はその屋台骨を支えているのだ。

だと言うのに、馬鹿な奴らはそんな職場から男性全員を排除しろと言う。

 

そうなったら多分、回らなくなる。

女性の割合が多くなったとしてもだ。

 

武装や装甲などの部品製造に関しても男性が絶対的に多い。

 

それを考えると、その中で生き残るにはそれぐらい努力をしなければ技術職に進むには生き残れないという事だ。

 

 

 

その点、操縦者課程に進んだ人間はまだ楽だ、と言えるだろう。

六時間授業の四時間を操縦実習に振り分けている。そして残りの二時間は一般教養科目とIS専門科目を、と言う訳だ。

休日になると、アリーナを貸し切っての練習。

 

まぁ、肉体的負荷はこちらの方が大きい。

 

それでもまだまだ生温い。

実際に卒業してから国家代表を目指すとなるとこれ以上。

 

まぁ、テストパイロットはそこまででは無いのだが。

 

 

 

ともかく、話を戻すと兄さんは操縦者課程に進むことが決定している。

これも仕方が無いと言えば仕方が無い。

 

世界でただ一人の男性操縦者を技術職に進ませられない、と言う訳だ。

申請を出せば優先的に機体を回してもらえると言うのに兄さんは申請を出さない。

 

兄さんは、

 

「俺なんざ態々そこまでしてやる必要は無ェよ。それなら少女諸君に少しでも機会を与えてやった方が絶対に良い」

 

という事らしい。

 

そうなると、放課後の空いた時間の殆どを自身の鍛錬に費やすという事だ。

偶に一夏達に付き合ってアリーナで試合をしているらしいがそれも少ない。

 

基本兄さんは午後八時ぐらいに夕食を食べるからその二十分前ぐらいまでは延々と鍛錬をしている。

 

兄さんは男だから風呂に入る時間が驚くほど速い。

 

「風呂?あぁ、まぁ本気出せば五分で済ませられる」

 

とは本人談。

何時もは十分程度で終わらせる。

 

と言うか、IS学園の寮には大浴場があるのだが兄さんは使えないし部屋に備え付けの浴室はシャワーだけ。

それでも私ですら二十分は浴びると言うのに。

 

一度、中学生ぐらい頃に本当にちゃんと洗っているのか疑問で仕方が無かったので監視したことがあるが、アレは確かに洗えていた。

と言うかあれだけ速く洗っているのに不思議だ。

 

こうなったのも、私達が理由だ。

小さい頃の私達の面倒を出来るだけ見る為に、自分の事はさっさと終わらせて私達の事に取り掛かると言う訳だ。

 

 

IS学園入学移行、毎日三時間半ほどを鍛錬に費やしているのだから実力は伸びるに決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハァッ!!ザマァ見やがれ木偶の坊!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「一夏ァ!お前も一旦退け!」

 

「でも!」

 

「五月蠅ェ!さっさと退けバカタレ!」

 

一夏を連れて退こうとするが、一夏は抵抗して残ろうとする。

それを兄さんは怒鳴る。

 

怯んだ一夏の隙を突いて無理矢理鳳の所まで退く。

 

「おい!お前達もオルコットのところまで退くぞ!」

 

「でも佐々木さんを援護しなくて良いんですか!?」

 

「良く見ろ、あれはもうお前達が手出し出来るレベルの戦いじゃない!私だって足手纏いに成り兼ねないんだ!ここで邪魔になるよりも退いた方が兄さんの為だ!」

 

デュノアが叫ぶがそれを抑えて引き連れていく。

こいつもこいつで中々に兄さんに入れ込んでいるらしく、あの一件以来兄さんを見る目が女の目だ。と言うかもう狙ってる。

 

 

 

 

「兄さん!」

 

『あぁ!?』

 

「どうしてここに!?」

 

『お前達がピンチだって言うからに決まってんだろ!』

 

「だけど連戦ってことだろう!?それなら私が!」

 

『馬鹿野郎!兄貴の事を信用出来ねぇってのか!?』

 

「そう言う訳じゃない!でもそいつは!」

 

『知ってるよ!セカンドシフトしたことも!多分第四世代機相当だって事もなァ!』

 

「ならなんで!」

 

『兄貴ってのが何で一番に生まれたか知ってるか!?何で存在しているのか知ってるか!?』

 

「はぁ!?何を急に!」

 

『答えはな!』

 

 

 

 

 

「妹弟を守るためにいるんだよ!」

 

 

 

 

 

『お前達をこんな戦場に出しちまって今更だがそう言うもんなんだよ!兄貴ってのは!特に俺はな!』

 

そう言いきってから、兄さんは通信を一方的に切った。

 

やはり、兄さんは兄さんだ。

何時までも変わらない。

 

私達の為となったらどんな状況だろうが、絶対に駆け付けてくれる。

それがとても誇らしい。

 

だけど同時にとても悔しく思う。

兄さんの隣に立てない事が辛い。

守って貰ってばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

兄さんとシルバリオ・ゴスペルの戦いは私と戦っていた時よりも数段速い。

束の手によって兄さん専用に調整されているとはいえ私と同じ打鉄で、シルバリオ・ゴスペルの全速に付いて行って渡り合うなんて芸当はこの世界全てを探しても兄さんだけだと断言できる。

 

「あの、洋介さんって素手の方が強いんじゃ……」

 

「ん?あぁ、お前達は知らないのか」

 

オルコットの所まで退いて見守っていると鳳がそんな疑問をぶつけてきた。

確かにその疑問を持つのはおかしい訳じゃない。

 

兄さんの今までの戦い方を見ていればどうしても素手での殴り合いが一番強いと思うだろう。だがそれは大間違いだ。

 

「兄さんは別に剣術が苦手と言う訳では無いぞ。寧ろ、素手での殴り合いと同等かその次ぐらいに得意だ」

 

「ならなんで普段使わないんですか?」

 

「私と一夏を含めて篠ノ之が修めている篠ノ之流剣道はな、大本を辿ると戦国時代なんかで使われていた合戦剣術なんだ。兄さんが使っているのは、その流派の中にある無手の型と言われるものだ。これは刀を失った時に刀を持った相手と戦える為のものだ」

 

「それがどう繋がるんですか?」

 

「この無手の型を修めるに当たって兄さんは、篠ノ之流剣術、合戦剣術と言う実戦の為の剣術の基礎を修めているんだ。私達の師匠曰く、兄さんはどうやら教えられてやるよりも実際にやった方が身に付くタイプらしくてな。習い始めた頃から師範相手にボコボコにされていたのをよく覚えている」

 

師範は、普段は優しいが練習ともなると人が変わったように厳しくなる。

私だって何度泣いた事か。

 

兄さんはそれを更にずっと厳しくしたものを受けていたのだから凄い。

そして仕事によって辞めるまで一度も休んだことはなかったし必死に食らいついていた。

 

「兄さんが剣術を使わない理由としては、基礎しか修めていなくてそれ以降は無手の型ばかりであとは我流なんだ。兄さんは『篠ノ之流剣術の基礎しか修めて居なくて使うと我流だってことがすぐにバレる。そうなると篠ノ之流剣術の名前を貶めるかもしれないから』と言って使いたがらないんだ」

 

「ってことは……」

 

「あぁ、今回はそれを使わなければならない程の状況だって事だ。いいか?普段私やお前達が見ている兄さんの強さは確かなものだ。私よりもずっと強い。そんな兄さんが本気にならなければならない程の相手だ、私ですらあんなザマだったのにお前たちが行っても、最悪死ぬだけだ」

 

恐らく今回の兄さんは本気モードだ。

という事は敵がそれほど強いという事に他ならない。

 

そんな相手に私達は突っ込んで行っても兄さんの邪魔をするだけ。

最悪、私達のカバーをした兄さんがやられる。

 

ならここで見守っていた方がずっと良い。

 

 

 

 

情けない、頼りない妹で済まないが怪我だけはしてくれるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結構な時間、シルバリオ・ゴスペルに突貫して接近戦を挑んでいるからかやつのエネルギー弾を封殺と言う訳では無いけど、どうにか撃たせていない状態だ。

 

そりゃ接近戦で切り合っている相手にエネルギー弾叩き込もうとしたら自分も巻き込まれるからな。

必然的にシルバリオ・ゴスペルだって斬り合いをしなくちゃならなくなる。

 

「さっきの勢いはどうしたァ!?元気無ェぜ!?」

 

合戦剣術ってのは、斬るだけじゃなくて殴る、蹴る、突く、時には投げ技までも使用するもんだ。

だから普通に回し蹴り食らわせるし、剣を握ったまま思いっ切りぶん殴りもする。

まぁ空中戦だから投げ技使うかって聞かれるとアレなんだけどさ。

 

シルバリオ・ゴスペルも近接武器があるのかブレードを持ち出して斬り合いをする。

ブレードと言っても短刀ぐらいの長さのもので、多分一応念のために程度の代物だろう。

 

 

 

「接近戦に持ち込まれた時点でお前の負けなんだよ!」

 

 

 

 

高機動広域殲滅型と言う名の通り近距離での斬り合いを目的とした機体じゃぁない。

そんな奴が、斬り合いするなんざ自分の長所を自分で丸っきり潰したようなもんだ。

 

この場合、俺から距離を取るのが正解だ。

なにせ中遠距離に徹すれば削れるからだ。だがこいつはどういう訳かブレードで応戦してきた。

多分、咄嗟の行動だったんだろう。

 

普通ならAIだと考えても一番の最適解に沿って行動すると思うんだがまぁ、暴走状態という事だからか?

どちらにせよ、やり様はある。

 

最適解に沿って行動すると言うのならそこんい漬け込む隙がある筈だからだ。

最適解という事は、敵が対応出来ないのではないか、出来ないであろうという先入観を与える。

それがあくまでもただのAIならばその時その時で対応してくるのだろうが、高度なAIになればなるほど人間との思考にそう大差は無くなってくる。

 

特に、ISコアと言うのは自律成長型AIとでも言えるほど、既存のAI全てを置き去りにするぐらい高性能なAIだ。

しかも束曰く、

 

「ISコアには、コアそれぞれに一つ一つ違った意識があって、性格趣味嗜好がまるっきり違うんだ。いうなれば、人間そのものと言っても差し支えないだろうね」

 

との事だ。

コアが造られた時を赤ん坊だと例えるならば、それなりに時間が経っている今はとっくに大人に分類されるだろう。

 

そうなると、幾らAIだとしても最適解の裏を突かれたりすれば、人間の思考感情と変わらなくなっていれば絶対に、戸惑うはず。

 

しかも今回は、シルバリオ・ゴスペルの思考を考えるとすれば多分予想が立てられる。

 

そもそも中遠距離型の自分とは最悪と言っていい程に相性が悪い俺が、まさか被弾をものともせずに突っ込んでくるわけがない、と予想を立てたのだろう。

千冬の時もそうだったのだから、同じ近距離特化の俺もそうである筈、と予想を立てたのだ。

 

だがどういう訳か俺は突っ込んでくるし、世代差があるにも関わらず食らいついてくるどころか付いてくるのだ。

人間だって混乱はしなくとも焦るだろうさ。

 

その焦りが、俺の突撃によって決定的な混乱になったのは言うまでもないだろう。

それが、距離を取ると言う選択肢よりもブレードで応戦すると言う選択を取った。

 

少なくとも、現状においてその判断は一番の誤りだったと断言する。

懐に潜り込まれて、しかも相手の最も得意とする距離間での戦いなんだ、本来なら相手の方が有利な距離間での戦闘は絶対に避けるべき事だ。

それなのに態々選んでくれたんだから、千載一遇のチャンスとしか言えない。

 

それなら一気に畳みかけるべきだ。

 

 

 

 

「オラァ!」

 

短刀と言うか、コンバットナイフみたいなので必死に食らいついてくる。

流石は第四世代軍用ってか。

 

万が一接近されたときの最低限防衛手段という事だ。

本来なら接近される事すら想定していないような機体だが、現場からの意見か何かを取り入れたという事だ。

 

まぁ、そんなもん俺からしたら玩具も良い所なんだけどな。

 

 

「まだまだ防御が甘い!」

 

コンバットナイフで防いだその上から無理矢理力任せに葵を振り抜く。

勢いを殺しきれなかったからか、吹っ飛んで行くシルバリオ・ゴスペル。

 

そのまま距離を取ろうとするがその前に瞬時加速で追いついて攻撃に入る。

思いっ切り腹パンを食らわせたりもするし、膝を顔面に叩き込んでやったりもする。

 

かれこれそんな、斬る殴る蹴るを続けて十分程が経った頃。

 

必死に応戦してきたシルバリオ・ゴスペルが唐突に狙いを変えた。

今までは隙あらば俺にエネルギー弾をぶっ放そうとしていたのに、いきなり背を向けて逃げるのかと思いきや千冬達を狙い始めた。

 

エネルギー弾の弾幕が千冬達に降り注ぐ。

咄嗟の回避で初撃は避けられたものの、二回目でシャルロットが。

三回目でセシリアが。

四回目で一夏と鈴が同時に被弾。

 

千冬は流石と言うべきか、最小限の動きで避けている。

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

『こっちは大丈夫!みんな無事だよ!』

 

「分かった!最悪旅館に戻っても構わねぇからな!」

 

そう言い切った後に、再びシルバリオ・ゴスペルの前に無理矢理踊り出る。

 

「お前の相手は俺だっつってんだろ!俺じゃ不満か!?」

 

そう怒鳴りながら攻撃をすると、その通りだと言わんばかりにエネルギー弾を数発放って距離を取ろうとする。

 

「早とちりすんなや!満足させてやっからよ!」

 

 

 

 

 

第二ラウンドの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 











一応の予告としては、R-18編の続きは作中で夏休みに入ってからかな。
取り敢えず本編をそこまで書き進めてからってことなんで今暫くお待ちをば。R-18編って本編のIfストーリーだからね、仕方ないね。

誰かは秘密。

一応、言っておくとラウラとクロエじゃない。
お前、おじさんは義理とは言え娘には手を出さんだろ……。


と言うか作者の中で書く予定無い。

期待してた読者諸君、すまんな。
許してくれ。何でもするから(何でもするとは言ってない)




追記

なんか、消したはずの文が消えてませんでした。
すいません。









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