おじさん、今年で36歳になるんだけれども 作:ジャーマンポテトin納豆
うん、まぁ、多分今回か次か次の次ぐらいで終わると思う。
確証無いけど。
シルバリオ・ゴスペルの野郎、俺じゃなくて千冬達に狙いを変えやがったもんだから戦いずらいったらありゃしない!
「千冬ゥ!こいつお前達に狙いを変えやがった!気ぃ付けろよ!」
「分かった!」
念の為に千冬達に警告を出しといて、と。
「浮気しようなんて考えてんじゃねぇぞ!?」
そう怒鳴りながら首を掴んで顔面に二発キツイのをお見舞いしてやる。
まぁ、効いてるかどうか分からんけどもダメージは蓄積してる筈だ。
そのまま、首を掴んだまま腹に膝蹴りを一発。
これが生きてる奴ならもうとっくにダウンしててもおかしくないレベルの一撃をボコボコ与えているのに全くヘバる様子が無い。
「なんだって俺は生身の人間よりもこう、やりにくい機械ばっか相手してんだろうなァ!?」
逃げようと、必死に俺の手を振り解こうと大暴れするシルバリオ・ゴスペルを片手、両手で抑え込みつつ攻撃を加える。
「あ、コラ!逃げんじゃねぇ!」
無理矢理俺の拘束から逃れたシルバリオ・ゴスペルが俺から離れようとした瞬間、葵を振るって一撃を加えつつ追い掛ける。
瞬時加速のお陰で無理矢理追いつく事が出来た俺は足を鷲掴んでそのままブースターを吹かして逃げようとするのを全力で阻止する。
本来、瞬時加速ってのは機体性能、特に加速性能によって発揮出来る速度が大きく変わってくる。
俺の打鉄とシルバリオ・ゴスペルの機体性能差じゃ、どうやったって加速性能差が開きすぎている。
どうして追いつけているのか、と言う疑問について答えるとすればそんなのは簡単だ。
シルバリオ・ゴスペルに加速性能差で距離を開けられる前に俺が瞬時加速で追いついているからというだけ。
もっと簡単に言えば逃げられる前に追いついてやれ、というこった。
そうすりゃ逃げられなくて済むだろ?
そんな訳で足を鷲掴んで引き摺られるみたいな恰好でシルバリオ・ゴスペルのブースターを葵を使って一つぶっ壊す。
するとどうだ、奴さんはエネルギー弾を現時点で出せる最大火力を撃とうなんてしてるじゃねぇか。
「こりゃやべぇ!?」
流石に不味いと本能的に感じ取って手を離して後退するために思いっ切り後ろに瞬時加速をしようとするがエネルギー弾のチャージの方が速かった。
ズドン、と大きな衝撃をまともに食らって意識が大きく揺さぶられる。
それを無理矢理繫ぎ止めてもう一度、シルバリオ・ゴスペルに向かう。
『兄さん!』
「大丈夫!」
通信を入れてきた千冬に対して一言返しただけで通信を切る。
話している余裕なんざこっちには無ェんだ、千冬達の所に行かせて溜るかよってんだ。
千冬達に狙いを変えたシルバリオ・ゴスペルは俺がエネルギー弾で吹き飛ばされたのを良い事に距離を離しに掛かる。
そして俺に向かって放った最大火力のエネルギー弾を千冬達に向ける。
「ふざっけんじゃねぇぞコンチクショウ!」
阻止する事が間に合わず、撃つ事を許してしまった。
どうにも、千冬はそうじゃないが一夏達は固まって動けなくなっている。
流石にあれを受けたら不味い!
そう思った俺は瞬時加速を三回使って無理矢理千冬達とシルバリオ・ゴスペルの間に割り込んで葵を使って防ぐ。
だがさっきみたいに上手くは行かなかった。
思いっ切り直撃、全身に激痛が走った。
ーーーー side 鈴 ----
洋介さんが、シルバリオ・ゴスペルと戦い始めてから随分と時間が経った。
第二世代機でセカンドシフトした第三世代軍用機、それこそ第四世代機相当の性能がある相手に食らいついて行って、あまつさえ対等にやり合うなんてやっぱり凄い。
言葉を選ばないで言うなら、化け物染みている。
こんな言葉、絶対に言えないし言いたくないけどそう思っちゃうぐらいの戦いが目の前で繰り広げられていた。
千冬さんだってさっき、もう私達が入り込めることが出来ない次元の戦いだって断言してた。
千冬さんだって弱くは無い。
なんなら私達ISに関わる人間、特に操縦者にとっては絶対的な強さの象徴が千冬さんだからだ。
なにせモンド・グロッソの初代ブリュンヒルデにして未だ千冬さん以外成し遂げた事が無い大会二連覇と言う大偉業も持ってる。
モンド・グロッソはIS同士の頂点を決める戦いってのは合ってる。
ただそれ以外にも国の威信を掛けたものなのだ。
ある意味では代理戦争みたいな側面すらある。
そんなので全ての試合をたったの数秒、もっと短いとコンマ数秒で試合を終わらせて二連覇を成し遂げた千冬さんはどう考えたって強さの、特にIS操縦者にとっての強さの象徴だ。
だけど、今それが完全に塗り替えられた。
元々洋介さんが、尋常じゃないぐらい強いってことは知っていたしそれを体感したこともある。
クラス代表トーナメントの時だって、一方的に攻撃していたような感じだったけど実際は全くダメージを入れる事なんて出来なかった。
全盛期の千冬さんと当たり前の様にタメを張れるぐらいってのも知ってる。
だけど今の洋介さんは今まで見たことが無いぐらい強くて、必死だ。
それだけ敵が強いってこと。
私達専用機持ちだっていざってときの為に軍事訓練は受けてる。
それは一夏もセシリアもシャルロットも例外じゃない。
ラウラなんかは完全に軍の人間だったんだから。
千冬さんだってそうだ。
だから、自分の中ではいざってときに動けるものだと思ってた。
だけど、実際はそうじゃなかった。
洋介さんにエネルギー弾を、それも最大火力なんじゃないかと思うぐらいのをぶつけたシルバリオ・ゴスペルは洋介さんを振り切って、私達を完全に狙って同じ最大火力のエネルギー弾を撃って来た。
私もセシリアもシャルロットも動けなかった。
だって、目の前に自分を恐らく殺す事なんて簡単であろう威力を持ったエネルギー弾が迫って来るのに指先一つ動かせなくなっていた。
絶対防御も、その名前の通り絶対的に攻撃を防いでくれる訳じゃ無い。
VTシステムの時だって、洋介さんは絶対防御を貫通する威力の攻撃を受けて瀕死の重傷を受けた。
基本的にISって言うのは防御をシールドエネルギーに殆ど頼っている。
だから試合だとSEが切れたら終わり。
少なくとも絶対防御を貫通することが出来る攻撃が出来る人間を私は二人しかいない。
洋介さんと千冬さんだ。
その二人ですらやられちゃうような攻撃を、私達が食らったら結果は火を見るよりも明らかだった。
あぁ、駄目だ、やられる……!
そう思った時だった。
目の前に影が飛び込んで来た。
何時まで経っても爆発の衝撃が私を、私達を襲ってこない。
恐る恐る瞑っていた目を開けてみると、洋介さんがいた。
「洋介さ……!?」
名前を呼ぼうと、洋介さんを見た。
だけど、最後まで言葉が出なかった。
だって、洋介さんは私達に直撃するはずだった一撃を肩代わりしたんだ。
剣を握っていた両手とそれを支えていた両腕は焼け爛れて、全身から血が流れていた。
「ひっ……」
セシリアか、シャルロットか。
それとも私の口から洩れたのか小さな悲鳴が聞こえた。
全身ズタボロで、どう見たって致命傷。
寧ろぱっと見ただけだと生きている方がおかしいぐらいの傷。
「ア”ァ”ァ”ァ”!!!ッたくヨォ!いってぇじゃねぇかこの野郎!」
あれ!?
なんか普通に腕を振り回して怒ってるんだけど!?
「お兄ちゃん!?大丈夫!?」
「大丈夫に見えるなら兄ちゃんはお前を眼科に連れて行かにゃならなくなるんだけど!!」
「それじゃぁ助けに……」
「来るんじゃねぇ!!」
「でも!」
洋介さんは、助けに入ろうとする一夏や千冬さんを抑える。
私だって行きたい。目の前で好きな人があんな姿になってまで戦ってるんだからその手助けぐらいはしたいって思う。
「おめぇの兄貴はそんなに信用ならない奴か!?」
「ッ!」
「こんな奴に負けるぐらい弱いか!?」
「そんなこと!」
「だったら兄貴の最高にカッチョ良い所をそこで黙って見てろ!」
「だけどそんな傷負ってどうするんだ!?流石に無茶だろう!?」
千冬さんが大声でそう怒鳴る。
確かにその通り。
だって本来、洋介さんの戦い方って言うのは両手両足、なんなら全身を使ってのものだから、その内の両腕どころか身体中が傷だらけの今、本来の力は出せない筈。
「良いか!?俺みてぇな兄貴ってのは馬鹿だからよ!妹とか美少女にただ頑張ってって言われるだけでいつもより百億倍頑張れちゃったりするもんだ!だから一言頑張れって言っときゃ万事解決ってもんなんだよ!」
そう言い切った洋介さんはまた、ブースターを思いっ切り吹かして、なんなら瞬時加速を使ってシルバリオ・ゴスペルに向かって行った。
何と言うか、やっぱり無茶苦茶な人だと思う。
だって、普通なら頑張れって言われただけでこんな状況を切り抜けるとか出来る筈が無いんだもん。
だけどどうしてだか、あの人ならそれが出来ちゃうんじゃないかって思わずにはいられない。
だから、大きな声で。
「頑張って、洋介さん!」
私はそう叫んだ。
ーーーー side out ----
後ろから、鈴の大きな声が聞こえてきた。
それに続いてセシリアとシャルロットが、どうにか気持ちを落ち着けた一夏と千冬もそれに続いて声援を送って来てくれた。
ただ一言、頑張れとだけ。
だけどそれで十分!
「束!こいつに操縦者は乗っているか!?」
『乗ってないよ!』
さっき、束に調べて貰っていた。もし操縦者が居るってんなら首を圧し折ったりだとかは出来ないが、乗ってないってんなら一切の遠慮はいらない。
割とさっきまでもボコボコやってたけどこれ以降は冗談抜きで殺しに掛かって良いってことだ。
いやまぁ、正確にはぶっ壊すって言った方が正しいんだけども。
その報告を受け取った瞬間にもう一度、距離を詰める。
そのまま、首を狙って一閃。
搭乗者が乗ってないってんならどうして動いているのか分からんが兎に角、コアを止めちまえば良い筈だ。
コアを停止させる条件と言うか、方法ってのは俺が知る限り三つしかない。
一つ目は凍結させる。
これは束が各国に対して万が一、暴走などの緊急事態を起こしたコアに対しての方法だ。
理由としてはISコアと言うのは高度な人工知能、それこそ人間とそう変わらない程のAIだ。
恨みを持っていたりして暴走したと言うのならば、鎮圧してもまた暴走する可能性がある。そんな時に使用される。
ただ、これの欠点としてまず、暴走状態を鎮圧しなければならない。
そして然るべき手順を踏まなければ実行不可能。
それを考えると現状でこれは適切じゃない。
二つ目は束が直接コアを活動停止させる方法。
これは束のみが出来る方法で、単純に言ってしまえばコアネットワークから切断して活動停止コードを送る事。
この活動停止コード、コアネットワークに繋がっているコアの数が増えてきた時に発覚したことでこれを実行する場合、コアネットワークから切断してからでないと誤認した他のコアが停止する可能性があると言う問題が出ている。
一応、コア一つずつにコードが存在するのだが、理由としてはコアネットワーク内での繋がりが強すぎる為だと思われている。
確固たる理由が無いのは、束がISコアをAIとして自己進化能力を付与したから。
自己進化能力を付与されたコア達は、束も予想が付かない進化や成長を遂げて居たりする。
この問題に関しては、さっき言った通りコアネットワークから完全に切断してしまえば活動停止コードを送ったとしても問題は無くなる。
ただ、切断作業に要する時間は束がプログラムしたシステムなだけあって三秒に一度、パスワードが書き換えられる。
このパスワードを解読するのには幾ら束と言えども十分は掛かる作業だ。
何せご本人が、
「これ、私以外の人間じゃ絶対に解読出来ないね。断言するよ」
と言うだけの代物。
それを、自分が造ったとはいえものの十分で解読しちゃうってんだから流石だわ。
先ず切断作業でこれだけ時間が掛かるのに、停止コードを送るために必要な作業も幾つかあるのだから合計時間は恐らく二十分から三十分は掛かる。
俺の身体と相談してもどうやってもそれだけの時間は稼げない。
となるとこれも現実的じゃない。
最後の三つ目。
これは単純明快、ISコアを破壊してしまえばいい。
ISコア、と聞くと球体の様な感じを思い浮かべる人がいるだろうが厳密に言えば正しくもあり間違いでもある。
と言うのもコアネットワーク上や機体に乗せられていない状態の時であれば球体で存在しているが、機体に搭載されているとどういう訳か全く別の形になる。
アメーバ状であったり、六角形、五角形、星形と様々だ。
この搭載時の形は、コアの性格によって変わるもんで本当に多種多様なもの。
コアがある場所は機体によってマチマチなのだが、場所さえ分かってしまえば問題は無い。
ただ、これにもちょっとばかし問題があってだな。
と言うのも、ISコアってコアとか名前付いてるけどその硬度、所謂硬さが尋常じゃないぐらいに硬い。
束は流石に構成材料なんかは万が一のためにって教えてはくれなかったが滅茶苦茶硬い。
全金属、全鉱物と比較してもダントツで硬いのだ。
これをぶっ壊すってなると無茶苦茶なレベルの攻撃力か、所要量以上のダメージを与えるかのどちらかが必要になってくるんだが、単純に考えて攻撃力は到底足りないし、所要量以上のダメージも阿保なんじゃないかと言うぐらい高い。
このダメージってのは、所謂金属疲労とかそんな感じのものでいくら頑丈な物でも同じ攻撃を食らい続ければ脆くなるって性質なんだが無理。俺の身体が先に使い物にならなくなる。
ただ、万策尽きたと言う訳じゃぁない
ちょっとした裏技と言うか、弱点が一つだけ存在する。
ISコアは全体や通常の物理攻撃から掛けられる強さに対しては比類ない硬さを発揮するが、とある極一点にのみ、攻撃力を集中させると脆くなる。
例えるならば卵だ。
卵って、思いっ切り握り締めてもどうやったって割れないんだが、角とかにぶつけて見ると簡単にヒビが入って割れるだろ?
あんな感じだ。
ISコアにはそれと似た性質があるから、恐らく一点に衝撃力を集中する事さえ出来れば破壊する事自体は可能だ。
ただ問題なのが、その一点と言うのが物凄く小さい。
どれぐらい小さいかっていうとだ。
たったの数ミリ程度しかない。
ISの大きさは基本的に全高が3mかそこらなんだが、その中の数ミリ、それも装甲に守られた数ミリと言うのはそこを突くことをほぼ不可能にしている程の大きさだ。
と言うか大前提としてその一点が分からない。
しかも、高機動戦闘下に置いてそれを達成するのはほぼほぼ至難の業、と言うか出来る事じゃない。
これも不可能だと思うかもしれないが、ところがどっこい、これまた裏技の登場。
束にその極一点を可視化してもらえばいい。
ISには空間ディスプレイと言う、かっちょええのが標準装備されている。
その空間ディスプレイにあいつを捉えて置いて弱点を光らせるなりしてもらえれば良いだけの話だ。
ただ、このISコアを破壊する方法は束の同意と了承が得られないと俺は出来ない。
開発の時からどれだけ苦労してやって来たのか知っているからこそ、俺だけの一存でぶっ壊していいもんじゃないと思うからだ。
ただ、現状それしか方法はないわけで。
勿論束には確認を取るけどな。
「束、こいつをどうにかする方法ってあるか?」
『多分、おじさんが考えた三つしかないと思うよ』
「ナチュラルに思考読むの止めて?なんも考えらんなくなっちゃうじゃん」
『まぁそこは愛の成せる技ってことで喜んどいてよ』
ウチの妹達はどうしてこう、俺の思考を読めるんですかね?
本当に俺、考え事出来なくなっちゃうよ。
「まぁ、いいや。そんで、どうする?」
『どうするって?』
「束がどうしてもコアを破壊したくないってんならちょっとばかし無茶をする覚悟ぐらいなら出来てるけど」
『そうだね。でも、私はおじさんにこれ以上傷付いて欲しくないよ』
「それでお前が傷付いたら本末転倒だろうが」
『でも、それよりおじさんが傷だらけになる方が私は辛い。それに壊れたとしても大丈夫。だから、コアを破壊して』
「良いんだな?」
『うん。おじさんにもちーちゃん達にもこれ以上傷付いて欲しくないから』
「……分かった。それなら、頼むぜ」
『任せて!』
そう束は意気込むと、その数秒後にはコアの弱点が可視化、赤い点で示された。
場所は左胸のど真ん中。
なんつーか、代わり映えしない無難な場所にあるな。
まぁ、でも狙いやすくて丁度良い。
これが太ももの内側だったりしたらそりゃぁ、狙いにくい事この上なかった。
「シャルロット!お前、コンバットナイフかなんか持ってないか!?」
『え!?えーと、短刀があるけど!』
「ちょっとそれ寄こせ!」
『そんな急に!?』
「お前の許可さえありゃこっちに転送して使える筈だろ!?急げ!』
『わ、分かりました!』
シャルロットのラファール・リヴァイヴは、その後付武装が豊富である事が売りだ。
ただ、例の事件のせいで部品の供給や武装の供給が今現在は滞っている状況だ。
そうなってくると各国でライセンス生産されているラファールの部品や武装を使うしかなくなったわけだが、これにはちょっとばかし問題がある。
確かに武装なんかはどうにかなるだろうが、ISに使われている装甲、内部フレームってのはそれぞれISによって全くの別物だ。
例えるなら戦車だ。
鋳造装甲を使っている戦車もあれば、複合装甲を使っている戦車もある。
材質だって、ただの鋼鉄から始まり、炭素繊維とセラミックスを使っているものまで様々だ。
例に漏れず、ISもそうだ。
打鉄で使われている装甲とラファールで使用されている装甲の材質は全くの別物だ。
ここで、問題となってくるのがその装甲の製造技術を持っているのは開発した国だけ、という事だ。
日本やアメリカは機密情報の保持の為に一切の国産機の輸出をしていないが、ラファールは自国使用と輸出仕様が殆ど変わらない。
旧ソ連がやったようにT‐72戦車を輸出する際、性能を意図的に落とした所謂モンキーモデルと言うものがあるが、それらの意図的な性能低下を施さず輸出しているのがラファールシリーズだ。
ラファールシリーズは大まかに三種類が存在する。
初期型のラファール。
初期型に改良と改修を施したタイプのラファール・リヴァイヴ。
そして最後に個人用にカスタム、チューンアップされたラファール・リヴァイヴ・カスタム。
この三種類にわけられるんだが、基本的にデュノア社が輸出していたのは初期型のラファールだ。
IS学園にはラファール・リヴァイヴが納品されているがこれはデュノア社との契約で基本的な整備はIS学園、及び各国で行うが本格的な修理が必要な場合はフランスにある整備工場に送らなければならないと言う条項がある。
過去に韓国、シンガポール、フィリピンの三か国がデュノア社及びフランス政府に無断で分解したことがあるがその際に契約違反ってことで今後一切の取引をしないとなったことがある話があるがそれはどうでもいい。
問題なのは、内部フレームも装甲もデュノア社しか作れない事だ。
これによってラファールを導入している各国は大打撃を受ける事になる。
そりゃ、予備部品や予備装甲が今後一切の生産が行われなくなるってんだから大騒ぎなんてレベルじゃない。
そこでどうするかと言うとだ。
別の国の物を導入するか、自国の部品を使える様に改造するか。
前者も後者もとんでもなく金が掛かる。
そりゃISを何機も別の機種に変えるってのはそう簡単に出来る事じゃない。
国家予算って名前のお財布との相談もあるしな。
ただし現状、ラファールシリーズを導入している国がこれらの問題を抱えている訳では無い。
と言うのも、フランスは確かにISコアやISの所持を禁じられてはいるが、それらに関する武装の製造や整備等が禁じられたって訳じゃない。
そこでフランス政府はどうにかして外貨を獲得するため、デュノア社は会社の利益と最低限IS関連の整備士達を路頭に迷わせない為に今でもラファールの整備を全て引き受けているし装甲などの部品の製造も引き続き行われている。
もっとも、これはシャルロットの親父さんがもし国の命令であったとしてもISの整備や部品製造等は絶対に売却するな、との最後の指示のお陰とも言える。
フランスがISの所持、開発を禁じられても、それに類する部品等の製造や開発が禁止されたわけじゃないし、何よりラファールシリーズの需要は第二世代機とは言え安定した性能もあってか大きい。
随分と話が逸れたから戻そう。
ラファールの武装の種類は冗談抜きで多い。
銃火器だけでも、基本的な物だけで数十種類。
マイナーなものを合わせると百を超える。
そこに近接用のブレードや、珍しい物だとパイル・バンカーとかいう物騒なものまで揃えてある。
それで今回シャルロットに要求したものは、ラファールシリーズの標準装備である近接用のブレードだ。
ISでの戦闘ってのは基本的に中距離や遠距離での撃ち合いが殆どなんだが、稀に近接戦闘を行わなければならない状況がある。
それに対応する為に存在している短刀は人間からすればデカく感じるだろうがISが扱うにはずっと小さく頼りない感じがするしこれで装甲を貫けるかどうか疑問に思ってしまいそうな感じがするが、そんなんは俺がどうにかすれば良いだけの話だ。
『佐々木さん!許可出しました!使えます!』
「あんがとさん!」
シャルロットからそう言われた瞬間に、行動に移る。
と言っても、さっきと同じようにとっ捕まえて、短刀を思いっ切り突き刺してやるだけ。
その前にシルバリオ・ゴスペルのSEを全て削り切らなきゃならん。
つっても今までで相当削っている筈だからそこまで苦労はしないと思う。
SEがあるかぎり、絶対防御を貫通する事が出来たとしてもSEに吸われてしまう。
思うに、絶対防御よりもSEの方が少なくともSEが無くならない限りは絶対防御っぽい気がするんだよなぁ……。
まぁ良い。
兎に角、これからが本番ってことだ。
俺の身体との相談をしてみた感じ、持って十五分。
ガチガチの戦闘をするってんならあと十分持つかどうか。
まぁ、悲観するもんじゃない。
VTシステムの時なんか、応援無しで全身が今よりも満身創痍で二時間ぐらい戦ってたしそれと比べると骨が折れてないし全然問題無い。
「ふぅ……。そんじゃいっちょやったるか!」
一度息を整えてデカい声で気合を入れる。
そして、もう一度葵を構え直してシルバリオ・ゴスペルに向かって瞬時加速をぶっ放す。
擦れ違いざまに無理矢理胴体部分に一撃を叩き込みつつ振り抜いた勢いを利用して左足で回し蹴りをお見舞いする。
流石に、全身から血を垂れ流して焼け爛れている奴がまさか自分に斬り掛かって来て、あまつさえ命中させるなんて思っていなかったんだろう、心無しかシルバリオ・ゴスペルの顔が驚いたような、在り得ねぇだろ!?って感じの表情になった気がした。
その一巡が命取りだ。
そのまま離脱せずに無理矢理シルバリオ・ゴスペルをとっ捕まえて至近距離で拡張領域から引っ張り出したアサルトライフルを腰溜めでばら撒く。
葵はその大きさ故にちょっとばかしやりにくい事が分かったからな。
それに今はSEを削る事さえできればいい。
それなら、銃でも十分にその役割は果たせる筈だ。
まぁ、拡張領域に入れてあっても俺ってマジ銃の扱いがまだまだだから、高機動戦闘をするってなると当てられん。
まぐれ当たりを望んでも全弾バラ撒いて、そのうちの一発か二発当たるかどうかってレベルだしな。
使う機会なんて早々無い訳だから使えるときに使っちまおうってわけ。
これならただ倉庫の中で腐らせとくなんて事にはならんしな。
俺の戦い方ってさ、やっぱり脳筋マシマシって感じだよな。
今更だけどさ。
「美味しいか木偶の坊!今までのお返しだってな!」
弾をバラ撒きながらそう叫ぶ。
シルバリオ・ゴスペルは俺から必死になって離れようと、俺を振り解こうとするが俺だって身体に鞭打ってやってんだ、こんなチャンス早々に逃して堪るかっての。
だけども、こいつはこいつで必死なのか物凄い暴れ方で俺を振り解こうとするもんだから、めっちゃ大変。
それでも全弾撃ち切った。
だけども、軍用ISってだけあってSEの量も試合用、訓練用とは比べ物にならんぐらい多い。
全弾叩き込んでやったのに、未だに四分の一、四百ぐらい残ってる。
普通、訓練用試合用なら精々三百ぐらい。多くても四百ぐらいが普通なんだがシルバリオ・ゴスペルは驚いたことに一六〇〇とかいう大馬鹿なんじゃねぇの?と言うぐらいの多さ。
という事は、丸々一機分、それもSEが多い部類のIS一機分のSEをこれから削り切らにゃいかん。
まぁ、四百程度なら殴りゃいいから問題無い。
爛れた両腕に滅茶苦茶なぐらいの鞭を打って殴って蹴って、斬り続ける。
「ダァッシャァッ!!」
そして最後に一撃、殴ってシルバリオ・ゴスペルのSEが切れた。
それを確認した瞬間、左手でがっしりと首を掴んでおいて右手にシャルロットから借りた短刀をしっかりと握って左胸に突き立てる用意をする。
「多分滅茶苦茶痛いだろうけど覚悟しとけ!」
思いっ切り勢いをつけて突き立てる。
だけども、流石は軍用ISの装甲と言うべきか、削れはするがコアにまで到達することは出来ない。
「なら何回も刺しゃぁいいだけの話だよなぁ!?」
何度も何度も突き立てて、無理矢理装甲を削っていく。
すると、流石にその厚さ以上は無いらしく、何となくコアらしきものが見えた。
それを視認した瞬間に今までよりも勢いをつけて短刀を突き刺そうとする。
「これで最後ォォ!!」
シルバリオ・ゴスペルも最後の抵抗と言わんばかりに滅茶苦茶な暴れ方をする。
それを、左手で無理矢理押さえつけて短刀を深く突き立てる。
すると、今までの戦いやシルバリオ・ゴスペルの暴れ方が嘘のようにあっさりと、その動きが止まった。
『おじさん、コアの破壊を確認したよ』
「ってことは……」
『私達の勝ちってことだよ!』
そう、束が告げた。
あの後、流石に重症と言える怪我を負っていた俺は、千冬達に心配かけまいと旅館まで自力で飛んで帰った。
いやまぁ、めっちゃ痛かったし血を流しすぎてなんか色々とやばかったけどそこはもう気合で何とかした。
いやだって、敵を倒してすぐにぶっ倒れるとかなんかカッコ悪くない?
見え張ってたのは確かなんだけどさ。
旅館に戻ると直ぐに束にがっしり掴まれて医療用ポッドに放り込まれた。
まぁ、誰が見ても大怪我には間違いなかった。
何せ、体の前面は顔や頭を除いてほぼほぼ大火傷だったし、頭部からの出血量も多かったから失血性ショック間近。
お陰でまーた丸々三日も医療ポッドで爆睡する羽目になったのは言うまでもない。
千冬始め、一夏達は滅茶苦茶心配して俺が目を覚ましたとなったとき、VTシステムの時とは全く違ってギャン泣きの嵐。
滅茶苦茶泣いて、泣き疲れて寝落ち、起きたらまたしこたま泣いて、泣き疲れて寝落ち。これを繰り返す事二日ほど。
それを宥めるのに更にまた一日使った。
まぁ、緊急事態ってことだったから学園も三日ほど臨時休校となった。
その間、IS学園からアメリカ政府に公式声明と言う形で物凄い抗議が行われた。
そら一学年生徒160人+教職員と二、三年生の命が犯罪組織の手引きがあったとはいえ相当な危険に晒されたんだからな。
しかも条約で禁止されている軍用ISを開発していたってこともあって大騒ぎ。
結果として束はイスラエルとアメリカのISコアを幾つか停止させ没収。
フランスとドイツよりはまだマシ、という事だったが実際の所、世界のパワーバランスを考えての事だった。
もしアメリカがフランスとドイツと同じ状況になった場合、中国やロシアの力が大きく成り過ぎてどう考えてもやばい事になる。
最悪、全世界赤化なんて事態になり兼ねない。
それを考えたアメリカはすぐさま、イスラエルの意見をガン無視して軍用ISの開発計画をすべて凍結。
その証拠と共に土下座すんじゃないかと言う勢いでの謝罪を日本政府及びIS学園、そして束と俺個人にしてきた。
いや、のんびり何時も通り勉強すんぞー、とか考えてたらいきなり学園の応接室に呼び出されて何事?とか思ってたら応接室に居たのはまさかのアメリカ特命全権大使。
そんなのからいきなり頭下げられて謝罪されたときの俺の気持ちよ。
もうね、おじさんってば小市民なもんだから寧ろこっちが焦ったわ。
悪いのは事実だからあれなんだけどもさ。
一連の騒動で亡国機業に通じていたり、工作員であった上院、下院問わず連邦議会の議員や各党に属している政治家、大企業の幹部や社長、軍幹部を軒並みとっ捕まえて豚箱に叩き込んだ。勿論情報提供と言うか、リストを束が渡したんだけどね。
その数、恐ろしい事に239名にも及んだ。
軍や警察の特殊部隊、CIAなどの機関にも入り込んでいたと言うのだから亡国機業の恐ろしさが分かる。
普通ならそんなことは出来ない。
国家ぐるみだったとしても、日本みたいにガバガバじゃ無けりゃ無理。
アメリカはそう言うのに滅茶苦茶敏感なんだがそれをやってのける亡国機業は、国家以上の諜報力と組織力がある事になる。
で、例のシルバリオ・ゴスペルだがコアを破壊されたから勿論動く訳も無く、一夏達が引っ張って束に渡した。
コアに関してだが、束曰く、
「まぁ、コアネットワークにちゃんとこの子が学習したデータが残ってるから普通に死んだりはしてないよ」
との事らしい。
シルバリオ・ゴスペルは元々イスラエルが軍用ISとして開発していた所にアメリカが無理矢理横から入り込んだってのが実際らしいがどちらにせよ条約違反に加えてテロリストの工作員を見抜けなかったりとアメリカの威信はガタガタ、大統領も罷免されると言う事態に。
大統領の罷免に関しちゃ責任を負いたくなかった連中が大統領に責任を無理矢理押し付けたってのが実際の所なんだけどね。
まぁそんなこたどうでもいい。
重要なのはシルバリオ・ゴスペルがどうやって暴走させられたのか、ってことだ。
これに関しては束が原因を突き止めている。
そのやり方ってのは、物凄く強引にコアネットワークから切り離して何らかの方法でコアの防衛意識とでも言えるものを刺激したらしい。
コアネットワークからコアを切断出来るのは本来束だけなんだけどどうにも、束の予想以上の技術力とそれを支えるだけの資金があるらしい。
物凄く強引とはいえ、束にしか出来ない事をやれる技術力を持っている辺りそれは察して貰えるだろう。
どんな方法までかは予想の範囲でしかないが、どうやらシルバリオ・ゴスペルに乗せられていたコアは専用機として扱われていたらしく、シルバリオ・ゴスペルに搭載される事が決定した後も搭乗者自身もこのシルバリオ・ゴスペルのテストパイロットとしてそのまま実質専用機扱いだったらしい。
それでこのコア、搭乗者に相当愛着と言うか、物凄く懐いていたらしく。
それを利用してコアを暴走させたんじゃないか、との事。
実際、そんな感じの痕跡もあったらしいからそうなのかもしれない。
結局この騒動は全て収まるのに丸々三週間以上を費やして、その間に千冬達も諸々の対応に追われて徹夜が続いたりとしたがまぁ、被害とかは結局の所、千冬と俺が搭乗していた打鉄と一夏達の機体、そしてシュヴァルツェア・ハーゲンの損傷のみ。
怪我人は俺とシュヴァルツェア・ハーゲンの面々だけとなった。
マドカに関しては束が体内のナノマシンとかその辺のもんをちゃんと処理して普通の生活を送る事に何ら支障がない様にして貰った。
そしてその情報は亡国機業ってこともあって束がその事実を一切隠蔽。
千冬や一夏の出生にも関わってくるんだからおいそれと表に出せる事じゃない。
ついでに言うと、マドカの身柄と言えばいいのか、それに関しては束預かりという事になった。
本来ならその年齢相応に学校に通わせたりさせてやりたいんだけど、元亡国機業の戦闘員でしかも専用機を与えられていたってこともあって、IS学園に通わせるにしろ他の一般の学校に通わせるにしろ恐らく亡国機業は間違い無く取り返しに来る。
そうなったら、冗談抜きで一般生徒を巻き込んだ戦闘に成り兼ねない。
今回も同じようなもんだったがレベルが違う。
それと今後、その足取りを掴んでぶっ潰す為にこちら側の情報を渡さないためにも得られた情報はどこの国家にも渡さない事になった。
そりゃアメリカほどの国家の上層部にまで食い込んでいる組織だ、他の国家にどれだけの工作員が居るのかを考えれば当然の結果ともいえる。
アメリカだけじゃなく、他の国家に関しても束のリストに挙げられた人間は軒並み豚箱行きになったがそれでも全員と確証は持てないし後から入ってくる奴の事を考えると渡すべきじゃない。
何処から情報が洩れるか分かったもんじゃねぇしな。
あ、あと俺がぼっこぼこにしたヤンキー女だけど回収しに行ったらとっくに消えてたそうな。
あれかな、別部隊が居て回収していったのかもしれん。
ってことで、臨海学校事件はまぁ俺の知らん事も色々あるだろうけど一応の終息は付いた。
あー、なんか久々に投稿した気がする……
予告通りかどうか分からんけども一応夏休みに入ってからR‐18編の方を投稿するかも。
一応候補として挙がっているのはセシリア。
千冬とかどうしたのかって?
作者はな?お楽しみは最後の方に取って置くタイプなんだよ。
まぁ、何時になるかマジ分からんけどね。
運動会の時か、それとも学園祭か。
何れにしろなんかイベントあったらR‐18編に進める為の分岐を作ろうかと考えってから心配せんでも大丈夫やで。
そう言う事で、次のお話、若しくは別の投稿作品でお会いしましょう。