おじさん、今年で36歳になるんだけれども 作:ジャーマンポテトin納豆
前回の続き。
夏休み二日目。
朝七時に全員で朝飯を食った後に着替えて集合。
と言っても昨日とやる事は変わりなく、一夏達を鍛えるんだけど……
「う”ぁ”ぁ”……!筋肉痛凄いんだけどぉ!」
「そりゃ昨日あれだけ走ったからな。寧ろ筋肉痛になっててもらわんと困るんだよな」
「あだだだだ!!」
「はいそんじゃ昨日俺が作ったメニューやるんで準備運動しましょうねー」
下半身が昨日のランニングで筋肉痛、ガクガクでへっぴり腰の五人を連れて昨日と同じ様に準備運動をする。
いやぁ、昨日はちょっとシップでも貼っておけって言っときゃ良かったな。
もう、この光景見てる奴にしか分からんけども面白いと同時に悲惨。
どうにかこうにか準備運動を終わらせて、それぞれにメニューを配る。
と言ってもランニングに関してだけそれぞれ別メニューってだけで筋トレは全員ほぼ記録が変わりなかったから同じだ。
今の所は基礎体力の向上を目的としてるから、そこまで細かいトレーニングはしない。
ランニング
シャルロット、一夏は25kmを一周。
箒、鈴は23kmを一周。
セシリアは21kmを一周。
一応タイム計測あり。目標としては全員が25kmを俺と同じ一時間ほどで走り切る事を目指す。
そこから距離を増やそうかな、と思ってる。
腕立て伏せ 45回を6セットで270回。
腹筋 50回を6セットで300回
背筋 100回を4セットで400回。
大体こんなもんだ。
本来ならここにスクワットとか、腹筋も腹筋で鍛える部位を変えたりして色々加えても良いんだけどまだ最初だから取り敢えず基本的なこれらで身体を慣れさせるところから始める。
一週間ぐらいやったら徐々に種目を増やしていく。
「そんじゃランニングから始めるぞ。よーい、スタート」
その合図で一斉に走り出す俺達。
俺は、ランニングは何時もの距離を走るので一夏達を置いて走っていく。
ラウラはまだ来ていないけど九時ぐらい、大体走り終わる頃に束と一緒に来る筈。
取り敢えず、午前中は丸々トレーニングに使って午後はIS使っての特訓だな。
「あ”~……!足筋肉痛で変な感じするんだけどぉ……」
「僕もなんかすっごく動きずらくてやだなぁ……」
「なんか筋肉痛と今のランニングで足の感覚が訳分からなくなってます……」
「お疲れちゃん。距離短いからか割と早いな。一時間五十分ぐらいで全員走り切れてるから今はタイムを伸ばすってよりも距離を伸ばしていくからそのつもりで。ある程度距離走れるようになったらタイムを縮めていくぞ」
「はーい……」
全員筋肉痛でヒーコラ言いつつも結構速いタイムで走り切っているからこの様子なら結構早いうちにまぁまぁ仕上がるかもしれん。
そしたら筋トレだな。
「そんじゃ筋トレやるぞ。ほーら、日陰に移動だ」
「うぅ……」
五人を連れて、良さげな日陰に移動して俺のメニュー通りの筋トレを始める。
最初から出来るとは思っていない。取り敢えず最後までやり遂げてくれれば今はそれでいい。
「まずは腕立てからだ。今日は全員一斉に始めるからな」
足を引きずりながら、腕立てを始めるが明日になりゃ全身筋肉痛で腕も上がらなくなるだろうよ。
辛いのは最初の内だけ。慣れりゃなんて事は無い。
なんなら筋肉痛が気持ち良いって思えるようになれば最高なんだけどな。
本当は、師範に鍛えられた時と同じやり方でも良いんだけど、そうすると身体が出来ていないこいつらじゃ耐えられないだろうし、付いてこれたとしても身体を壊す事に成り兼ねない。
兎に角、鍛えるってんなら下地をしっかり作らにゃならん。
このメニューをこなして、IS使っても大丈夫なようになってきたら本格的に厳しくしていくつもりだ。
俺は俺のメニューをこなすとするか。
一夏達にキツイメニューをやらせるんだから、俺はそれ以上にキツイ練習をして当然だ。
じゃないと示しがつかないからな。
「はいお疲れさん。取り敢えず筋トレは終わりだ。そしたら時間的に昼飯だな」
「あー、お腹空いたよー……」
昨日と同じ様に一旦部屋に戻ってシャワーを浴びる。
そんでもって集合した後に昼飯。
五人とも、疲れてはいるようだけど食欲はある様で昨日と同じようにもっしゃもっしゃと勢い良く食べ進めている。
うんまぁ、この分なら大丈夫そうだな。
午後、昼飯を食い終わった後に職員室にアリーナの使用許可を取りに行って。
普段なら順番待ちなんだけど夏休みや冬休みに限っては殆どの生徒が帰省、若しくは帰国しているからガラガラだ。
機体の申請もしなくても良いぐらいには誰も残っていない。
だからすぐに許可が下りたし機体の申請も直ぐに許可が下りる。
一年でまだ寮に残っているのは俺達含めて数人だけらしい。
全学年で見ても二十人も居ない程だからな。
その面々も順々に帰省しているし来週になればセシリアが、再来週は鈴が国に帰る。
俺は来週、十日間家に久々に帰る。
箒も箒で久々に実家の篠ノ之神社に帰って掃除でもしようかな、って言っているし。
久々に俺もそれに合わせてお世話になったから手伝おうと思ってる。
千冬と一夏も一緒に来る予定だ。出来る事なら師範と華さんに会いたいが国家重要人物保護プログラムのせいで会えなさそうだ。
篠ノ之神社の夏祭りとか神楽舞も長い事やっていない。
シャルロットは父親に面会しに行くらしいしな。
ラウラは多分束の所で大騒ぎしてんだろ。
因みにラウラ、束のとこで初めて見るものが沢山で楽しいらしく、今日は俺の所に来ないんだと。
お父さんちょっと悲しいよ。
「よし、それじゃぁ早速始めるけど先ず全員が何を強くなりたいかを聞いておく」
「私は、ブレオンだから兎に角接近戦かな」
「私も同じ。衝撃砲があるって言ってもどっちかって言うと私は接近戦が主体だから」
「私もです。そもそも射撃武器なんて全く使えないのでそれしかありません」
一夏、鈴、箒の三人は接近戦のみと。
まぁ、妥当っちゃ妥当なんだけどな。
一夏は言った通り、ブレオンだし鈴も衝撃砲があるとはいえ性格からなのか接近戦での殴り合いの方が性に合っている。
箒は剣道ばっかで射撃武器なんて持ったことないし。
この三人に関しては、俺の専門と言うか得意分野を教えるわけだから問題無いんだけど。
「私は偏光射撃、でしょうか。BT兵器はそれが一番の強みですが私は使えませんし……。あとは接近戦に持ち込まれたときの為にそちらも」
「僕もセシリアと同じかなぁ。中距離に徹することが出来れば一番良いんだけどそんなことは絶対に無いし」
ただ、俺の専門外な中遠距離型のセシリアとシャルロットに関してはどうしたもんかな、と。
「取り敢えず、一夏、箒、鈴の三人は交代で組手しといてくれ。セシリア、シャルロットこっち来てくれ」
「「はい」」
三人には、兎に角練習とはいえ場数を踏ませる事にした。
これで幾らか慣れてくれると有難い。その間にセシリアとシャルロットの方を片付けちまおう。
「まずセシリア。セシリアは偏光射撃を出来るようにっつったけど、並列思考は出来るな?」
「はい、それは問題ありません」
「なら、ビットは最大幾つ同時に動かせる?」
「四つですわ。どうしても五つ目に行けないのです」
「あぁ、それに関しちゃそこまで悲観的に見る必要は無い。あくまでも俺の意見だが」
「お聞かせください」
「多分、セシリアの並列思考は五つか六つを同時に行うのが今の限界だからだ。だからビットを操作する事と射撃をする事の計五つで占められて、ビットを操作するときに自分は動けなくなる」
「そう、ですわね……」
セシリア本人が言った通り、セシリアは四つのビットを同時に扱うので精一杯だ。
だが並列思考の限界は五つ。それを考えると五機のビットを同時に操れるのではないかと考えるかもしれないがそれは違う。
このビット操作とは別に、射撃をすると言う動作とビットをそれぞれどう動かすか考える思考が入ってくる。
それを入れると恐らく計六つの並列思考が可能だ。
「まずセシリア、ビットを二つだけ操作して自分も動いて射撃。ターゲット出すからそれを狙ってくれ」
「?はい、分かりましたわ」
その俺の指示に従って、セシリアはビットを二つだけ操作する。
「セシリア、撃つ時に自分も射撃しつつ移動してくれ」
「え?ですが……」
「大丈夫、俺の考えが正しければ出来る筈だから」
不思議そうな、納得いっていないような顔をしながらも空中に浮いたターゲットを撃ち始める。
するとどうだ、セシリアは自分も動きながらビット操作と射撃が出来ているし、自分もしっかりとターゲットを撃ち抜けている。
「出来ましたわ……」
「凄いよセシリア!」
セシリアはセシリアで出来たことに驚いてぽかんとしているしシャルロットは興奮している。
やっぱし思った通りだ。
俺の予想通りセシリアは、出来ない訳じゃ無い。
ただ単純に、並列思考の数が足りていないからビットの数を増やすと出来なくなるってだけだったのだ。
今の操作に使った並列思考の内容は、
ビットを操作する事×2
射撃を行う
自分が移動する事
自分が射撃をする事
この五つだ。
とすると、セシリアには並列思考の余裕が一つある。
ってことは並列思考に余裕があるのならその分を別の事に回せるってことだ。
これを実証出来たから、多分セシリアは偏光射撃も出来る筈。
「そしたら次は偏光射撃をしてみ。あ、ビット操作と自身の移動はしないで自分の射撃のみでいいぞ」
「え?ですが私は偏光射撃が出来ませんが……」
「良いから良いから。さっきは俺の言う通り出来たろ?やってみろって」
「分かりましたわ」
俺の言う通り、自分の射撃だけで偏光射撃を実施したところ、俺と戦ったマドカほどエグイ角度で曲がったりはしないが、それでも確かに偏光射撃が出来たのだ。
「小父様!」
「だから言っただろ?」
「凄いじゃないかセシリア!」
振り返って驚きの表情のセシリアに、ニヤリと笑って言ってやるととんでもなく嬉しそうに、それこそ言葉にならない程に喜ぶ。
しかも、嬉しいのかなんなのか、思いっ切り飛び付いてきやがると来たんもんだ。
生身なら別に一夏みたいに受け止めてやれるんだけどさ、IS装備ってなると流石に無理。
ってことで避けさせて頂きます。
「何故お避けになるのですか!?」
「だって、IS装備してんだぞ。俺死んじゃうよ」
「あははは、なんていうか、凄い佐々木さんらしいや」
俺がそう言うと、セシリアは物凄く不満げにしながらむくれてシャルロットは苦笑いしつつちょっとほっとしているらしい。
「……なら解除すれば宜しいのですか?」
「え、まぁ、それなら良いけど……」
「それなら……」
セシリアはISを解除して、俺に態々飛び付いてくる。
そこまでする?
「ふふふ」
「……佐々木さん、織斑先生に言いつけますよ」
「シャルロットサァン!?それはヤバイぜ!?明日俺がミンチになって歩いて来ても良いってのか?」
「でも佐々木さんなら次の日には元通りにケロってしてそうだし」
信頼ってのが嬉しくないって思ったのは今日が初めてだ。
「セシリア、頼むから離れてくれ」
「嫌です」
「セシリア、佐々木さん困ってるから離れた方が良いよ?」
「あら、羨ましいのですか?」
「セシリア、何が目的か知らんけどシャルロットを煽るのは止めてくれ?ほんとマジ頼むから」
「小父様、もうちょっと強く、一瞬だけで良いので抱き締めてくれたら離れますわ」
「……あい」
多分、俺に選択肢は無いんだろうなぁ……。
セシリアの言う通り、一瞬だけ強く抱き締める。
「ん……。はい、ありがとうございます」
「勘弁してくれ、俺は千冬達に睨まれるのは勘弁だ」
「あら、その割には何時も楽しそうにしておられるようですが?」
「気のせいだ、気のせい。ほら、続きやるぞ」
シャルロットがめっちゃ不満そうにしてるけどそれを気にしたら駄目だ。
セシリアが離れて、もう一度ISを展開した。
「そんじゃぁ、次は射撃しつつ移動。出来る事ならビットを一機加えてみろ。ちょっとそれをやっててくれ」
「はい」
次の指示を出しておいて、今まで見ているだけだったシャルロットに指示を出す。
「次は、シャルロットだな」
「はい!」
「あぁ、そんな気張らなくても良い。生憎と、シャルロットにこれからやってもらう事は物凄く地味で、もしかすると辛い事だからな」
「地味で、もしかすると辛い事?」
「これからあちこちに100個のターゲットを出すから四十秒で全部撃ち抜け」
「四十秒、ですか?」
「そうだ」
この秒数なら一秒で2.5個撃破しなきゃならない。
俺だったら五十秒でも無理だな。
「行けそうか?」
「私の最高記録が、50秒で89枚だから、出来なくは無いと思います」
「よし、それなら早速やるぞ。言っとくが、シャルロットの場合は次の段階に行くまでひたすらこれをやってタイムを縮めるだけだ」
「大丈夫です」
「よし、なら行くぞ。管制室の方で40秒ごとにリセットされるようにしておいたから、後は延々とやってもらう」
「はい」
「そんじゃ、よーい、スタート」
今回シャルロットにやってもらうのは反射神経を徹底して鍛えて貰う事だ。
セシリアと違って、一発一発狙いをつけて撃つって訳じゃぁない。
中距離で弾をばら撒くのがシャルロットの戦術だ。
ただ、この時幾らISとはいえ弾数には限りがあるし、それを考えるならば出来るだけ数多くの弾を当ててダメージを出す方が誰だって良いってことは分かる。
そこで、今回の特訓って訳だ。
先ず、静止目標を自分も動かない状態でひたすら撃ち続ける。
素早く狙いを付けて撃って次の標的に。
この速度を徹底的に上げることが目的だ。
次の段階になったら移動目標を狙う事。
その次は自分も目標も高機動状況下で撃つ。
だいたい三段階ぐらいに分けられるんだけど、一段階の時点で相当厳しい。
なにしろ、100個の目標に対して40秒で全て撃ち抜かなくちゃならんのだから。
さっきも言った通り、一秒で2.5個の目標を撃たなきゃならん。
代表候補生の中で考えれば、相当速い。
だが、国家代表はこんなの平然とやってのける。
なんなら自分が瞬時加速を使った状態で目標が静止目標ならこのタイムをクリアする代表なんて多くは無いが確実にいる。
夏休み中に、と言う訳じゃないがシャルロットにはそのレベルを目指してもらう。
シャルロットは必死に撃っているがあの様子じゃ一発クリアは難しそうだ。
「セシリア」
「はい」
「セシリアには、並列思考の数を増やしてもらう」
並列思考ってのを、改めて調べてみると、簡単にできる事と出来ない事がある。
先ず簡単に出来る事の例を挙げるとすれば、
・音楽を聴きながら勉強をする。
・車の運転をしながら話をする。
・音楽を聴きながら絵(漫画、絵画等)を見る。
大体こんなもんだ。
この挙げた例ならば、普段誰もがやっていることだ。
学生なら耳にイヤホン突っ込んで音楽掛けて勉強、なんて寧ろ普通だろうしそうでない方が逆に今の時代マイナーですらあるんじゃないか?と思う。
で、逆に難しいものを上げるとすれば、
・二人の人間の話を聞き、聞き分ける。
・何かしらのゲームで対戦中(例えばテ〇リスで考える)に自分のフィールドと相手のフィールドを同時に見るのではなく『把握』する。
そして、セシリアの様なBT兵器を扱う事だろう。
ここで、なんで簡単な並列思考と難しい並列思考に分けられるのか、と言うのをまず説明しなきゃならない。
これには脳みその小難しい話になってくるんだがそれでも聞いて欲しい。
脳ってのは、基本的に例えば物を持つ、会話をすると言ったように特定の処理ごとに別々のCPUを持っていると言われている。実際に、脳では処理内容ごとに活性化する位置が丸っきり違う。
例で挙げた、車を運転しながら話をすると言うのは、運転をすると言うCPUと会話をすると言うCPUの別々の物を使っている。
別々のCPUを使う事で並列思考は簡単にできている。
一方で、別の音楽を同時に聞くとなった場合、音程処理を行うCPUを1つだけで2つの処理をする事になる。
そうなると当然、処理が追い付かなくなりやすいってのは分かる話だ。
簡単に言えば、同じ処理を同時に行うのはとんでもなく難しいが、別の処理をする場合は同時にやっても簡単ってこと。
何か一つの事をやっていれば、当然その処理に関するCPUを100%使えるが、別の事を並行してやらにゃならん、ってなると並列化の処理が必要だから100%は使えないがそれでもそれぞれ80%は使えるらしい。
だからよっぽど慣れていない事でもない限りは一つの事をやるときと大して変わらずに出来る
だが、同じことを並列してやるとなると並列化の処理も入れれば、それぞれの処理に割くことが出来るCPUは50%以下。
50%以下ともなると、半分無意識にやっているようなものだから、相当熟達していないと出来ない。
要するに、脳での処理の難易度ってのは一つの処理にどれだけ多くCPUを使えるかで決まってくるって訳だ。
で、どうやったら並列思考の難易度を下げたりすればいいのか、って話をするとだ。
小難しい言葉で言えば、一つの処理に必要なCPU占有率を下げれば良い。
簡単に言えば、『慣れ』ってことだ。
何度も同じことを繰り返し処理していると、身体もそうだが脳みそのCPUの中に所謂、マニュアルと言うか、命令のセットみたいなものが作られて行って、いくつかの段階を踏まなければ出来なかった事が一発で出来るようになる。
例えば、魚を捌く。
始めは、必死にここに包丁を入れて、こうやって切って、と色々考えるが慣れるとそんなこと考えなくても出来るようになるだろ?
もっと簡単に言えば、CPUを100%フルで使わないと出来ない事が慣れていくうえで90%、80%、70%、60%で出来るようになるってこと。
この慣れってのは凄いもんで、例えば30%で出来たとするとそれを二つやったとしても並列化されても100%を超えないから出来るようになる。
だがこれが三つ、四つとなると急激に難易度が上がってくる。
三つの場合は最低でも絶対に30%以下、理想を言うならば25~20%で、四つになると15%ほどで処理をしなければならないからだ。
別の処理の場合は二つでも三つでも内容さえ重なっていなけりゃ多少慣れるだけで簡単にできるんだけどな。
ただ、BT兵器を扱う上で今まで説明してこなかった事も絡んでくるのでそっちも説明しておこう。
並列思考とは別の意味、ベクトルで難しい『並列処理』ってもんがある。
例としては文章を書きながら絵を鑑賞するって感じ。
ただ、これは少なくとも目ん玉が前を向いて二つしか付いていない普通の人間には出来ないことだ。
ってのも、この並列処理ってのは、二つの異なる位置にある物を同時に人間は見る事が出来ないから。
カメレオンみたいに両目を別々の方向に動かして見ることが出来る人間が居たら、それは人間じゃない。
この並列処理は物理的に不可能だから絶対に、生身の人間では出来ない。
因みに言っちゃうと、テト〇スで自分と相手のフィールドを同時に見られないと言うのはこの問題じゃぁ、無いのであしからず。
だって、テレビの電源を切ってみればテレビ全体は見られるだろ?
自分と相手のフィールドを同時に見られないのは、情報を処理しきれなくなる、例えば追い詰められたりだとか、ミスをして焦ったりして無意識のうちに視野を狭くしてしまうからだ。
だが、この並列処理には出来るようになる方法がこの世の中でたった一つだけ存在する。
それが、束が開発した『ハイパーセンサー』、若しくはそれに類する機能を持ったセンサー類を使う事だ。
問題なのは、ISに使われている技術ってのはとんでもなく電力を使う。
例に漏れずハイパーセンサーだってそうだ。
だけどそれらを稼働させられるのは、コアそのものが発電機関として原子炉や核融合炉を超えるほどに優秀で安全だから。
要はISに乗れば可能ってこと。
ハイパーセンサーは、説明するとすれば周囲360度、上下左右関係無く全方位を見ることが出来る。要は目ん玉二つだけで死角が無くなるってことだ。
しかも設定にもよるが200m先からまつげの先端を視認することができるぐらいには超高性能、なんならオーバーテクノロジー。
で、このハイパーセンサーってのは標準としてターゲットサイトを含む射撃、銃撃に必要な情報をIS操縦者に送る、射撃補佐システムってのがある。
それに加えて高速戦闘時に視覚情報の処理速度を向上させる機能もあるってんだから驚きだ。
他にもいくつか機能はあるんだが取り敢えず、直接並列思考や並列処理に関係するこれらだけで。
このハイパーセンサーのお陰で二つの異なる位置にある物を見ることが出来るから並列処理が出来る。
このハイパーセンサーを使う事で並列思考と同時に並列処理も行える。
ただ、BT兵器に限らず第三世代機の機体に使われている兵器はこの二つの処理が完全にできる、と言う前提の下で設計されて運用されるようになっている。
それを考えると欠陥なんだけどな。
セシリアだけじゃない、ラウラのAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)もそうだ。
あれを使う時、ラウラはAICを使って止める物体に、それも正面のみと言う制限された状況で完全に意識を割かなければならないためにそれ以外の事に関してはまるっきり出来なくなる。
並列思考、並列処理を同時に、それも複数行えるセシリアは、偏光射撃が出来ないからと言って凄くないと言う訳じゃない。
寧ろとんでもなく凄い。
現状、セシリアは五つないしは六つの並列思考を行う事が精一杯。しかもどれもこれもが同じCPUを使うと来ているのだからエゲつない。
俺だったら多分、やろうとしてイラついてキレる。
六つの並列思考をすると言う時点で、ISによる補助があるとはいえCPU内での割合は一つをそれぞれ最低でも10%にまで落とさなけりゃならん。
これを最低十以上の並列思考を、となると一つにつきたったの数%しか割けなくなる。
とすると、これを出来るようにとは言わないがこれに出来るだけ%を近づけなければならない。
となると、さっきの説明通りとことん慣れるしかない。
それらの説明をセシリアにする。
「兎に角、セシリアにやってもらうのはとことん、徹底的に慣れる事。それで脳みそのCPUの占有率を徹底的に下げる。いいな?」
「はい、分かりましたわ」
「それじゃぁ、反復し続けろ。始め」
セシリアは直ぐに始めた。
いやもう、本当に地味でつまらないけどこれが一番なんだよ。
そんじゃ、次は一夏達だな。
と言っても、一夏達は近接を鍛えて欲しいとの事だから俺を相手に延々と組手をするだけなんだけどな。
それぞれのやる事を夏休み中、徹底してやってもらう。
多分、夏休み明けには今と違って大きく成長してるだろうさ。
時折休憩を挟みつつ、夜の七時頃まで続けていた。
そして空も段々と暗くなったころに今日の特訓は終了。
「しゅーごーう!」
適当に集める。
一夏、箒、鈴の三人は俺にボコボコにやられてぐったりしてる。
なんて言うか、まだまだ場数が足りていないって感じだな。
戦い慣れていないって言えばいいんかな?こう、まだ判断が甘かったりするのは仕方が無い。
ひたすら組手するしかないな。
一番最後に遅れてきたセシリアを見て驚いた。
「おい、セシリア鼻血出てんぞ!」
「え?……あ、本当ですわ。今まで全然気が付きませんでした」
すると、今まで物凄く集中していたのかセシリアは鼻血を出していた。
結構長い時間鼻血が出ていたけど本人も気が付いていなかったらしく、ISスーツの方まで汚れている。
「あー、すまん。ティッシュとか持ってないわ」
「いえ、問題ありませんわ」
「そんじゃぁ、片付けは俺がやっとくからお前らは着替えて風呂に入って来い。以上、解散」
取り敢えず、解散する。
片付けと言っても管制室に行って今日はこれ以降の使用者が居ないから電源を落とすのと、打鉄を格納庫に戻して整備申請書を書くだけだ。
飲み物は一夏達にそれぞれ持って来させているから俺が持ち帰らなければならないのは自分の飲み物だけ。
それらの片づけが終わってから元々女子用の更衣室一つを丸々男子用にした馬鹿みたいに広い更衣室でちゃっちゃと着替えて部屋に戻る。
すると、今日はとっくに千冬が帰って来ていた。
相変わらず、Tシャツと短パンと言うラフな格好でベットに寝そべっている。
「お、今日は早いじゃねぇの」
「まぁ、早く仕事が終わるときもあれば遅いときもあるからな。兄さんだってそうだっただろう?」
「その通りだな。俺は風呂入った後に一夏達と飯食いに行くけどどうする?一緒に行くか?」
「ん、いや遠慮しておくよ。残念ながら山田先生と食べたのでな」
「あいよ」
着替えを持って服を脱ぎ、シャワーを手早く済ませる。
全身しっかりと拭いてから着替えて出る。
「洗濯物、回しておいたからな。乾すのは自分でやってくれ」
どうやら俺の洗濯物を洗っておいてくれたらしい。
通りで洗濯機が回っている訳だ。
「あんがとさん。そんじゃ飯食いに行ってくる」
「あぁ、いってらっしゃい」
千冬に見送られて、一夏達と集合。
食堂で今日もまた旨い飯を腹一杯食べた。
「セシリア、鼻血大丈夫だったか?」
「はい、特に身体にこれと言って何か支障はありませんわ」
「そりゃよかった」
「ただ、ちょっと疲れました」
「あんだけ脳みそ使ったらな。今日はもう部屋に帰ったらすぐに寝た方が良いぞ」
「はい、今日はありがとうございました。おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
最後に、セシリアの鼻血だけ心配だったから声を掛けたがどうやら元気そうだ。
ただ、やっぱり脳を物凄く使ったから顔は疲れているけどな。
そんじゃ、俺も明日に備えてとっとと寝るか。
脳内の並列思考の話、あれは作者の独自の解釈が入っていますので、当然間違っている可能性があります。
それを丸々信じてその際に読者の皆様が被った如何なる被害も作者は責任を負いかねますので、ご了承下さい。