おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

50 / 52
歌って踊って騒げ!学園祭! 当日ゥ!

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、ついに学園祭当日である。

と言っても今日は校内公開の日で学校の中だけで楽しむ日だ。

 

因みに生徒会も何やら出し物をやるらしいが、その詳細は後夜祭にて明かされるらしい。

いや、まだ明日あるのに後夜祭やんの?と思ったけど明日は明日でまた後夜祭やるんだと。

 

流石は国立、金がある。

 

まぁ、それは置いといて。

今日は本当に学園内だけでやるから、精々550人ってとこだな。

 

明日はこの6倍ぐらいも来るってんだからなぁ。

すげー混雑しそう。

 

なんにせよ今日は校内公開だから、そこまで忙しくなりはしないと思うけど、客入りによっちゃ明日も忙しくなるかもなぁ。

千冬がメイド服着るってんで多分人集まってくるかもなぁ。

 

山田先生はなんでも学園の外交関係を主に担当していたらしく、各国の圧力やら調整やらで奔走して連日徹夜だったりしたんだとか。

まぁ、そら疲れるわな。さっき顔見たが、げっそりしていた。

 

今年は俺が居るってんで例年より凄まじかったらしい。なんか申し訳無い。

ありゃ、部屋で寝ているのが正解だ。寧ろあれで学園祭に参加ってのも色々とやばいし、ほぼ確実にぶっ倒れる。

 

まぁ、あの様子じゃ一度寝たら一日中ベッドから離れる事なんて出来ないだろうな。

まぁ、寮の方は静かだからぐっすり寝れるだろうさ。

 

今度お世話になってるからなんか持ってかねぇとなぁ。

 

 

 

それは兎も角、全員がメイド服に着替えて俺は執事服に着替えてから体育館に向かう。

これから開会式なんだけど、単純に宣伝って事と開会式終わってからだと時間が余り無いってんで先に着替えておくんだと。

 

しっかしまぁ、朝から元気だねぇ。

嬢ちゃん達は寝起きからきゃいきゃい騒いでんだもんよ、おじさん皆の活気とかに気圧されてもう疲れちまった。

 

朝起きたら既に寮内は大騒ぎだったもんで千冬と一緒になんか溜息ついちゃったし。

 

高校生なんざわざわざクラス毎に並んでいきましょーねー、なんて無いから個々人で時間を守って行きましょう、てな訳だ。

 

「お兄ちゃん、そろそろ行こ」

 

「おー」

 

自分の席に座ってぐったりしている俺を一夏が引っ張ってく。

 

「もう疲れちゃったの?だらしないなぁ」

 

「俺にランニング筋トレで勝ってから言ってくれ」

 

「ぬっ、でも疲れてるじゃん」

 

「皆が元気過ぎるんだって。もう俺は皆のノリとか勢いに付いて行けないの。歳なの」

 

「まぁ、身体的に幾ら若くても、精神が、と言うのはよくある事だよ」

 

「そーそー」

 

シャルロットが賛同してくれる。

それはそうと腕離してくれません?皺付いちゃうよ?

 

「なんだ?父は疲れているのか?」

 

「疲れてない疲れてない」

 

「なんだ、なら良かった」

 

そんな俺達を見たラウラが首を傾げながら訪ねてくる。

そら疲れてるなんて言えないし、ラウラ見てると元気出てくる。

 

手のひら返しで答えると、一夏とシャルロットにジト目で睨まれる。

 

「……なんだよ」

 

「べっつにー?そーやってラウラばーっかり甘やかしてさー」

 

「佐々木さん、ラウラばっかりズルいよ」

 

「んだよ、お前達なんもしなくてもいっつも甘えて来てんじゃねぇか。それに甘々だろ」

 

「あれは違いますー、甘えてませんー」

 

「あーはいはい。そんじゃ今度来りゃ良いだろ」

 

「ほんと!?」

 

「ほんとほんと」

 

「約束ですよ!」

 

「おいちゃんは良い大人だから約束破ったりはしませんー」

 

一夏とシャルロットにブーブー文句を言われる。

二人は甘えてないとか言ってっけどあれ、絶対甘えてると思うんですけど。

 

それにお前達相手に俺ってすっごい甘々でドン引きレベルだと思うんですけど。

 

体育館に到着すると、各学年各クラスの生徒達が疎らに集まり始めていた。

まぁ、時間までにはあと十分はあるしそれまでには全員揃って整列ぐらいは余裕で終わるだろ。

 

言わずもがな、女子しかいないこの学園の中では、俺は身長がデカい方なもんで一番後ろ。

俺よりも身長デカいって子も中には居る。

 

特にバレー部に所属してる子の中に180越えの子がいる。

なんで分かるかって?そら見りゃ分かんだろ。

 

俺と同じ目線の子なんてこの学園だけで言えば相当限られてるし、そりゃ顔ぐらいは覚えちまうわな。名前は知らんけども。

 

 

 

 

時間が近付くにつれて段々と整列し始める。

特にこの学園はISと言う下手すりゃ怪我人死人が出るものを扱っているわけだからそれ相応に規則が厳しい。

やる事やってりゃ怒られないが、やらなかった時の規律がそりゃもう厳しい。

反省文で済めば良い方、最悪数日の謹慎処分は当たり前、それこそ退学だって余裕で有り得るわけだ。

 

操縦者も技術者なんかのメカニック方面も、一歩間違えれば大惨事。

規則は厳しくなって当たり前だ。

 

簡単な話、銃火器を扱う軍隊の規律が無いにも等しいものだったとしたら、って考えるといい。

おっかなくてしょうがないだろ?

それをISって言う今は不本意ながら兵器扱いを受けているものに当て嵌めたってことだ。

 

その癖して制服の改造は認められてるって言う結構チグハグなとこもあるけど、そのぐらいは認めても、みたいなとこあるし。

 

そう言うのは普段の生活態度にも現れるってもんで、時間が来ればちゃんと整列して待つし何時まで経ってもくっちゃべってるなんて事も無い。本当に優等生ばかりなんだよな、この学園。

それ考えると俺ってすげー問題児だろうけど。

 

ぐるっと見回してみると、やっぱりそれぞれ衣装だったりTシャツだったりを着ている。

12クラス分+幾つかの部活でそれぞれの衣装や服装があって、ぶっちゃけ百鬼夜行状態なんだよな。

 

お化け屋敷をやるクラスの子達はお化けの格好で着てるし、俺のクラスは勿論メイド服に俺は執事服。

他にも鈴のクラスはチャイナ服と本当に様々で見ていて飽きない。飽きないんだけど。

茶道部と華道部、それと和風喫茶やるクラスは和服だし、料理部はコックの格好してるし。

コスプレ喫茶やるクラスは正直詳しく無いから分かんないけど何やら色んな格好だし。

 

お化け屋敷やるクラスって三クラスあるんだけど、その三クラスともがマジでクオリティが高い、それこそ特殊メイクまでしているもんだから見ていて飽きないし。

 

もうぱっと見ぐちゃぐちゃだけど、そこが良いんだよ。

高校の文化祭なんてこんなもんだ。

 

俺の時は開会式で脱ぐ奴とか踊る奴とかいたし、なんかネタやって滅茶苦茶にスベってる奴もいたし。

 

しかも生徒だけじゃなくて先生達もおんなじ様に衣装着てるんだからなぁ。

千冬は言わずもがな、鈴のとこの担任は金髪外人でチャイナ服と夢が膨らむ。

 

うーん、あのスリットから見える御御足が良いですなぁ。

 

山田先生もメイド服ででっかいお山がどーん!と強調されてて眼福眼福。

 

「っ!」

 

「いでっ!」

 

先生達を見てたら千冬に脇腹抓られた。

 

先生方が衣装着る理由は、毎年先生達も出し物に参加不参加関係無く着るんだと。

 

で、あとで希望した先生達の中で投票形式でコンテストやるらしい。

因みに千冬は今年がコンテスト初参加するんだってさ。

 

いやー、俺ァ勿論千冬に入れますよ?

だってこうやって見て分かるけどやっぱし千冬が一番よ。

顔立ちはクールビューティーって感じだけど、実際の性格は割とフランクだったりするし、その辺のギャップが良い。

 

それに千冬から勿論私に投票してくれるよな?と盛大に圧力、いやいや、お願いだな、うんお願いされたからにゃぁお兄ちゃんとして投票しない訳にはいかんでしょう。

 

 

 

 

 

二、三分並んで待ってると、何やら体育館の照明が段々と暗くなり始めた。

周りは当然、少しばかり騒つき始める。

 

目を凝らして見てみると、何やら壇上の方で何かがこそこそと動いているのが薄らと見える。

 

んん?人なんだろうけどなんだあれ。

 

それが壇上の真ん中に来て止まる。

すると、バッ!!と一斉にスポットライトがその人物に向かって光を放った。

 

『皆ちゅうもーく!』

 

そこに照らされていたのは、何故かバニー服姿で、片手に見参ッ!!と書かれた扇子を持っている、外出する時いっつも付いてきて護衛してくれている生徒会長だった。

 

えぇ……?あの人何やってんの……?

 

俺はそんな風に思ったけど、やっぱり若いってのもあって皆ノリノリらしい。

わーきゃー言いながら騒いでる。

なんか護衛の時と随分とキャラ違ぇなぁ。

 

こう、はっちゃけてる感じが凄い。

多分だけどこっちが素の性格なんじゃねぇかな。めっちゃ顔キラッキラに輝いてんもん。

 

『はいはーい、皆静かに!』

 

ぱんぱん、と手を叩いて静かにさせる。

 

『それでは、これより学園祭開会式を始めます!と言っても長々と説明されても疲れちゃうだろうし、手短に行くわね』

 

『ルールを守って楽しむこと!以上!』

 

雑ぅ!

肝心のルール説明が何も無ェ!

 

まぁ、クラス毎にルールブック配られて読んであるからこれでも問題無いんだろうけどさ。

 

『それから、既に説明されてると思うけど、各クラス対抗で今日と明日の合計ポイントで競ってもらうわ!それぞれ一枚づつ配られている投票用紙にどのクラスが良かったかを書いて投票するだけ!ただし、自分のクラスに投票するのは厳禁!もし投票したとしてもすーぐに分かっちゃうし、そしたらその子のクラスの点数をマイナス十点!』

 

なんでここだけこんな力説すんのかな。

あれか?この人祭り好きかなんかなのか?

 

『そして、やるからにはご褒美が無いとやる気にならないわよね!優勝したクラスの子達にはなんとなんと〜!食堂のデザート券一ヶ月分をプレゼント!』

 

「「「「「「「キャァァァ!!!」」」」」」」

 

おぉう、一番盛り上がってる。

相変わらず頭が揺さぶられて耳がキーンとするぐらいだ。と言うか痛い。

その内鼓膜破裂すんじゃねぇかな。

 

そう思うぐらいにはテンションがぶち上がったお嬢様方の叫びは、俺だけじゃなくて先生達にまで及んでいるらしく。

慄いてふらついている人とか、耳抑えている人とか。

 

千冬も耳抑えて顔顰めてる。

流石の千冬も音響兵器には勝てない。

 

『はいはい皆静かに!それじゃぁ、あと幾つか説明をちゃちゃっと済ませたら開会式は終わり。校内公開、皆で楽しみましょ!』

 

「「「「「「イェーイ!!」」」」」」

 

 

 

説明が終わる。

 

『それじゃ校内公開開始は十時ぴったり、今から三十分後!それまで皆は準備を整えておくこと!はい、それじゃぁ解散!』

 

とさっさと解散、それぞれの教室に戻り開店準備を済ませていたからあとはテーブルなどを綺麗に整えたり調整したりするだけ。

 

「よーし、それじゃぁ皆頑張ろう!」

 

「「「「「「おーっ!」」」」」」

 

「じゃ、お兄ちゃん一言」

 

「ここで俺に振るの!?」

 

「そりゃクラス代表だし?挨拶の一言でもしておかないとさ」

 

「お前もクラス代表じゃん。それか千冬でも良いじゃん」

 

「いやー、そこはお兄ちゃんだよ。なんだかんだで一番頑張ってくれてたのはお兄ちゃんだし」

 

「えー、やんなきゃダメ?」

 

「だめー」

 

はぁ、しょーがねぇなぁ。

よっこらせ、と椅子から立ち上がる。

 

「そんじゃまぁ、僭越ながらワタクシめが挨拶を……」

 

「固い固い!こう、もっと砕けた感じでいいよ」

 

「あ、そう?」

 

うーん、挨拶ねぇ。

何喋りゃいいかな。

 

「あー、まぁ、そんじゃ、おじさんから一言。今日は楽しめ。今日だけだぞ、高校一年生の学園祭ってのは。来年再来年になったら今日の事が懐かしくなる。それが十年二十年経つと戻りたくてしょうがなってさぁ……。普通は、俺みたいに高校生を二回もやらないし、やりたいと思ってもやれねぇもんよ」

 

「だから、死ぬ気で楽しんで、死ぬ気で頭の中に刻みこんどけ。じゃねぇと俺みたいに後悔すんぜ、あん時もっと楽しんどきゃ良かったー、ってな。俺なんか文化祭当日、準備に疲れて寝てたからな、碌な思い出がない。だから、人生の先達、ってほどでもないが後悔した俺からの助言だ」

 

「ま、俺ぁ、なんの因果かまた高校生やるなんて事になったからあん時とは違うが、全力で楽しむ。お前らよりも楽しむ。大人気ねぇなんて言われようがなんだろうが楽しむ」

 

「それじゃぁ、俺からは終わりだ」

 

楽しむってとこと、高校の時の文化祭が心残りってのは本心だ。

だから、今目の前にいる少女諸君には俺みたいにならないように、と思って喋ったからまぁ、少しでもそう思ってくれれば幸いだな。

 

と言ってもこのクラスの面々は少なくとも、そんな後悔するなんて事にゃならなさそうだが。

 

「それじゃぁ、時間だよ!一班は最初接客ね!二班は時間まで自由!」

 

一夏がそう指示を出すと、一班の子達はそれぞれの持ち場へ、二班の子達は学園祭を楽しむ為に出掛けていった。

俺と一夏、シャルロットは一班だから最初に仕事だ。

 

一夏とシャルロットは厨房に入ってって、同じく厨房組の子達が入っていく。

ホールに残されたのは俺を含めて十人。

テーブル数は九つだから一人一つのテーブルを担当する事が出来る。

残りの一人はレジ担当。

これをぐるぐる回して、交代交代でやればいい。

これと言ってどこのテーブルを誰が担当する、ってのは決まってないけど十分に回るはずだ。

 

「おーし、そんじゃやるかぁ」

 

「「「「「おーっ!!」」」」」

 

ドアに掛けてある掛け札をOPENにして、いよいよ開店だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。ご案内致しますのでどうぞ此方へ」

 

最初の客を丁寧な動作で案内してく。

いやぁ、扱かれた成果が出てる。

 

最初のお客を皮切りにどんどん客が入って来て、終いには長蛇の列が出来るまでになった。

 

 

 

 

「あー、佐々木さんだー」

 

「如何されましたか、お嬢様」

 

「……なんかいつもの佐々木さんじゃないね」

 

「うん、変」

 

「と言うか怖い」

 

なんつーストレートな事を言ってくれやがるんですかねぇ、この嬢ちゃん達は。

変って、俺そんなに変か?

 

いつもおじさん紳士だと思うんだけどなぁ。

 

 

 

とまぁ、友人とかじゃぁないけど顔見知りの一、二、三年生の子達がなんだかんだと佐々木さんだー、とか言って色々と注文してってくれんのよ。

お陰で売り上げは今の所ウハウハですわ。

 

「ねーねー佐々木さん」

 

「なんでしょうか」

 

「どっかおすすめのクラスとかないですか?」

 

「おすすめ、ですか」

 

「なんか美味しいもの食べれるとか、そう言う感じの」

 

どこがいい、って聞かれたが、どこが良いかな。

つーかこの嬢ちゃん達、既に三品ずつ平らげてんだけどそれでもまだ食うのか。

俺が言えた事じゃ無いけど、すげぇ。

 

しっかしおすすめかぁ。

うーん、鈴のとこなんかどうだろ。

 

食後の腹ごなしでお茶とか提供してるし、こんだけ食べちゃったお嬢様には丁度良さそうだ。

 

「そうですね、一年二組はどうでしょうか」

 

「一年二組?」

 

「はい。見たところ、お嬢様方は随分とお食事をされた様でございますので」

 

「ちょっ、佐々木さんそれ言わないで!」

 

「いいの!私達は運動部で後からちゃんとカロリー消費するからいいの!」

 

「なんでダイエット出来ないのかな……」

 

「左様で御座いますか」

 

そら一人三品も食えばダイエットもクソも無ぇだろうよ。

まぁ食べ盛りで、この二人は運動部だから下手にダイエットするよりは良いと思うけどなぁ。

 

おじさん、ガリガリよりムッチリ派なのよね。

束が偶に、ちょっとお肉付いちゃったぁー!とか言ってるけどあれぐらいなら寧ろ大好物よ。

箒とセシリアは運動ガッツリやるからんな事無ぇけどさ。

 

なんつーか、ダイエットし過ぎて出汁を取り終えた鶏ガラみたいな子とか偶にいるけど勝手ながら大丈夫なんかな、って心配になる。

 

「それならば尚更、一年二組に行ってみては?あそこは食事、と言うよりも食後の腹休めを出来る場所ですから、丁度宜しいかと」

 

「確かに油物とか食べちゃったもんね」

 

「行ってみよっか」

 

「それが宜しいかと」

 

「佐々木さんありがとね」

 

「いえ、お気になさらず」

 

そう言って会計して退店していく。

 

それを何度も何度も繰り返して。

どうやら一夏達が作る食事は、やっぱり美味いからか客足が止まる事はないし、なんならさっきみたいに一人で三品とか頼んでペロリと平げてく子もいるぐらいだ。

俺も今すぐにスタッフ止めて食いたいし。

 

 

やっぱ一夏とシャルロットの飯は美味いんだよ。

一夏の飯は毎日食ってたし、シャルロットのは週に二、三回は食ってきたから分かるもんよ。

 

あれを食ったら外食よりも家で食うことの方がぜってぇ良いって思う様になる。

美味い、安い、健康的と三拍子揃ったのが皆の飯だからな。

 

束と箒も美味い。

束はクロエが小さい頃に色々作ったりで慣れてるし、箒は和食専門みたいなとこあるから皆揃うとレパートリーが半端無い。

 

その美味い飯を食った後の、鈴の淹れてくれた茶よ。

いやぁ、もうダブルパンチで中毒性あるよな。

抜け出せない底無し沼ってことよ。

 

 

 

 

 

 

「交代の時間だよー!」

 

少し看板を準備中にして二班と交代する。

片付けと諸々の引き継ぎを済ませて。

 

「そんじゃあとは任せた」

 

「はい、お任せ下さいな」

 

「父よ、後でちゃんと来てくれないとだめだぞ」

 

「おう、ちゃんと来るって。でも来る時間はランダムだから覚悟しとけよー?」

 

「だ、大丈夫だ!」

 

しっかりとメイド服を着込んで、更には化粧までした皆に見送られて学園祭を楽しむべくそれぞれ歩き出した。

俺は一夏とシャルロットと共にまず最初に接客で色々と疲れてるから、と一年二組のところへ。

 

あそこなら雰囲気落ち着いてるし一組みたく騒がしくなさそうだ。

 

 

と思ってたんだけど。

 

「なんかすげぇ混んでんなぁ」

 

「ほんとだ」

 

「何かあったのかな」

 

滅茶苦茶混んでる。

普通に並んで待ってるぐらいには混んでる。

 

列の最後尾まで十五人ぐらいが並んで待ってる。

 

チラッと店内を覗いた感じでも普通に繁盛してるし。

我らが一年一組もそらもう繁盛してるが、負けず劣らずだ。

 

「どうする?並んで待つか?」

 

「んー、少し他のとこ回ってみよーよ。それでも並んでたら待とっか」

 

「りょーかい。で、どこに行く?」

 

「そりゃ定番と言ったらお化け屋敷でしょ!」

 

「そうなの?」

 

「まぁ、こうやって学園祭とかやるってなるとほぼ確実にお化け屋敷はあるからな。定番っちゃ定番か」

 

「ほらほら、行こうよ!」

 

「分かったから少し待てって。逃やしないさ」

 

手を引っ張ってく一夏と、もう反対側をガッチリ固めているシャルロット。

どうやら一夏はお化け屋敷を全部制覇する気らしく、片っ端から入ってく。

 

 

「きゃーっ!!」

 

一夏は肝が据わってるのか楽しくてしょうがないって感じの悲鳴を上げて一々大袈裟に抱き着いてくる。

 

「うわぁぁっ!?」

 

シャルロットはガチでビビってるのか若干涙目で常に俺の腕を取って離れない。

 

「凄いね!クオリティ高い!」

 

「お前は本当に元気だなぁ」

 

「だって楽しいじゃん!」

 

「だからって俺の腕を引っ張って歩くなって」

 

「やだー」

 

一夏は余程楽しいのか兎に角はしゃいでいる。

こんなにテンション高いのは多分、臨海学校の自由日以来か?

 

まぁ割といつでもテンション高めだからアレだけど。

 

「うぅぅっ……」

 

「なんだ、そんなに怖かったか」

 

「そりゃ怖いよ!ねぇなんで日本人ってこう言う娯楽とかに無駄に力を入れるの!?馬鹿なの!?クオリティ高いなんてもんじゃないよ!普通に街中でお金取れるよ!?」

 

「まぁ、日本人って何か知らんけど遊びに関しちゃ変な方向に全力出すからな。そんなもんだろ」

 

「おかしいって。絶対おかしいって……」

 

「でもよ、IS乗ってて試合中に弾丸飛んでくるとか剣振り下ろされる方が怖くねぇの?」

 

「SEあるし、なんだかんだ言って絶対防御もあるし。それに何より見える恐怖より見えない恐怖の方が僕は怖いかな。それに慣れちゃえば怖くはないし」

 

「そんなもんかねぇ」

 

「そう言うものだよ」

 

そう言うものらしい。

 

一夏に引っ張られながらお化け屋敷を二件制覇し、一度一年二組のところへ行ってみると客足が少し落ち着いたらしいのか列が短くなっている。

このぐらいなら少し待てばすぐにでも入れるな。

 

「ちょっと並ぶけど、まぁ良いか」

 

「待つのも楽しいよ?」

 

「そうだな」

 

十分ほど並んで待っていると案内された。

 

「いらっしゃい。来てくれたのね」

 

「おうよ」

 

「ま、一組みたいに大した料理とかは出せないけど、寛いでって」

 

鈴はそう言うと他のテーブルに向かってった。

うーん、親父さん達の手伝いしてたからか違和感無ぇし似合ってんな。

 

それはそうと、チャイナ服良いね!

スリットから見える足が良いね!

 

「お兄ちゃん、鼻の下伸ばし過ぎ!」

 

「佐々木さん、私達似合ってないかな……?」

 

「いやいや、そんなことはねぇですよ?鼻の下伸ばしてないし、メイド服似合ってるぜ」

 

鈴見てたらなんか怒られたんすけど。

いいじゃんちょっとぐらい。

 

 

 

 

 

それぞれ食いたいもの、飲みたいものを頼んで待っている。

腹を空かせた一夏が頼んだ蒸籠で蒸しためっちゃ本格的な焼売とか回鍋肉とか青椒肉絲が運ばれてくる。

 

いや、ウチが食い物だけで品数二十品以上あるのがおかしいだけで二組も食い物は十二品と結構ある。

十分だろ、これだけあれば。

 

俺も腹減ってるけど、沢山食べたいって訳じゃないから回鍋肉定食とお茶を頼んだ。

 

定食は出来立てを持って来てくれるんだが、お茶は目の前でちゃんと淹れてくれる。

 

「おー、すごーい」

 

「凄いね、ここで淹れてくれるんだ」

 

二人も驚いて肝心してる。

普通は淹れたの持ってくるからな、驚くのも無理はない。

 

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

 

担当してくれた子が離れてから。

 

「「「いただきまーす」」」

 

三人揃って手を合わせてから食べ始める。

 

「おいしー!」

 

「うん、美味い美味い」

 

「お腹空いてたから余計に美味しく感じるね」

 

三人揃ってもしゃもしゃと食べ進める。

執事服とメイド服の三人が中華料理食ってるなんていう珍妙な光景だけど。

 

一夏は頼んだ大量の料理をぺろりと全部綺麗に平らげてお茶を飲みながら満足そうにしている。

あいつ、よく太らねぇな……。

 

シャルロットが若干引いてるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?美味しかった?」

 

「美味しかったよー」

 

「うん、また食べたいぐらい」

 

「そ、なら良かったわ。明日もやってるから暇ならいらっしゃい。売り上げに貢献して頂戴ね」

 

その辺り言い切るのが鈴らしい。

でも売り上げ大事だもんね、仕方ないね。

 

「そうだな。にしても俺が昨日来た時言ってたよりも遥かに混んでるじゃねぇの。どうした?」

 

「呼び込みもあるんだろうけど、大きな原因は洋介さんのお陰よ」

 

「俺?」

 

「あんた、自分のとこの客に私達の店を宣伝したでしょ」

 

「したな」

 

「それが理由で来てくれたお客が、口コミで広めたらしくて沢山来てるの」

 

「はー、そら良かったな」

 

「えぇ、だから思ってたよりも遥かに繁盛してるわ。お茶だけじゃなくて料理の方も注文が殺到してて食材が若干足りないぐらいにはね」

 

「なら良かったじゃねぇか」

 

「だからありがとう。学園祭中は無理だけど終わったらお礼にフルコースを振る舞ってあげる」

 

「おっ、嬉しいねぇ」

 

鈴曰く、想定の十倍は客足があるんだとか。

 

にしてもフルコースか。

いいねぇ、楽しみだ。でも俺、北京ダックとか食い方分かんないんだけど。

 

なんか包んで食べるみたいなのってのは知ってるけど、ケバブとかみたいなもん?

 

 

 

少しゆっくりしてから店を出る。

そこら中が騒がしく、この学園で静かなとこなんて殆ど無いんじゃねぇかと思うぐらいだ。

 

「次どこ行くか」

 

「そろそろ一組行ってみる?多分ラウラとセシリアが待ち侘びてるよ」

 

「そーすっか」

 

「シャルロットもそれでいい?」

 

「うん、大丈夫」

 

一組のところに到着すると、そらもうびっくりするぐらい人が並んで待っている。

まぁ確かに食い物に関しちゃ普通にクオリティ高いけども、お嬢さん方幾ら何でも食べ過ぎじゃないすかね?

これから晩飯も食うんだろ?

 

「凄い並んでるね」

 

「俺らの時以上だな、これ」

 

「あ、そう言えば織斑先生がホールスタッフで入ってるんじゃないかな?時間的に多分そうだと思うよ」

 

「だからかー……」

 

「千冬姉人気だもんね」

 

並んで待って、漸く入店すると店先からでも分かってたが、より一層きゃーきゃーと黄色い悲鳴が響いてる。

 

なんだなんだと見てみると、そこにはちっこくて可愛いラウラと、正統派メイドって感じのセシリアと、我らが千冬を中心に生徒諸君が騒いでいた。

んでもって逞しい我がクラスメイトの嬢ちゃん達はそれを上手いこと使って荒稼ぎ中。

写真一枚千円とか何かとサービスに料金掛けてるな。

だけどそれでも皆が揃って金出してんだから凄い。

 

なるほどこれはアレだな、ウチの妹と娘と、セシリアが可愛かったり美人だったりで人気なんだな。

 

「あっ!父よ!よく来たな!」

 

嬉しそうに駆け寄ってくるラウラは、もう超可愛い。

お父さん顔ゆるゆるよ。

 

「うっわ佐々木さん顔デロデロじゃん」

 

「立派な子煩悩だねぇ」

 

周りから口々にやんややんやと言われる。

ラウラほど素直で可愛い娘よ?溺愛しない方がおかしいだろーが。

天使だぞ、天使。

 

 

 

 

 

 

「ラウラさん、幾ら小父様相手でも今はお客様。言葉遣いはちゃんとなさい」

 

「そ、そうだった。いらっしゃいませ、旦那様、お嬢様」

 

にこっ、と笑いながら言うラウラはそりゃもう可愛い。

天使。世界はスタンディングオベーションで浄化されるべき。

 

だけど。

 

「グッハァァッ!!!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「佐々木さん!?」

 

「やだ……、お父さんって呼んでくれなきゃやだ……」

 

床に突っ伏して泣く。

無理……。

ラウラにお父さんって呼ばれないだけで死んじゃう……。

 

「だ、大丈夫か?私のダメだったか?」

 

「ラウラ、大丈夫だから気にしなくていいよ」

 

「本当か?」

 

「うん、ほっとけばその内治るよ」

 

「扱いひでぇな、オイ」

 

心に突き刺さった何かを感じつつ、立ち上がる。

 

「ほら治った」

 

「治ってねぇやい、我慢してるだけだし」

 

「心理的影響大きいんだ」

 

「そりゃ可愛い可愛い娘にお父さんじゃなくてご主人様とか言われたら辛いよ?」

 

何言ってんだコイツ、と言う目で俺を見る皆。

いやいや、実際そうでしょ。

 

もし嫌いなんて言われようもんなら俺、自殺するよ?しなくても廃人になるよ?

 

「ラウラ、俺のことはお父さんで良いからな」

 

「え?」

 

ラウラが困った顔でセシリアを見ると。

 

「駄目です♡」

 

「ウィッス!」

 

満面の笑みで拒否られた。

従うしかないじゃん。

 

「ご注文が決まったら呼んでくれ!」

 

「おう」

 

元気一杯天真爛漫ともう可愛いのよラウラが。

可愛い可愛い娘の姿に悶絶しつつメニューを開く。

 

つっても考えたの俺達なんでね、どんなもんが出てくるのかは知ってるんだけど。

 

それぞれ食いたい物を幾つかづつ頼んで。

 

「お、お待たせしました」

 

えっちらおっちら両手に料理を持って運んでくるラウラ。

はい可愛い。

 

「あんがとさん」

 

「それではごゆっくり!」

 

三人でそれぞれの頼んだものを食べる。

流石我がクラス、料理の出来は最高だ。

 

うまいうまいと言いながら食べていると。

 

「只今より織斑先生がホールスタッフとして入りまーす!」

 

「「「「「「「キャァァァッ!!!!」」」」」」」

 

それを聞いたお嬢様方はでかい黄色い声をあげる。

だから鼓膜破れちゃうって。

 

「それじゃ、織斑先生どうぞ!」

 

その声と共に入ってきたのはメイド服に着替えた千冬。

高校生の時は学生が青春やってんな、って感じだったけど今はうん、なんかこう、違う。

ちゃんとしたメイドに見えるから不思議だ。

 

「う、流石に恥ずかしいな……」

 

「大丈夫ですって、すっごい似合ってますから。佐々木さんもイチコロですよー」

 

「そ、そうか?なら良いが……」

 

背中を押されて出てくる千冬を見て皆が黙る。

まぁ千冬、誰もが認める美人だし当然だぁな。

 

千冬ってロングスカートとかが似合うタイプだから今回のメイド服がめっちゃ似合ってる。

 

「兄さん、似合ってるか……?」

 

「似合ってる似合ってる」

 

凄い似合ってるけどお兄ちゃん思うんだ。

 

「凄え似合ってるけど、流石にツインテールはキツいぜ千冬」

 

「言うなぁ!」

 

顔を手で覆って座り込んで叫んだ。

いやだけど、ツインテールはキツいでしょ。

いつも通りに後ろで纏めるじゃ駄目だったの?

 

「皆がこの際だからって言うから……!私だって絶対止めておいた方が良いって思ってたのに!」

 

「まぁ、うん、明日は別の髪型にすりゃ良いじゃん?」

 

「そうする……」

 

そんなでもキッチリ仕事をやり遂げる辺り、流石よな。

 

 

 

 

 

 

とまぁ、平穏かはさておき、無事に一日終わった訳で。

明日もあるからと後片付けと明日の準備を済ませて早々に部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 











久しぶり、待った?







▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。