すみません。週七で働いてるもんでなかなか。
話進んでないです。
ちなみに見直してもいません。
整合性自信がない!!
変なところはこっそり直します。
相変わらずの謎時空。
次回こそ陛下コミケ編です!
戦時中並みに白熱した会議があったその日、裏事情を知る人々は終業後に誰も申し合わせることなくオーベルシュタイン邸を訪れた。
夕餉時には共犯者と共犯者予備軍は全員集合し、しっかりと食事をごちそうになると人払いをし、今度は家主の書斎で裏会議を始める。
「おめでとう。今年の自作自演女優賞は卿のものだ」
「そんないかがわしい賞などいらん」
妙に真面目腐ったファンクラブの会長の言葉に、『フィリーネ・オルフ』はぴしゃりと言い捨てる。
そのやりとりにフェルナーが噴き出し、ケスラーが頭を抱えていた。
実際会議でのオーベルシュタインの演技は凄かった。
むしろ本領発揮とでも言えば良いのだろうか。
確かに今回開催されるイベント自体が彼女のファンの集いなのだから、彼女が現れれば最注目されることだろう。
史上最も美しい皇帝がうろついていても誰も気にしないかもしれない。
実際はその『女性』が自薦しただけで、ラインハルトがそのまま諦めることも狙っていただろうが、傍から見れば鬼畜の所業だ。
何せその女性は以前にも過激なファンに襲われて連れ去られた経験があるのである。
いくら無傷だったとしても心の傷はそう簡単には癒えないだろう(実際はノーダメージだったが)そうでなくとも一般女性の背後に隠れるなど卑怯である。
おでかけ会議(仮)の参加者の多くが反対(形だけも含む)した。
諸将の中で特に強く物申したのは誠実で優しいミュラー、文芸など芸術への愛情が強いメックリンガー、愛妻家のミッターマイヤーだ。
そして意外なことに一番強く反対したのがメックリンガーだった。
『無関係な女性を囮に使うこと自体も反対ですが、彼女の書いた作品の持つ力を軽視し過ぎです!今やフィリーネ・オルフ女史の影響力はそこらの権力者を遥かに凌ぐでしょう。ここフェザーンはもとより、オーディンや新領土にも彼女のファンは多い。彼女が作品を出すたびに大きな経済効果を生み出す。現在の戦後経済を支える一柱と言っても過言ではないでしょう。戦後の人々の傷を癒し、鼓舞し、未来への希望を抱かせる存在です。いくら陛下のためとは言えど、使い捨てて良い方ではございません』
もっともな意見である。ミュラーとミッターマイヤーもその言葉に深く頷き、強く芸術家提督の後押しをした。
さらには囮を提案されたラインハルト自身も
『卑怯だぞ、オーベルシュタイン!オルフ女史を人質に余に諦めろと言うのか!?』
と声を荒げたが、軍務尚書は相変わらずの無表情でそれをいなした。
『諦めろなどとは申しておりません。陛下の安全のために、目立つ存在を会場内に設置することを提案しているだけです。まるで殺害されることが前提になってしまっていますが、あくまでオルフ女史の役割は目くらましです。もちろん彼女には可能な限り護衛はつけましょう。お忘れですか?彼女のファンクラブの重鎮達は皆帝国屈指の武闘派です。前回もすぐに彼女を助け出した実績がございます』
言いながら、ロイエンタールとビッテンフェルトを見やる。
その鋭い眼光を真っ向から受け、ふたりは力強く請け負った。
裏事情を知るふたりからすれば、護衛対象はか弱い一般女性ではなく可愛くない中年軍人男性である。
本人も戦えるため、囮にすることに関しても不安は少ない。
何より本人がやると言っているのだ。
反対する理由は少ない。
この後もしばらくの間激しい議論が続いた。
しかしなんだかんだで、他に陛下を諦めさせることも、イベントに長居させて差し上げられるような妙案も浮かばず、最終的にはケスラーが『私が必ず陛下もオルフ女史もお守り致します』と口にしたためなんとかまとまった。
オーベルシュタインもため息をついて細い顎に手をやった。
「予想通り陛下が諦めてくださらなかったからな。ならば少しでも安全に過ごしていただけるように配慮するのは当然だろう」
「そこで出たのが自らを使った囮作戦か。お前はそういうところがやたら思い切りが良いよな」
ビッテンフェルトが呆れたように笑う。
友人になる以前ならまた反応が違っただろうが、なった今では美点に見えた。
「しかし、少し大げさではないか?確かに陛下はどこにいらしても輝かんばかりの容姿をされているが、変装すれば目立たぬように出来るのではないか?」
「もちろん変装もしていただく。幸い今回は『イベント』だからな。多くの人間が仮装しているからやりやすい」
「ですよね!せっかくですから陛下も『コスプレ』していただきましょう。幸い取り巻きがいるのが自然なキャラがいますし!!いやあ、腕が鳴りますねぇ」
上司の言葉に反応したフェルナーがウキウキとそのようなことを言い出した。
この男は本当に神経が太い。
「・・・ところでずっと聞きたかったのだが、『イベント』とはどういったものなんだ?陛下は祭りとおっしゃっていたが」
盛り上がるナグルファルガチ勢と原作者に、そう疑問を口にしたのはルッツだった。
見ればワーレンもわかっていないらしく、同じように目で問うている。
CMで内容紹介はあったが、彼らからすれば専門用語を並べられても具体的なイメージが湧かなかったのだ。
わからないで聞いていたのかとも思うが、確かにあの場ではそんな根本的なことを質問しづらかっただろう。
この手の内輪の催しというのは外野からは意味不明なものである。
それを察した有識者達はちゃんと説明した。
『イベント』
この催しが出来たのは本当に最近だ。
最初はフィリーネの作品のファン達が酒場などで集まり、自身の感想を語ったり他の考察を聞いたりするような場だったらしい。
その後、ナグルファルが発表された辺りから、流れが変わってきた。
ナグルファルは実際はともかく作者サイドとしては子供向けの作品だ。
そして子供というのは想像力豊かで、その想像を親など近しい人間に話す。
もしも作中の誰と誰が会っていたら、親しかったならば、ここでこうなっていればどうなったか。
すると聞かされた方も考え出す。
もしくは自分の想像を話す。
行動力がある人間などは、それらを文章にしたり絵にしたり表現を始めた。
ナグルファル二次創作同好の士が集まればグループが出来、互いの作品交換などを通してファン同士の交流も深まったそうだ。
そのうち作品を発表する専用の雑誌や電子掲示板などが乱立し、次第に自費で本を印刷し許可を取って販売する者も現れた。
ちなみに無許可で配っている人間もその数千倍いるらしい。
どんどんそうやってファンの創作活動が過熱していく中で、一部の金に余裕があるファンが他の多くファンを集めての作品発表会兼交流の場を企画運営しだした。
今回のイベントはその最大規模で、発案運営は帝国屈指の富豪達である。
「・・・つまり・・・なんだ?自分の考えたナグルファルのもしもの話を発表したいと考えている人間がそんなにたくさんいるということか?」
「読みたい人間はその数百倍はいる」
「えぇ」
オーベルシュタインの異様に理路整然とした説明に、特にファンではない共犯者予備軍達は引き気味だ。
彼らにしてみれば架空の話にそこまで金と時間と情熱を注ぎ込むことが理解の外なのだろう。
「・・・作者的にはどうなのだ?卿の作品に何か不満があるからそのようなことをするのだろう?」
「いや、それは違います。好きだからこそ考えるのです。面白いからこそ自分の手でどうこうしてみたいと考えるわけですよ」
フェルナーの妙に力が入った説明にも、やはりルッツ達はよくわかっていない様子だ。
だがとりあえず熱心なファンの集まりであるということは理解したらしい。
「・・・イベント自体を中止するというのは」
「それは愚かな提案だ、憲兵総監」
無理だろうと悟った口調だったが、一応という様子で発せられた言葉をドライアイスの剣が切り捨てる。
「このイベントだけでも軽く億単位の金が動く。経済効果は驚くほどの規模だ。周辺店舗も需要を見込んで仕入れを増やしたり、チェーン店では精鋭の店員を呼び寄せて当日に挑むそうだ。強権を発動して中止することは可能だが、下手すると廃業や失業者を増やすことになるぞ。さらに言うなら旧同盟領からわざわざ遠征してくる参加者も少なくない人数いるそうだ。強権で止めたりなどしてみろ。とんでもないことになるぞ」
安くない旅費と短いとは言えない時間をかけてわざわざやってくるような熱心なファン達だ。
下手したら暴力沙汰に発展しかねない。
大量の人間が動くということはその分大量の金も動くということだ。
現在は戦後だ。
経済活動は可能な限り活性化させる必要がある。
それをわざわざ潰すような愚行は出来ない。
「・・・となるとやはり卿を囮にして陛下にイベント参加していただくことになるのか」
ワーレンがため息交じりに呟けば、どこか呆れた答えが返った。
「そう決定しただろう。勇猛果敢と謳われる卿らがじたばたしてどうするのだ。当日は万全の警備で挑む。私は全力で目立つ。いい加減腹を括りたまえ」
声こそ平坦だが囮本人の言葉とは思えない台詞である。
そしてさらにとんでもないことを言い出した。
「・・・せっかくだから私も本を何冊か出そう。その方が主催者側に話が通しやすかろう。ちょうど没になったナグルファルの旧版も書き直ししたかったし、別視点から描いたものも書いてみたかった」
「い、今からか?」
驚きの声をあげたのはルッツだ。
すでにイベントまでは一ヶ月をきっている。
小説家の書くペースなど知らないが、そんなぽんぽん書けるものではないということくらいは予想がつく。
さらに言うならば軍務尚書は決して暇な役職ではない。
確かフィリーネ・オルフは速筆で有名な作家だが、それはおそらく大量に書き溜めてあるものを順番に発表しているのだろう。
今から書くとなれば、本業に支障が出るのではないか。
実情を知らない優秀な射手の危惧は、共犯者三名の笑顔で否定された。
「おお、それはファンとしてはものすごく楽しみですね。今からわくわくが止まりません」
「何冊書くつもりだ?」
「とりあえず十冊」
後世、異様なほど早い仕事ぶりを初めて見た人々の『マジかよ』とドン引きしている一次資料が大量に見つかり、歴史家達を困惑させる男はレベルが違った。
「ふっ。大きく出たな」
普通とりあえずで書ける量ではないのだが、ロイエンタールは驚くことなくシニカルに笑う。
同じく感覚が麻痺しているビッテンフェルトが大仰に頷いた。
「おお、凄いな。お前のことだから読み応えがある量を書くのだろう?警備の関係やらで忙しくなるだろうに、やはりお前は凄いな」
ある意味他人事で喜ぶ猪を、ドライアイスの義眼がすっと見据えた。
その意味深な視線に少したじろぐ。
「ん?どうした?」
「確かに忙しくなる。そしてまだ新刊は一切書いていない。書く時間を捻出する必要がある。だから通常業務の処理速度を上げる」
「え。お前普段どちらも早いだろ。間に合うのではないか?」
「余裕をもって印刷所に渡さねばなるまい。主催者と交渉もせねばならん。やることは多い。だから速度をあげる」
「お、おお?」
「他人事ではないぞ、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト。私の処理を上げるために卿の書類の締め切りも繰り上がる。まあ、卿以外もだが」
「なぬ!?」
思わぬ流れ弾に猛将は不意打ちを喰らった。
オーベルシュタインの指摘通り、自分は護衛くらいしか特別なことをしなくて良いと思っていたのである。
戦場では野性的に暴れまわる彼だが、書類飛び交う戦場ではウリ坊だ。
締め切りを破りそうになって笑顔のフェルナーが派遣されることはしょっちゅうだし、頻繁に訂正付箋だらけの書類返却をされている。
反射的に周囲を窺えば、皆生温かい半笑いでこちらを見ていた。
彼らの視線が語っている。
『頑張れ』と。
どうやらどうにもならないようである。
「安心したまえ、フリッツ。私達は友人だ。書類を早くあげるために協力しようではないか」
強敵に徒手空拳で挑む覚悟を決めようとした時、意外な助け舟があった。
まさかのオーベルシュタインである。
もしや何か手心を加えてくれるのだろうか?
いや、この男に限ってそれはないだろう。
むしろ友人だからこそ、そんなことをさせてしまっては駄目だ。
正直間に合うか非常に怪しいがやるだけやってみるしかあるまい。
ビッテンフェルトは考えたことをそのまま言葉にしようとしたが、それよりも先に軍務尚書は言った。
「別に不正はしない。卿から私までの過程を全カットするだけだ」
「え」
次の日。
冷や汗をたらしながら書類作成するビッテンフェルト、の真横にオーベルシュタインが陣取って仕事をしていたという目撃情報が多数残っている。