ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!!   作:オールドファッション

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番外編みたいな回。某地獄漫画のあの方も登場。


ルシウスが死ぬわけないだろ!犯人は全身黒づくめの人でち!!

 とある和室の中で男と幼女が一緒にいる。別にやましいことをしているわけではないのでギリシャ姉御は落ち着きなさい。座敷机には山海の幸が並び、山盛りの白飯を装う幼女は愛らしい笑顔で男に手渡した。それを男は好々爺のような表情を浮かべて受け取る。

 

 少女の名前は紅閻魔。遠野物語に紹介される迷い家を神霊や幻想種を客として迎える旅館とし、この閻魔亭を取り仕切る若女将が彼女であった。かつて遊郭から逃げ出した禿がこの閻魔亭にたどり着き、舌が切られ何も食すことが出来ない彼女の目の前には、今座敷机に並ぶ山海の幸と同じものが並んでいる。漆の椀は遊郭で出される食器よりも見事であり、反物や櫛は遊女たちが使っていたものよりも美しかった。食べることも、触れることも出来ずに死んでいく彼女が、今際の際に思ったことは美しい物を教示してくれた屋敷への感謝である。

 

 伝承では迷い家は無欲な者へ幸福をもたらすとされている。禿の死後その清廉さが認められ、雀の鬼に転身し、地獄で沙汰を受けずに逗留することを許された。奪衣婆の養子としてこき使われ、それを哀れに思った閻魔が彼女を養女として迎えることとなり、長年の働きを経て、幽境で迷い家を神々相手の旅館として開くことを任される。 あるとき人里恋しくなってしまい里に下りた時に婆に捕まってしまったが、お爺さんに助けられた。その禍福が舌切り雀として童話となり、現代の子供たちからも愛されている。それが紅閻魔という少女である。

 

 彼女は決して人によって態度を変えるような人物ではない。外見こそ幼いが、彼女は誰よりも女将としての矜持を持ち、何者にも卑下せず真摯に対応する性格であった。そんな彼女が自ら客をもてなすということは、それは過去に自らが恩を受けた相手に返すという童話通りの恩返しに他ならない。

 

 従業員の雀や常連客たちは好奇心に負け、襖の間から中の様子を覗き見た。きっとそこには彼女を助けたお爺さんと孫のように寄り添う紅閻魔の姿が、

 

 

 

 

「さあ、ルシウス様!もといっぱい食べるでち!」

 

「はははっ、そんなに食べれんぞ女将!」

 

 

 

 

 いや、お前かい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡ることおよそ一年前。ルシウスと目つきの悪い男が客室にてお茶を飲んでいた。こうして文章にしてみれば目つき以外は至って和やかな筈なのに、ルシウスの目は死んでいた。というか、実際死んでいる。

 

「過労死ですね」

 

「はぁ」

 

 ここは1世紀の閻魔庁。仏教でいうところの地獄であり、目の前の男はやがて地獄全272部署を治めるえらい鬼であった。学生の頃に書けたらわりと物知りっぽく思われる植物の名前である。ルシウスはバカだからキトウさんって間違えて言ってトゲトゲの棍棒で殴られた後であった。

 

「ていうか、なぜ死後日本の地獄なんですか?冥府とか煉獄じゃないんですか? ここから先はR指定な人と地獄巡りじゃないんですか?」

 

「あなた転生者ですよね。あるんですよねぇ、こっちの部署通さずにちゃんと輪廻転生できてない魂が死後に日本地獄に戻ってくるの。未来の死者のくせに過去に戻った転生者が死んでこっちに流れてくるのが最近特に増えてて迷惑してるんですよ」

 

「未来のな●うブラザーズたちがすみません」

 

 よく見ればスマホや盾を装備した亡者も並んでいる。異世界転生者の魂まで面倒見ているらしい。

 

「特にあなたはこの界隈ではわりと有名な方だからすぐ転生者だと気付きましたよ。今全世界の地獄があなたを獄卒に迎えるために口論になっていますから。素行はやや問題ありすぎて浄玻璃鏡が割れましたが貴方なら私も歓迎です」

 

 死後、閻魔大王が死者の生前の行いを映し出すという有名な鏡にルシウスも浮かれてポーズを取ったが、数秒でひび割れてしまった。これには閻魔大王も血の気が失せて真っ白に燃え尽きる。

 

「えー、死後まで働かなきゃならないとか嫌なんですが」

 

「すぐに慣れますよ。ははははっ」

 

 と言いつつまったく目が笑ってない鬼さん。なぜだか無性に親近感が湧いたルシウスであった。

 

「まあ残念ながら、その体だと再び地獄にくることもないでしょうね」

 

「え」

 

「ん?」

 

 不穏な言葉に固まるルシウス。これは天国に行けるってことでいいのだろうか。目の前の鬼さんが初めて憐憫の眼差しを向けていることと無関係であったらいいな。

 

「……そうそう、あなたの蘇生までまだ時間があるので少々手伝って頂きたいことがあるのです。閻魔大王の就任記念に保養地の建設を予定しているんですが、あなたなら一時間くらいでできますよね。私も手伝いますから30分で終わらせましょう」

 

「地獄でも休みなしとか殺すつもりですか?」

 

「あなた死んでるじゃないですか」

 

「「はははははっ」」

 

「なあ、あの二人実は生き別れの兄弟かなんかじゃないよな」

 

 互いに真顔の状態で笑い合う二人の姿に後ろで控えていた獄卒たちはただ恐怖したという。のちにちひろが神隠しに遭いそうな旅館を建設し終えたルシウスが現世に戻ると、誰が人工呼吸をするかで口論し合ってる女性陣たちと、無言のまま心臓マッサージを続ける執事の姿があった。地獄の鬼の方がまだ優しかったと涙を流すルシウス。

 

 それから数日後、例の浴槽の穴を試していたルシウスがたどり着いたのがいつか自分が作り上げた閻魔亭。久しぶりに見えた製作者に閻魔亭も喜び黄金色に輝いた。異変を察知した紅閻魔が玄関を出ると思わぬ来客に目を見開く。

 

「ル、ルシウス様でちかぁ!?」

 

「あ、はい」

 

 紅閻魔の瞳には今までのどんな来客よりも神々しく神聖なオーラをまとったルシウスが映る。それもそのはず、紅閻魔にとってはお爺さんと同じ大恩人なのだ。そんな彼の造った旅館で女将を務められることは、彼女にとって至上の誇りである。

 

「どうぞ中へお入り下さいでち!」

 

 困惑するルシウスを他所に紅閻魔は手を引いて中へ案内する。自慢げに旅館内の説明をしながらルシウスの周りを小鳥のように歩き回る紅閻魔だが、ルシウスからすれば自分で造った建物なのでへーふーんとしか思ってない。空気を読んでそうかそうかと相槌を打つ姿は兄かおじいちゃんだった。まだそんな年じゃないわと内心ツッコミを入れる。

 

「美味しいお料理をお出しするので楽しみにちてください!」

 

 あれやこれやと言う間に浴衣に着替えさせられ座敷に通されるルシウス。いまだ状況は把握できていないが、もてなしてくれると言うなら甘えようと久しぶりの日本の旅館で寝そべった。もうこれだけで至福だったが張り切った紅閻魔が数分で料理を作り終えて戻る。火炎放射器で火を通したのかな?

 

「どうぞお召し上がりくださいでち!」

 

「うむ、では早速……ん?」

 

 しかしお膳にはおかゆと梅と汁物という至って平凡な内容。これはどういうことだろうと紅閻魔に尋ねようと思いかけるも、幼女の満面の笑顔に思い止まる。だが、仮にも元現代日本人であり、料理研究家でもあるルシウスは食には妥協しない。まずかったらまずいと言える男。もはやめんど臭いクレーマーである。

 

 期待もそこそこの思いで彼が粥を口にした瞬間、

 

 

 

 

(地球は……青かった)

 

 

 

 

 彼の魂は大気圏を超えて宇宙まで飛び立った。圧倒的な旨味の威力を燃料に彼の魂は空を駆けたのだ。土曜ドラマ湯けむり殺人事件になりかけるもパンではなく米だったので魂が体に戻ってくる。

 

「……うまい」

 

「本当でちか!えへへへ!」

 

 くやしい、こんな質素な料理なのに手が止まらない。プロの料理人はプレーンオムレツだけでも力量の差が大きく現れると言うが、この料理がまさにそれである。梅干しもいい塩梅で浸かっており、汁物も出汁と味噌の調和が完璧だ。そもそも仕事で徹夜明けの体にはこれくらいの量で十分。

 

 おそらく自分がこの域に到達したのは今世の半ば。前世でもメシマズな母や妹の代わりに料理を作ってきたが、あの自分では不可能な領域。今でもこれだけのものを作れるかどうか不安なところであった。

 

(ふっ、こ、これは次の料理が楽しみだ)

 

 喜んでいる紅閻魔とは逆に、ルシウスはその才能に嫉妬と畏敬の念を抱いた。

 

 しかし昼もお粥が出され『うーん、お粥とお粥でダブってしまった』と孤独にグルメしたルシウス。巨大なひよことお日様の匂いがする犬と混浴後に出された夕食もお粥で『うおォン俺は人間お粥収集機だ』と黙々と食べる。そして次の朝にもお粥が出された辺りから流石に怒った。

 

「女将を呼べ!よくもこのルシウスの前にお粥ばかり出しよって!これは私がそろそろおじいちゃんくらいの年に入る当てつけか!」

 

「申し訳ありまちぇん!申し訳ありまちぇん!」

 

「女将!これはどういうつもりなのだ!私はお前のことを尊敬していたのだぞ!」

 

 お前は美食クラブかと言わんばかりに激おこなルシウスの前に、床に額を擦り付けた紅閻魔がいた。大人気ないなこの男。

 

「昨日までのルシウス様の胃はかなりの疲労されていたので、消化の良いものを召し上がって頂いてからご馳走をお出ししようとあちきが勝手に決めまちた!」

 

 ルシウスはそういえば最近疲れていた胃の具合が今はかなりいいことに気づいた。胃が休まり、栄養も取れたので体の調子もいい。そういえばお粥の味付けも毎回変えていたから、こうして飽きることなく食べられたのだ。何気ない気遣いにようやく思い当たってくる。

 

「あちきのお節介が気に触ったのなら、どうか煮るなり焼くなり好きにちて下さい。例えルシウス様に嫌われたとちても、宿に滞在する間は体を存分に療養してほしいでち。あちきは籠の中の鳥でありんちた、そんなあちきを自由にしてくれたのはルシウス様でありんす。ルシウス様!あちきの腹を切っておくんなんち!」

 

 やだ、めっちゃいい子やんと罪悪感に苛まれるルシウス。目にいっぱいに涙を浮かべる紅閻魔の周りを囲む雀たちは女将を斬るなら自分を斬ってくださいと震えながら懇願する。襖の奥から殺気を漏らす神々の気配に気づき、ようやく自分の状況を悟ったルシウスは、

 

「女将、私がそなたを傷つけるわけなかろう。お前のご馳走を楽しみにしているぞ」

 

「ルシウス様!ありがとうでち!」

 

 熱い手のひら返しを繰り出し難を逃れる。おのれルシウス。

 

 その後、完全回復したルシウスは一番最初のやりとりをしたり、料理の秘訣を盗もうとしてヘルズキッチンの刑に処されたり、影の中にいた伯爵と中国産の吸血鬼とが鉢合わせしたり、その吸血鬼に按摩パンクラチオンしたりとわりと満喫していた。

 

「ルシウス様は肩が凝ってるでちねぇ」

 

「ははは!もっと強く叩いても良いぞ女将!」

 

 完全におじいちゃんと孫と化した二人。ルシウスも真の大和撫子の姿を見出し、ここに永住しようかと考え出してた頃だった。

 

「大変でチュン!大変でチュン!竹取の翁様の荷物が盗まれたでチュン!」

 

「チュチュン!?」

 

 慌てて部屋に飛んできた雀の言葉に驚愕する紅閻魔。すぐに冷静さを取り戻した彼女はルシウスとともに竹取の翁が宿泊する明烏の間に向かった。

 

「まったく、今から地獄からの団体客が来られるのに迷惑な盗人でちね!」

 

「大丈夫だ女将よ。大抵、こういうミステリーでは全身黒づくめの男が犯人で少年探偵が捕まえにくるのがセオリー」

 

「そうなんでちか!流石ルシウス様は物知りでち!」

 

「はははっ!もっと褒めてもいいのだぞ!」

 

 褒められて調子に乗るルシウスおじいちゃん。ただ場を和ませようと発した一言であったが、彼の発言により事態は急展開を迎える。襖を開けた二人の目に飛び込んで来たのは、服と翁の仮面の下が全身黒ずくめ竹取の翁がありけり。

 

「は、犯人でちいいいいい!!!」

 

「ふぁ!?」

 

 思わず反射的に指を指した紅閻魔とひどく困惑した竹取の翁。それを見て『あ、余計なこと言ったかも』とテヘペロするルシウス。

 

「ル、ルシウス様の言ってた犯人でち!ほらルシウス様!」

 

「えーい、落ち着け女将!まだ探偵が到着しておらんぞ!」

 

「な、なんだね突然!人を犯人呼ばわりしよって!」(まさか、本当のことがバレちまったのか!?)

 

 竹取の翁は突きつけられた犯人容疑に内心狼狽していた。彼の正体は巷で理由をつけては無銭飲食を繰り返していた鵺。巾着袋に入っていた宝が盗まれたと自作自演で口実を作り、ただで寝泊まりする腹づもりだったが数秒でダンガンロンパされてびびっていた。

 

「竹取の翁様、事件があった時刻はどこに?」

 

「な、なんだその目は!?」

 

 紅閻魔の疑心に満ちた瞳に、己の謀が完全にバレていることを悟った彼は最終手段に出る。

 

「わしを犯人呼ばわりをするなら、その証拠を出してみろ!出せるのか!?」

 

「そ、それは……」

 

 彼は間違いなく犯人である。しかしそれを証明することは難しい。いったい誰が初めから巾着の中に宝などなかったことを証明できるだろう。怒る鵺の気迫に後ずさり廊下に後退したルシウスと紅閻魔は廊下を歩いている歩行者を目にして口をあっと開いた。青ざめた紅閻魔はまるで鵺を心の底から案ずるように声を絞り出す。

 

「た、竹取の翁様……犯人ならすぐに自白した方がいいでちよ?ね?」

 

「だから!わしが犯人だというなら証拠を!」

 

「証拠があれば良いのですか?」

 

「あ?誰だおま……え、は」

 

 襖からひょっこりと顔を覗かせる顔に鵺は戦慄した。閻魔大王の補佐官であり、地獄全272部署を治める鬼神。祟り神すら退けて日本で一番怒らせてはいけない人物ナンバーワンの座を勝ち取った獄卒。

 

 それを目撃した鵺が行ったのは、一糸乱れぬ洗練された土下座であった。

 

「も、申し訳ございません鬼灯さまああああああ!!!!」

 

「私よりも女将に謝りなさい!」

 

「ぶべら!?」

 

 鬼灯は垂れた頭を棍棒で殴り飛ばした。風圧でガラスや柱が粉々に砕け、閻魔亭が悲鳴を上げる。飛び散る鮮血が殺人現場の如く部屋を塗り替えた。今後、数百年は明烏の間は開かずの間になるだろう。頑張って直してカルデア組。

 

 その後、棍棒に縛り付けられた鵺と嫌がる閻魔大王を引きずった鬼灯は地獄へ戻った。残業を行う社畜の鏡にルシウスは敬礼ポーズを送る。『あなたもお金払ってませんよね』とルシウスもローマまで引きずられた。この鬼ぃ!

 

「鬼ですがなにか?」

 

 あ、はいそうですね。


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