太平洋上に出現した完全なる世界の移動大要塞。
フェイト・アーウェルンクスとの決着を付けさせ、要塞内部にネギくんたちを送り込むために大樹は怪我を押して前線に立ち決意を固める。
ぬらりひょんに刺された箇所には包帯で止血されているが薄っすらと血が滲んでいる。
「大樹様…。」
「戦の世を生きた私ですからね。こっちの方が気が楽なんですよ。」
大樹は包帯を取り換えさせつつ心配する声にこたえた。
戦艦紀伊を旗艦とした艦隊が東京湾を出港する。
自衛隊艦隊及びアメリカ第七艦隊の連合艦隊は途中でアメリカ第三艦隊、カナダ、オーストラリア、インドネシア、ニュージーランド、韓国と言った環太平洋諸国の艦隊と合流し、大樹の総動員令に応じた東洋の妖怪たちも続々と集結しており、歴史上類を見ない大艦隊の威容を示すこととなるだろう。
地球全軍同盟太平洋連合艦隊総旗艦大和型戦艦紀伊。この長々しい肩書を得たこの戦艦は地球唯一の顕現している神である大樹野椎水御神の御座艦として艦隊に鎮座していた。
「ぬらりひょんたちもこの戦いを決戦と位置付けているでしょう。世界規模で言うのならバック・ベアード、レティ・ホワイトロック、霍青娥それに南洋の妖怪たちがこちらに味方した。世界の妖怪たちの半数がこちら側。そして残りの半分が全てぬらりひょん側と言うわけではなく静観する者もいる。半分以下どころか我が方の半分が関の山でしょう。いや、先の国内の戦いで奴らの側に着いた妖怪たちは我が軍門に下った。最早、奴の戦力はカスも同然!完全なる世界と合流し麻帆良で決戦を行うしかない。だが、奴らを麻帆良…日本に来させるわけにはいかない!海の中にあの要塞を沈めるのです!全世界の同胞たちにこの檄を発す!我らの神聖なる地球に掛かる災厄の魔手を払いのけん!」
敵移動要塞から魔物たちが次々と姿を現し、魔法陣が浮かび上がりそこからも魔物たちが現れる様子がうかがえる。所詮は召喚された魔物や作られた紛い物たち、足並みが揃いきっていないと見える。
こちらにも些か時間的猶予ができたようです。
「総員戦闘配備!艦載機全機発艦いそげ!」
「周辺諸国の空軍機は定刻通りに到着予定!」
「妖怪軍前面に展開する為、先行させます!」
「間もなく周辺島嶼部の地対空部隊の射程に入ります!」
艦内のオペレーターたちが忙しく報告を上げる中で大樹は具足や胸当てを付けさせる。
「艦隊の指揮はブルー・リッジのウィリアム・ウォレス中将任せる!私も戦場に立ち兵たちを鼓舞する!」
「大樹様!?そのお体では!?」
「古式ゆかしい妖怪妖精の総大将たる私です。大将が全線で鼓舞してやれば兵たちも大いにその力を振るってくれるでしょう。」
完全なる世界移動大要塞
フェイト・アーウェルンクスに関してはネギくんたちに任せ。
大樹は日本の自衛隊艦隊を率いアメリカ第三・七艦隊と言った環太平洋諸国の海軍艦艇をまとめ上げた大艦隊、さらには周辺諸国の空軍、日本妖怪、西洋妖怪軍団、南方妖怪が集結中であった。
「100年以上かけて弱体化させていたはずなのにここまでの勢力を回復させるか。無理をしてでも60年前に殺しておくべきだったか。」
デュナミスは玉座に座る造物主に視線を送る。
「・・・・・・。」
「敵の中に玉兎の姿がありました。月の介在があるやもしれません。」
「デュナミス…紀元前よりこの世界に存在する地上の神。天津神々による地球の信託者大樹野椎水御神。英雄の子とは別の意味で強敵だ。兵を展開しろ。」
間もなく完全なる世界が地球全軍同盟軍の射程に入る。
そして、大樹率いる妖怪妖精軍が完全なる世界の大要塞と召喚魔群に向き合う形となり、大樹本隊の背後から全軍同盟の航空機群が、さらに後方から艦隊が追従してきているのが見えた。
「聞けぃ!同胞たちよ!あれこそ、災星より漏れ出た悪意そのもの!火星に世界を作り上げた神の如き存在。この地球からマナを搾り取ろうとした邪悪。奴らの好きにさせては地球が持たない!!地球は永遠の存在ではない!地球は皆で慈しみ育むもの。我らの地球を贄にすると言うのなら、我らはこの星を守らねばならない!!蔓延る悪を討ち、掛かる災厄の魔手を払いのけん!全軍掛かれ!!」
大樹の号令に妖怪妖精たちは戦国の世を彷彿とさせる怒号と共に一斉に飛び掛かり完全なる世界の召喚魔の陣を破らんと喰らいつく。
「応戦!応戦しろ!陣形を死守しろ!」
両軍を挟んで相対した造物主。その横にいるデュナミスが号令をかける。
両軍が雄叫びを上げ衝突する。
大樹が鉄扇を振り下ろすとそれに合わせたように。
艦隊や戦闘機群、周辺島嶼部の地対空部隊が発射したミサイルが通り過ぎ、敵の中衛辺りで爆散する。
「敵の陣形が乱れたぞ!それ、押し込め!!」
大樹率いる全軍同盟の正面戦力は自衛隊艦隊及びアメリカ第三・七艦隊、カナダ、インドネシア他の連合艦隊、大樹妖怪戦力は日本妖怪は当然として日本侵攻を狙っていた経緯もあり距離的に一番近かった西洋妖怪軍団さとり麾下の別動軍がいち早く合流、次いで霍青娥を代表とする台湾系中国妖怪が合流、南洋妖怪が逐次合流する形であった。
これらの戦力が完全なる世界の移動要塞の前哨戦としての戦い。戦況は西暦より長い皇紀の間、軍配を握り続け、名だたる戦いを指揮した大樹に一日の長がありじりじりと押し込んでいた。さらに南側から現れたオーストラリア、ニュージーランド艦隊と西洋妖怪軍団豪州方面軍が移動要塞の背後を突いたことから戦線が瓦解し、全軍同盟軍が要塞を包囲し始めると完全なる世界の召喚魔達は要塞の侵入口や推進部を守る形で戦力を集中させてきた。
造物主が要塞内に下がると次席のデュナミスが指揮を執るが攻勢には転ずることはできず大樹の巧みな指揮によって完全に守勢に回ることとなった。
「制空権は獲った。頃合いかな…。仕掛けよ!」
大樹が鉄扇を振り降ろし合図を送る。
東より米空軍のB-2及びB-52爆撃機群が姿を見せる。
『目標を確認…爆弾投下。』
爆撃機より投下された爆弾はMOP、大型地中貫通爆弾である。
魔法の障壁で守られているとは言え。多くの妖怪妖精に取り付かれ結界一部が剝ぎ取られ十全に機能していない状態で、これだけの高威力弾を落とされては無傷とはいかず要塞の天頂部の外壁は勿論、最上階やその下の改装はぐちゃぐちゃになっていた。
「っぐ、大樹め、あいつ…60年前に殺せなかったことが悔やまれる。」
その天頂部から一部の妖怪たちが侵入を試み始めたことを把握したデュナミスが歯噛みする一方。
「っく、そろそろ日本領海か。…要塞の侵攻が止まらない。紀伊に月から供与された三式エーテル融合弾を要塞開口部に打ち込むように伝えぃ!」
大樹も要塞に決定打を与えられず膠着、むしろ大局的に悪化している戦況に苛立ち始め月の供与兵器を使う決断した。
要塞の開口部へ打ち込まれ周辺の区画を焼き払った。
「開口部の敵の殲滅を確認!」
前線指揮官の妖怪狸と妖精が甲冑を鳴らしながら叫ぶ。
「者ども!城攻めぞ!!気張れ!」
「重要そうな機械は全部破壊しろ!要塞を沈めるんだよ!」
前線部隊が要塞内部へ侵入させたのを確認すると側仕えの妖精に再度包帯を交換させる。
「周辺各国に空爆支援を要請する!要塞に穴開けて入り口を増やすんですよ!」
無線機を背負った妖精から受話器を受け取り艦隊司令のウォレス中将に指示を出しながら次の行動に移る。
「とにかく中に!中に!兵を突っ込ませるんです!要塞機関部を破壊するか。大将首を取るんですよ!」
「た、大樹様…血が…止まりません。」
「っふ…私は平和主義なんですがね。少々血が滾っている様ですね。あの時代を思い出す。私も要塞の中に入って指揮を執る。」
さて、頃合いかな。