悪役の美学   作:生カス

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ほんとうのところ、失った仲間の代わりになるものは、何ひとつない。
昔からの仲間をつくり出すことはできない。


―サン・テグジュペリ『星の王子さま』より―


Number.08

 翌日、日も暮れ始めた頃、立花響は沈み込んだ表情で、携帯に耳を当てていた。電話の相手は言わずもがな親友であり、"流れ星を一緒に見よう"という約束を取り付けた未来なのだが、彼女のこの陰鬱な顔の原因は、その約束を――やむを得ないとはいえ――反故したことにあった。

 

『……また、大事な用なの?』

 

「うん……」

 

『……わかった、なら仕方ないよ。部屋の鍵開けておくから、あまり遅くならないで』

 

「ありがとう。ごめんね」

 

 響は酷く物悲しくそう言い、通話を切った。彼女は立っていた。誰もいない道の上、地下鉄のプラットフォームに続く下り階段が目の前にあった。彼女はプラットフォームの入り口を背に立っていた。そこには蠢くノイズが魑魅魍魎のように蔓延っていた。

 彼女はそこに立っていた。彼女は振り向いた。そして彼女は詠った。そして、そのオレンジ色の鎧を身に纏い、その唄声とともに、彼女は自分の戦いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Number08. Music Sounds Better With You

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「――ハッ。あそこまで見事に誘き出せるたあ思わなかった。バカか? あのガングニールの装者は」

 

 変身して地下プラットフォームへと入っていく響をビルの屋上から遠巻きに見ながら、雪音クリスはそう呟いた。彼女の表情は見下したようなものであったが、隣で座っていたツギハギは、それとはまた違って、それはそれは面白そうに口角を上げていた。それが気に障ったのだろうクリスが、その不機嫌の矛先を彼に向けた。

 

「……なんだよ、何がそんなに面白いんだよ?」

 

「面白いさ、響を見るのは。下手すればボンテージ姿で十字架に張り付けられて電流流されてる君を見るより面白いね。あれもマジで笑えるけど」

 

「はったおすぞ! ――チッ、フィーネと言いお前と言い、なんでそうもアイツに執着してるんだ」

 

 クリスは先程と一変して、苦虫を噛み潰したような顔になった。それを宥めるように……と言うより煽るようにツギハギは手をひらひらと躍らせて、こう言った。

 

「まあ、あのオバハンの趣味は知らないが、響が良い子なのは間違いないね。真面目で、優しく、人助けが趣味ときたもんだ。まさにヒーローそのものじゃないか、なあ?」

 

「……くっだらねえ。それに聞けば聞くほど、お前みたいなのとは相いれない存在じゃないか」

 

「そうだな、あの子は俺の全てを否定するだろう。だから最高なんだ」

 

「はあ?」

 

 クリスは意味がわからないとばかりにそう発したが、ツギハギはそれに応えることも無く、その場から立ち上がり、ジーンズについたホコリを払った。とは言っても、使い古された安ものなので、あまりその行為は意味をなしていないようではあった。

 

「ま、そんなことよりだ。これからの段取りはどうなってんだい、クリス?」

 

 ツギハギは本当に気にしているのかと聞きたくなるような軽い口調で、クリスに聞いた。

 

「……ああ、そろそろ風鳴翼がアイツを助けに来るはずだ。その時奴が、"この鎧"を見てどんな顔するのか、見ものだな」

 

 クリスはそう言って、自分がつけている鎧を軽く手で叩いた。その顔には、ひきつったような笑い顔が張り付いていた。

 

「助けに、か……"助けに"来てくれたらいいな」

 

 誰にも聞こえない声量で、ツギハギはそう呟いた。今の彼の関心は、昨日会った彼女はどのように仕上がったのかということに向けられていた。それがこちら側の有利になるのか不利になるのか、そんなことは彼にとってどうでもいい。問題は、響はそんな翼を見てどう思うのか、ということだけだ。それだけが今の彼は楽しみで仕方がなかった。

 

「……と、噂をすればどうとやらだ」

 

 クリスは空を仰いでそう言った。彼女の視線のその先には、青白い、ほうき星のような閃光が、空を駆けていた。

 

「それじゃあ私も行く。お前はどっかに隠れて――」

 

 そう言って彼女はツギハギの方に視線を戻すが、その先に彼の姿は無かった。

 

「……ああもう! どうしてあいつは人の言うことを聞かないんだ!」

 

 彼の姿が消えても、彼がどこに行ったのかはすぐに察しがついたらしく、クリスはその場から飛び出した。向かう先は、響が追っているノイズが逃げ出した場所、そしてあのほうき星の落下地点。

 日が完全にくれた夜。公園の広場に、4人は集まることになる。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 地下のプラットフォームからノイズを倒し続け、そして最後のひとつを追いかけて地上に戻ってきた響だが、しかし待っていた光景は予想に反したものだった。

 ノイズを追いかけた、そして見つけた。しかし倒したのは響ではなく、ほうき星のような光が放った"何か"が、ノイズを真っ二つに裂いてしまったのだ。

 

「翼さん……」

 

 響はそう言って、ほうき星の着地点を見る。そこには彼女の言った通り、聖遺物"天羽々斬"の青い鎧を身に付けた風鳴翼がいた。翼は何も言わず、響に見向きもせず、ただ自分が切り刻んだ地面を、見つめていた。

 

「……私にも、守りたいものがあるんです!」

 

 響のその叫びに、翼は何の反応も返さない。しかしそれでも、響は言葉を続けた。

 

「だから翼さん、一緒に――」

 

「無理よ」

 

 翼はようやく響を見て、しかしそう答えた。

 

「――え?」

 

 言われたことの理解に時間がかかっているのか、響はそれだけしか言えなかった。そんな彼女に対して、翼は何も言わず、ただ握りしめた剣を、つい先程にノイズを切り裂いたそれを、響の目の前へと持ってきた。

 

「……なんで?」

 

 状況を理解したのか、それとも理解はできてないが、ただならぬ気配だけは気づくことができたのか、兎にも角にも、響はそう言って、体を少し強張らせた。それをみながら、翼は言った。

 

「私は貴方を受け入れられない。肩を並べ、共に戦うなど、風鳴翼が許せるはずがない」

 

 酷く鎮静を貫くその口調で、しかし彼女の眼は、はっきりと敵意を持って響を見据えていた。

 風鳴翼は認められなかった。覚悟もなく親友の力を振って、はしゃいでいる響を。風鳴翼は許せなかった。親友が死に物狂いで手に入れた力を、他の誰かがさらっていくのを。故に風鳴翼は、受け入れることに耐えられず、立花響を否定することを"望んだ"。彼女の行動は、酷くシンプルな動機だった。

 

「……貴方もアームドギアを構えなさい」

 

 翼は一歩、響へと近づく。

 

「わ、私、アームドギアなんてわかりません……わかってないのに構えろなんて……」

 

 響はたじろぎ、不安を象徴するように心臓に手を当てる。その様子を見て翼は、静かに、鋭い声で言った。

 

「覚悟も持たずに、ノコノコと遊び半分で戦場に立つ貴方が……貴方が、奏の何を受け継いでいるというの?」

 

 響は翼のその問いに、響はついぞ一言も言い返すことができなかった。翼はそれを見て、無感情にただこう言った。

 

「胸の覚悟を見せなさい」

 

 そう言って、翼は剣を振りかざした。

 

 

 

「おい、そいつは傷物にしてくれるなよ」

 

 

 

 剣が響に届く寸前、突然聞こえた第三者の声。それに翼と響は気を取られ、その声がした方向に振り向いた。足音が聞こえた。そして影が、二人に近づいていた。

 雲が晴れる、月の光を遮るものはなくなり、その光は惜しみなく地上に注がれた。光に照らされ、その影が、シルエットから段々とはっきりとした姿を、二人に見せ始めた。

 

「――! それは!」

 

 それに先に反応したのは、翼だった。彼女はそれを見て、目を見開いた。

 銀色の鎧を着た少女、そして派手な飾りのように纏わりつく、紫色の鞭のような、その金属。それは翼の良く知るものだった。

 

「ネフシュタンの、鎧……!」

 

「大正解だ」

 

 その言葉を言ったのは、しかし銀色の鎧の少女ではなく、その後ろから聞こえたものだった。その声を聞いて、銀色の鎧の少女は……雪音クリスは鬱陶しそうに舌打ちをした。

 

「……お前、隠れてろって言ったはずだよな?」

 

「貴様は……」

 

 クリスと翼はそれぞれ違う言葉を、その声の主に向けた。彼女らが見たその先には、中折れ帽子を被った。まるで絵本に出てくる悪者のような恰好の男がいた。彼をあらわす単語を発したのは、響だった。

 

「"口裂け男"……!」

 

「響、遊びに来たよ」

 

 まるで恋人にでも会ったかのように、口裂け男は、ツギハギは響を見て手を振った。それを見た途端響は、彼を睨み付けた。

 

「……何するつもり?」

 

「そう怖い顔するなよ、響。別に何もしねえよ。今日はただのギャラリーで来たのさ」

 

 ツギハギは響にそう言って、そのまま翼の方に向き直した。

 

「さあ風鳴翼、どうする?」

 

 ツギハギの言葉に、翼は動かず、ただ彼を見据えた。その視線には、もはや殺意があった。そんな彼女を、彼は愉快そうに見つめ返して、続けた。

 

「親友を殺した鎧と、親友の力を奪ったやつと、親友を愚弄した男が集まった。さあ、どうする?」

 

「……知れたこと」

 

 翼は剣を再び構えた。もはや彼女の言葉は、誰に対してのものでもなかった。

 

「剣に出来ることはただひとつ」

 

 翼は目を開けて、言い放った。

 

 

 

「全て切り伏せるのみ」

 

 

 

 その言葉を聞いたとき、響の中で、何かが崩れていくような感覚があった。それが何かは彼女にはまだわからない。しかし、揺るがないと信じていた何かが、バラバラに砕ける音を、彼女は確かに聞いた気がした。

 

「……お前、説得ってこういうことか? 洗脳でもしたのかよ?」

 

 こちらも翼の様子を見て唖然としたのだろう。クリスはツギハギにそう聞いた。

 

「出来るわけないだろ。俺は彼女を一押ししただけだよ」

 

 彼はクリスにそれだけ言って、響の方へと近づいていく。響は、ただそれを見つめていた。彼と彼女が数十センチほどの距離になると、彼はこう言った。

 

「フリー・フォア・オールだ。響」

 

「何を、言って……?」

 

「全員が敵で、生き残るのは一人だけ。こんな時、君はどうする?」

 

 ツギハギはそう言って、更に響に近づく、ついにお互いの眼に写る自分が見えるような距離になったとき、彼は「響」と名前を呼んだ。

 

「俺は君に賭けるよ」

 

 そう言って、彼はコインを一枚、彼女に差し出した。

 




ツギハギが面白かったクリスの拷問ベスト3
3位 熱湯風呂
2位 蜜柑汁で洗顔
1位 あえての放置

誰に賭ける?

  • 立花響  Odds 3.93
  • 風鳴翼  Odds 1.20
  • 雪音クリス Odds 1.87
  • ツギハギ  Odds 2.37
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