あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
王族妖精奮闘母子手帳〜0歳〜①
今日は土砂降り。雨雲が空に広がり、太陽は欠片も見えやしない。
そんな中を、エルフの王族────リヴェリアは私用帰りにホームへと向かって爆走していた。
その両手には、真っ白な赤ん坊を大切そうに抱き抱えて。
「────すぐにお湯と清潔なタオルを準備しろ!」
「りっ、リヴェリア様!?びしょびしょじゃないですか!?」
「私のことなぞあとまわしだ!早くしろと言っているんだ!!」
「はっ、はいぃ!!?」
びしょ濡れの副団長に驚いたエルフの団員は、最初にリヴェリアの心配をしたが、すぐにリヴェリアが普段は使わない乱暴な口調で焦った様に告げられ、急ぎ風呂場に向かう。
「頼む…頑張れ!すぐに暖かくなるからな…!」
抱えられた真っ白な赤ん坊は、唇を真っ青にしてガタガタと震え、泣き声すらもかぼそい物になっていた。偶然気づいたのは、当時のリヴェリアが既に第1級の冒険者であったからこそか、はたまた、子供の鳴き声に反応する、女の本能故だったのかは分からないが、何にしても幸運だった。
服を着たまま、自身のローブを脱ぎさり、桶にお湯と水を足し熱すぎない人肌の温度にして、赤ん坊をお湯につける。
「頑張れ…!暖かいか?熱くないか?」
手先と足先を摩擦で温めながら、唇の色が戻っていくのを確認して、ホッとため息をついた。
そのままお湯からあげ、風邪をひかない様に良く全身を拭いて、清潔なタオルで包んで、自身の体温で温める。
「…なんとか、凌げたか…」
震えが消え、唇の色もピンク色の健康的な色に戻り、静かな寝息をたてる赤ん坊を見て、リヴェリアは自然に微笑み、慈しみを持って首も座っていない赤子を抱き締める。
団員によれば、この姿があまりにも様になっていたことから、過去に存在した、神を生んだ人とされる『聖母』の様だとエルフのコミュニティ中に語られることになった。
「なるほどなぁ…で、リヴェリアは偶然その赤ちゃんを見つけて、衰弱しとったから保護したんやな。しっかし、ホンマに真っ白やな、初めて見たで『アルビノ』ちゃんは…ほーれ、ロキたんやぞ〜!」
「やめろロキ、酒臭さが移ったらどうしてくれる。」
「ちょお!ウチ一応主神やぞ!?」
キャッキャと笑う赤ん坊を取り合うように、女性陣ははしゃいでいるが、男性幹部である団長と切込隊長は、ちょっぴり複雑な気持ちでいた。
「…まさか、リヴェリアが赤ん坊を拾ってくるとはね…」
「最初の堅物エルフはどこへやら…」
「あ"ぁ"?」
「…何でもありゃせんわい…」
最早、子を持った母親の様になったリヴェリアには、この赤ん坊に変な事を聞かれるのは耐えられず、いつになく荒れる。幹部であるフィン、ガレスはやはり難しい顔をする。
「それで、その子はどうするんだい?」
「どうする…とは、どういう意味だ?」
「そりゃ、親の捜索もそうだし、孤児院に預けるとか…色々とあるだろう?」
「────」
「…まさか、リヴェリア。君…育てる気でいたのかい?」
無言で頷くリヴェリアに驚きながらも、ガレスは重々しく口を開いた。
「……リヴェリア。子供を育てるということは簡単じゃ無いことくらい分かっとるじゃろ?」
「…そんな事わかっている!…しかし…この子はゴミ置き場に捨てられていたんだぞ…!…親探しをしたとして…いや、まず捜索願いすら出されていない可能性が高い。」
しかし、リヴェリアは引かない。普段の彼女からはかけ離れて、異様なまでにこの赤ん坊を育てる意思を見せている。そして、フィンはある答えにたどり着く。
「…それは、その子が『忌み子』だからかい?」
「…っ!」
リヴェリアが今までに無いほどに眦を吊り上げ、フィンを睨みつける。
『忌み子』
それは遥か昔、神がまだ地上に進出する以前の話。エルフの国に伝わった、負の慣習。
白髪、白磁の肌を持ち、深紅の瞳に染まった赤子を気味悪がったエルフは、その様な赤ん坊が生まれる度に、赤ん坊を生贄として生き埋めにしたり、酷い仕打ちをして殺していた。
しかし、1000年ほど前に神が降りてきたことにより、その赤ん坊は別になんでもない。ただ、体の色素が薄いだけの赤ん坊だと言う事実を伝えられ、その悪習は廃れて行った。しかし、人の間ではその噂が膨れに膨れ、殺さなければ災いが起こると言うデマが、未だに残っている地域や、そうだと信じている人達はいる。勿論、禍なんて起こらない。ただ、気味が悪いと無意味に殺されてきた。それを広めたエルフの長として、リヴェリアはこの赤ん坊に酷く同情していた。
しかし、フィンはリヴェリアに容赦なく言葉を投げかける。
「…リヴェリア、その子は君達エルフの贖罪の道具じゃない。」
「っ、わかっている!そんな事はわかっている!!」
リヴェリアの悲痛な叫びに反応したのか、赤ん坊が大声で泣き出す。
ロキが抱えている赤ん坊をリヴェリアは優しく、されど奪う様に手の中に抱きすくめる。すると、安心したのか赤ん坊は泣きやみ、すぐに穏やかな寝息を立てた。
「……頼む…待ってくれ……私は…ただ…」
そのまま、リヴェリアは部屋を出て自身の部屋に戻り、赤ん坊と一緒に、部屋に籠った。
腕の中に抱く小さな温もりに、リヴェリアはあやしながら微笑みかける。
「お前は…どうしたい?」
キャッキャッと笑う赤ん坊は、リヴェリアに手を伸ばす。それを見て、リヴェリアは顔を寄せて自分の顔を触らせると、また赤ん坊は子供らしく笑った。
「ふふ…わかるはずもないか…さぁ、寝よう。明日は私と街を回ってみよう…誰かお前を知ってる人物がいるかも知れん。」
どこか悲壮感を秘めたリヴェリアの顔を見て、赤ん坊は心配そうに髪の毛を引っ張る。
「いてて…こーらっ…ふふふ、意外といたずらっ子か?…いいや、励ましてくれてるんだな…ありがとう。」
リヴェリアは、名も知らぬ赤ん坊を優しく抱きしめる。
腕の中で眠る赤子に、慈しみを持ちながら、抱きしめた。
これは、母であろうとする女の奮闘を書き記した母子日記。
ありふれた、家族の軌跡だ。
タイトルに関しては、語呂が良いだけで採用したものです。
母子健康手帳とはまったく関係ありません。日記みたいな解釈でお願いします
短くてすみません。