逆光源氏 〜私は悪くないもん!~   作:イベリ

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久しぶりにこっち投稿します。


王族妖精奮闘母子手帳〜0歳〜②

ザワザワと喧騒が包む街の街道が、今日は一段と騒がしい。まるで何かを避けるように真ん中が割れる。

 

そこを歩く美女は、辟易した。自分を遠目から見て、何故か拝んでいるやつや、泡を吹いて倒れる同族がいるのだから、嫌にもなるだろう。しかし、今は腕の中でもそもそと動く赤子に、意識を向ける。

 

「さて…どうだ?見たことある景色はあるか?」

 

んお〜、あ〜。と唸る赤ん坊に問いかけるが、笑い声だけが帰ってくる。

 

「ふふっ…悪かった、お前に聞いても仕方が無いか。」

 

そう微笑んで、ぷりっとしたモチモチの頬をつっついた。

 

その光景によって、周りのエルフ数百名が重症を負ったが、赤ん坊は気にもせずに笑い、本人ももうシラを切ることにした。

 

「…とりあえず、ギルドに行くか。」

 

それから、リヴェリアはオラリオ中を歩き回った。孤児院に託児所。行方不明の依頼を出されている依頼主を訪れたものの、結局は有力な情報を得ることは出来ず、困り顔でホームへと戻ってきていた。

 

「結局、お前の母親は見つからなかったな…」

 

赤ん坊を高く掲げれば、こちらの気も知らず、キャッキャと笑って楽しそうにしている。そんな姿を見れば、こうして苦労したことも、そう悪くなかったかなと考えることができた。

 

しかし、ここまで特徴的な赤ん坊なのに、捜索の願いも出されていないとなると、本格的に捨てられたと考えることが自然になる。そうなれば、この子とは別れとなるだろう。

 

それが、無性に悲しい。

 

はじめに、この赤ん坊の声を聞いたからだろうか。

 

「……お前は、どうしたい?なんて、言ってもわからないか。」

 

一つ微笑みを零し、赤ん坊のミルクを人肌に温めながら、赤ん坊を抱き上げた。

 

「リヴェリア、ちょっとええか?」

 

そうしていると、控えめなノックと聞き慣れた訛りの聞いた声が部屋に届いた。

 

「ロキか…入っていいぞ。」

 

「失礼するわー…んお、ご飯時やったか。」

 

「ああ、両親捜索のついでにベビー用品も買ってきた……一時的にでも、必要だろう。」

 

「せやな!ほれ、はよご飯くれ~って催促してるで?」

 

「おっと、ほら…しっかり飲むんだぞ…」

 

しっかりと息継ぎの時間も忘れないように、ゆっくりと粉ミルクを与える。あっという間になくなった哺乳瓶を脇において、背中をトントン叩けば、けぷっとおくびを零した。

 

「すんごいおくびテクやな。リヴェリア、ほんまは一児の母だったりせえへん?」

 

「ふふ、伊達に長く生きちゃいないさ。」

 

少しの談笑のあとに、若干の沈黙。それを破ったのは、ロキだった。

 

「リヴェリア、それでどうだったんや?その子の身元は?」

 

「全く成果なし…孤児院もいくつか当たってみたが、どこも外れだ。ここまで特徴があれば、すぐに見つかると思っていたんだが…」

 

「……時期が時期や。『向こう側』の赤ん坊ちゅうことも考えられる。」

 

「子に罪はないだろう!!」

 

「わかっとる。そりゃそうや、その子がそうだったとして、罪を問うのはお門違いや。そんなの誰もがわかっとる。だから落ち着き、リヴェリア。」

 

「……っ!」

 

ぐっと拳を握って、数秒息を止めて自身の感情の猛りを抑える。いささか冷静さにかけている。ソレは、昨日のフィンの言動が理由なのだろうか。

 

それだけではないが、あの言葉は深く刺さっているのだ。

 

「…すまない。」

 

「責任感じるんはええけど、種族そのものの業まで背負うのは、ちぃと傲慢にすぎるわ。」

 

「あぁ…そうだな…そのとおりだ…」

 

ゆっくりと赤ん坊を寝かせ、リヴェリアは頭を抱えた。

 

「私は…間違っているのか…?」

 

「……」

 

「きりがないのはわかっている…けど…この子は私が直接助けたんだ!だから…その責任を…果たしたいだけなんだ…」

 

正直、ロキとしても難しい話であることはわかっているし、この話に正解などない。どれもが正解であり、どれもが正しく道であるのだ。フィンの意見は組織を預かるものとしては妥当な判断である。反対に、リヴェリアの願いも真っ当な人の、女の願いであるのだ。フィンとて鬼ではない。だから、できることならリヴェリアの意見を尊重したい気持ちはあるのだ。

 

けれど、命というものは、何よりも重いものだ。だからこそ、躊躇してしまう。誰もが、この小さなぬくもりを失くしてしまわないか、その恐怖に怯えてしまうのだ。

 

「なぁ、リヴェリア。もう、ロキ・ファミリアは小さくない。ゼウスんとことか、ヘラんとこがいなくなって、最大派閥といえば、ウチを含めあと2つか3つや。その副団長が、子守に掛かりきりになるんは、組織としては、良くはないはなぁ…」

 

「……っそうか…」

 

落胆の色を見せるリヴェリアに、しかしロキはいたずらっぽく笑ってみせた。

 

「けどなぁ、それがどうしたんや(・・・・・・・・・)。ワガママ結構や、それが人っちゅうもんやろ!なぁ、リヴェリア……結局は、リヴェリアの心や。」

 

「ロキ……」

 

ロキは、諸々の問題と思考を丸投げして、行く末を見守ることにした。

 

だって、こんなに面白そうなことはないのだから。

 

ロキは、外界の娯楽に目がないから、この子供とリヴェリアの行く末を見守るのも悪くないと、広角を上げた。

 

「なんて、最後はリヴェリア次第っちゅうことや。ウチは、リヴェリアが決めたことに、反対しない。んじゃ、おねんねの邪魔しちゃあかんからな。ここらで失礼するわ。」

 

珍しく茶化すこともしなかったロキは、そのままさっさと去っていった。

 

「私、次第…か…」

 

スヤスヤとベットで眠る真っ白赤ん坊を抱き上げて、眠りの妨げにならないように、優しく、優しく抱きしめた。




ふふっ、いいよね。リヴェリアお母さん。

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