次に名付けが、1話入ってから5歳児ベル君が出てきます。
「……あぁ、こんなにも…小さな命が生きているんだな…」
腕の中ですやすや眠る赤子のぷにぷにの手足をニギニギして、ふふふと笑う。
今のご時世、外は危険が多い為にそんなに大っぴらに外に出ることはない。情報収集で必要な時以外は、ホームで過ごすことが多い。
大きな庭は、随分と場所が余っている。ここならば遊具の置き場もあるだろう。
「…お前が、もう少し大きくなって…遊べるようになったら…ここで…戦いなんて無縁の世の中で…一緒に遊ぼう…」
ずっと抱えていたリヴェリアの悩みは、もう無い。彼女の中で覚悟が決まった。
「行くんやな、リヴェリア。」
「あぁ……行くさ。」
「なら、ちゃんと成果持ってき!」
「無論だ。」
腕の中にいる赤ん坊を抱き締めて、小指を差し出す。それが、この赤ん坊に対する誓いだ。
「待っていろ…必ず、必ず…戻ってくるよ。」
リヴェリアは、ロキに赤ん坊を預け、万全の装備でダンジョンに挑む。
「私の覚悟を…!」
リヴェリアは、たった1人ダンジョンに挑む。
「邪魔だッッ!!」
らしからぬ叫びと共に轟音を響かせて、リヴェリアはダンジョンを駆ける。
現在、27階層。肩で息をしながら、リヴェリアは乱暴にマジックポーションを飲み干し、そのまま瓶を投げ捨てた。
(数時間でここまで強行軍だが、調子は今までで1番いい…このまま目指すはあの場所…!)
周囲はリヴェリアの魔法により、未だに業火に包まれている。チリチリと燃え盛る炎が肌を焼く中、リヴェリアの背後には既に丸焦げになった双頭竜、アンフィスバエナがその骸を晒していた。
もう、リヴェリアはあの赤ん坊を引き取り、育てる気でいる。それは、もう決定事項だ。
これは、リヴェリアなりの証明のため。フィンやガレスは子守りにかかりきりになり、ファミリアの運営を疎かにすることを気にしていた。
命を預かる重さなど、そんなものは承知の上だ。だから、その憂いを吹き飛ばすほどの成果を持って帰り、文句など言わせずあの子を引き取る。
「よし、行くか…!」
そのままリヴェリアは全力疾走で駆け抜け、襲い来るモンスターを魔法使いながら、高レベルまで上り詰めた圧倒的なステータスでぶん殴り、次々に沈めていく。
無駄なく、効率よく。ルートは完璧に頭に入っている。安全なんてなんのその、危険地帯だろうがなんだろうが、暴力で解決。
目的地に向かって一直線。
そして、37階層。ついにその目的に相見えた。
「…今のレベルは5…ならば、やるべきはジャイアントキリング…」
響く地鳴りに、徐々に割れる地面。そこから出現するモンスターは、ウダイオス。この【
「糧になってもらうぞ……!!」
スキル2つをフル稼働。
そして、ウダイオスが完全に地表に露出した瞬間。リヴェリアは魔法を解き放つ。
「一瞬でカタをつけてやる…!【我が名はアールヴ】!!」
リヴェリアの号令で、業火の剣が猛った。
「【レア・ラーヴァテイン】!!!」
ウダイオスのその巨躯を、業火の大剣が飲み込み、轟音に苦痛の叫びすらもかき消した。
しかし、その業火を受け半身を失いながら、ウダイオスは漆黒の大剣で業火を斬り裂いた。
「なんだアレは!?」
予想外のイレギュラー。周囲一帯全てを吹き飛ばすその剣撃は、孤王の名に相応しい一撃であった。
事前に張ってあった障壁諸共リヴェリアを吹き飛ばし、壁に叩きつける。
障壁があったとはいえ、リヴェリアに少なくないダメージをもたらした。
「ぐっ…!?なんだ、今のは…!?今まで見たことがない…」
圧倒的なまでの絶望。既に破られた障壁を張る時間はない。次にあの斬撃を喰らえば、胴体から切り離されるだろう。
本来ならば、命あっての物種。冒険者としては撤退が正しいのだろう。
だが、リヴェリアは撤退を選ばなかった。
「私にはなぁ…帰りを待つあの子がいる。あの子の為に…私は!今!命を懸けてるんだ!」
立ち上がり、再度魔力を迸らせる。
「来い…叩き潰してやるッ!!」
母とは、どの時代も、どんな英雄よりも強いのだ。
「……リミットだ、迎えに行こう。」
その翌日の朝、フィンとガレスは完全武装でダンジョンに向かおうとしていた。それもこれも、リヴェリアが単身でウダイオスを討伐しに行ったとロキから報告があったから。ロキから待って欲しいと願われたが、もうそんなことも言ってられない。
フィンは、リヴェリアの行動の理由を想い、しくじったかなぁと頭を掻いた。
「本当に願い出てきたら、ファミリア全体で育てようと思ってたんだけどなぁ…」
「その後悔はあの頑固エルフを回収してからじゃ。それでも遅くなかろう。それに、もう儂は割とあの小僧を育てる事に賛成しとるからのう。」
「…そうだね。取り敢えず早く向かうべきだ。」
そうして外に出ると、門の方がやけに騒がしい。何事かと目を凝らせば、フィンはぷっ、と吹き出し、ガレスは大いに笑った。
「────まさか…!…そうか…成程。君の覚悟はそれ程か。見誤ったよ。」
「ガハハハハハハッ!!愉快!そうか、これは認めざるを得んなぁフィン!」
門の奥には、ボロボロのリヴェリアが勇ましく立っていた。その表情は清々しそうであった。
「ロキ!今すぐに恩恵を更新しろ!」
「ホイ来た!」
どこからともなく飛び出したロキが、外の守衛室に入ってステイタスを更新する。
「リヴェリアLv6キタァァァァァァ!!!!!」
その守衛室から聞こえた声に、大いに湧いたファミリアのメンツは直様宴の準備に取り掛かる。しかし、そんな団員を躱しながら、リヴェリアはフィンとガレスの元に向かった。
「……おめでとう、リヴェリア。」
「私は…あの子を育てる。」
「そうか。」
「…目一杯、愛してやるんだ…」
「それがいいのう。」
「なぁ…私は、良い母に、なれるだろうか…?」
不安が滲むその言葉に、フィンとガレスはニッと笑って言い切った。
「なれるさ、リヴェリアなら。君は誇り高いエルフの英雄。そんな君が、良い母親になれないと思うかい?」
「お前の長所は、そのできないこともできると言ってのける傲慢さじゃろう!母親位できると言ってみせんか!!」
2人の激励に、リヴェリアはへにゃりと顔を緩めて笑った。
「…そう、か…そうだ、な……なって、見せよう…」
そうして、暖かな笑みで倒れるリヴェリアを支えた2人は、待っていたと言わんばかりに声を上げる赤ん坊の傍に、母親をそっと寝かせた。
全員が出ていった後。
よじよじと体を捻って、覚束無い足取りで母の元まで辿り着いた赤ん坊は、思い切り甘えるように指を握り、また眠りについた。
その2人の寝顔は、血が繋がっていないはずなのに、よく似ていたという。
これが、母と子の前日譚。これが、初まりの1ページ。
雑だな。なんか…そんなつもり無かったのに雑だな!許して…