逆光源氏 〜私は悪くないもん!~   作:イベリ

4 / 7
何となく思いついた物です。



逆光源氏物語
プロローグ ~どうしてこうなった〜


朝、目が覚める。

 

隣には、四苦八苦しながらも、純粋で、いい子に育ってくれた我が子。嗚呼、こんなにも子を育てることに愛しさを感じるとは…枯れ果てた母性に火が灯ったのか。

 

私はそんなことを考えながら、隣にいる息子を起こす。

 

「ほら、朝だぞ?起きるんだ────ベル。」

 

処女雪のように白い肌と髪に、真ん丸で真っ赤な瞳は、思わず野ウサギを想起させる。

 

この子が私の息子である、ベル・アールヴ。10歳。

 

苗字を完全に同じにするには、面倒なしきたりや色々ベルが苦労することになるので、最後のファミリーネームだけを取ってつけた。因みに、名前の由来は拾った時に腕に巻かれていた小さな鐘のアクセサリーが由来だ。

 

ぷにぷにの頬をつつくと、「うむゅ」とちょっと唸る。それが可愛い。親バカ全開な気もするが、誰もいないこの家族の空間には、関係ないのだ。

 

「…おかー、さん…」

 

「どうした?」

 

「…んへへ…」

 

うん、可愛い。頭をナデナデ、頬をぷにぷに。朝の癒しの時間だ。

 

思えば…この子がここまで成長するのに、大した苦労はなかった気がする。腹を痛めて産んだ訳では無いが、大切に、本当の我が子のように育ててきた。それのおかげか、夜泣きはあったが、抱き寄せればすぐに泣き止み、大きくなってからもワガママは少なかった。唯一あったのは、初めての遠征での留守番だったか。行く寸前までずっと膝にしがみついていたのを覚えている。

 

(時が経つのは…子供の成長は、本当に早い…)

 

今では、遠征に行ったら自分を守ってくれる程に成長し、気付けばLvも抜かされている。

 

 

 

────────ん?なにか、おかしい。こんなに小さな時のベルが私を守れるはずがない。あれ?あれあれ?

 

 

 

 

 

「────母さん、起きて。」

 

「むにゃ……ハッ…!ベルは?小さいベルは?」

 

「夢、見てたの?早く顔洗っておきなね?」

 

そう言って、夢の何倍も大きなベルが、そこで笑顔を見せていた。

 

ま、眩しい!朝からなんでこんな眩しいんだ!

 

眩しいほどの笑顔を見せてくれて、ベルが私のベットに座り、微笑んでいる。

 

くそっ、この…無駄に顔ばっかり良くなって…!

 

「母さん。」

 

「な、なんだ?ベル。」

 

ベルが、ずいっと私に顔を寄せてくる。

あ、ち、近い近い…

 

「昔の僕だけじゃなくて…今の僕は、見てくれないの?」

 

「う"う"っ」

 

じ、じゃない!その質問は駄目だ!やめてくれ!勘違いしそうになる!なんだこの胸の動悸は!?

 

い、いや落ち着け…私…そうだ、ベルは今の自分を見てくれているか、不安なだけだ…なんだ、そんなことか…

 

わかっているくせに、ベルはこうして不安そうな顔をするんだ。まったく…母親である私が、お前を見ていないなんて、あるはずもないのに…

 

母親らしく、私はベルの頭に手を置いてから、額を合わせるようにして、優しく語り掛ける。

 

「まさか…ありえない。私はお前を誇りに思っているよ…気づけば、Lvだって私を抜かして、都市最速とまで呼ばれて…まったく、無茶ばっかりで、母は心配だ。」

 

「あはは…ごめんね、母さん…でも、僕はさ…どうしてもなりたくって…」

 

「ん?何にだ?」

 

そう言えば、ベルの目標は知らない。頑なに私には教えてくれなかったから。しかし、ベルの言うことだから、私の恥にならないようにとかそう言う────

 

 

 

 

「り、リヴェ、リアに、相応しい男になりたくって…」

 

 

 

 

「────────へっ…?」

 

「……」

 

や、やめてくれ。どうして黙るんだ…後なんで私の名前を呼んだんだ!?…こ、心做しかベルの顔が徐々に赤くなっていく。あっ、これは昔から変わらないんだな。

 

あっ、今の私、すごく母親っぽい!

 

「い、いや、その…これは、違くて…!」

 

ベルの顔が、林檎のように真っ赤になった。

私は、至って冷静に、母親らしく微笑んだ。

 

「ふふふっ、今でも十分私にとって誇りだよ。」

 

「そ、そう!か、母さんに相応しい子供になりたくてさ!あはは…」

 

あぁ、どうしてちょっと残念そうな顔をするんだ…

 

「親孝行な息子だな…本当に…ありがとう、ベル。」

 

そう言って微笑むと、ベルはまた顔を赤くした。

 

「ぼ、僕!先に食堂に行ってるね!待ってるよ母さん!」

 

「あぁ、すぐに行くよ。」

 

真っ赤になったベルが、そそくさと部屋を出ていく。その後ろ姿を、私は母親らしく余裕を持って見つめ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────られるわけないだろうがぁぁぁぁ!!!

 

「なんだアレ!なんだアレ!なんだアレ!?ふさわしい男ってなんだ!あのちょっと残念そうな顔なんだ!?」

 

もう、女は耐えられなかった。丹精で美しい顔を真っ赤に染めあげ、尖った耳まで真っ赤にさせる。

布団にくるまって、脚をバタバタ。まるで恋する乙女のように、女はベルの顔を思い出す。鼓動の音が、うるさい程に耳に響いた。

 

「わ、私は…母親なのに…母親なのにぃ…!」

 

それも、少しベルのことを考えただけで、鼓動が跳ね上がる。

 

「あぁぁぁ…!これでは…まるでベルに恋しているみたいではないか…!?」

 

しているのです。

 

(リヴェ、リアに、相応しい男になりたくって…)

 

「ムリぃぃぃぃぃぃぃ!!もうムリぃぃぃぃぃぃぃ抑えられる自信ないぃぃぃぃぃ!!!」

 

恋愛耐性・経験ZEROの女の、慟哭が朝から響く。

 

やんごとなき家系に生まれ、今までは同族からは尊敬の眼差しで見られるばかり。確かに、数多の男から好意を持たれたこともあったし、今もある。しかし、どれもこれも、ベルと比べると酷くどうでもいい存在で。ベルの好意に気づいた日から、自分の気持ちに気づいた日から。こんな考えも持つようになってしまった。

 

 

私とベル…別に血は繋がってないから、別に問題ないのでは?

 

 

それを意識しだした瞬間から、女は鉄の処女から恋する乙女に早変わり。

 

御歳1○○歳、処女。リヴェリア・リヨス・アールヴは、初めて恋を知った。しかも、育て上げた義理の息子に。

 

「ロキぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

「うおぉ…なんや、リヴェリア?まぁたベルの事かいな…取り乱しすぎやろ自分…」

 

いつもの凛々しいママはどこに…と首を振って呆れるのが、赤髪をもつリヴェリアの主神である、ロキ。

 

「もう無理ぃ!ベルが尊すぎる!耐えられる自信が無いぃ…!!」

 

「耐えなくてええやん…ベルだってリヴェリアのこと好きなんやし…あぁもう…エルフってホンマに恋すると面倒やな!!」

 

「うぅ…どうしてこうなった…!私はただ可愛がっていただけなのに…!」

 

「そやなー」

 

ロキは、リヴェリアの言葉を聞き流した。

 

だって、未だにベルと同じベットで寝ていたり、手を繋いで出掛けたり、過度なスキンシップをしているくせに、こんな事に一喜一憂するだなんて、もう面倒なのだ。聞けば、いつもリヴェリアからやっていることだと聞いて、ロキはこの話を聞く度にイラッとしていた。

 

ついにロキは、トドメを刺す。

 

「なぁ、知っとるか?リヴェリア。極東にある物語でな、こういうのがあんねん。」

 

「自分を慕う年下の女の子を攫って、自分好みの大人にして自分の恋人にしてまう物語…【光源氏】って言うねんけどな。」

 

「待て、嫌な予感しかしない…やめてくれ…」

 

「それでな、最近神連中で流行ってる言葉があってな…これとは逆の、年下の男の子を、年上の女が理想の男に育てあげるっちゅう意味やねんけどな。【逆光源氏】。リヴェリア、半分事案やで?」

 

 

「うるさいっ!私のせいじゃないもんっ!!」

 

 

叫ぶリヴェリアに、追い打ちをかけるように

 

「んじゃ、理想のタイプは?」

 

「…優しくて、強くて、ごつい男よりは…可愛い方がいいな。愛でたい。」

 

「うん、ベルやな。」

 

「はっ、嵌められた!?」

 

「嵌めとらんわ!いい加減に認めぇ!」

 

ぬぉぉぉと唸るリヴェリアを他所に、ロキは呆れ果てていた。これが、両片思いと言うやつなのかと。

最初こそはニマニマニヤニヤと嬉しそうに見てはいたが、こうも長い事見せられては、焦れったい。

 

(あー…面倒やわぁ…)

 

「ロキっ!この事は、くれぐれも外に漏らすなよ!?」

 

「あぁ…はいはい。わかっとるよ。」

 

「絶対だからな!」

 

そう言って去っていくリヴェリアの後ろ姿を見て、哀れそうな視線で見送った。

 

「リヴェリア…どうして【逆光源氏】なんちゅう言葉が流行っとるのか…普段のままやったら…気づいてたんやろなぁ…恋は盲目…あながち間違いってわけでもあらへんな…」

 

ロキは、遠い目でリヴェリアを見送ったのだ。

 

 

 

この物語は、意図せずして逆光源氏計画を成功させてしまった女、リヴェリア・リヨス・アールヴの、苦悶の日々を書き記した物語である。

 

 




続くかは分からないです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。