魔王の妖精聖母は迷宮の奥底へ   作:迷走中

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ミノタウロス

ロキ・ファミリアが59階層を目指す日、ダンまちの物語の主人公、ベル・クラネルが最初の冒険をする運命の日でもある。

 

 

 

俺は朝日が昇る前に、リューさんと共に迷宮に潜った。

 

そして、オッタルと出会う前に、薄暗いダンジョンを走りながら、俺はリューさんには言わなかった、今回の目的を告げた。

 

ベルきゅんがミノタウロスと一騎討ちをすると。

 

 

 

「ミノタウロス? 一対一で撃破?」

 

「はい、ミノタウロスとベルさんは戦い、ベルさんが勝利する運命のはずでした。けれど、今その運命は狂い始めています。ベルさんがミノタウロスと戦う前に、ミノタウロスに魔剣でダメージを与えた男は死亡。その男が手に入れる筈だった魔剣はわたしの元へきました。……運命が、ベルさんが負ける可能性があります」

 

「…………貴女は、何を言ってるんだ?」

 

 

 

リューさんが立ち止まり、俺も立ち止まりリューさんを見る。リューさんの表情は困惑と憤りが浮かび上がっていた。

 

 

 

「LV.1のクラネルさんが、一対一でミノタウロスを倒せる訳がない!」

 

「リューさん、わたしは言いましたよね。わたしを信じなくても良いです。でも、ベルさんを信じて下さい」

 

「信じる以前の問題だ! ミノタウロスがどれだけ強いのか、貴女は知らない」

 

「はい、知りません。けれど、わたしが原因で運命を変えてしまった。わたしはその責任を取らなければなりません」

 

「……それは、どういう」

 

「リューさん、ここまで護衛ありがとうございます」

 

 

 

俺はそう言って、走り出す。

 

仕方がない、ここからは一人で行こう。

 

馬鹿なことをしている自覚はある。

 

ミノタウロスには、魔剣のダメージが無いような感じだった。

 

命をかける必要はない。そう自分でも思ってしまう。

 

けれども、だ!

 

やらなくちゃならない。運命をねじ曲がる可能性を作った俺自身が。

 

 

 

「仕方のない人だ」

 

「リューさん?」

 

 

 

リューさんが、いつの間にか俺の隣を並走する。

 

 

 

「手伝ってくれるのですか……?」

 

「ええ、報酬は貰っています。それで、これから、どうするのですか?」

 

「まず、ミノタウロスを運んでいる、オッタルさんを探します」

 

「え?」

 

 

 

俺の言葉に走りながら、珍しくポカンとした表情を浮かべるリューさん。

 

そのリューさんに、俺は言葉を続ける。

 

 

 

「オッタルさんは、ミノタウロスを入れたカーゴを運んでいます。本来の運命では、ベルさんは9階層でミノタウロスを倒します。ですがベルさんとミノタウロスが戦う前に、カーゴはイシュタル・ファミリアとの戦闘中、ならず者達に奪われます。本来、わたしの持っている魔剣はその男が所持し、ミノタウロスに使うはずでした。

 

魔剣は壊れるまでミノタウロスを攻撃して砕けます。その時にミノタウロスへダメージがあったか分かりませんが……。ですが、あった場合、僅かでもそれがベルさんの勝利に繋がります。だからオッタルさんにミノタウロスは9階層でカーゴを解放、更にこの持ってきた魔剣でダメージを与える許可をいただきます」

 

「許可、ですか?」

 

「はい、無理かもしれませんが、騙し討ちはヘスティア様に不利益が生じます」

 

 

 

お願いを無視されても、敵意がないことを伝えられる。

 

駄目なら、ベルきゅんが戦う直前に乱入して魔剣を使い、ベルきゅんが立て直す時間を稼ぐ。

 

 

 

あとでリリスケに魔剣を持っている説明を求められるだろうけど。

 

 

 

「それと、ミノタウロスにはリューさんは、絶対手を出しては駄目ですよ。オッタルさんが、フレイヤ・ファミリアが敵になります」

 

「……分かりました」

 

 

 

驚きっぱなしのリューさんに俺は謝る。

 

 

 

「巻き込んでごめんなさい」

 

「いえ、自分で決めて、私はここにいる」

 

 

 

大丈夫です、と。言うリューさんに、俺は頭を下げる。

 

 

 

「リューさんにお願いしたいのは、わたしが魔剣を使ったあと。もしも、ミノタウロスの攻撃を受けて、動けなくなったとき、わたしを抱えて逃げてほしいのです」

 

「分かりました。ですが……」

 

「はい」

 

「本当にクラネルさんは」

 

「わたしの未来の情報は、ロキ・ファミリアも購入しています」

 

 

 

だから、ミノタウロスには手を出さないで、と再度お願いした。

 

それから、俺とリューさんはそれから階層を降りていった。

 

九階層から更に下へ降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

「オッタルさん、ですね?」

 

 

 

まさしく、武人といったオーラを出す、猪人。

 

オラリオ最強の冒険者。

 

 

 

「………」

 

 

 

正規ルートの14階層から、13階層に上がる階段から、大型のカーゴを背負いながら姿を現す。

 

 

 

こちらを一瞥して、こちらに戦闘の意思がないことが分かったのか、無視して歩き出す。

 

 

 

「カーゴの中身は、9階層で開けてください。ベル・クラネルはそこで戦います」

 

「……」

 

 

 

その瞬間、物凄い圧力が俺とリューさんを襲う。

 

何故、目的を知っている? と圧力で問いかけてくる。

 

 

 

ゲームのわたしの記憶がなければ、無様に腰を抜かすだろう。でも、魔王を筆頭に化物と戦ってきたこの身体を舐めるな。

 

 

 

ま、この男にとっては軽く意識を向けただけだろうけど。

 

 

 

「そして、お願いがあります」

 

「…………」

 

 

 

俺は腰から、魔剣を取り出す。

 

 

 

「本来、そのカーゴはイシュタル・ファミリアのアマゾネス達の襲撃の時に、ならず者に奪われる筈でした」

 

 

 

ここで、オッタルの表情が少しだけ動いた。

 

襲撃されたことを知っていることに疑問を持ったのだろう。

 

 

 

「そして、9階層でならず者がカーゴを開け、ミノタウロスから逃げる為に、この魔剣でミノタウロスを魔法剣が壊れるまで攻撃します」

 

 

 

この様子から、イシュタル・ファミリアのアマゾネス達の襲撃から間はおかれてないみたいだ。

 

 

 

「ですので、9階層でカーゴを開けたあと、わたしにこの魔剣でミノタウロスを攻撃させてほしいのです。ベル・クラネルがミノタウロスと戦う前に」

 

 

 

俺の言葉を聞いたオッタルは、魔剣を眺め。

 

俺に興味を無くしたかのように俺から視線を外す。

 

 

 

「余計な手出しをするな」

 

 

 

それだけを言って、カーゴを背負い歩いていく。

 

その背中からは、これ以上何も喋るな、と伝えてくる。

 

見逃してやる。とも、最後の慈悲も感じた。

 

 

 

「アルディスさん」

 

「……」

 

 

 

俺は考える。

 

オッタルは恐らく、ベルくんの近くでカーゴを開けて姿を消す。

 

女神フレイヤのことを考えてまだ、ベルきゅんの前には大っぴらには現れない筈だ。

 

 

 

けれど、その場合は俺は戦いに介入出来ない。

 

それならば、

 

 

 

「ベル・クラネルが敗死しても、本来ならば問題はないのでしょう」

 

 

 

オッタルが歩みを止めた。臨戦態勢に入ったわ。

 

あー、死んだかな俺。

 

 

 

「ベル・クラネルは勝利する! 本来の運命は冒険を乗り越える。だが、運命は少しだけ変わった! このままでは、」

 

 

 

オッタルがこちらをゆっくりと振り返る。

 

俯いている彼の表情は分からない。

 

ただ、邪魔者を排除すると決めたようだ。

 

 

 

ビリビリと俺の肌にオッタルの気とも言える見えない何かが突き刺さる。

 

けれど、引いたらベルきゅんが負けるかもしれない。

 

死んだ場合、ベルきゅんの魂がずっとフレイヤに束縛されるかもしれない。

 

人形を飾るようにな!!

 

だから、それを回避する為に、お前しか知らない筈の言葉を送ろう。

 

 

 

「風の還る空っ! 風の焦がれる空になる可能性がある男を今! 死なせるのは、女神フレイヤの大きな不利益になる!! 」

 

 

 

俺の言葉にピタリと、オッタルは動きを止めた。

 

圧力が下がり、オッタルが俺の瞳をじっと見つめてくる。

 

オッタルは俺を確かに認識した。

しないでください! 本当にさ!!

 

 

 

「運命を元に戻すだけです。どうか、許可をいただきたい」

 

 

 

逃げる訳には行かない。俺はオッタルを強く見つめ返した。

 

 

 

オッタルはゆっくりと俺を見据えながら近づいてくる。

 

リューさんが俺を守る為に、動く気配がしたので、俺は左手で制す。

 

 

 

オッタルが俺の直ぐ目の前まで来て、俺を見下ろす。

 

俺はオッタルから目を背けない。

 

 

 

長い沈黙のあと、オッタルは俺に問いかけてきた。

 

 

 

「……9階層だな?」

 

「はい、そこが、ベル・クラネルの初めての冒険をする場所です!」

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「貴女は、本当に無茶をする」

 

「え、……あっ、いっ! リュ、リューさん?」

 

「覚えてませんか?」

 

 

気がついたら、リューさんの綺麗な顔が目の前にあった。

ここは? 俺は確かオッタルと顔をあわせて、ミノタウロスと。

そうだ。思い出した。

 

9階層の手頃な広間で、オッタルはカーゴを解放した。

 

そして、距離を取り、俺はミノタウロスの前に立ち、そこから、ゲームのわたしの記憶と身体の力を使い。

 

全力で回避しながら、魔剣を使い続けた。

 

 

 

そして、魔剣が壊れ、予定通り逃げながら、ベルきゅんの元にミノタウロスを引っ張って行こうとした時、足を床の窪みに引っ掻けて、バランスを崩して死にかけた。

 

ミノタウロスがそのミスを突く一撃を回避したのだが……。

 

 

 

あの牛! 両手で握った剣の柄から左手を離して、裏拳を俺に叩きつけてきた。

 

ギリギリで回避したと思ったが。

 

側頭部にかすったようで、頭がガンガンする。

 

 

 

「いつっ、あぁ、最後の裏拳避けそこなったんでした。って、ベルさんは?」

 

「あそこです」

 

 

 

俺が目を向けると、通路の先の広間で、戦うベルきゅんが居た。

 

リューさんの話だと、怪我をした俺を回収して離脱。

 

怪我の治療をしている間に、ミノタウロスが歩き回り、慌てて俺を抱えて探している間に、ミノタウロスとベルきゅんと遭遇した。

 

 

 

「ロ、ロキ・ファミリアは?」

 

「クラネルさんは、【剣姫】の介入を拒みました」

 

 

 

その言葉にホッとする。良かった。原作通りだ。

 

 

 

「見つからないように、けれどもっと近くへ」

 

「分かりました。ですが」

 

「わっ」

 

「私が運びます」

 

「……お願いします」

 

 

 

正直、かなりふらついているので、ありがたいが。

 

お姫様抱っこ。微妙な気分だ。嬉しいような、悲しいような。

 

 

 

そして、通路の陰から、俺はベルきゅんを、いやベル・クラネルを見守り続ける。

 

 

 

激しい攻防、雄と雄の命のぶつかり合い。

 

その光景は前世で男だった俺の心を鷲掴みにする。

 

ベルが叫び、ミノタウロスも負けじと叫ぶ。

 

 

ずっと見ていたい光景、でも、戦いは終わりに向かう。

 

 

何度も読み返した原作。何度も見返したアニメの名シーン。

 

構えるベルとミノタウロス。

 

 

ミノタウロスの最後の突撃と、ベル・クラネルの突撃からの急激な超ブレーキ。

 

突撃からの第二撃を繋げて、ヘスティア・ナイフがミノタウロスの巨躯の右脇下に叩き込まれて、天然の鎧を貫通する。

 

 

 

「ファイアボルト!」

 

 

 

何度もアニメで見返した内側からのファイアボルト。

 

 

 

「ファイアボルトォッ!」

 

 

 

本物のベル・クラネルの戦う横顔。

 

胸の奥と下腹部、ヘソの下の奥が熱くなる。

 

 

 

「ファイアボルトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

 

ミノタウロスが爆散した。

 

 

 

自然と涙が出てくる。

 

初めての原作を読んだときの感動が蘇る。

 

 

 

あぁ、良かった。本当に良かった。

 

原作通りに進んだ。

 

けれど、それ以上にベル・クラネルの冒険を見ることが出来た。

 

うっすらと思い出してしまった前世の俺の記憶。

 

何も出来なかった。踏み出せなかった。

 

悔しかった筈なのに、諦めることに慣れて、俺は負け犬になった。

 

 

 

「あぁ、素敵です、ベルさん……」

 

 

 

精神枯渇で立ったまま気絶しているベル・クラネル。

 

俺はしばらくの間、ベル・クラネルの漢の背中を眺め、

 

 

 

「そこに居るのは誰だい?」

 

 

 

フィンの声で、俺は我に返る。

 

 

 

「顔を出さないように、――わたしです!」

 

 

 

俺は気持ちを切り替えて、声を上げた。

 

ロキ・ファミリアのフィンに答え、リューさんの腕から降りようとすると、

 

 

 

「いえ、駄目です。運びます」

 

「え、でも」

 

「声は出しません。全てお願いします」

 

「分かりました」

 

 

 

通路から、俺がフードを被った人物に運ばれて出てくると、リヴェリアさんやアイズさんは驚きと強めの警戒心を持っていたようだ。

 

 

 

「アルディス!」

 

「アルディス様!?」

 

 

 

リヴェリアさんだけではなく、リリスケの驚いている声も聞こえる。

 

えっと、ともかく。

 

 

 

「怪しい者ではありませんよ。この方は」

 

「……アルディスがそう言うならば、信じるが。ここで、何をしていた? それにその傷は」

 

「個人的な夢を見まして、その為に行動をしただけです。お気になさらずに」

 

 

 

俺がそう言うと、アイズさんやティオナは何か聞きたそうにしていたが。

 

 

 

「リヴェリアさん、お願いがあります」

 

「何だ?」

 

「ベルさんの、今のアビリティを教えてください」

 

 

 

その言葉に、ロキ・ファミリアとリリスケは驚きの声をあげる。

 

 

 

「アルディス様!!」

 

「待て、アルディス! それは」

 

「その代わり!」

 

 

 

リヴェリアさんの言葉を俺は遮る。

 

 

 

「ベルさんとリリを、地上まで送ってください」

 

「っ!?」

 

「…………いいんだな?」

 

「はい、アビリティだけ、お願いします」

 

 

 

リリスケが俺を見た。リリスケは、レベル1でありながら、ミノタウロスを撃破する偉業を成し遂げたベル・クラネルの情報を出すことで、ベルと自分の安全な帰還を購入した。と、思っているのかもしれない。

 

 

 

まあ、原作だとアイズさんとリヴェリアさんの善意で地上まで送られるけど、それだとロキ・ファミリア幹部への貸しになる。

 

それを念のために回避するためだ。

 

どのみち、ステイタスは見られていたのだ。問題はない。

 

 

 

 

 

そして、ベル・クラネルの背中を見た、リヴェリアさんは。

 

 

 

「……くっ、ふふ、はははっ」

 

「な、なんだよ、ババア!? 早く言え!!」

 

 

 

笑うリヴェリアさんに、苛立つベート。

 

 

 

「……S」

 

「……はっ?」

 

「全アビリティ、オールS」

 

『オールS!?』

 

 

 

ほぼ、全員が驚くなか、フィンが俺に問いかけた。

 

 

 

「彼の名前は?」

 

「「ベル」」

 

 

 

俺とほぼ同時にアイズさんが、声を出した。

 

なので、俺は譲った。

 

 

 

真っ直ぐベル・クラネルに意識を馳せるアイズさんに。

 

 

 

「ベル・クラネル」

 

 

 

これが、ベル・クラネルの英雄譚の始まり。

 

そして、本来の英雄譚とは違う英雄譚が始まってしまっていた。

 

 




ミノタウロス戦の前に、ヘスティア様とアルディスの交流と悩みをヘスティア様に聞いてもらう話を上げるか迷いましたが、先にミノタウロス戦を行い、その後にミノタウロス戦までの間の話を上げることにしました。

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