魔王の妖精聖母は迷宮の奥底へ   作:迷走中

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誤字の指摘ありがとうございます。


俺、わたし

俺は気がついたら、夜の深い森の中にある、泉のほとりに立っていた。

 

何故、こんな所にいるのか分からない、俺は周囲を見渡して、この泉を見たことがあることに気づいた。

 

そうだ。ここは確か【妖精王女 ~白濁の泉に沈む】の主人公アルディスの一族のハイエルフしか入れない聖域にある泉だ。

 

魔王に敗北したり、悪堕ちすると白濁の泉となり、魔の者達に穢される場所。

 

――アルディス。

 

少女の声が聞こえたような気がした。

聞いたことのない声だ。けれど、俺は何故か声の主が分かった。

 

振り返ると、そこに立っていたのは焦げ茶色の髪に、ソバカスのあるちょっと地味な顔の少女。

 

彼女の名前は、ノーラ。

 

種族による差別をせず、

ゲームの序盤で、疲れきっていたエルフのアルディスに、暖かなスープを分け与えたパン屋の娘。

住んでいる街が魔王達に襲われ、亡き両親から幼い弟を託され、娼婦になった少女。

ゲームではボイスは無かったけど、こんな声をしてるんだな。

 

…………いや待てよ。

設定では、この聖域にはエルフ以外が入る為には、エルフが作った聖域の結界を破壊しないと入れない。

 

それ以前にノーラが聖域に来るイベントは無い。

それにノーラは犯され、殺された。

 

そう認識した直後に頭を殴られるような衝撃と痛みが走った。

何故、ゲームでのイベント画面で記憶が思い出せない? まるで実際に起こった出来事みたいに、リアルに思い出す?

なんだこれ? 気持ち悪い……。

 

――アルディス。

 

また、名前を呼ばれた気がした。

俺がノーラを見ると、彼女は何事が呟き、泣き笑いを浮かべていた。

その表情は、安堵しているようにも見えた。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「……ノーラか」

 

目を覚ましたベッドの上で、俺は隣で眠っているヘスティア様を起こさないように、ベッドから降りて、呟いた。

 

ゲームの後半で発生する街防衛戦で主人公であるアルディスが敗北すると、アルディスと一緒に襲われ、その後の戦いの勝敗によって、死亡する。

悪堕ち√だと、堕ちたアルディスのお願いに、一緒に堕ちて侍女として一生側にいる優しい少女だ。

 

確か、俺が最後にプレイした魔王の聖母√では、ノーラは死なせている筈だ。

確か、広場でアルディスの目の前で、

 

「っ、頭が痛む」

 

ゲームの記憶を思い出そうとすると、ゲームをしていた時のモニターの画面越しの映像ではなくて、まるで自分が体験したかのように、その時のことを思い出してしまう。

 

この身体の記憶は、思い出すと発情するから厄介なのに。

 

何故、そっちで思い出す? 戦いの記憶などはモニター越しのゲームをしていた俺の記憶よりも、アルディスの身体の記憶の方が有益だ。

 

けれどここ最近、ゲームの記憶とアルディスの身体の記憶を間違えて思い出してしまう。

これから、間違えないようにしないと。

 

「……朝食作らないと」

 

気持ちを切り替えよう、ヘスティア様やベルきゅんの為に、今日も頑張ろう。

 

▼△▼△▼△

 

 

リリスケが合流した後も、俺はベルきゅんとリリスケと毎日パーティーを組んでいる訳ではない。

 

いや、リリスケのイベントが終わったから、パーティーを組む頻度は上げているよ?

 

「これを下さい」

 

その日、俺はベルきゅん達とは、ダンジョンへ行かずにとあるエルフが経営する裏通りの雑貨屋に来ていた。

中年の女性エルフの店員がいるカウンターに雑貨を置くと店員が話しかけてきた。

 

「アルディス様、調査を依頼されていた例の四人ですが、三人は七階層で遺体が見つかったようです。遺体はキラーアントにかなり荒らされていましたが、本人確認は出来たそうです」

「そうですか……、ベルさんのサポーターの周りを付きまとっていたので、気になっていましたが」

 

俺は殺した三人の死を悼むように答える。

あの三人の遺体は、少々手間ではあったけど、必要な物だけ回収して、七階層に捨ててきた。

短時間であれば、七階層でも俺は十分戦える。

セイント・ランスと戦闘技能のお陰で。

 

「残りの一人は、行方不明期間から死亡したものと思われます」

「ありがとうございます」

 

そう言って、俺は雑貨の購入代金と一緒に情報料を支払う。

 

「いえ、それと」

「はい」

「アルディス様と同じファミリアに所属しているヒューマンの少年ですが」

「ええ」

「複数の幼い少女をダンジョンに連れていっていると噂が」

「あ、それはやましいことはないので、違うと話を流してください」

 

噂を流す料金を追加で払い、俺は店を後にした。

中年の女性エルフから、情報屋だと言われて、自分を売り込んで来た時は驚いたけど、やはり情報は大事だな。

 

「それでは」

 

俺は雑貨屋を後にする。

人を殺したことは、ナァーザさんは確実に察している。

エクレアも薄々。ヘスティア様も様子がおかしいとは思っているみたいだ。

ベルきゅんはリリスケに集中してたから、全く気づいていない。

普段なら怪しまれただろうけれど。

 

「次はミノタウロスか」

 

アイズさんとの特訓が始まれば、またベルきゅんとは別行動かな。

出来るだけベルきゅんに経験値を稼がせないと、万が一があ……る。

 

「しまった……」

 

あの四人、いや殺した三人はミノタウロスに殺される。

偶然殺されるんじゃない。

忘れてた! あいつ等オッタルがイシュタル・ファミリアのアマゾネスと戦っている時に、オッタルからミノタウロスの入ったカーゴ奪って、開けて殺されるんだ。

 

アニメ版の印象が強くなってて、すっかり忘れてた!!

少しでもリリスケをソーマ・ファミリアに死んだと思わせるようにした結果がコレか!!

 

ってか、あの獣耳中年オッサン冒険者、リリスケの魔剣でミノタウロスを攻撃してたよな?

ミノタウロスには、ダメージが無いように見えたけど、実際はどれだけダメージを与えられた?

 

「…………ヤバい」

 

ロキ・ファミリアへの情報を渡すことに成功していたから、調子に乗ってた。

ベルきゅんのミノタウロス戦はギリギリの勝利だった。

そもそも、九階層でベルきゅんがミノタウロスと戦うかも怪しくなってきた。

 

ヤバい、ヤバい、ヤバい!

どうする? 魔剣のダメージが無いなら問題はない。

けれど、少しでもダメージがあったなら?

戦いがどうなるかわからない!

 

一度、深呼吸をする。

あの魔剣は俺の手元にある。なら、それならば!

俺がやらかしたんだ。

やることは、決まっている。

けれど、俺一人では可能性が低い。

 

「……交流は、あまりないけど」

 

身体が震える。

良かれと思って余計なことをした。

頼むのは情けない! 恥知らずなことだけど!

 

「……彼女なら、この未来の情報に飛び付く筈だ」

 

彼女に少し、力を借りよう。

後は……。

 

「準備をしないと……」

 

胸を拳で一度強く叩いて、俺はエクレアの工房へ向かった。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

「はい、採寸は終わりましたよ」

「ありがとうございます、エクレアさん」

「ありがとうございます。僕の為にわざわざ」

「いえ、私としてもお仕事はありがたいですよ。それじゃあ、私はこれで材料はあるので早めに持ってきます」

 

夕方、わざわざホームに来てもらい、ベルきゅんの鎧の下に着る黒いクロースアーマーを注文した。

デザインは原作に近い服のデザインだ。

 

ベルきゅんは最初はお金はないよ! と慌てて、俺が払うと伝えると、悪いよ! と言っていたが。

稼ぎ頭があまり防具を着けないのは恐ろしいです! と反論して、納得させた。

値段を聞いて来たが、二万ヴァリスと言ったらベルきゅんが高い! と叫んだが、納得はしたようだ。

 

実際、クロースアーマーにそこまでの防御力はない。

素材にもよるだろうが。

けれど、動きを阻害せず、防御力をあげるとなると、これくらいしかない。

 

後は時間を見つけて、耐久を上げる為に、ベルきゅんを叩くことも考えたけど。

 

「特訓?」

「うん、実は今日、アイズさんに」

 

アイズさんとの特訓に悪影響が出る可能性がある。

今はなにもしない方が良いな。

 

「なるほど、是非やるべきです」

「でも、神様に怒られないかな?」

「内緒にしましょう」

「え?」

「内緒にしましょう。ベルさんが強くなるチャンスを失う訳にはいきません」

「い、いいのかな?」

「ベルさんが強くなれば、それだけヘスティア様を楽にさせてあげられるので、問題ありません。大っぴらにしては駄目ですよ?」

「うん、分かったよ、アルディス」

 

 

俺はヘスティア様が帰ってくる前にこの話を終わらせ、 翌朝、行動を開始する。

 

「ふぁー、あれ? アルくん?」

「神様、おはようございます」

「あ、おはよう、ベルくん。アルくんは?」

「ちょっと早いけど、冒険者ギルドに向かいましたよ。アウラさん達としばらくパーティーを組むとかで」

「ふーん、あ、これはアルくんの作った朝食かい?」

「はい、今日はアルディスの番ですから。あ、僕も行かないと」

「行ってらっしゃ~い。……うぅっ、朝食冷めてる。アルくん、かなり早起きした?」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

神ヘスティアが、冷めた朝食を食べることになった日の夜明け直後。

 

「ふっ、はっ」

 

木刀を振るい、鍛練する妖精のもとに幼い妖精が訪ねて来た。

 

「……こんな朝早くから、どうしたのですか? アルディス様」

「様は要りません。貴女にお願いがあって来ました。リューさん」

「私に、願い?」

「はい」

 

アルディスはその場にゆっくりと両膝を突いて、勢いよく頭を叩きつけるように地に付けた。

 

「わたしの冒険者依頼を受けてください!! リューさん!!」

 

この日、オラリオに来て、二度目のロリハイエルフの土下座が炸裂した。

 

 

 

 




やらかしたので、帳尻合わせに奔走する主人公(自業自得)、でも力が足りないので、リューさんの力を借りる。


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