元ネタ
SCP-014-JP-EX
SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0) http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja
SCP-014-JP-EX
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日本最強の諜報機関はどこか。その議論が起こるたびに最有力候補として名前が挙がる公安警察。公安警察とは、実に隠微な組織である。世界が東西冷戦構造に支配され、日本国内でも左派勢力が一定の力を持っていた時代、日本の公安警察は「治安維持」と「防共」を最大眼目として組織を極度に肥大化させ、内部には巨大な秘密組織まで育て上げた。
にもかかわらず、公安警察の組織と活動は厚い秘密のベールに覆われ、実態が外部に伝わることなどほとんどなかった。91年のソ連解体によって冷戦構造が崩壊し、国内の左派勢力が衰退しても、それは変わらない。公安警察は一部組織の縮小・再編を余儀なくされたものの、内部の秘密組織は今なお強固に維持し、密やかな活動を続けている。
公安警察の中枢である警察庁警備局。その筆頭課である警備企画課には、課長の下に二人の「理事官」と呼ばれる幹部が配置されている。一人の理事官は「オモテ」、もう一人の理事官は「ウラ」の担当と位置づけられ、「ウラ」の理事官は日本の公安警察において最大の極秘組織のキャップを務める。
そのウラの理事官の部下である彼が知る公安が関わった事件の中で1番新しい胸糞悪い事件がある。
概要はこうだ。
東都の路上にて10代のアジア系と思われる身元不明かつ国籍不明の男児が発見された。彼は意味不明の言語を話していたため、当初統合失調症等の精神疾患の疑いを持たれた。だが、東都内において似たような児童が次々と保護されたため、不審に感じた警察により一時的にまとめて保護された。
彼らが喋っていたのは複数の海外の言語を複合した言葉だった。調査を続けた結果、どうやら彼らは精神病患者ではなく、ある資産家によって養育された結果だと判明する。
ある小説を読んで、赤ん坊のころから周りの人間全員で嘘を吹き込みつづけ、10歳の誕生日になったら嘘だとばらして笑いものにする。ついでに放り出すという悪質な遊びを考えついたらしい。おぞましいことに大企業や著名人のスポンサーがついており、ずっとカメラを回してその暮らしぶりをバラエティ番組のように面白おかしく編集、仲間内だけでたのしんでいた。
純粋な子供が絶望する姿を見るのが最も面白かった、と男は供述している。
つまり、10年かけて赤ん坊のころから「世界は滅んでいて放射能に汚染された地上から逃れた人類はシェルターの中で暮らしている」世界観で養育し、ある時突然全てをバラして社会に放ったのである。
主犯の男から芋づる式に共犯者が逮捕され、子供たちは保護された。以後の主な捜査を警視庁公安部が行っている。カルトならば公安調査庁の管轄だが、なぜ公安部なのかというと子供たちはその極端な養育によりサイバー犯罪など特定の分野において超人的能力を獲得したからである。
もしテロ組織や敵国に彼らの存在がバレてしまうと末路は誰でも予想できるというものだ。
ちなみに子供たちのうち、ほとんどが社会復帰するための手厚い支援と永久的な監視を前提とはするものの里親に引き取られた。
最初に発見された男児だけはその能力を見込まれてサイバー犯罪対策室にて勤務中だ。
未だに全容が解明できないため、被害者たちの身の安全を考えて公表出来ない事件である。
なぜ彼が今そんなことを思い出したのかというと、公安がかかえている表沙汰に出来ないはずの内部資料がインターネット上に流出した事件について緊急召集があったからだ。
真っ先に協力者や自分たちについての情報がないか確認したが、降谷の所属する企画課に関して言えば問題はなかった。風見たちの部署は壊滅的な被害をうけたが。なにせ操作資料が流出したのだ。
緊急会議に出席している風見の無線を聞いているあいだ、降谷はずっとイライラしていた。ファイル共有ソフトのネットワークに公安部の500点にもおよぶ公式文書のデータが流出し、民間会社から神奈川県警察を通して警視庁に連絡されたことで発覚したというなんともおそまつな展開だったからだ。
公式文書は、ほぼ全てが捜査に関する内容だった。公安の各部門がおいかけている内部資料である。もちろん捜査対象者又は捜査協力者とされた人間の個人情報も含まれ、記載された人は千人をゆうに超えた。
しかも「オリンピックやサミットの警備体制」「捜査協力者に育成するまでの心得」「在日米軍の爆発物処理研修」「空軍特別捜査局の機密情報」など日本警察やアメリカ軍の手の内に当たる情報も入っていた。
流出した情報の全てがコンピューターの機種を問わずに閲覧できるPDFファイル形式となっていた。流出元は以前発生したItテロにより導入された新規庁内ネットワークに接続されていない独立系の機器であり、新しいセキュリティシステムの外にあったのが原因だという。
「えー、現在、50ヵ国の15万人が入手したと報道されています。過去のネットで機密情報が漏洩した事件と異なり、パソコン利用者自身の個人情報が漏洩していないため、内部の権力闘争で意図的に流された可能性もあるとの指摘も」
咳払いで無駄な憶測はやめろと怒られたサイバー犯罪対策室の職員が話を続ける。
「......だろうな」
国際犯罪シンジゲートの内通者の炙り出しの矢先だったことをかんがえれば、権力闘争などのくだらない私怨が絡んでいてもおかしくはない。
連日報道されている大スキャンダルである。
「......まずいな、こんなことまで漏れてるのか」
降谷はスマホで流出した情報を閲覧しながら無線を聞いている。いよいよ頭が痛くなってきた。たとえばだ。ITテロに限っていえば、降谷たちが証拠をでっちあげて毛利小五郎を誤認逮捕して事故を事件となるよう誘導したり、犯人の動機に協力者についてのすれ違いなどがあったことが丸わかりな公式文書が出てしまっているのだ。それが意味するものなど口にするのも恐ろしくなる。
「今回の事件で流出したデータを「流出『公安テロ情報』全データ」として× × × 出版社がそのまま出版しようとしていることが明らかになりました。お配りした通り、個人情報がそのまま掲載されています。ただちに販売差し止めを東京地裁に求めたいと載せられた方からの問い合わせが殺到すると思われます。それについては、次のページをごらんください」
「............こういうことには早いな、全く」
降谷はためいきだ。こういう場合、個人情報をほぼ全面的に削除した上でならば再販できてしまうのが今の日本の法律である。
「だが、機密情報を共有する各国情報機関との信頼関係などから、流出した資料を本物と認めない方がいいのでは?」
「たしかに。容疑者不詳が資料流出が警察の警備業務に支障を生じさせたとして偽計業務妨害の容疑で強制捜査を開始し、契約者情報や接続記録などを国内のプロバイダー2社から押収したところです」
「いえ、もう限界です。ただでさえ内部の職員からの事情聴取に専念した場合、1ヶ月かかります。しかし、流出した情報を出版社が本を出版した以上、もはや誤魔化しはきかないかと」
会議がざわついた。
「この流出情報には、私を含めた連続児童誘拐監禁事件の被害者に関する捜査資料もありますので、犯人による証拠隠滅による二次被害を考えると事態はかなりひっ迫していると考えられます」
一瞬、会場が静まり返った。
「......やけに情報が早いなと思ったらここまでやれるのか......」
まだ会議は続いているが、降谷はさっき思い出したばかりの事件の被害者にしてサイバー犯罪対策室に勤務している青年に興味がわいた。
そして、風見に青年と会話するよう伝える。雑音が終わる頃、風見の声がした。
「初めまして、遠藤さん。風見といいます。少し聞きたいことがあるのですが」
「なんでしょう?」
「犯人は内部犯だと思いますか?」
「あー、あれはごめんなさい。余計なことをいってしまいました。あはは。つい私見を口にしてしまいました」
遠藤と名乗った彼は申し訳なさそうにいう。まあお調子者な雰囲気があるから適当なことをいって上司に睨まれているのだろうことは想像に固くない。
「まあ100パーセント内部犯だと思ってるんですよね、私は」
「え?」
「まだいうなって言われてるのでオフレコでお願いします」
遠藤曰く、公開した人物の契約者情報や接続記録の保全と照会を目的に、流出事件で経由されたサーバー会社がある国に捜査共助を要請したらしい。やけに早いなとつつけば昔取った杵柄だと濁された。
その結果、サーバー会社や契約した通信事業者、レンタル契約した連絡先は判明している。でも住所や決済口座などは複数の国のものを登録して偽装されたものであり、有力情報は得られず、発信元に至るまでの中継記録をたどることができなかったらしい。
「私個人で調べてるだけですから、出てこないだけかもしれませんが」
思い出したように謙遜するが、降谷には遠藤の実力がすさまじいものだということが手を取るように分かった。
「流出に際してはnoirが用いられているせいで、流出ルートを特定できませんでした」
「今、なんていいました?noirなんですか?」
「そうなんです。風見さん、あれですよね。ITテロ事件について、関わってましたよね?だから特別ですよ」
まだ治らない会場爆破の時の怪我を指摘された風見は苦笑いするしかない。
「流出した情報が記録されていたサーバーは外部のネットとは接続されていないため、警察の内部の人間がデータをパソコン上から記憶媒体に移して外部に持ち出した可能性が非常に高いんです。というわけで、近々ITテロ事件の捜査に従事した警察官の私有パソコン・携帯電話・口座記録などが調査されますので、やばい案件は隠してくださいね」
「ほんとうに話していいんですか?」
「いいんです、いいんです。サイバー犯罪対策室は公安に恩を売ろうとしてるけどスキャンダル続きに追い討ちするやり方嫌いなんですよね」
遠藤は笑った。
「ただですね、ほんと困ったことになりました」
「なにがです?」
「私が今警察にいることがバレちゃったじゃないですか。一般人なら本人や親族の生命・身体・財産などに危害が及ぶ恐れが生じた際には、公安が迅速で組織的な対応を行うよう通達されましたけど、私は対象外なんですよね」
「......それは」
「まあ、国家公安委員長が直々に被害者の保護を指示したのはうれしいですよ。他のみんなを守ってもらえる。個別の事件で公安が被害者の保護まで踏み込んで指示するのは、異例ですし。被害者の安全確保や情報保全の強化が保証されたのはありがたいです」
「遠藤さん」
「ただですね」
「ただ?」
「ある名義で流出資料の存在を知らせるために、大使館や関係者などにメールが送られているんですよ」
「ある名義?」
「現職と思われる幹部の名字です。恐らく公安の。ゼロの」
「!!」
「さいわいただのイタズラだろうと思われたのか、誰も開いた形跡はありませんでしたが。彼が標的でしょうね」
「降谷零......」
スクリーンショットでも見せられたのか、無線につたえるためわざと読み上げる。降谷は嫌な汗がつたう。
「私の憶測なんですが、犯人は警察を目の敵にしているフシがあります。それも執拗に。ITテロ事件に関する資料の流出が多すぎることから考えるに、これは不正アクセス事件の犯人からの報復じゃないでしょうか」
「報復?」
「ITテロ事件という自分よりでかいことした模倣犯が気に入らない。しかも警察の内部闘争の道具にされたのがムカつく。だからもっとでかいことをしてやりたい。ITテロ事件はたぶんこの人が中心になって解決したことまで犯人は掴んでる。だから気に入らないんでしょう、降谷零という人が。だから、気をつけてくださいね」
「つまり、遠藤さん、あなたは......警察内部に不正アクセス事件の犯人がいると?」
「そう考えるのが合理的じゃないですか。だから気をつけてくださいね。サイバー犯罪対策室は来月には私物のあらゆる電子機器の提出を求めますので」
もしサイバー犯罪対策室に集められた電子機器にハッキングされたらえらいことになる。降谷と風見は息を飲んだ。
「とはいえホントに迷惑ですよ......私明日から家に帰れないじゃないか」
「それは......お疲れ様です」
「あはは......そちらこそ」
乾いた笑いが無線から聞こえた。