ダンジョンにサーヴァント7騎のマスターがいるのは間違っている   作:ルーニー

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無理やり理論だったりガバガバ展開は許して


マスター、ダンジョンに潜る

 神ヘスティアの眷属になって早くも半月が過ぎた。最初のころは冒険者になったことにより勉強会だったり、様々な市場の相場の計算だったりで忙しくてサーヴァントとの鍛錬もそこまで時間がとれなかったりしたが、最近になってようやく落ち着いてきたころでもあった。

 冒険者のメインともいえるダンジョンも行けるようにはなってきたが、最初のころは『恩恵』をもらったこともあり、体の調子を整えることも視野に入れて安全のことを考えてベルくんとともに潜っていたのだが、あまりにも弱いためにわりと早くにベルくんにソロでモンスターを狩るように促していた。

 

 この日もベルくんに先にダンジョンへ行くように促し、時間をずらしてベルくんを追いかけるようにダンジョンへ潜る。上層の雑魚程度ならばベルくんでも問題なく処理できるが故と、いつかはサーヴァントと共にダンジョンへ行くつもりであるからベルくんにはソロ活動に慣れてもらうためにこうやって時間をずらしてダンジョンへ潜っている。まぁ、魔術だったりルーンだったりが異端であると知ってからベルくんに見つからないように訓練をしているというのもある。

 

「まぁ、こんなもんかねぇ」

 

 灰へと変えたモンスターの中のある魔石を拾い、ポーチの中へとしまう。もはや慣れてきた作業だったが、同時につまらなさを面倒くささを感じることでもあった。とはいえ金になるのだからそんな不満は言ってられない。

 

「……どうすっかなぁ。このまま下に潜っちまおうかねぇ」

 

 正直なところ、5階層までにいるモンスターは弱すぎて話にならない。確かに外で狩ったことのあるモンスターに比べれば強いが、それもドングリの背比べ程度。ルーンや魔術はおろか、身体強化の魔術すらも使わずともいとも簡単に倒せるのだから退屈で仕方ない。色々と知識を教えてくれたアドバイザーの言葉にしたがっているものの、しかし潜っていた当初はここまで弱いとは思ってもいなかった。何度6階層へ足を運ぼうかと思ったことか数えきれないが、さすがにすぐに破ってしまうのも問題かと思い我慢している。

 

「……ルーンを使って大量のモンスターでも狩るか?」

 

 キャスターに教えてもらったルーンの中には囮として敵を引き付けるのに適したルーンが存在する。自身にそれをつけて大量のモンスターを寄せ付け、魔術縛り武器縛りで倒していくしかないのかとすら思えてくる。

 

「……いや、今はベルくんと合流するのが先か」

 

 今日も今日とてソロでの活動をさせてはいるが、後で合流しようと言っているからさすがに遅くまで待たせるのはマズいかもしれない。真面目なベルくんはいつまでも待ってしまう可能性があるし、約束を破ってしまうのはさすがに気がひける。

 とはいえ、ここのところサーヴァントとの鍛錬以外では命の危機どころか傷への配慮すらする気にもなれない現状に、さすがに違う意味で危機感を覚えてしまう。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていると、なにやら大きな何かが走ってきているような音が聞こえてくる。聞いたことのない足音に警戒していると、曲がり角から見慣れない巨体が姿を現す。筋骨隆々とした体に、牛の頭をしたそれは今まで上層にて見てきたモンスターのどれにも当てはまらないものだった。

 見たことがない、ということはつまり今までいた層よりも下層にいるモンスターであるということに間違いないだろう。

 

「いいねぇ。今の力でどれだけ行けるか力試しになるな」

 

 なんで下層にいるであろうモンスターがここにいるのだろうか。そんな疑問が思い浮かばないわけではなかったが、そんな考えは力試しができるという事実で塗りつぶされ、興奮で杖を強く握ることとなる。

 

「まずは身体強化魔術もルーンも無しだ。今の実力(レベル)でどれだけ行けるかやってやらぁ!」

 

 牛もこっちに俺がいることに気が付いている。さっきまで走っているようだったが、俺を確認したのか荒く息を吐いて顔をこっちに向けてきている。周りには誰もいない。タイマンでこいつと戦う、最高のコンディションだ。

 

「オラァッ!」

 

 折れないように杖に強化の魔術をかけ、槍を扱うがごとく振るう。この杖はキャスターが作ってくれたものだ。たかがモンスターごときで折れてしまうことはないとは思うが、作ったのはオークの木に似た全く別の木。もしものことを考えると強化の魔術をかけないという選択肢はなかった。

 牛は攻撃されたことに反応して杖を腕で防いだ。肉と骨を叩く鈍い音が辺りに響く。これだけで上層の雑魚どもは倒されるんだが、思った通りこいつは上層にはいない種類のモンスターのようだ。

 

「いいねぇいいねぇ!全然効いていないねぇ!上層の雑魚とは大違いだ!」

 

 上層のモンスターとは違い簡単に倒されない。その事実だけで十分だ。牛は牛の鳴き声にも似た唸り声と共に筋骨隆々とした腕を力任せに振り回し始める。サーヴァントたちの攻撃に比べて遥かに遅いそれは、特に驚異を感じることなく簡単に避けることができる。サーヴァントたちとの鍛練で培ってきた勘でひたすらに避け、次の方法での攻撃を始める。

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

 アーチャーから基礎を教わり、自分なりに努力して作れるようになった投影魔術。血の滲むような努力の結果アーチャーからもギリギリ合格点をもらえた投影魔術だが、しかし俺の投影した武具はアーチャーのように投影したものをずっと維持し続けることはできない上に打ち合えば1合で砕け散るし、そうでなくても1分しか存在できない程度ものだ。まぁこれに関してはアーチャーの投影魔術が特殊なだけであってすぐに消えてしまうのは仕方ないことなのだが、1回斬るだけならそれだけでも十分なほどに頑丈であるし、ましてや投影した剣で受け止めるなんてことはする気はない。

 

「おらよッ!」

 

 投影したのはオラリオにならどこにでもありそうなオーソドックスな剣。まだ宝具の投影は無理だけど、アーチャーの推した剣はそこいらのものよりも強い。投影品ということでもろくはなっているがその切れ味は間違いなく高品質であることには間違いない。牛の腕を振っている合間にあるスキを見逃さず、それを全力で振る。

 

「―――――――――――ッ!」

 

 斬れた。が、さほど深くない。胸の肉を切ることはできたが、明らかに出血量が少なすぎる。強化は入れていないとはいえ剣は悪くないはずだ。ということは、単純に切り込むだけの腕力が足りていない。

 

「こいつでも無理かッ!」

 

 投影した剣にヒビが入った。いや、入るだけでなく、徐々にヒビが大きくなっていき、そして消えるかのように砕け散った。やっぱり俺の投影ではこれが限度か。投影を極めたらもうちょっとは戦闘に使えるようになるのかもしれないけど、現状ではこれが限界か。さすがにアーチャーのように長時間の戦闘に使える投影は不可能だとはわかっていても悔しいものがある。

 

 今のままでは勝てない。悔しいが、強化魔術もルーン魔術もなしだとこの牛には勝てないというのが現実のようだ。冒険者となってからは自分だけでどれだけ強くなれるのかを実践しているのだが、数字でもほとんど上がっていない。十数年間もの間かの英雄たちに鍛えてもらっているのにこの程度しか強くなっていないのは本当に悔しいものだ。

 だが、この程度が全力であるわけが、そんな程度で終わるような十数年もの鍛練を続けていたわけは、ない。

 

強化(トレース)開始(オン)!」

 

 身体強化の魔術をかける。全身の魔術回路が青く光り、先程よりも力がみなぎって来るのを感じる。背中の杖を取り出して魔術で炎を纏わせる。久々に使う魔術で興奮が止まらない。

 

「さぁ、こっからが本番だ。簡単に死んでくれるなよな!」

 

 最初の一撃と同じように杖を振り下ろす。さっきよりも鋭くなった杖に危険を感じたのかすぐさま両腕で防いだ牛だったが、ガードした腕が肉に当たった鈍い音と共に骨の折れる音が辺りに響いた。

 

「んなもんで防げると思ったのかよ、牛野郎!」

 

 悲鳴を上げて腕を下ろした牛のスキを見逃さず、さらに全身を叩く。二の腕、腿、膝、胴体、胸。出せる技術をもってして叩き込んだそれは、肉を削り骨を砕くのに苦労はしなかった。

 

「あばよ。強化なしでの戦闘について、いい教訓になったぞ」

 

 最後に頭へと杖を振り下ろし、その頭蓋をめり込ませる。短い悲鳴と共に力を失ったのか口や目、鼻から血を流して地面へと倒れ込み、その姿を灰へと変えた。

 

「んー。ダメだなぁ。この程度を強化なしに戦えないとなると、まだまだ地力が足りないか」

 

 灰へと変わったそれを一瞥し、その中にあった魔石を拾い上げる。同時に軽くため息を吐いてまだまだ自分は弱いと実感した。これがサーヴァントたちならば攻撃される暇もなく一撃、あるいは手玉にとって余裕をもって狩ることができるだろう。地力が足りていないというのはハッキリと理解できた。

 このままアドバイザーの言うこと聞いてチマチマやっててもらちが明かない。今から、とは言わなくても携帯食料を準備してからでも深くに潜りにいくのもいいかもしれない。いざとなりゃサーヴァントという鬼札もあるのだから、大丈夫だ。

 

 さてと。そうと決まればとっとと戻って地下入りの準備と計画を進めるとしよう。深くまで潜るとなると、しばらくはベルくんと一緒にダンジョンに潜ることもできなくなりそうだし、そのことについても相談するか。いや、案外一緒に行くことも視野に入れていくか。

 

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