ダンジョンにサーヴァント7騎のマスターがいるのは間違っている 作:ルーニー
今の実力を確認出来て結局ベル君を見つけることはできず、先ほどの下層モンスターを見つけたせいで先に出てきたのかと思い、入れ違いだったら申し訳ないと思いつつギルドで向かうことにした。ギルドに行けばもしかすれば出会える可能性がある上に、担当をしてもらっているエイナ・チュールに聞いてみればギルドに来たかどうかぐらいもわかるからだ。
「ようマスター。元気そうじゃねぇか」
ギルドへの道を歩いていると背後から聞きなれた声が聞こえてくる。そっちを向くと、予想通りにそこにはキャスターが何やら愉快げな表情を浮かべて手を振っていた。
「キャスター、どうしてここに?」
「なに、最近見てなかったからマスターの顔でも拝見しようと思ってな?」
「心にもないようなことをよくいう」
「マスターがそれを言うか」
お互いに悪態をつきながら笑い合う。話を聞いてみると買い物ついでにこの辺をぶらぶらしていたようだ。
キャスターを含め、サーヴァントたちには自由に行動をしてもらっている。まぁさすがにバーサーカーはそのガタイや魔力消費量、コミュニケーション難ゆえに基本的には霊体化してもらっているが、基本的にサーヴァントは自由に過ごしている。いざとなれば令呪を以って呼び出すこともできるし、サーヴァント相手ならともかくある程度の自衛だってできる。サーヴァントが近くにいない現状でもなにも問題はないのだ。
「どうでもいいけど、なんでか辺りに血が撒き散らかされているよな。何かあったのか?」
「あぁ。マスターの所属しているファミリアの団長だな」
「は?」
キャスターの言葉が驚きで頭を素通りしたかのように入ってこなかった。キャスターと話をしているときにも気になっていたが、道に点々として落ちている血は誰かが大けがでもしたのかと思っていただけに驚きも相当なものだった。
「なに?ベルくん傷も手当てせずに通ってたの?」
「いや、別に大怪我を負ったわけじゃなさそうだったな。ただ単に全身血まみれでここを走っていっただけだろ」
話を聞いてみると、どうも全身が血塗れだったベルくんが走った拍子に全身に纏った血を辺りに撒き散らかしながらギルドのある方へ走って行っていたらしい。たまたまそれを見ていたキャスターはこれは面白いとばかりに俺に報告をしようと思っていたらしい。
「何してんのベルくんは」
「さぁね。俺には到底理解できないね」
キャスターは趣味の良く無い笑みを浮かべながら手を振る。ここに来てから娯楽が少ないのかいろんなところに足を運んでいるらしく、今回ベルくんを見たのはたまたまだったらしい。
思わぬ場所からベルくんの所在を確認できた俺はキャスターと別れてもともとの目的地だったギルドへ向かう。道中に落ちている血の跡をたどりながら歩き、ようやくギルドへとたどり着くと中からベルくんの大きな声が外にいた俺の耳にも聞こえた。
「ありがとうエイナさん!大好きー!」
とてもじゃないが大勢の他人がいるところで叫べるようなものではない言葉を叫んだベルくんに、おませさんめ、と思いながら出てくるのを待っていると気分よさげにベルくんがギルドから出てくるのを見つけた。こちらから声をかける前に向こうも気づいたのか、気分よさげなまま俺の近くまで走ってきた。
「あ、フジマルさん!」
「やぁベルくん。どうもダンジョンでひどい目にあったみたいだね。血塗れで走ったんだって?」
「あ、その、えっと……」
ダンジョンで合流する約束をしてたことを思い出したのか、申し訳なさそうな表情を浮かべるベルくん。
「あぁ、責めてるわけじゃないよ?ベルくんが約束ほっぽり出すとは思ってないし、血塗れになるほどのことがあったってわかったしね?」
「あぅ……その、すみません……」
消え入りそうな声を出しながら頭を下げるベルくん。そこまで責めるような言い方はしてないはずなんだけど、真面目過ぎるきらいがあるベルくんには結構な言い方をされたと感じたのだろうか。
「とりあえず、今から換金とエイナ氏にちょっとした相談してくるから先に本拠に戻っておいてくれるかい?」
「あ、はい!わかりました!」
もう1度だけすいませんでしたと頭を下げて本拠へと走っていくベルくん。走っていくにつれてテンションも上がってきたのか重々しい足取りから軽々しい足取りになっていった。
何かいいことでもあったのかな?と思いつつギルドの中へと入る。相変わらず広々としているはずなのに多くの人でごった返しているせいで手狭にすら感じる。辺りを見回していると目的人物でもある女性がやや嬉しそうな表情を浮かべながら仕事をしているのが見えた。
「なにやら団長から熱烈なラブコールを受けたようですなチュール氏?」
「何ですかその言い方は」
我ながらゲスい笑みを浮かべていると自覚しているが、隠すようなことをせず、むしろ全面に出していく。そうでなくてはからかっているということにはならないからな。
一発でからかわれてると悟ったのか頭が痛そうな表情を浮かべて頭を少し抱える。別に俺個人とはさほど仲良くはないがベル君とは仲がいいのか先ほどの様に軽口を言える程度には親密なのだろう。
「まぁそれはどうでもいいんだけど。6階層よりも下のモンスターと地形の情報くれない?」
「……一応お聞きしますが、なぜです?」
「んなもん潜りたいからに決まってるでしょうに」
割と初めからわかっていたことだが、ここ半月潜ってはっきりとこのままじゃレベルが上がるどころかステイタスの向上すら微々たるものだとわかり、下層に行けばそれなりに苦戦もすることができるとわかった今、のうのうと上層だけで狩り続けていても意味がない。
とはいえ情報もなしに勝手に下に潜って行っても無駄な怪我や下手をすれば死ぬ可能性が高い以上、ギルドでの
情報も欲しい。頭が固いアドバイザーだから簡単には情報をくれるとは思えないけど。
「ダメです。冒険者になってからまだ半月しか経っていないのにそんな危険なことをさせるわけにはいきません」
「んなこと言われてもなぁ。上層のモンスター雑魚すぎるんだよ」
思った通り、情報を出すのを渋るエイナさん。別に担当で死人を出さないために上層に縛っているというだけでなく、本気で死なせたくないがためのものだとは、長すぎる勉強会でわかっているのだが、こうも出し渋りが過ぎるとストレスがたまるというものだ。
「……それと、ベルくんを1人でダンジョンに潜るようにしてるようじゃないですか。ギルドとしてはソロでの活動は推進していません」
「それは過保護が過ぎるってもんだろ」
下層の情報についていろいろと聞いているうちに話をそらしたくなり始めたのか、ベルくんとのダンジョンの潜り方について言い始めるエイナさん。
「何もレベルが違いすぎるような奴と戦えとは言ってないんだこっちは。それぐらい問題ないだろうに」
正直、上層だけでもソロで潜れるようにならないと下層に潜ったところで自分の最低限できるところや限界が分からなくなる上に他人がいるということへの甘えが必ず出てくる。成長すればできることも増えてくるけど、結局下地になるのは今までの経験だけだ。
「死地へ送り出す職業上臆病にもなるんだろうけど、現地の人間の言葉もある程度は飲んでくれないと結局軋轢で両方駄目になるだけだろ」
これだけ強情に仕事をしていると冒険者との軋轢も目に見えて想像できる。実際にそうなったこともあるだろうに、どうしてここまで強情になれるもんなのかねぇ。
「……それでも、ある程度の安全を確保したうえでダンジョンに挑んでもらいたいと思うのがギルド、いえ、私の思いです」
「折れた方が楽になるだろうに。よくもまぁそこまで強情になれるもんだ」
必死なのだろうことはわかるけど、ここまで強情にやられるとやりたいこともできないストレスで信頼もなくなるだろうに。そうしてでも生き残らせるように努力しているということかね。
「帰るわ。5階層よりも下の階層の情報だけ明日よろしく」
それだけ伝えると魔石を現金へと変えてギルドを出る。あの牛の魔石が利いたのか相当な金額になった。そろそろ杖以外の、打ち合っても問題ない剣ぐらいは買った方がいいのだろうかと思っていると、ふと視界の端に見慣れた赤いマントの端が通りがかった。
「やぁ、元気そうで何よりだ、マスター」
視線を動かしてみると、パンパンに詰まった買い物袋と思わしきものを両手に歩いていたアーチャーもこちらに気が付いていたのか俺に声をかけてくれた。
「どうしたんだその両腕にある食材は?」
「あぁ。これはとある酒場の主人に買い物を頼まれてね。急に必要になったからということで私が買いに行っていたんだ」
「ふぅん」
確かにアーチャーには山で修行をしていたころに食事を担当してくれていた。色々と制限されていた環境だったにもかかわらずその腕は原作やFGOでもあったようにかなりのものだったのは今でも覚えている。正直今のファミリアの環境を考えればアーチャーだけでも連れてこれた方がよかったと思うぐらいには。
「なぁ、その酒場行ってもいいか?つってもファミリアのこともあるし、行くのはそのうちってことになりそうだけど」
「私は別に構わないが、料金はそこそこするぞ。大丈夫なのか?」
「なに、今日下から来たらしい牛を狩ってそこそこの金ができたからな。問題ないさ」
下から、という言葉にアーチャーはあまり面白くなさそうな表情を浮かべる。
「あまりこういうことは言いたくはないが、仮にも君は私たちのマスターなんだ。できれば危ないことはしてほしくはないな」
「無理だな。アーチャーたちから教わったことで俺のやりたいことができるんだ。いくら言われてもこれだけはやりたんだよ」
アーチャーの言うことも分かる。サーヴァントからすれば俺は自分をこの世に繋ぎとめる楔のような存在だ。俺が死んでしまえば、単独行動を持っているアーチャーは何日かは持つかもしれないが、この世に存在できなくなる。ランサーやキャスター、アサシンなんかは面白がって強敵と対峙することを推奨するであろうが、仮にもマスターだからということでアーチャーはあまり前線に出ることを良しとはしてなかった。
「無理だったら何が何でも逃げる。そういうことでいいんだろ、アーチャー?」
「……本当に、私のマスターは頑固者が多いようだ」
やれやれ、と言いたげに首を振ったアーチャーは店のこともあると言って踵を返した。
「私は『豊穣の女主人』という酒場で働いている。気が向いたらそこに来るがいい。暇さえできれば愚痴ぐらいなら付き合ってやれるかもしれんぞ」
「そりゃいい。ステイタスの伸びの愚痴を肴に飲みに行くわ」
人ごみの中へと歩いていくアーチャーに別れを告げてファミリアの本拠のある場所へと足を向ける。神ヘスティアが良ければ、明日にでも食べに行こうと決意して換金したコインをはじきながら俺も人ごみの中へと足を運んだ。