ダンジョンにサーヴァント7騎のマスターがいるのは間違っている 作:ルーニー
ちょっと無理やりな展開も許して。お願い(懇願
ベルくんが走って出て行った外は、本人の気持ちを表しているかのように虚しく何も映していなかった。ベルくんが出て行ったのを他にも気にした人がいたのか、神ヘスティアのようなやけに露出の多い服を着た金髪の女の子が外に出て行った。
……なるほど。さっきからなんか反応してるなと思っていたけど、あの話のトマト野郎ってのはベルくんのことか。血塗れでギルドまで走っていったってキャスターも言ってたしな。
「アーチャー。お冷や頼む」
あぁ、気に入らない。誰かのミスで話を盛り上げようとするのはよくある話だ。それが自分の失敗談であれば面白いだろう。親しい友人同士であれば大いに笑いあっていただろう。けど、それが全く知らない人間のこととなれば、それも全く関係のない赤の他人が身内をバカにされたとなれば頭に来ないわけがない。
「……あまり暴れるなよ」
アーチャーの忠告に、分かってる、と返して持ってきてもらったお冷やを手に話な中心となっている男のもとへと歩みを進める。途中で俺に気がついた人がなんだこいつと視線を送ってくるがそれを無視して男の後ろへとたどり着く。酔っていても後ろに誰か来たことはわかったのか、男は睨み付けるようにこちらを見てきたが、それを確認した俺はお冷やをその頭へとぶっかけた。
「よう、他人を笑い者にして飲む酒はうまいか?頭冷やしてやったけど、酔いは醒めたか?」
頭から水を被った男は何が起きたのか理解できなかったのか身動き1つしなかったが、すぐに何をされたのか理解できたのか額に血管を浮き上がらせながらゆるりと立ち上がり、俺を睨み付ける。
「テメェ、死にてぇのか」
「ハッハッハッ。人の団長貶めるヤツがなにかほざいてるなぁ」
身長差はわずかに俺の方が高い程度。メンチを切り合う俺たち、特にベートと呼ばれている男にやめるように周りから声がかけられているが、そんなものは知ったことじゃねぇとばかりに無視をしている。俺も同じように周りの言葉を無視して睨み付ける。
「……殺してやろうか」
「他人を貶めるやつが?誰を?テメェなんぞハエを叩き落とすのが精一杯だろ」
威嚇してくるベートに鼻で笑って笑みを浮かべる。それで怒りの臨界点を超えたのか、先ほどまでのいらだった表情から一変し、逆になにも表情を浮かべなくなった。
「テメェが自殺願望者なのはよくわかった。死ね」
そういうや否や頭めがけて蹴りを入れてくる。予想以上に速い。身体強化魔術を使い、ルーンが刻まれた手で受け止め、そのまま受け流す。
「っ!?」
簡単に受け流されたことに驚いたのか目を見開くベート。正直この程度ならば修行の際サーヴァントたちから最低限のレベルとして受けている程度のものだ。これ以上の速さと強さで毎回修行している身としては簡単に受け流せる。
「喰らっとけ」
受け流した隙を見て手を銃の形にしてベートに向ける。そして指から黒いナニかが発射されたそれは、銃弾の速度で男の胸に直撃し、その勢いのままテーブル席へと吹っ飛ばされた。
俺が放ったのは指を指した対象を病気にさせる呪いであるガンドと呼ばれるものだ。かの遠坂凛がマシンガンのごとく撃ちまくったあれと言えば分かるだろうか。あれはフィンの一撃と呼ばれるガンドの威力が上がったものだが、まぁ種類としては変わらない。
俺のガンドは対魔力の高い魔術師でも通るように呪いの強さを高めたものだ。もちろん物理的な強さもそこそこあり、大人程度なら先程のようにブッ飛ばすことは余裕でできる。フィンの一撃と呼ぶにはまだまだ未熟だが、まぁ大抵の者には効くとキャスターのお墨付きだ。
「ガッ……!ゴホッ、テメェ……!」
「しばらくベッドでおねんねしてるんだな」
早速ガンドの呪いの効果が発揮されたのか既に顔色が悪くなってきている。立つのが辛いのか足だけでなく全身が震えているその様は、病にに耐えてやっとこさ立てたという表現がピッタリだった。
その様子を鼻で笑う。周りを雑魚だと貶めるようなやつにはこれが一番神経に来るだろうとわかっているがゆえに、体調がかなり悪くなっているそれの調子をさらに悪くするように振る舞って席へ戻ろうとする。
「……ちょっと待ってもらおうか」
が、さすがにそのままじゃ返してくれないのは組織としてできないのだろう。代表らしき少年が覇気とも言えそうな雰囲気を出して俺の肩を掴んで動きを止める。
「ベートに何をした?」
「なに、ちょっと体調崩してもらっただけさ。1、2日もしたら元気になる」
俺の言葉が嘘なのか、神らしき女性に目配せをする少年。その女性も嘘はついていないと判断したのか軽くうなずいていたが、そのまま俺を睨みつけてきていた。まぁ、確かに体調を崩させてもらったけど、そこまで見かけるようなものではなかったのかもしれない。ギルドに話を聞いていたが、魔法なんてものはあっても魔術なんてものはないこの世界でガンドでも未知のものなのだろう。
「言っておくが、先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだからな。人が楽しく飯食ってる時に人の団長を貶めやがってよ。気分悪いったらありゃしねぇ」
唾棄するかのように口を鳴らして少年を睨みつける。人数から見るにかなりの規模のファミリアのようだが、そんなこと知ったことではない。メンツをつぶされたということならば団長を貶めたそっちも大差ない。そういう理論でこっちはやっていく。
「1、2日寝かせておけばソイツはすぐに治る。こっちは団長を貶められ、そっちは団員の体調を崩された。これであいこってことでいいだろ」
掴まれた手を振りほどき、自分の席の方へと顔を向ける。去ろうとしているのが分かったのか、少しだけ慌てるような声で制止させられた。
「待ってくれ。いくら治るとはいえ何をしたのかぐらい教えてくれてもいいだろう?」
「いやだね。こっちだけに非があるならまだしも、こんな人の目があるところで人の団長貶めてくれた連中に教えるようなことをするわけがないだろ。言ったところで理解できるはずもないだろうしな」
エイナさんとの勉強会で分かったが、この世界には魔術もルーンもない、あるのは魔法というスロットに入れるがごとく修得するファンタジーなものだけ。探せば呪いも扱うような奴もいるのかもしれないが、今のところそういうことができるという情報は持ってない。
「あぁ、そうだ」
まだ何かを言おうとしてくる気配を感じ、足を止める。こちらが言葉を言い始めたからか向こう側は言葉を止めた。
「もしだ。ファミリアでケンカをやろうってんなら、そん時は俺のきれるすべてのカードを以てテメェらを潰してやるからな」
程度にもよるが、それこそファミリア同士の抗争となればサーヴァントを表に曝すことになるとしても勝つために動く。俺1人だけで問題ないならいいが、そうでない可能性も十分にある。それにサーヴァントへ頼むことに忌避感はさほどない。まぁ、なるべくサーヴァントに頼らないようにするのはもちろんなのだが、表に出てしまってからが面倒なことになりそうだ。まぁそうなったときはその時で考えるようにしよう。
まだ後ろで何かごちゃごちゃしていたけど、言いたいことは言った俺はそれを無視して自分の席に戻る。せっかくいい気分だったのに、これじゃ台無しだ。ベルくんも探さないといけないからアーチャーに清算を頼もうと顔を挙げたら、全く別の人の顔が目に入った。
「アンタ、人の店でよくもまぁ暴れてくれたねぇ」
店主が恐ろしい笑みを浮かべていた。普通の店主では感じるはずもない威圧感に頬が思いっきり引き攣っていくのを感じた。
「あー。あれは、挑発してくるあっちが悪かったってことで、許してくれない?ダメ?」
「一理あるかもしれないけど、あんたも一介の冒険者なら自分のケツは自分で拭いてもらわないとねぇ」
「……いや、あの……」
アーチャー、助けてくれ。と視線をずらしても、自業自得だと言わんばかりに深くため息を吐き、視線をこっちに寄越すことなく料理を続けている。
これは、あれか。助けてくれないということですねわかりたくないです。
「……あの、すんませんっした」
どこの世界でも、肝っ玉母ちゃんが最強なんだなって、達観しながら店長に頭を下げた。ちくしょうあのボケもうちょっと痛めつけておけばよかった。