生命の樹が神の街に根付くのは間違っているだろうか 作:ねをんゆう
「「「エルゼ(ちゃん)がゴライアスを倒したぁ!?」」」
その日の朝、部屋へと集められたティオネ、ティオナ、ベート、レフィーヤの4人は昨日の出来事の報告をアイズから受けていた。
もちろん、話す当人ですらもその内実はほとんど知らないので詳細は語れないのだが。
「……うん、フィンがそう言ってた。18階層まで行って帰ってきたって。」
「18階層って……レベル1の冒険者が気軽に連れて行かれる場所じゃないじゃない!」
「怪我は無かったんですか!?」
「うん、それは大丈夫。マインドダウンみたいな感じになってたけど、今も疲れて眠ってるだけだから……」
「……それなら、いいですけど」
ダンジョンへ連れて行かれる前にエルゼの異常に気づいていたレフィーヤはそれでもなお不安げな表情が晴れることはない。
ティオネとティオナもまた幹部達の暴走とも取れるような異常事態に困惑を隠すことができない。
「それと次の遠征なんだけどね……エルゼも連れてくって」
「っ、ンだとォ?」
「……アイズ、それは本当に団長自らが言った言葉なんでしょうね?誰かを挟んで伝え聞いたりとか」
「ううん、昨日直接聞いた。もう決定事項だって」
「……そう。団長のことでしょうから、何かしら事情があるのでしょうけど」
「どんな事情があれど、こんなガキを深層のモンスターの前に連れてくなんざ正気の沙汰じゃねぇ。何考えてんだあいつ等」
そう言ってガリガリと頭をかくベート。
今日の朝食の際にはフィンどころかリヴェリアやガレス、あのロキまでもが食堂に現れなかった。
何の連絡もなく4人が現れないことに一同は騒然となったのだが、ここに集まった5人によってなんとかその場は収まった。
その後に一度ティオネがフィンの部屋を訪れたのだが、『昼まで放っておいて欲しい』ということを言われ退散せざるを得なかったらしい。
他の3人についても同様で、5人は結局こうして時間を潰すしかすべきことがなかった。
「にしても、ゴライアスを倒したねぇ。団長の言葉じゃなかったら簡単には信じられない話よねぇ」
「そうだよねー。ミノタウロスを倒したとかなら、天才!すごい!流石アイズの娘!って喜べるんだけど、ゴライアスは流石にそういうレベルじゃないっていうか。ベートはどう思うー?」
「……そのガキが元々レベル3相当の力を持ってたってんなら、恩恵使ってあのクソ巨人ぶっ殺そうが不思議はねぇだろ。まずあり得ねえことだが、そのガキの出自考えりゃ普通じゃねぇことは分かってたことだからな」
「出自、ですか?」
「……ベートさん」
「……悪ぃ」
うっかりしっかり口を滑らしたベートをアイズはジト目で睨む。
エルゼが異なる世界で生まれたということは、隠し通すべき話……というわけでも無いのだが、気軽に言いふらすような話でもなく、むしろ知られれば興味を持った厄介な輩が近寄ってくる可能性も考えて黙っていることにしていた。
少なくともエルゼから許可を貰わない限りは話さない、そのつもりでいたのだが……
「そういえば、この子がどこから来たのかとか私達聞いてないわよね。18階層で保護してきたって話は知ってるけど」
「容姿も結構特徴的だよねー、ヒューマンの中でも珍しいっていうか」
「というかアイズさん。私前々から思ってたんですけど、エルゼちゃんの容姿って、ただの遺伝じゃないですよね?確かこういう病気があったと思うんですけど……」
3人の疑問が深まれば深まるにつれて口を滑らしたベートは追い詰められていく。
そしてアイズのジト目もどんどん深まっていく。
ベートは久しぶりに盛大にやらかした。
「……はぁ、分かった。話す。
けど、他言はしないで。エルゼのためにも」
珍しいアイズの鬼気迫るような顔を見て、3人は真剣な顔をして頷く。
そしてつい先程その約束を破ってしまったベートは苦い顔をして目線を背けた。
アイズから語られた壮絶なエルゼの出自を聞いた3人は、それぞれがそれぞれの考え故に何とも言い難い表情をしていた。
一聞すれば冗談や作り話と捉えざるを得ない様な夢物語でありながら、そんなおふざけをこの場であのアイズがする筈が無いということも確かで。
別の世界から来た、一度死んで生き返った、その際に病に蝕まれていた体が正常な状態になった。
そんな話を信じろという方が難しいのだが、その話を信じろと言われている。
これまでの自分の常識を捨てながらも飲み込むという作業は、その人物が理知的であるほど難しい。
その点、エルフであるレフィーヤにはそれは特に難しいことである。
……そのはずであった。
「「「完っ全に理解できた(わ)(ました)」」」
「「!?」」
そんな思いもよらぬ3人の言葉にアイズは逆に驚愕させられた。
ティオナに関してはまだ分かる。
彼女は細かなことは気にしない性であり、例えそれが有り得ないことであろうとも"そういうこともあるかもしれない"と納得することができるだろう。それは彼女の良点である。
しかし誰もがそうであれるわけではない、彼女がそうであっても、常識的に考えてそうではない他の2人には到底受け入れることの難しい話であった筈だ。
しかし彼女達2人も含めて、3人は自信満々に言い放った。
完全に理解した、と。
何の苦言も疑問もぶつける事もなく。
一番最初にまず、分かったと。
「……何も聞かないの?」
「いや、だってアイズがそんな冗談言うわけないし」
「というかそんなに必死になって説明されれば誰だって信用するわよ。アイズあんた自分がどれだけ分かりやすい性格してるか知ってる?」
「ア、アイズさんの言う事なら私は信じます!例えそれがどんなに冗談みたいな話でも、私はアイズさんのことを信じてますから!」
そんなことは当然だ、むしろ今更何を言っているのか。
そんな雰囲気で呆れるアマゾネス姉妹と、反対にアイズへの憧れと信頼をこれでもかと訴えかけるレフィーヤ。
そんな3人の様子にベートは何とも言えない顔をしつつも、別段不快に思っているわけでもないらしく見つめていた。
……一方で当人のアイズはと言えば、目を大きく開いた程度の変化ではあるものの明らかな驚愕と、内心で少しの嬉しさのようなものを感じていた。
誰かが自分のことをこれほどまでによく見ていて、そして純粋に信頼してくれているということを嬉しく思わない方がおかしいだろう。
「……そっか、ありがとう。みんな」
それは何に対してのありがとうなのか。
自分を信頼してくれたことにか。
エルゼの事情を飲み込んでくれたことにか。
はたまたそのどちらにもなのか。
それでも確かに、この瞬間の出来事はアイズの中に少しの変化をもたらしていた。
「うーん、でもこうなるとさ。フィンやリヴェリアのおかしな行動もやっぱり理由があるように思えちゃうよね」
「そうかしら……?例えばなによ?」
「いや、それを聞かれちゃうと困るんだけどさ」
「あんたその脊髄で話す癖やめなさいよ。……それはまあ私も少しは同意見だけれどね」
そこで「あ」と思い付いたように立ち上がったのはレフィーヤ。
しかしあまり気が乗らない話なのか、おどおどとしながらもアイズに尋ねようとする。
「あの、アイズさん……?その、マナー違反だとは思うんですが、エルゼちゃんのステータスってどうなっているんでしょうか?」
「……エルゼの、ステータス?」
「は、はい。ゴライアスを倒したってくらいですし、ステータスも変わってると思うんですよ。もしかしたらそこに原因があるのかも」
「……確かに俺もそいつは知らねぇな。アイズ、どうなんだ?」
レフィーヤの言葉に興味を持ったかのように立ち上がったベート、ティオナとティオネの2人も強い興味を示していた。
少しの間、アイズは考え込む。
やがて自分の中で何かしらの決心がついたのか、ゆっくりと顔を上げてポツリポツリと語り出した。
「私も、よくは知らない。エルゼの写しはロキ達が厳重に管理してるから、見たことがない。
……けど、エルゼが何かの魔法とスキルを持ってるのは確実。エルゼは"木の力"って言ってたけど、詳しいことは教えてくれなかった」
「……木の力、ね。間違いなくそれがポイントなんでしょうね」
「クソ巨人倒したっつーのもその力くせぇな。そこのエルフと似たようなバ火力系の魔法ってんならフィンの野郎の行動も分からなくもねぇ」
「つまり、昨日はその魔法の威力を試しに行ったってこと?その結果、十分な力だと判断したから遠征参加を認めた、みたいな?」
「それだとあそこまでして強制した理由に説明がつかない。フィンならもっと上手くやれたはず」
「た、確かに……他の誰に黙っていても、アイズさんくらいには説明してもいいと思いますしね」
「なによ、結局分かんないじゃない」
「バカベート、役立たず狼」
「なんで俺だ!ぶっ殺されてぇのかバカゾネス!!」
やんややんやと騒ぎ立てるバカ2人。
結局のところ、いくら話し合ったところで彼等がフィン達の思惑に辿り着くことはなかった。
当然ではあるが、現実とはいつだってそんなもので、フィクションのように"まさか!"となることの方が珍しいのだ。
(…………)
こうして結局朝の話し合いは特段なんの収穫もなく終わることとなった。
結論として、彼等が昼になって出てくるまでは大人しく待機しておく。
そうせざるを得ないのだから、何の成果も得られなかった以上はそれ以外の選択肢はない。
ただ、アイズにはまだ誰にも話していない、むしろ他の誰でもない、彼女にしか気付けていない不可思議なこともあった。
気のせいとも捉えられるような、そんな些細なレベルの話。
アイズは腰掛けるベッドで今もスヤスヤと眠っているエルゼの頭を撫でながらも思考する。
(昨日着替えさせる時にエルゼの服がキツくなってたのはなんでだったんだろう?服が一斉に小さくなったのかな……?)
こんな所で発動しなくても良い天然を、彼女がこっそりと発揮していたことをこの場にいるもの達でさえも気付けなかった。
筆が全く進まなくなったので、この先はもう書けなさそうです……