ISドライロット~薔薇の騎士の転生録~   作:ひきがやもとまち

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更新です。気分展開のつもりで書きはじめたら初っ端から迷走してしまい、頭を切り替えて他のを書くためには一旦書き終えるしかなくなってしまった結果として出来た話ですが、よろしければどうぞ…。
最近こんな感じの失敗ばかりで少しだけビミョーな心地になっておりますです…。


第11章

 『白騎士事件』により世の中が変わってから、十年と少し。

 地球から銀河系に進出した人類が一万光年の彼方で銀河の覇権をかけて争い合うようになる時代からは1000年以上を遡った、この時代のこの年。

 地球における人類史は未だ惰性の淀みにたゆたったまま、いずれの方角へ流れ出すか自らの意思でさだめかねているように見えていた。

 

 後年から見れば、この年は世界で初めて発見された男性IS操縦者・織斑一夏のIS学園入学に端を発して、『亡国機業』や『アンネイムド』など公には存在が知られていなかった者たちとの連戦がはじまる序曲であったことがわかるであろうが、現在進行形で今を生きる当事者たちには、そうは映っていなかったからである。

 

 五月に起きたクラス対抗戦への無人ISによる襲撃事件は箝口令が敷かれ、うやむやの内に中止となり、そのまま当事者たちであるはずのIS学園生徒たちにすら忘れ去れて、翌月には次の学校行事に話題の中心は移行してしまい、顧みる者はほとんどいなくなっていた。

 

 始まってより十余年しか過ぎていないが、自分たちが今までを過ごした女尊男卑の時代は終わることなく続き、多少の事故や事件はあっても全体として今は持続され、自分たちの明日や来年は平和に訪れるに違いない―――誰もが大した根拠もないまま、そう確信して日々を生きていた。

 昨日の延長線上に明日を置いて疑問を抱かず、昨日まで通じたカレンダーは今日も明日も問題なく使えるだろうと信じ切ったまま保証のない明日を迎えようとしている。

 

 だが、人類の誕生と共にあったわけでもないものが、人類の終焉に至るまで在り続けていることはない。国家にも平和にも必ず終わりは訪れる。

 それは遠い未来、国家の永続を信じて一人の男が造り上げた強大な人類統一政体初の専制君主国家がボロをまとった惨めな姿で歴史の陰へと姿を隠していったのと同じように。

 

 その男の支配から逃れて建国された民主国家が、「吾ら永久に征服されず」と国歌に載せて誓ったはずの軍人たちの手によって国家元首の命が専制君主に差し出されたのと同じように―――。

 

 

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。特にスムーズモデル」

 

 六月の第二週、月曜日の朝。

 今日もまたIS学園1年1組の女子生徒たちは姦しく、みな片手にカタログを持ってあれらこれやと議論を交わし合っていた。

 議題の内容は、ISを纏うときに操縦者が素肌の上から着用するISスーツ発注を依頼するメーカーをどこにするかについてである。

 

「そういえば織斑君のISスーツってどこのヤツなの? 見たことない型だけど」

「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

 

 話が波及して、彼女たちが輪になって談笑している場所と比較的近くに指定されていた自席にただ座っていただけだった織斑一夏まで巻き込んで唐突な話題振りがおこなわれたが、彼はそれに戸惑うことなくスラスラと正確な情報を返事として回答する。

 その回答はIS学園に入学して日の浅い彼が、みなに追いつくため猛勉強した成果によるものだったが、それは同時に模範解答の表を丸暗記した内容を諳んじただけの散文的極まりないものでしかなかったのも事実ではある。

 

 もともと彼は“偶然にも”『女しか動かせないはずのIS』を起動させてしまったことから特例としてIS学園入学が許された「世界初の男性IS操縦者」であり「IS学園史上初の男子生徒」であって、IS操縦者を志して勉学に励んできた他の女生徒たちとは趣を異としている。

 変化した立場と状況に合わせるため「必要経費」として限られた自習時間の幾ばくかをISスーツ関連の情報を得るため支払うことこそすれ、個人的な関心や興味をもつまでには至っていない。本人自身に服装への関心が薄かったという事情もある。

 

 そのような事情から彼から見た、「本当に役立つかは難しい線引きとなる」専用機をもらえない一般女生徒たちの自分専用ISスーツへのこだわりは共感するほうが難しく、『女はおしゃれな生き物ですから』というセシリアの言葉を鵜呑みにして、なんとなく分かったような気分になるぐらいが関の山だった。

 

 ・・・・・・余談だが、今から1000年以上先の銀河をめぐる戦いの時代にも彼と似たような結論に達する人物が生まれることに未来の予定表ではなっているらしい。

 その名をユリアン・ミンツといって、戦災孤児の救済と人的資源確保の一石二鳥を目的として設立された戦時特例法『トラバース法』により、後に「不敗の名勝」と称される最強提督の養子となった人物で、義父である提督の死後『孤児と未亡人の連合政権』と化した弱小の民主共和制勢力を率いる後継者の任を全うしている。

 

 彼もまた一夏と同じく万人が認める美貌の所有者であり、同世代の少女たちから関心を集めいたが色恋沙汰には鈍感であり、それほど服装には気を使わない性質の持ち主でもあった。

 この点において表面の事象だけ見れば一夏と、そしてユリアンの義父であったヤン提督と同じく服装無関心派に見えなくもなかったが、ヤンの先輩で口の悪いアレックス・キャゼルヌ中将に言わせると「同じ服装無頓着でも質が違う」ということになるらしく。

 

「ユリアンは服装で他人の視線を集める必要がないので自然と無関心になる。

 ヤンの場合は単にめんどうくさがっているだけさ」

 

 ・・・・・・果たして一夏のそれはどちらに該当するものなのか、遠い未来で歴史が判断してくれるのを待つばかりである。

 

 

 

「あ、シェーコップ君だ。おはよー」

「おぉ~、シェーちゃん。オハー」

 

 少女たちの雑談が一時的に途切れて、教室の扉から入ってきた長身の美丈夫の姓を呼ぶ声に変化するのを一夏は耳にして顔を上げた。

 

「やあ美しいフロイラインの貴婦人方。グーテン・モルゲン」

 

 何時ものように何時ものごとく、何時もと変わらない不適さと不遜さが微妙に入り交じった口調と態度で、簡明に定型文と化した時候の挨拶だけを述べ、長ったらしい口説き文句など今更言うまでもなく普段通りの入室の仕方をしてきた『世界で二番目の男性IS操縦者』は、だが今日に限っては何時もと違う点が一つだけ存在していることに一夏は気づいており、それを指摘する。

 

「おはよう、シェーンコップ。こんな時間に登校なんて珍しいな」

 

 一夏に言われて初めて気付いたように、少女たちもまた時計を見上げる。

 見ると確かに朝のHLがはじまる寸前の時間帯であり、一歩間違えば鬼よりも鬼らしいと評判の織斑千冬先生の方が先に教室へ到着してしまってもおかしくはない時刻に差し掛かっていた。

 慌てて少女たちが自分の席へと戻っていくのを、最初から席についたまま井戸端会議に参加することなく担任教師の到着を待っていた一夏はのんびりと見送り、次いで定位置である隣の席に座ったシェーンコップから、微かに漂ってきて鼻腔を刺激する香りに気付いてやや憮然とした表情へと移り変わる。

 

 それは男女比率約三百六十分の二で、圧倒的大多数派を占めているはずのIS学園女子生徒たちでさえ、おそらくは香らせている者はほとんどいないであろうヘリオトロープの淡い匂い。

 一夏は直接嗅いだ経験はないが、同年代の少女たちが香らせていても決して似合うことはないだろうと確信できる程度には大人の女性にしか似合いそうにない匂いを身体に纏わせて朝の学び舎へと登校してきた同性の男子生徒に無心でいられるほど一夏は老成していなかったし、不実な男になった覚えもなかった。

 

 相手が浮かべている青い表情に気付いたシェーンコップは短く笑い、敢えて腕を鼻の前までもっていき、わざとらしく香水の匂いを嗅ぐ仕草をしてみせてから。

 

「坊や、こいつは人生の――いや、生命そのものの香りさ。お前さんも今にわかるようになる」

 

 その発言に対する感想なり反論なりを一夏が述べようとした瞬間、

 

「諸君、おはよう」

『お、おはようございます! 織斑先生!!』

 

 まるで見計らっていたかのようなタイミングで、教室の前の扉より担任教師の織斑千冬が入室し、教室内にいた生徒の大半が一瞬にして軍隊じみた礼儀正しい挨拶を送り、尊敬し“あたわざる”上官殿ならぬ担任教師殿を迎え入れる。

 これによって一夏の主張と反論は後日のこととなり、今は尊敬し敬愛しながら畏怖もしている実姉の千冬姉から聞かされる連絡事項に耳を傾けようと意識を前へと戻す。

 

 結果として、このとき選んだ選択によって一夏はこの件に関してシェーンコップに意見する機会を永遠に失うことになったわけであるが、それを幸と思うか誤審と断ずるかは人それぞれに任せるしかない問題であろう。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着でも構わんだろう」

 

 その発言を聞かされ、いや構うだろう!と今度は一夏も心の中だけとはいえ盛大に突っ込みを叫ばずにはいられなくされてしまう。

 確認しようもないことだが、おそらくは彼以外の生徒たちの多くも一夏に同調して心の中で唱和していたことは間違いあるまい。

 

 千冬には、視線だけで人を殺せそうな強面のイメージが付きまとっている反面、時折このような冗談とも本気とも付かない下ネタじみたジョークを口にする奇癖を持っていた。

 あるいは弟と同じく彼女なりに、年頃少女の生徒たちと精神的距離を縮めるため努力した結果なのかもしれなかったが、たとえジョークであっても表情を一切変えることなく説明もしないでは誤解されても仕方のない部分ではあったことだろう。

 

 もっとも、民主共和制を守る最後の砦として同士たちが寄り集まったイゼルローン要塞所属の空戦部隊に描かれるパーソナルマークとして、女性の下着のイラストを自らデッサンして隠し子の娘に見せつけた過去を持つ元不良中年で現不良少年でもあるワルター・フォン・シェーンコップと比べれば遙かに少女たちから好かれる資格を持っていたことにもなるため、仮に世界を律する絶対者とか造物主とやらが実在していた場合には彼らの悪意を立証する証拠にもなり得たのかもしれなかったが、全ては仮定の話でIfの可能性でしかなく、現実に彼女が口に出して続けた内容は簡明極まる以下の一言だけしか現実には存在していない。

 

「では、山田先生。ホームルームを」

「は、はいっ」

 

 尊敬する先輩からの指名を受け、所定の情報を伝えるだけの伝令役でしかない役割を振られた副担任の山田真耶は、眼鏡を拭いている途中だったところに不意打ちをかけられ慌てながら教壇の前に出た自分の醜態を誤魔化すためにか些か大きめの声を出し、職員室で決定されていた伝達事項を生徒たちに向かって宣言してみせたのである。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」

「え・・・・・・」

「ほう?」

『えええええっ!?』

 

 いきなりの転校生紹介にざわつく噂話好きな女子のクラスメイトたち。

 男である一夏でさえ、転校生はともかく自分を含めて短期間の内に四人連続で同じクラスに配属された事情自体には意外さを禁じ得ず。

 

 ただ一人シェーンコップだけが、面白そうな表情を浮かべて自分の隣の席に座る『世界初の男性IS操縦者』であると同時に『極めてレアな機能を持った特殊武器装備の第三世代機』を与えられている専用機持ちのIS操縦者の意外そうな横顔を観客の視点で無遠慮に見物していただけが例外だった。

 

 何のことはない。意外さを禁じ得ないでいる本人が抱える事情こそが、彼の抱いた疑問の大半の答えになってくれる青い鳥なだけなのだ。

 自分は所詮、二番煎じであり専用機を持たない量産機乗りに過ぎず、セシリアに至っては本人の主観的自己評価はどうあろうとも一年生女子の中で代表候補生の専用機乗りは現時点で三人まで増えてしまっている。大した商品価値はすでに期待できない希少性しかない立場に落ちぶれた後だ。

 

 そう考えれば一夏がいる以外に、この1年A組だけがこれほど特別扱いしてもらえる理由は何一つないことが分かるだろう。

 全ての問題に巻き込まれる当事者としても、自分が巻き込まれる厄介事のすべてを引き寄せてしまっている元凶としても機能している織斑一夏という少年は、どうやら生まれつきトラブルメーカーとしての才能に恵まれているらしい。

 彼を含む大多数派の平穏無事な学園生活を求める者たちにとって不幸な宿命であり、平和よりもトラブルを好む一部の矮小なる少数派たちにとっては幸福な運命だったことなのであろう。

 

 たとえば、『伊達と酔狂で宇宙の統一と秩序を乱し』ウィスキー片手に「革命ゴッコ」へと身を投じて圧倒的大多数派となった新生銀河帝国軍を相手に、寡兵で戦いを挑んで勝つつもりでいた圧倒的少数派の民主共和制最後の『物好きたち』にとっては殊更に―――。

 

「それでは、お二人とも入ってきてください」

「失礼します」

 

 山田先生からの呼びかけに応じて、扉の外にあった二つの気配のうち一つが返事をして扉を開け、今一人は無言のまま扉をくぐり教室内へと足を踏み入れる。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 その姿を見た瞬間――正確には、入室してきた二人の転校生の内一人の姿を見た瞬間に――教室内を覆っていたざわめきはぴたりと止まる。

 時期的におかしい転校生の立場にこそ疑問を感じながらも転校してきた当人たちには興味が薄かった一夏でさえ例外ではなく押し黙るほど、その人物が持つ容姿は意外性に満ちていた。

 

 クラスに入ってきた転校生二人のうち、一人が男子生徒だったからである。

 感じの良い微笑みと、礼儀正しく中性的な立ち居振る舞いが育ちの良さをうかがわせる貴公子的な容貌の美少年。

 髪の色は濃い金髪で、黄金色の長めの髪を首の後ろで束ね、青く澄んだ瞳はアイスブルーと言うよりブルーサファイアと表現した方が近そうな冷たさを感じさせない暖かな内面を映し出している。

 

 

 ――差し詰め、ラインハルト・フォン・ローエングラムを下位互換した美貌の少年に、ジークフリード・キルヒアイスの柔らかさを加えて二で割ってみたと言ったところかな。

 

 

 シェーンコップは声には出さずに無言のまま、彼としては高評価している客観的に見た者には酷評に聞こえるであろう感想を内心で下しながら、尖り気味の顎に手をやり片手で撫であげる。

 

 ふと視線を横にずらすと、『男ではない』という一点において同期の転校生に見劣りするものの、十分に見目麗しい小柄な少女が誰の視線も気にすることなく、教室内のただ一点のみを見つめながら無言の内に歩を進めている姿が視界に映り込んできた。

 長すぎる銀髪と、黒く大きなアイパッチ。前世の感覚からすると銀河帝国の元帥クラスか門閥貴族の名門当主たちのために仕立てられた専用軍服に近い、機能性を損なうレベルで装飾過剰な“元”祖国、ドイツの歴史で数十年前に勃興して滅んだとかいう第三帝国とやらで使われていた軍服をモチーフとした改造制服に身を包んでいる、一挙手一投足に軍人臭さを匂わせた姿で歩いてくる少女。

 妖精のように可憐な見た目と裏腹に、仕草の端々から転校先の先輩たち世界最高戦力の操縦者たちとは頭二つか三つほど抜きん出た実力を秘めていることが察せられる。

 

 先日お偉方から通達のあった『ドイツ政府公認の代表候補生』とは、間違いようもなく彼女のことだったのであろう。

 他の生徒たちが一人残らず『男だから』という一点のみを理由として金髪の美少年に視線と意識を集中している中で、ただ一人『制服』を理由として銀髪少女の方に視線と意識を集中させていたのはシェーンコップだけだった・・・・・・ということはなく。

 彼も普通に、他の者たちと同じく『男だから』という理由で金髪美少年に意識と意味深な視線を集中させていた。

 

 他者からの大多数評価と誤差はあるだろうが、彼自身の主観的自己評価においてシェーンコップは、右を向けと高圧的に命令されたら損を承知で左を向く、前世の上官ほど捻くれた性根を持っていないつもりであった。

 せいぜいが、応答の際に皮肉と嫌みのエッセンスをたっぷりかけた了承の言葉で命令を受領し、恭しい仕草とともに実行する程度には服従心を持っていると自己評価していた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 少年転校生は、にこやかな笑みを浮かべてそう告げて一礼し、一夏ともシェーンコップとも異なる三人目のタイプの美形は歓呼して迎え入れられ。

 

 それら黄色い悲鳴の大合唱が満ちる中、クラスメイトになった初対面の少女たち一人一人と目を合わせるように教室内をゆっくりと見渡して“目標の一人”を見つけ出した瞬間、わずかに見開いた瞳を隠すため盛大すぎる歓呼に戸惑ったように苦笑して。

 

「・・・・・・う、ぁ・・・」

 

 ――そして、絶句させられる。

 つい一瞬前まで浮かべていた人なつっこそうな笑顔は嘘のように消え失せて、思わぬ人物と思いもかけぬタイミングで再会してしまった衝撃が強烈なスパンクとなって精神を襲われた圧倒的恐怖が顔中に浮かぶ。

 

「・・・なん・・・で・・・、どうし・・・て・・・・・・」

 

 一昨日の夜に出会った奇妙な男性。

 あの時には周囲が薄暗く、自らも『本当の性別』を隠すため顔を見えづらくする変装をしていたこともあり、相手の顔をハッキリと判別するまでは出来ていなかった。

 

(そ、それにたしかIS学園って全寮制で時間に厳しいはずだったんじゃ・・・・・・ッ!?)

「どうしたデュノア? シェーンコップと面識でもあったのか」

「あ・・・」

 

 意外すぎる相手との思わぬ再会に過剰な反応を示してしまったことで、当初の『行動計画スケジュール』には書かれていなかった人物から想定外の質問をされてしまった“彼女”は、どうすればいいか判らなくなり答えに窮して言葉にならない言葉を譫言のように呟くことしかできない状態にまで追い詰められていき。

 

「まあね」

 

 そしてまた―――この男に救われる。

 にやりと笑って、あまり“褒められた救い方ではないやり方”ではあったが、それでも彼が彼女を救ったこと自体は一応の事実として相違だけはない。

 

 

 

「以前に一度、彼とよく似た美人の姉君とモーニングコーヒーを飲み交わしてから部屋を出て、たまたま隣の部屋の女性宅から出てきた直後の彼と出くわし挨拶を交わし合ってから続いている腐れ縁というヤツでしてな。

 いや、彼女の姉君が淹れてくれたコーヒーは絶品でした。あの味は未だに忘れられません。本当にいいコーヒーを淹れられる、いい女でした」

 

つづく

 

 

オマケ『今作設定の補足説明』

 全話の中で日本に移民したはずのシェーンコップが、元故国のドイツから命令されていた背景として、「世界で二番目の男性IS操縦者」の所有権をめぐり日本政府とドイツ政府との間で密室会談がなされた結果によるもの。

 最終的には『日本人の世界初を確保している』日本政府が妥協し、法的には今まで通り日本移民のまま、命令権などは全てドイツ軍と政府に返還されてしまっているのが彼の現状。

 尤も、その程度の逆境で恐れ入るほどの可愛らしさを彼に期待するのは犬にむかって『我が輩は犬である』と犬宣言をするよう要求するのと同じくらいには愚かな愚行に過ぎない・・・。


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