という夢を見た八幡と小町の話。性的な描写はありません。

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妹とセックスする夢を見た。

 夢というのはどんな内容でも起きたら記憶から消えていくものだ。

 しかしたまにあまりにも内容が衝撃的すぎて忘れられないことがある。

「………は?」

 俺は今なんの夢を見た。小町と、妹とセックスする夢を見た。

 経緯とかそういうものは全然覚えていないし夢だからきっとデタラメに決まっている。ただ、本番のシーンだけやたら明確に覚えている。

「いや流石に……」

 昨日見た妹系のアニメのせいだ。きっとそうに違いない。

 いくら俺がシスコンというものでも、小町はそういった対象ではない。かわいい妹なのだ。俺の股間が元気なのも朝だからだ。生理現象だから仕方ない。

 今の夢は見なかったことにしたい。というかもう忘れた。小町の声も忘れたレベル。よし、忘れ

「お兄ちゃん、小町の鉛筆見なかった?」

 ノックもせずにいきなりドアをあけるなドアを。

「え、なに、なにその顔」

「鉛筆なら昨日リビングで使ってなかったか」

「それが見当たらないんだよねー。ていうかお兄ちゃん怒ってる?」

「怒ってない。あと自分の服着ろ服」

「いいじゃん、お兄ちゃんの服楽だもん」

「俺の服はパジャマじゃねーぞ」

 そのなんだ、俺の服を着ているのを見たらまた思い出しちまった。ああもう、最悪だな。いや小町は悪くないんだけど。

「それより早くお兄ちゃんも着替えなよ。小町送ってくれないと困るよ」

「……分かった」

 小町は鉛筆を探しに行ったのかそのまま部屋から出て行く。

 モヤモヤとした感情を抱きながら身支度をし、俺は自らの頬を叩いて気合いを入れる。平常心平常心。あれは夢だ、夢、と念押ししてリビングのドアを開ける。

「あ、お兄ちゃんおはよ」

「はよ」

 なるべく妹の顔を見ないようにしながら席につく。

「……いただきます」

 無言で黙々と朝食をいただく。今日は母親が早くにでかけたから小町が簡単に作ったご飯だ。うん、旨い。

「……鉛筆、小町の机の下にあった」

「そ」

「……」

 それは良かった。小町の鉛筆は世界の鉛筆だからな。見つからなかったら俺が小町私物紛失罪で逮捕されると言っても過言ではない。過言だな。

「お兄ちゃん、小町なにか悪いことした?」

「いや」

「だってお兄ちゃん、ずっと目を合わせてくれないよ。小町心当たりないけど、小町が無意識でお兄ちゃんを傷つけたかもしれないし、謝るよ」

「いや、怒ってない」

「じゃどしてそんなに機嫌悪いの?」

 まさか小町とヤった夢を見て気まずいなんて口が裂けても言えるはずがない。そんなこと言ったらまずドン引きされるし俺の家庭内カーストがさらに下がって地中深くまで潜って終いには燃えるゴミの日に出される。

「別に怒ってない。ただちょっと体調悪いだけだ」

「そうなの?もしかして熱?」

 小町は俺のおでこを触って熱を確かめる。ちょっと、近い。近いから。匂いとかふわってくるし。いや俺も同じシャンプー使ってるから同じ匂いなのか?

「んー、ちょっと高い?かな?でも普通だよ」

「そ、そうか。気のせいだったかもな」

 なんで俺ドキドキしてるのん?いくらなんでも意識しすぎだ。とにかくここから出よう。このままではいらんことを口に出してしまいそうだ。

「俺先行くわ」

「えっ、小町送ってくれないの?」

「また今度な」

「ちぇー」

 食器を片して鞄を手に取りさっさと家を出る。きっと学校に着く頃には忘れているだろう。夢だしな。

 

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 一向に忘れられない。

 既に昼休みになっているが朝から状況は全く変わってない。

 いや夢ってこんなに長時間覚えてるもんなの?授業中もふと頭に小町の顔が浮かんでは気分が落ち込んでいく。

 気を取り直してベストプレイスに飯を食べに行こう。テニスの練習をする戸塚を見ながら食べる飯ってなんであんなにおいしいんだろうな。空腹は最高のスパイスとかいうが俺は戸塚を推したい。

 

「………」

 カコーンとテニスボールが壁を跳ね返る音が響き渡る。

 ああ戸塚かわいい。戸塚ってかわいいよな。なんで男なんだろうな。いや仮に戸塚が女だとして俺は戸塚と友達になっているだろうか。そもそも体育がバラバラになるし俺はクラスの女子とは関わらない。いや、男子とも関わらないが。とにかく今俺が戸塚と出会って友達になっていることは天文学的な奇跡ではなかろうか。神に感謝したい。いや、友達なのか?友達とは一体なんなのだろうか。俺は本当に友達になれているのか?

「……あーくそ」

 人間は忘れよう忘れようとするほど忘れられないものだ。自然に忘れてしまえばそれでいいがそうもいかないとき他の思考で忘れようと試みる。しかしそういった思考に陥っている時点で忘れることは不可能なのだ。

 今もこうして今朝の夢が頭から離れない。

 そもそもああいった夢を見るのはなにか意味があるのだろうか。俺は小町に発情していないし妹としてしか見ていない。今朝ドキドキしたのも夢があまりにもリアルだったからそれに引っ張られていただけだ。

 俺は携帯を取り出しブラウザを起動する。万が一の事を考え念のためプライベートモードに切り替え『妹 セックス 夢』と検索した。あまりにも直球過ぎる検索ワードで少し罪悪感を覚えた。

 夢占いなんて眉唾的な話は信じないが、参考程度にはなるはずだ。検索結果に出たサイトがどれもうさんくさいのはこの際目をつぶる。

 とりあえず上から順に目を通していくと、内容に差があるがやはり妹に欲情している訳でないというのが共通点だった。心の底から安堵する。これでひとまず一安心だ。

 しかしその中で少し気になるワードが目に入った。

『かわいらしいものに愛情を注ぎたい。面倒を見たいという願望が表れているのかもしれません』

 ふと、最近小町の面倒を見れていないことに気がついた。ここのところ部活で帰りは遅くなっているし、休日も小町と話していない。今朝も小町を学校に送っていくのを放棄していた。

 そういった日々の積み重ねによる無自覚なストレスがあの夢を作り上げたに違いない。俺どんだけ小町のこと好きなの。

 ならやることは決まっている。

 俺はすぐさま携帯に文章を打ち込み小町にメールを送った。

 

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 部活は休んで今日はまっすぐ家に帰る。

 帰宅すると小町は既に家に帰っていてリビングで勉強していた。

「おかえり」

「ただいま」

 今朝のことは一切触れてこない。それが逆に気まずくて俺から話題をふった。

「その、なんだ。今朝は悪かった」

「別に気にしてないよ。メールでも謝ってくれたじゃん」

「それに、最近小町のお兄ちゃんできてない」

「そんなことないよ。お兄ちゃん、いつも小町のこと考えてくれてる」

 くるくると鉛筆を回しながら小町は答える。今朝探していた鉛筆だろうか。

「で、今日はお兄ちゃんがご飯作ってくれるんでしょ?」

「ああ」

 昼にメールしたのはその件だった。小町は受験を控えているし毎回作って貰うわけにはいかない。今日は俺が作るという約束をしていた。

「メニューは?」

「肉じゃが」

「おお、意外」

「専業主夫になるにはまず肉じゃがを覚えた方がいいと思ってな。実は前から調べてあった」

「お嫁に行くんじゃないんだから……。ってお兄ちゃん。冷蔵庫の中だけじゃ足りないと思うけど、どうするの?」

「あ」

 冷蔵庫の中身なんて覚えているわけがない。てっきりあるものだと思って買い物もせずに帰ってきたが小町がそういうなら材料は足りないんだろう。

「……買ってくる」

「しょーがない。小町もついて行ってあげる」

「いやそれは……」

「いーの。お兄ちゃん高いの買ってきそうだもん」

 ぐぬぬ、それは否定できない。専業主夫を目指すなら値段とか知っておかないといけないな。

「自転車、乗ってくか」

「いい。歩いてく」

「そうか」

 近くのスーパーなら歩いて行けるし問題はない。小町はすぐに出かける準備をして俺の袖を引っ張った。

「早く行こ」

 

 ついでだからと肉じゃが以外の材料も大量に買い込み帰路につく。もちろん荷物は俺が持つ、と言ったが小町は「じゃあ軽いほう持つ」と言ってきかなかったので二人で分けて持つことにした。

「小町ね、お兄ちゃんのこと好きだよ」

「へ?」

 ドキリ、と胸が高鳴る。もうほとんど忘れたが夢でそんな光景を見たような気がした。

「いやそういう意味じゃなくてね、家族として好きだよ。今朝だって、体調が悪かったのに小町の相手してくれたし……」

「それは」

「お兄ちゃんは誤魔化してたけど、明らかにヘンだったもん。それぐらい分かるよ。小町嫌われちゃったかな、って少し落ち込んだ」

「別に嫌ってない」

「小町のこと好き?」

 持っていた荷物を後ろ手に回して小町は俺の前で立ち止まる。夕暮れ時で太陽が傾いているせいか、小町の顔が陰っていて少し悲しそうにも見えた。なにそれ、彼女なの?と誤魔化そうとも思ったが、誤魔化したら本当に泣き出しそうな気がした。

「……大切に思ってる」

「も~、そこはハッキリ言って欲しいな~」

 このこのーと肘で突いてくる。これでも頑張った方なので褒めて欲しいですね。

「でも嬉しい」

 小町はそれ以上何も言わずてくてくと先へ進んでいった。

 

「いただきまーす!」

「いただきます」

 結局小町に教えて貰いながらなんとか肉じゃがを完成させた。我ながら微妙な出来だが小町は満足しているようだ。ならいいだろう。

 食べ終わって食器も洗い一息つこうとリビングのソファーに座る。

 小町はまた勉強していたみたいだったが飽きてきたのか鉛筆を置いてストレッチをした。

「ありがとね、お兄ちゃん。おいしかった!」

「いつも作って貰ってるしこれぐらいしないとな。あと俺だけで作ってないし感謝されるほどでもない」

「このヒネデレさんめ」

「うるさい」

 ふとテーブルに置かれた鉛筆に目がいく。

「なぁ、なんでシャーペンじゃなくて鉛筆使ってるんだ」

「……これお兄ちゃんが小町にくれた鉛筆なんだよ。忘れたの?」

 そうだ、この鉛筆は小町が中学三年生になったときにあげた鉛筆だ。少しでも合格率が上がるようにと五角形の鉛筆をわざわざ選んで十本ほどあげた。後から五角形のシャーペンのほうが良かったなとか思ったりしたがちゃんと使っていたみたいだ。

「小町これで合格したいんだ」

 すっかり短くなってキャップで長くしてある鉛筆は大事に使われていたことを証明していた。なにそれ、めちゃくちゃ感動するじゃん……。

「お兄ちゃん?どったの」

「いや、なんでもない」

 危ねー、もう少しで八幡の心のダムが崩壊するところだった。八幡ダムはそう簡単に決壊しない。多分。

「でももうあとこれだけしかないんだ」

「十本もあげたのにか?」

「え?あーまーそう、うん、勉強しまくっててさー。別に失したりしてないよ。ホントホント」

 これ何本か失してるな。ダム決壊しないわ。

「また買ってくる」

「ホント!ありがとー!」

 そう言って小町は勉強を再開する。今度は五角形のシャーペンを買ってくるしついでにお守りも買ってこよう。

 小町の頭をポンポンと撫でる。

「えへへー」

「あんまり調子にのんな」

 もっともっと、と差し出してきた頭を突き返す。ケチとかなんとか言われたが勉強に戻っていた。

 きっかけはアレだが、久々に小町のお兄ちゃんとしての役割を果たせて満足感を得た。結論としては小町は最高の妹ということだ。俺が友達がいなくてもさみしさを紛らわせるのは小町という存在が大いに貢献している。感謝するにしきれない。

 そんな小町もいつかお嫁に行ってしまうのだと思うと少し心が痛む。だが俺はきっと止めないだろうしむしろ応援するのだろう。相手が悪かったらそれは止めるが、小町はああ見えてしっかりしているし騙されることはないだろう。小町が幸せならそれでいい。

 って俺はお父さんか。小町のこと好きすぎない?ちょっと自分でもびっくりして引いちゃったよ。やめよやめよ。

「小町、コーヒー飲むか」

「うん、のむー」

 

 その日、俺は小町と手をつなぐ夢を見た。



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