全集中の呼吸で「最強」を目指すのは間違っているだろうか   作:V.IIIIIV³

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鬼殺の剣士に憧れた少年

「………退屈だ」

 

 昼下がり、普通は立ち入り禁止のところを窓から強引に侵入した屋上で、誰もいない静かなところで寝転がりながら俺は呟いた。そしてその呟きに呼応して、隣でフェンスに寄りかかりつつ俺の部屋の漫画をこっそりと持ってきた友人が言葉を返す。

 

「だよな。高3最後のインハイ終えてそろそろ本格的に受験に突入だっつっても、いざやるとなると気力湧かねーよ。なんかこう、アンキパンみてーのがあればちょっとはやる気になれんだけどな〜」

 

「お前は剣道があろうがなかろうが勉強しなかったじゃねえか。ちょっとは真面目にしたらどうだ?」

 

「俺の赤点回避に貢献しつつも成績上位にランクインし続けるお前と一緒にすんじゃねーよ!ったく、俺と同じ部活で同じことやってたはずなのにどうなってんだこの世のシステムはよ?二兎を追う者は一兎をも得ないんじゃねーのかよ!神様のバカヤロー!!!」

 

 そう言って友人は校庭に向かって振り返り、いるわけのない存在に向けて届くはずのない叫びを上げる。このバカはこれで屋上入りがバレる可能性が頭にないのだろうか。

 

「その諺は二羽捕まえられるって傲慢と二羽食いたいって欲に釣られたお前みたいなアホの話だろ。俺はちゃんと筋書き立てて人生を組み立ててっからな。毎日素振りは欠かさなかったし、毎日の勉強もしっかりとこなしてきた。インハイもテストもそれに付随したただの結果だよ」

 

「かーっ!さっすがインハイ三連覇の日本最強剣士は言うことが違うねぇ!」

 

 その言葉に胸に残る違和感を感じ、そっと胸を撫でる。

 

「最強か……」

 

その言葉が自分に向けて発せられていることに、少々の違和感を覚える。

 

 そもそも最強とは、何をもってその言葉を使うに値するのか、今の自分にそれを冠する資格があるのかは、分からない。

 

 最強、つまり最も強い剣士だ。特に俺を惑わせるのは、最もと言う部分。

 

 多くの高校生が目指してきたインターハイを悪く言うつもりはないが、納得できない部分は確かにある。

 

 例えインターハイで全国優勝したと言っても、それは高校生という極少数の社会的集団をくくった中の頂点だ。そんな小さなまとまりで頂点に立ったとしても、最強なんて名乗れるはずもないだろう。

 

 そもそも高校生という括りの中でさえ、俺はその中の全員と戦ったわけではない。欠場して出られなかった者、組み合わせの関係上トーナメントで当たることのできなかった者、剣士の素質はあるが剣道をやっていなかった者……例を出せばキリがない。

 

 とはいえ、トーナメントにおいて当たらずに消えた者の実力を超えたものと竹刀を交えて勝ったのだから、必然的に結果としてはその中での最強は俺ということになるのだろう。

 

 話を戻そう。今の自分に「最強」という言葉を使っていいのかは分からないが、「最強」にはただ一つ確かな答えがある。

 

 

 全世界73億人。直接だろうと、他の剣士の経験値を持った別の剣士から間接的にだろうと、その全てと竹刀を交え打ち破り、全ての経験値を手に入れた時こそ、真に最強を名乗ることのできる瞬間であると。

 

 

「だからよー。お前は頭が硬すぎんだってばよ。炭治郎になれるぜ」

 

 悦に浸っていた俺の意識を、寝転がる俺の横にいつのまにか移動しぽかぽかと暖かかった日光を遮るようにしゃがんでいる友人が引き戻して、俺に向けて読んでいる漫画の表紙を指差し見せつける。

 

「炭治郎かー。全集中の呼吸使えたらもっと戦いの選択肢も広がるだろうな……。っておい、人の漫画をそんな落ちそうな場所で読んでんじゃねーよ」

 

「だーいじょうぶだって。もう何回ここにきてると思ってんだ?もう怖さなんか感じねーし、滅多にふらつきなんかしねー、よ」

 

 急に立ち上がりながらそう言ったと思うと、立ちくらみでも起きたのかフラッと千鳥足になる。「そら見たことか」と内心呆れていたが、そんな思考は一瞬で吹き飛んだ。

 

(フェンスがない!!?)

 

 友人がよろけて向かう先の屋上の端には、フェンスが付いていなかったのだ。よくよく思い返せば、午前中に整備のために取り外していたのを見た気がする。

 

 身体中に今まで感じたことすらない悪寒が走り、直ぐにハッとして起き上がって、インハイ決勝以上の瞬発力で友人の手の平へと手を伸ばす。なんとか必死に手をつかむことはできたが、既に友人の体は屋上のどこにも付いていない。このままでは重力によって思い切り下へ落ちる衝撃によって、二人とも落ちてしまう。

 

 方法は二つ。

 

 一つは二人で落ちてなんとか助かる可能性にかける。確率は限りなくゼロに近く生存法がアバウトすぎる選択肢だが、運さえ良ければ二人とも生きることができる。

 

 そしてもう一つは…………渾身の力で友人を引き戻し、屋上へと着地させること。だがこの方法では、引き戻した時のエネルギーの反動で俺と友人の位置を入れ替わることになり、俺が死ぬこととなる。

 

 そこで俺が取った決断は…………。

 

 

 

 自らを捨てること。

 

(超絶ハイパーリスキーな作戦に賭けて死ぬよりか、救える命を救って死ぬほうがマシだ!!)

 

「ハアアア!!!!」

 

 正真正銘最後の最後。人生の終着点に全てを込める意思で宙に浮く友人の体を気合いで引き寄せ、後ろへの勢いそのままに手を離す。だがそのかわり、今度は俺が逆に宙へと放り出された。

 

 途端、世界の動きそのものがゆっくりと動くようになった。

 

(ああ、いい具合に振り返ることができて良かった。アイツの顔が、よく見える)

 

 そうやって見えたアイツの顔は心底驚いたような表情をしていて、せっかく話した手をまた伸ばそうとしている。でも、もう間に合わない。

 

(そんな顔すんなよ……せっかく助けてやったんだから)

 

「笑って生きろよ!!◇◇!!」

 

 そう叫んだところで、スローになっていた景色は元の速さを取り戻した。

 

 そして、クリーム色に広がっていた校庭のグラウンドに、赤い鮮血が飛び散った。

 

 

 

 ────────────────ー

 

 あー、なんかすっげえ楽な気分だ〜……。転落死って案外一番優しい死に方なのかも……。

 

「おーい、起きてくださーい。起きてくださーい」

 

「うわぁ!!亡霊の声!!?」

 

 いきなり耳元から聞こえてきた女性の声にビックリして意識が完全に覚醒し、体を起こす。

 

「え、あれ?体があるってか、無傷?」

 

 4階建ての校舎の屋上から落ちて本来ならばグチャグチャでなければおかしい自分の体が、五体満足でそこにある。一瞬まさか生きているのではないかとも思ったが……。

 

「当たりですよ。ここは死後の世界。私は日本で死んだ人々を導く女神です」

 

「へーなるほど……。あの、やっぱりちょっと納得いかない点があるんで、質問いいですか?」

 

「はい、もちろんですよ」

 

(いきなり死んだなどと言われても受け入れることが出来ないのは当たり前。ちゃんとその辺は心得ているんですよ)

 

「では、まず何が起こったかの復習から「日本人みんなを導いてるのに、女神一人で足りてるんですか?」へ?」

 

 女神さんが目を点にしてポカンとした表情でこちらを見つめている。

 

「ああ、死後の世界と日本では時間の進み方が違いますので、問題なく導くことができますよ」

 

「なるほど、そうなんですか」

 

「……失礼を承知で言いますが、お亡くなりになられたのに冷静なのですね」

 

「剣道をやっていまして。予想外の攻撃にも瞬時に対応できるよう練習していたら、かなりの状況判断力がついていました。自分で言うのもなんですが」

 

「……驚いた。ここが死後だと言ってもほとんどの人が最初は頑なに信じなかったものですよ。あなたくらいの年齢なら尚更」

 

「別に少し考えただけですよ。あの高さから落ちて五体満足なんて有り得るわけがないし、夢だったとしたら俺の知ってる人物しか現れないはず。だとしたら女神さんが俺の目の前にいる時点で夢オチの線もなしです。まあ理解出来たからとはいえ、生きることに未練がないかと言われたら嘘になりますけどね……」

 

 せっかくここまで育ててくれた両親に申し訳ない気持ちや、鬼滅の刃を完結まで見届けられなかったこと。正直ずっと最新刊を楽しみにしていた唯一の娯楽であった分、こっちの悲しみの方が大きいかもしれない。両親には悪いが。

 

「……その気持ちはすごく分かります。ですがまだ諦める必要はありません。私はあなたに、次なる道を与えに来たのですから」

 

 一度言葉を切って、少し息を吸い直してから言った。

 

「ファンタジーの世界はお好きですか?」

 

「……え?」

 

 判断材料が少なすぎるゆえ、少し混乱した。

 

「簡単に説明すればこうです。人間には、与えられた才能に応じてこなさなければいけない功績、善行の義務があります。普通に生きていれば直ぐにノルマは達成できるのですが、貴方は与えられた才能が大きすぎるため、半分ほど達成できぬまま生涯を終えてしまったのです……」

 

 筋が通っている話だとは思うが、インハイ三連覇の功績と人一人助けて死んだ善行加算してもまだ半分残るノルマって、どんだけ多いんだよ俺に課せられた義務。

 

「ですので、そういう人間に限って、異世界へ転生する権利を得るのです!」

 

「あ、なるほど。異世界に行って残った義務を消化してこいってことですね」

 

「はい、飲み込みが早くて助かります!」

 

 そう言って女神様が指をパチンと鳴らすと、少し大きめのノートパソコンが出てきた。画面には左端に少し大きめに「50P」と書かれている。

 

「異世界は日本とは似ても似つかない危ない場所です。なので、転生する方には転生特典を差し上げることとなっております。その画面に映った50Pという数字がつけられる特典の上限です。50Pはあなたの達成ノルマの残りですね」

 

「ちなみに、50Pだとどんな特典がつけられるのですか?」

 

「そうですね。あなたの好きな鬼滅の刃で例えると、悲鳴嶼行冥と同等の実力を得られるといったところでしょうか」

 

 鬼殺隊最強と同じ力かよ。どんだけだ俺のノルマ。

 

「分かりました。考えておきますから、ゆっくりしていてください」

 

「はい。では勝手ながら次の魂を導いて参りますので、考え終わったら読んで頂ければ」

 

 そう言って、女神様は消えていった。

 

「…………大変なんだな、女神って」

 

(さて、特典を考えるとするか……)

 

 とはいえ、いきなり特典と言われても迷うな。50P全部使って悲鳴嶼さんになるのもいいが、それだとただの丸パクリだからな……。それなら。

 

「全集中の呼吸全てを使いこなせる力……っと、あれ?」

 

 画面中央に「ポイントオーバー」の表示が現れる。

 

(考えてみりゃそうか。50P全消費で岩の呼吸一つを極めた悲鳴嶼さんになれるだけなら、全呼吸を使いこなすなんていったら何ポイント必要なのか計り知れない。……ならこれでどうだ)

 

 次は「全集中の呼吸全てを極めることのできる適正」と打ち込む。今度はポイントオーバーの表示は出ずに、50Pとあった表示が35Pに減っている。適正に妥協しただけでこれだけポイント消費が減るとは。それだけ全集中の呼吸は奥深いということか。

 

「さて、大分ポイント残ったし、出来るだけ最高の仕上がりにするか!」

 

 

 

 ──────────────────

 

「うしっ!こんなもんかな!」

 

 勢いよくノーパソのエンターキーを叩き、プリントに特典内容を印刷する。

 

「見れば見るほどこれ以上ないほど無駄のないポイントの使い方だな」

 

 そう言って出てきたプリントを両手で掴み、自分の目の前に掲げてもう一度見直す。

 

 ・全集中の呼吸全てを極めることのできる適正(15P)

 

 ・最高品質の日輪刀(25P)

 

 ・転生してからの食料5年分(5P)

 

 ・ヒノカミ神楽の舞い方の知識(2P)

 

 ・転生後の世界の言語、文字の理解能力(1P)

 

 ・転生した後の場所の指定(1P)

 

 ・転生した時の年齢の指定(1P)

 

(正直鬼殺隊の隊服も欲しかったところではあるが、何気に5Pとか値が張ってたからな。妥協も大事だ)

 

「女神さーん!特典出来上がったんできて下さーい!!」

 

 と、誰もいない真っ白な天井へと向かって叫ぶと、いきなり俺の目の前が眩く光った。そのあまり眩しさに一度目を閉じてしまいもう一度目を開けると、そこには先ほどの女神様が鎮座していた。

 

「もっと時間をかけるかと思いましたけど、案外早かったんですね」

 

「そうなんですか?俺としてはポイント調整とかで結構時間かけたと思うんですけど。あ、これが特典内容です」

 

「普通の人……と言ってもそもそも転生する人が現れるのが数十年に一度くらいなのですが、皆さんせっかくチートが貰えるのだからとかなり時間をかけてお決めになるんですよ」

 

 そう言って、女神様は俺の選んだ特典内容をマジマジと見つめ始めた。

 

「……なんと言いますか、面白い特典の使い方をしますね。この、転生後の場所と年齢はどうしましょうか」

 

「はい。場所は鬼滅の刃に出てくる狭霧山のような山、年齢は5歳でお願いします」

 

「承知しました。では、転生した時には特典が貴方に与えられている状態にしておきますね」

 

「あ、一応ひとつ確認しておきたいんですが、前世で残った義務を果たすんだったら、転生って言っても俺の体のまま異世界に行くんですよね」

 

「そうですね。指定なされた5歳まで戻りはしますが、その細胞、遺伝子自体はそのままです。転生というよりも、召喚といった方がいいかもしれません」

 

「分かりました。女神様、色々とお世話になりました。貴方の顔に泥を塗らないよう、残った義務の何倍も功績、善行を果たしてきます!」

 

 深々と頭を下げて、精一杯の感謝の意を示す。一度失った命とその先の人生をまた歩ませてくれる上に、まだ上を目指すことの出来る力まで分け与えてくれたんだ。どれだけ感謝しようとし足りない。だからこの恩を、功績と善行を積み上げる事で返さなければならない。むしろノルマを追加してくれてもいいくらいだ。

 

 そんな俺を見て、女神様がフフっと微笑んでいる。あ、そういえば女神様って心読めるんだっけ。なんか恥ずかしいな。

 

「……異世界には、オラリオという都市が存在します。そこにはダンジョンがあり、そのダンジョンは未だ完全には攻略されていません。そしてそれを攻略すべく、全世界から強者がそこに集っています。貴方が目指す最強も、そこに行けば見つかるかもしれませんね」

 

「最強」。その言葉を聞いて、俺の心臓の鼓動が高鳴った。中途半端に終わった最強への挑戦に、まだ幕を閉じなくてもいい。また挑むことができる。その事実にワクワクが抑えられない。

 

 

 早く行きたい。その世界に。挑戦したい。新たな最強に。

 

 

「そこにある穴に飛び込めば転生できます。貴方の新しい人生に、栄光があらんことを……」

 

 そう言って俺たちの横に現れた穴に指をさして、女神様が上品に礼をした。

 

「……ありがとうございました。女神様、行ってきます!!」

 

 もう一度女神様に深く礼をして、走って転生の穴へと飛び込んだ。

 

 これは俺……天道刃(てんどうやいば)が、太陽の刀とともに、最強を目指す物語だ。




なんとなく鬼滅の刃とダンまち見てたら合いそうだなって思って書いてみました。ゴミ更新速度ですがこれからよろしくお願いします。

ちなみに特典のボイント調整は少しは考えましたが、だいぶ適当なので突っ込まない方向で・・・

P.S 投稿したその日に申し訳ありませんが、ストーリーが作りにくかったため転生特典の食料の部分を3年分から5年分に変更しました。誠に勝手で申し訳ありません。
更にP.S 本作は原作開始11年前スタートで、原作開始は主人公が16歳あたりでと考えています。つまりアイズと同い年ってことですね。

主人公の名前の天道刃の由来は、刃は普通に鬼滅の刃から。天道は太陽を意味する御天道様(おてんとさま)から取っています。

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