全集中の呼吸で「最強」を目指すのは間違っているだろうか 作:V.IIIIIV³
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本日、
多少街の建築物に被害はあったものの、《ガネーシャ・ファミリア》《ロキ・ファミリア》、《ヘスティア・ファミリア》の尽力により、死傷者重傷者はともになし。
混乱は沈静化してオラリオに平和が戻ったものの、事後の調査により、今回の件は計画的犯行であったことが判明した。
犯人については手掛かりがなく、犯行方法も目的も全く不明。原因の解明が急がれる。
ギルド議事録 記録者 エイナ・チュール
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日が完全に落ちた直後の夜の始まり。世の中の働く者たちの大多数が就業時間を終えるこの時間は、酒場が一番にぎわう時間帯だ。現にここ『豊穣の女主人』もそのような者たちであふれかえっている。
狭い酒場ががやがやと楽しそうに賑わい、たくさんのジョッキがぶつかりあう音や食器を鳴らす甲高い音が相乗してうるさいくらいに鼓膜に響く。
「シルー!二階でちょっと休憩してていいよー !ついでにあの坊主にこれ持ってってやんな!」
「はーい!」
熱気に包まれている彼らから離れて二階へと上ると、物理的な距離のせいで若干の静けさを感じ、一階の騒がしさもどこか他人事のように思えてくる。
「スゥ……スゥ……」
「あら、かわいい寝顔」
階段を少し上がって二階の柵の間から顔をのぞかせてみると、そんな心地よさにあてられたのか、二階で縮こまって座っているベル・クラネルは、襲い来る眠気に耐えられずうたた寝に興じている。
「……ふあ、シルさん……」
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたね。女神さまのご様子は?」
「疲れが出て眠っているだけみたいです。お騒がせしました。ベッドまで貸していただいちゃって」
「困ったときはお互い様ですよ。ミアお母さんにも許可は取っていますので。これもその一つです」
そういうとシルは、手に持っていたお盆を顔の高さまで引き上げて、柵の間を通してベルの前にコトリと置いた。
置かれた器の中身は、大きな塊肉を豪快にステーキにして、その周りを付け合わせ料理が取り囲む肉料理。
いかにも値段の張りそうな肉を目の前に口内で唾液があふれ出し今にもかぶりつきたい衝動に駆られ前のめりになるベルだったが、懐で揺れる金属音の軽さに我を取り戻しギリギリ踏みとどまることができた。
「ありがとうございます、シルさん。でも、僕お金が……」
「お代はいりません。だってもとはと言えば、私がお財布を忘れてしまったせいで……ベルさんを騒動に巻き込んでしまって…………」
「いえ!そんな!シルさんのせいじゃ!」
言葉の尻に近づくにつれてシルの声がどんどん暗くなっていくので、ベルは慌てて土下座しながらシルの言葉を否定しようとする。
「おーいシル!そろそろ戻ってきて!こっちの子の食べる量が多すぎて人出が足りないんだよ!」
そんな二人の空気の中に割って入ったのは、厨房担当のメイが、シルを呼び出す声だった。
その声につられて二人そろってホールの方を見ると、そこでは通常の冒険者五、六人分の量の器を空にして積み上げつつも、いまだ食べるペースを落とさず目の前の料理にがっつき続ける男がいた。
その男は毛先が赤みがかった長めの髪を後ろでひとまとめにし、トレードマークの太陽の黒羽織を羽織って、赤みがかった瞳をギラギラと輝かせる剣士。
「すいませーん!これもう二皿追加でー!」
そう、天道刃である。
「あいつ……知らないうちに起きてたと思ったら、昏睡明けにあんなにドカ食いして……」
「あっははは、元気でいいじゃないですか」
遡ること約一時間前、シルバーバックとの戦闘の後、近頃のいろいろな疲れからか眠ってしまったヘスティアをどこかで介抱しようと運んでいると、途中から戦いを見ていたシルが出てきて、「うちの店を使ってください」と許可をもらったため、最初は渋ったものの厚意に甘えることにしたのだった。
……そうして店に着いた時、
『おー、
『えぇ!?刃、なんでこんな、ていうか意識戻っ、え!?』
『ん、ぷはぁ。どうしたそんなに動揺して。あ、金なら心配しなくていいぞ。オラリオ来る前に稼いだ分がまだ残ってたからな。ていうか、ヘスティア様どうした?』
ベルが心配や驚愕などの様々な感情に振れまくっているのに対し、その相棒は楽観的なご様子。
ヘスティアを二階のベッドに寝かせたあと急いで刃に詰め寄ると、刃もまたモンスターとの戦闘を繰り広げていたことにベルはまたも大声を上げて驚愕した。
そして刃は戦闘を終えてミィシャと食事の話を取り付けたことで、自分が
ある意味刃の救援要請を受け取ったミィシャは大笑いすると、『もう時間も良い頃だし、今から行っちゃおっか!』とミィシャが言って、刃も迷わず賛同して酒場へ向かおうとすると、二人の空気を壊すまいと傍観していたエイナが二人を…………厳密に言うとミィシャを引き止めた。
『……あのね、ミィシャ。私たち、これからギルド職員として今日の事後処理しなきゃいけないの。だから刃君には悪いけど、その…………この子、連れてくね?』
『やだああああああああ私はけが人だぞおおおおおおお!!!』
──というわけで、ミィシャが連行されていったものの、刃の腹の虫が鳴りやむことはなかったため、当初の予定通りに酒場へ行くことにして、なんとなくビビっと来たこの『豊穣の女主人』にてこうして飯をむさぼりつくしているわけである。
「おーいシル―!はやくー!」
「はーい!今行きまーす!あっ、そうだ」
ホールのアーニャからも催促がかかったため、急いでホールへと向かおうとしたシルだったが、何かを思い出したような表情で踏み出した足をクルリと翻した。
「街の方々が言っていましたよ。モンスターと戦っているベルさんは勇敢だったって」
「そ、そんな。勇敢なんて言ってもらえるような立ち回りはできなかったですし……」
「そんなことありません。実は私も…………」
シルが体を傾けて柱の間に顔を寄せてくるので、それに合わせてベルも耳を傾けてシルに近付く。
「……見惚れちゃいました」
「……ッ!」
その言葉の破壊力と、耳元で美人に囁かれるというシチュエーションも相まって、ベルの頬は耐熱量を軽く飛び越えて真っ赤に染まった。
シルは恥ずかしがるようにお盆で顔を隠し、トタタっと階段を駆け下りホールへ降り立つ。
帰り際に空き皿を回収していく中で、刃のテーブルにも立ち寄った。
「こちらお下げしますね」
「ありがとうございます。それに、うちのファミリアのことも」
「いえ、ベルさんにも言いましたが、困ったときはお互い様ですので。お聞きしましたよ?あなたもモンスターと戦ったって」
「……えぇ。しかもそいつ、なんだか俺を狙っていたように見えたんですよ。聞いた話によれば、ベル達が戦ったモンスターも、ベル達を狙って追いかけていたらしいですし。一体犯人は、何が目的だったのでしょうね」
刃はコップの水を飲みほして口の中をリフレッシュして、さわやかに笑いながらわかるはずもない疑問を投げかける。
「…………さぁ。私にはなんとも。犯人はお二人に惚れていたのではありませんか?なんて」
「はは。惚れたから襲わせるって、なかなか物騒な発想してますね」
「ふふふ。確かにそうですね。でも「ヤイバくーん!いるかーい!?仕事早く終わらせてきてやったぞー!!」……あら、お連れ様が来たみたいですね。では、私はこれで」
入り口の扉を勢いよく開けて、ミィシャがやってきて刃の隣に座った。
シルはここでお役御免ということを察して、にこやかに笑いかける。刃もそれに笑顔で返すと、シルは軽く頭を下げて厨房に去っていった。
何気ない店員と客の会話。ただ一つ普通と違う部分があったとすれば。
彼らの目が、終始笑っていなかったことだろうか。
「どうしたんだよヤイバくーん!せっかくミィシャさんが来てやったんだからもっとテンション上げてこーぜー!ミアさん!エールちょーだい!」
「十分上がってますよ。ていうかミィシャさん、飲む前からすでに酔ってないですか?」
「何言ってんの!夜はまだまだこれからだよー!」
妙にテンションの高いミィシャに対抗するように、二階から勢いよく扉を開いて、目の周りを赤くはらすベルの手を引いた女神が現れた。
「僕抜きで随分盛り上がってるようじゃないか!抜け駆けは許さないぞー!」
「おはようございますヘスティア様。元気そうでよかった」
「それはこっちのセリフだぁ!!こっちにもエール一つ!」
刃の向かいの席に座って怒鳴りながら、厨房の方を向いて酒の注文を済ませるヘスティア。その隣にベルも座って刃のテーブルの席が一瞬で満席となった。
「全く、君は気付けばいっつもグースカグースカ!一体ボクにどれだけの心労をかけさせれば気が済むんだい!?」
「うっ、言うこと全部的を射てるせいで反論出来ない……「でも!」?」
「信頼は揺るがなかったぜ!ボクの最強の眷属くん?」
テーブルに肘をついて組んだ両手の上に顔を乗せ、屈託のない笑顔でそう言い放った。
その言葉を聞いて、刃の中にどうしようもなくある感情が湧き上がった。それは自分を信頼してくれたという嬉しさも、今度こそヘスティア、ひいてはベルに心配はさせないという決意すらも押しのけて、忘れていたことを呼び覚ますようにふつふつと心の炎が燃え盛らせた。
「いえ、今の俺には「
それは、彼が前の世界では半ばで折れ、この世界で果たすことを決意したただ一つの野望。
(
そんなことを考えながら、刃は崩れ行く精神世界でかわした時透との最後の会話を思い出す。
『……時透、お前がここに現れたってことは、やっぱそういうことなんだよな』
『うん、君が思ってる通りだよ。想像から疑いまで、全てね』
願わくば否定してほしかった。自分の考えすぎであってほしかった
『最悪だな。大女神様は一体どんなノルマを課したってんだ?』
『さぁね。僕にはわかんない』
やせ我慢のように吐いた冗談を、時透は軽く受け流す。刃は少しうつむいて、いつにもなくか細い声で呟いた。
『……正直、重く感じてるよ。俺にはそんなこと『できるよ。君なら』……でも、俺は』
『大方、自分を犠牲に友達を守ったあの時のことを、失敗だとか考えてるんでしょ?』
図星だった。相変わらず、自身の思考を読んでいるかのような時透の発言に、刃は少しだけ恐怖を覚える。
『あの場ではあれが最善の救出だったと思うよ。それを恥じることはない。ただ、あれを最高な救出だったと言うつもりはない。結果的にあの子は助かったけど、心には君を死なせてしまったという深い傷が残っただろう』
『………………』
何から何まで、時透の言葉は俺の奥の触れられたくない部分をついてくる。
『で、だから何?』
『?!?!?!?!?』
『君があの日のまま成長してないなんて誰が決めたの?僕とあれだけ修行してまでそんなこと言えるなんて、うぬぼれないでくれる?』
『ちょ、まて、いきなり言葉の使い方おかしくないか?』
心の的確にえぐってきていた先ほどまでとは打って変わって、理解が追いつかないののしり方をしてくる時透。
『だめだったから悔やんで、最善を最高にするために生きていくんだよ。
──ー自分の終わりを、自分で決めたらだめだよ』
そのワンフレーズを聞いて、刃はハッとした。前世で何度も読み返したあの戦い。自分にたくさんの勇気をくれた目の前の人物が、勇気をもらったあの場面がフラッシュバックする。
『大丈夫。知ってるでしょ?人のためにすることは、巡り巡って自分のためになる。そして人が自分ではない誰かのために戦うとき……』
信じられない力を出せる生き物なんだ。と、時透の言葉に続くように、心の中である人物の声がこだました。
既に刃の心に、曇りは一点もなくなっていた。間違いなく時透のおかげで。
だから彼は、今までの恩返しか意趣返しか、どちらを使えばいいのかわからない感情で、言葉を返す。
『うん、知ってる』
それを聞いてフッと笑った時透の体はうっすらと半透明になっている。もう時間がないということだろう。
『おそいんだよ。僕らが君になにかできるのはこれきりなんだから、あんまり世話焼かせないでよね。……そうだな…………』
時透がおもむろに上方を指さす。つられて刃も見上げると、太陽が猛々しく燃える快晴の青空が広がっていた。
『天道の天は"晴天"の天。晴れた君の空には、きっと"無限"の可能性が広がってるよ』
『プフっ、そこそこ考えた割には案外そのまんまなこと言うんだな。語彙力は兄貴に吸い取られちまったか?』
『うるさい。現実では君の仲間が大変だっていうのにこんなことしてる暇あるの?さっさと帰りなよ』
『はぁっ!?初耳なんですけど!?早く帰らねえと、っと!』
刃は早く帰ろうとあたふたしていると、ふと何かを思い出したような素振りで振り返る。
『時透。
そして刃は両のかかとをカッとあわせ、右手を剣の柄に添えて、姿勢よく立つ。そして大きく息を吸い込んで、大声で言い放った。
『ありがとうございました!!!』
その一言には、数え切れないほどの意思が含まれていただろう。前世で、今世で刃の力となってくれたこと。そして刃の裏にうっすらと見える、たくさんの黒い服を来た者達、ひょっとこをつけた者達の思いまでも。
刃はいつの間にか出口へ向かって走っていって、もう姿は見えない。いや、そうでなくても捉えることは出来なかっただろう。
彼の目からこぼれる涙が、それを邪魔するから。
『ほらね。やっぱり、無駄死になんかじゃなかっただろ……兄さん』
泣きながらもにこやかに笑いながら空に語りかけるその心は、決して「無」などではなかった。
「…………さて、明日からまた二人でガンガンダンジョン行くためにも、今日は腹ごしらえするぞ、ベル!!」
「まだ食べるの!?そろそろやめときなよ、お腹壊しちゃうよ!」
「なあに、このくらいどうってことねえさ!こちとら育ち盛りの男子高校生じゃい!」
「あ、そうだぁ、刃君」
ベルと肩を組み合って料理の追加注文をしていると、後ろから酔った様子のヘスティアの声が聞こえ、刃は振り向いた。
「はい、どうしました?ヘスティア様。それにミィシャさんも(なんだ?なんか嫌な気配が……)」
「「君、しばらく冒険禁止ね」」
「え?」
さて、
彼らの歩んだ足跡は、今日もこの街に『
…………彼らと言っても、まだそのメンバーは全然揃ってはいないが。
「おら、何してやがる。さっさと行くぞ、この使えねえ腐れサポーターが」
「……………………」
さて、お前達はどうする?
刃の心「いや、(冒険できなきゃ)どうにも出来ねんだけど」