全集中の呼吸で「最強」を目指すのは間違っているだろうか   作:V.IIIIIV³

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契約のち耳飾り

「急に来てもらってすまないな。粗茶だが、良ければ飲んでくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 テーブルの上にコトリと置かれた湯呑みを持って、熱々のお茶を一口啜る。

 

(あ、やっぱりこれ緑茶だ)

 

「美味いだろう。知り合いのツテで取り寄せた本場ものだ。見たところお主も手前と同じで、極東出身のようだからな」

 

 そう言って俺たちの対面に座り、自分の分のお茶を豪快に流し込む大柄の女性。

 

 彼女の名は椿・コルブランド。この摩天楼(バベル)にいくつもの店を構える 鍛冶師(スミス)系《ヘファイストス・ファミリア》の団長で、オラリオに数多に存在する鍛冶師の中でも頂点に君臨する最上級鍛冶師(マスター・スミス)の称号を持つ鍛冶師である。

 

 しかし、彼女が1ファミリアの団長たる由縁は、勿論鍛冶の腕前だけではない。彼女は鍛冶師として最上級の実力を持ちながら、自身の打った武器を自ら使いこなす、lv.5の第一級冒険者なのである。ちなみにこれは本人いわく、「武器の試し斬りをしていたらこうなった」らしい。

 

 あの後、俺は彼女に連れられて、刀のショーウィンドウの店を入った裏にある、隠し部屋のようなところにお邪魔している。《ヘファイストス・ファミリア》が経営するお店である以上、どこにでも作品を出品している団長は顔が利いて、出入り自由なんだとか。

 

 なお、ミィシャさんは用があるとかで、俺を置いて行ってしまった。用ってそれ尾行のことでしょう。

 

「それで、コルブランド氏「堅苦しい呼び方をするな。椿でいい」──では、椿さん。これが俺の刀、日輪刀です」

 

 背中がけの刀を下ろして、テーブルの上にそっと置く。

 

 すると、椿さんの雰囲気が少しだけピリついたものになった。

 

「……頼んでいる立場で言うのもなんだが、そんなに簡単に渡して大丈夫か? 冒険者にとって武器(それ)は共に生き抜く"命"、半身だ。少なくとも手前はそうあって欲しいと思っている。特に、手前の打った武器を使う者にはな」

 

 少し低くなった声色に、椿さんの鍛冶師としての矜恃のような、プライドのようなものが垣間見える。

 

 聞くところ、椿さんは一流の鍛冶師と呼ばれるようになってもう長い。鍛冶師として名を挙げたことで、その名に群がるように武器を欲する冒険者も多かったのだろう。

 

 ただ自分の名を挙げたいがために、手っ取り早く実力をつけたいがために強い武器を欲する者は大勢いる。

 

 それ故に椿さんは、自身の武器を軽々しく扱う者を許せないのだろう。こうして俺に諭すように問いかけてくれている。その心意気だけで十分信頼できる根拠に足るのだが、おそらくこの人はそう言っても納得はしないだろう。

 

 どう伝えようかと考えていると、ふと先日あったホームでの出来事を思い出す。

 

「……俺の信頼する人達があなた方のお主神を信頼していましたから」

 

 それは先日、ベルがダンジョン探索から帰ってきたときの一幕。

 

 帰ってきたベルが荷解きをして出てきた戦利品や洗濯物を整理回収していると、いつもベルが使用していたものとは違う、上から下まで真っ黒なナイフが置いてあったのを見つけた。

 

『ベル、ナイフ新調したのか?』

 

『あ! それね、神様が僕にプレゼントしてくれたんだ! 神聖文字(ヒエログリフ)で何か書いてあって、意味は分かんないけど、すっごくかっこいいよね! それに……』

 

『分かった、分かったから』

 

 興奮してナイフの魅力を語るベルを宥め、許可を貰ってナイフの刀身に目を移す。ナイフのには確かに、これまで見たことの無い文字が刻まれていた。表面や裏面だけでなく、刃の部分までビッシリと。

 

 その時気付いたのだが、どうやら俺はヒエログリフとやらを完璧に読み解くことができるらしい。ヒエログリフとはその名の通り、天界に住まう神様達が扱う文字。下界人の俺たちにとっては、博識な人たちが必死に勉強してやっと少し読めるくらいのものであるらしい。

 

 なぜそんな文字を俺が読めるのかと言えば、考えられる理由はただ一つ。

 

(あ、『転生後の世界の言語、文字の理解能力』……)

 

 そう、転生する際に決めた特典のうちの一項である。あの時はただ「周りとのコミュニケーションに手間取ったら嫌だからな~」というつもりだけだったのだが、まさかこんな仰々しいものまで読めるとは思わなかった。恐るべし、大女神さまの力。

 

 そんなわけで、好奇心にそそのかされるまま刀身に刻まれた文章を解読していく。なにやら個人的な文言が目に入った時点で読むのをやめたが、読み進めたあたりのところまでで大体の経緯は予想できた。

 

『ヘファイストスから盟友ヘスティアへ……か』

 

「……詳しくは言えませんが、俺の信頼する相棒(ベル)を溺愛している神様(ヘスティア様)が、あなた方のお主神(ヘファイストス様)に大切な相棒の"命"を託しました。そんな方が信頼して団長を任せるあなたを疑う余地は、俺にはありません」

 

 俺が語った根拠を聞いた椿さんは一瞬の間を置いてから、空を仰ぎながら大口を開けて、高らかな笑い声を上げた。

 

「はっはっは! これは一本取られたな! そうか、ヘファイストス様が鍛冶場に籠っていたのはそういうわけだったのか。それは手前もヘファイストス様に感謝せねばな! そう考えると、こうしてお主と話しているのも何かの縁かもしれんな」

 

 そう言ってなおも笑い続ける椿さんの姿からは先ほどのピリつきは抜けていて、外見から想像していた通りの豪快な性格が表に出ていた。きっとこれが彼女の素なのだろう。

 

 なんとか椿さんの試験? を通過できたことにホッとして、釣られて俺の顔からも次第に笑いがこぼれだす。

 

「そういえば、まだ名を聞いていなかったな。なんというんだ?」

 

「天道刃です」

 

「そうか。お天道様とはまた大層な名を持って生まれたものだな。では刃、お主の刀を少し借り受ける」

 

 椿さんはテーブルに置かれた日輪刀に手を伸ばし、一気に白銀の刀身を抜き切った。

 

 それからは刀と二人きりの世界に入ってしまったようで、色々なことを試していた。刀の全体像を嘗め回すように観察していたと思えば、立ち上がって普通に振ってみたり、槌で刀身を満遍なく小突いてみたりなど。刀鍛冶のノウハウがない俺から見たら何をしているのかさっぱりなのだが、やはり最上級鍛冶師(マスター・スミス)のやる事となれば、なんらかの意味はあるのだろう。

 

「うーむ……」

 

 お茶を飲みながらまったり待ち十分ほど経過した頃。椿さんが初めて動きが止め、手に持った刀を眺めながら低いうなり声を上げた。

 

 どうかしたのかと見ていると、椿さんが刀を見つめたまま なあ刃、と問いかけてきた。

 

「この刀は誰が打ったものなのだ?」

 

「え、っと……」

 

 椿さんの問いかけに俺は一瞬戸惑い、言葉が詰まった。

 

 この日輪刀は、転生する際に貰った特典のうちの一つ。なんなら一番値が張ったメインの物である。そのため当然この世界に生まれ落ちた時には傍らに用意されていたし、製作者など分かるはずもない。それどころか誰かが打ったものなのか、無から生成されたものなのかすら分からない。

 

 強いて言うならば大女神様が製作者なのだろうが、そのことを安易に口に出すわけにもいかないだろう。

 

 適当なごまかしを言ったとして急ごしらえの嘘ではすぐにボロが出るだろうし、何より椿さんに失礼だ。となればとりあえずぼかしておくしかない。

 

「それが、その……。その刀は俺の故郷に代々伝わる刀で、もう何百年も前の代物なので、詳しくは俺にも」

 

 なんとか原作のあの刀の設定を流用してそれっぽい事情を作ることができた。これならばある程度の追求なら原作を思い出すことでなんとかなる。我ながら上手くぼかすことができただろう。

 

 最大の関門と言える質問をクリアし、一安心してお茶を啜る。

 

「そうか。では刃よ。お主は神であったりするか?」

 

「ぶーーーっ!!」

 

 口に含んだお茶が勢いよく吹き飛んでいった。僅かに残った水分が気管に侵入し、異物を排除せんとして激しく咳きこむ。

 

「けほっ、けほっ。な、何言ってるんですか椿さん? そんなわけないじゃないですか」

 

「はっはっ、だろうな。言ってみただけだ」

 

 そう言って笑う椿さんが刀を鞘に納め、テーブルに戻ってきて俺にタオルを差し出してくれた。

 

 一言のお礼を欠かさずにタオルを受け取って口周りに付着した水滴をふき取り、椿さんの話に耳を傾ける。

 

「この刀からは、神の意志を感じる」

 

 冷や汗が一筋、頬を垂れる。

 

「なにか仕掛けがあるように感じるのだが、何を試してもうんともすんとも言わん。だが、確かにここには神の力があるのだ」

 

 恐るべし、最上級鍛冶師の洞察力。確かにこの刀には、呼吸に反応して光を発するという特性がある。

 

 もちろんただ光るだけの剣な訳はなく、呼吸の特徴に刀が寄り添う感覚みたいなものがあるようにも感じる。それぞれ異なったとがり方をする呼吸を使いこなすために備えられた特性のようなものなのだろう。

 

 それにこの刀には、俺が開放できていないだけで、まだほかの特性も眠っている。

 

 とりあえず分かっているだけの特性をここで見せてもよいのだが、どうやら、椿さんの目的はそこにはないようだ。

 

「手前が目指す神の領域が、いま目の前にあるのだ。この刀と徹底的に向き合ってみたい」

 

 そこでだ、と前置いて椿さんは席を立ち、テーブルをぐるりと回って俺の真横に立った。

 

 何をされるのかと椿さんの顔を見上げながら構えて待っていると、突然椿さんが俺の視界から消えて、地面に膝をついて、両手の握り拳をゴッ! と地面に突き立てて、決意の目で俺を見上げた。

 

「頼む刃。今後、この刀の手入れを手前にやらせてもらえないか」

 

 それは、駆け出し冒険者に最上級鍛冶師が鍛冶契約を懇願するという、はたから見ればなんともおかしな光景だった。

 

「ええっ!? そんな、俺最上級鍛冶師(マスター・スミス)に依頼するお金なんかっ」

「代金はいらん! 見返りも何らかの形で必ず用意する! 何か問題があった時には、容赦なく契約を切ってもらって構わん!」

 

 そう告げる椿さんの目は、体裁など全く気にしない、ただ実直に高みを目指す者の目だった。

 

「必ず最高の品質にして返すことを約束する。だからお願いだ。お主の命を手前に預けてくれ」

 

 そんな彼女と真正面から向き合えば、俺には迷う余地などない。見据える場所は違えど、同じく高みを目指す者として、彼女の思いに応えずにはいられない。

 

 テーブルから立ち上がって椿さんの前に立ち、こちらも膝を着いて正座し、目線を合わせる。あくまで対等な立場であることを示すために。

 

 そして、膝の上に乗せた手のひらを片方、椿さんに差し出した。

 

「分かりました、椿さん。俺の命、あなたに預けます」

 

「……! 感謝するぞ、刃!」

 

 椿さんが地面についた拳を解いて、俺の差し出した手を掴み取った。

 

 こうして、駆け出し冒険者と最上級鍛冶師(マスター・スミス)の、奇妙な協力関係が始まった。

 

 

 

 昇降機が下降し終わり、数時間ぶりに地面に降り立つ。塔内から街へ一歩踏み出せば、人工的な真っ白い照明の光から一転。どっぷりと地平線に沈みゆく太陽が、最後の力と言わんばかりに街を茜色に染め上げている。

 

「おぉ、いつの間にかこんな時間か」

 

 椿さんとの話が思ったより長引いていたのか、バベルを出るとすっかり夕方になっていたことに気付く。塔に入る頃 真上にあった太陽はとっくの昔に過ぎ去って、上を見上げれば黒いカラスが茜色の空を一匹、二匹と横切っていくのが見られた。

 

「ベルたちは……。もう帰ったっぽいな」

 

 とくれば、それを尾行していたミィシャさんも帰ってしまったことだろう。そうと決まれば長居する用事もないため、俺も帰路に着くことを決める。

 

 少し掘り出し物エリアを見て行きたくはあったが、生憎突発的に連れてこられたために金を一銭も持っていなかったことに気付き、帰宅を余儀なくされてしまった。

 

 掘り出し物の話を聞いたからついでに尾行にしていたようなものだったのに、これじゃただ尾行しに来た人じゃないか、と落胆してため息を吐く。

 

「いや、椿さんに出会えたのはプラマイで言えば普通にプラスだな」

 

 今日の晩飯当番はベルだったな……。などと考えながらホームへ向けて歩き出すと、視界の端で、ピンク髪の女性が手を振りながら近づいてくるのを捉えた。

 

「おーい! ヤイバくーん!」

 

「え、ミィシャさん!?」

 

 それは紛れもなく、ミィシャさんの姿だった。とっくに帰ってしまったと思っていたミィシャさんが、俺の方に走ってきていたのだ。

 

 すぐに俺もミィシャさんに向かって走り出して合流し、疲れた~、と一息吐いた彼女に問いかける。

 

「なんでまだここに? もしかして、まだ尾行中なんですか?」

 

「ううん、エイナたちはもうとっくに帰ったよ。私は君を待ってたの」

 

 俺を待っていた? という疑問に首を傾げていると、なにやらミィシャさんがジャケットの胸ポケットに手を入れて、そこから何かを取り出した。

 

「はい、ヤイバくん。私からのプレゼント」

 

 そう言って、ミィシャさんは丁寧にラッピングされたポチ袋大くらいの大きさのプレゼントを、俺に手渡してくれた。

 

 しかしそんな突然のプレゼントに困惑して、俺は反射的に手を出して受け取りつつも言葉を返す。

 

「そんな、受け取れませんよ! 今日は俺が勝手に置いていっちゃって、しかも待たせたみたいで、むしろ俺がなにか用意しなきゃっ!」

「いいから開けてみてってば! この前助けてもらったお礼でもあるんだから!」

 

 プレゼントを突き返す俺の手をつかんで、強引にラッピングを取らせようとするミィシャさん。

 

 せっかく綺麗に包んでもらったものを無理やり開けるのは気が引けたため、受け取ることを承諾して離れてもらった。

 

 ならばヨシ。と腕組みをして見守るミィシャさんを横目に、ラッピングを丁寧に剥がしてゆく。

 

 やがてその中から見えてきたのは、二本のチェーンとそれにつながれた二枚のライトブルーの薄い板。材質は宝石のようなものに思えるが、よく分からない。色はついているものの、奥が見えるほど鮮やかに透き通っていて、大きさはちょうど掌に収まるくらいの細長い長方形。表面には太陽を模した図柄が彫られている。そう、まさにこれは。

 

「耳飾り、ですか?」

 

「そう。これすごいんだよ! ダンジョンの18階層にある特殊な結晶(クリスタル)で作られてて、時間や環境によって光ったり消えたりするんだ! 太陽みたいだなーって思ってたら、ヤイバくんのこと思い出して! もうすぐに買っちゃった!」

 

「……それ、お金大丈夫なんですか? ダンジョン結晶(クリスタル)系の製品って、結構値段しますよね」

 

 先ほどまで饒舌に耳飾りの魅力を語っていたミィシャさんが、いきなり石化したように う、と固まってしまった。思った通り、結構値の張るお買い物だったようだ。

 

「やっぱり受け取れませんよ。そんな高額なものならなおさら……」

「だめ! 私のために受け取って!」

 

 俺の言葉を遮ってそう言うと、ミィシャさんが悲しげな表情でぽつぽつと語りだした。

 

「昔担当した冒険者さんの話なんだけどさ。私にとって初めてのアドバイザーとしての仕事で、一生懸命サポートするぞ! って息巻いて、色々支援してるうちに、その人への思い入れが段々強くなっていったんだ。好きだったって言ってもいいかもしれない。……でもその人、ダンジョンで亡くなっちゃったんだ。

 

 勿論、そんなことアドバイザーにとっては日常茶飯事だって頭ではわかってたんだけど、実際体験してみると結構きつくて……。だから、それから担当してきた冒険者さんには、最低限のサポートだけするようになったんだ。思い入れ過ぎて、もしもの時に辛くなっちゃわないように」

 

 辛い思い出の話をするミィシャさんの姿は、見てるこちらも心が痛くなる。

 

 ダンジョンでの死という冒険者には必ずついて回る話を聞いたこともあるが、それよりも身近な人が死んでしまうことに慣れてしまった、と言うミィシャさんの心模様がとても苦しい。

 

 出会ってからの期間はほんの少しだが、それでもミィシャさんの身内思いの性格は知っている。いくら当たり前にある話だとしても、優しいミィシャさんがそれに慣れるまではかなりの時間がかかったはずだ。

 

 そんな風に考えていると、でもね、と前置きを置いて、ミィシャさんがいつもの明るい顔になってこちらに向き直った。

 

「私、君には本気で死んでほしくないと思ってるの。だからこれ、受け取ってほしい。お守り替わりだと思って」

 

 そう言ってミィシャさんは、耳飾りを持つ俺の両手を自身の両手で握って、俺に笑いかけた。

 

 いつもの天真爛漫な笑顔と違う、優しい微笑み。夕陽をバックに手を握られているというシチュエーションも加わって、大人っぽい雰囲気がさらに強調されたその美しい所作には心惹かれるものがあり、少し顔が紅潮していくのが自分で分かった。

 

「……わかりました。ありがたく頂きます。つけてみていいですか?」

 

「うん! 貸して、つけたげる」

 

「ありがとうございます」

 

 握られている手にそのまま耳飾りを渡して、横に回ったミィシャさんが俺の耳に結晶(クリスタル)の耳飾りをつけていく。

 

「うん! 思った通り似合ってる!」

 

 ミィシャさんの声が聞こえるとともに、両耳に確かな重みを感じるのが分かった。

 

 といっても邪魔に感じることは何もない。少し強めに頭を振ってみても、音が鳴ることもなければ、耳が振り回されるような感覚もない。なるほど、これはなかなか着け心地がよさそうだ。

 

「どう? 違和感ない?」

 

「思ってたより全然自然な感じです。すごいですね、これ」

 

「でしょー? さっすが私、いいもの選ぶ天才!」

 

「はは、そうですね。これからダンジョンから帰るたび、耳飾りを見せつけに行きますよ。ちゃんと帰ってきたぞって」

 

「……ふふ。それはそれは、楽しみに待っています」

 

 気付けば空の色は茜色すら通り越して暗くなりかけていて。

 

 他愛のない会話をする俺たちの足取りは、自然と帰路を辿っていた。

 

「そういえばそれ、買ったお店の人が言うにはマジックアイテムらしいよ! なんでも、持ちお主をいざって時に助けてくれるんだとか」

 

「なんですかその胡散臭い話」

 

「えへへ、実際占い師みたいなかっこした胡散臭いおばあちゃんが言ってたことだからね」

 

「それは期待しない方がいいですね。っていうか、大丈夫ですか? ぼったくられたりしてません?」

 

「むっ、失礼な! 私だってね……」

 

 こうして俺の人生史上一番振り回された休日は幕を閉じた。

 

 たまには、こういう慌ただしい日も悪くない。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに尾行はエイナさんに思いっきりバレていたらしく、後日俺たちはこってり絞られたのだった。




ベル→淡い緑(のプロテクター)
刃 →淡い青(の耳飾り)

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