全集中の呼吸で「最強」を目指すのは間違っているだろうか 作:V.IIIIIV³
全集中の呼吸完全習得&今回で色の変わらない日輪刀の謎が解けます!今回割と説明くさいのとご都合主義多めなんで、ご注意を。
あ、後超今更ですが、主人公のいる狭霧山と村は極東にあります。
「……使えた」
すぐにハッとなって、握っている日輪刀の刀身を見る。だが、刀身の色は変わる事なく白銀のまま。
(なぜだ?さっき俺が使ったのは紛れもなく水面斬りのはず。それにさっき水面斬りが発動した時、横目でもわかるほどに刀は青色に光ってた。なのになぜ今は銀色に戻ってるんだ?……って今はそれよりも!)
再びハッとして、刀を鞘にしまいこんで首のなくなったヒグマの前で固まって膝をついているおじさんの肩を掴む。
「おじさん、もう熊は倒したよ。おじさん?おじさん!」
「お、おう……やい、ば……?」
耳元で叫んだところでようやく反応してくれた。目に少しだけ涙を浮かべながら、俺の方に顔を向けた。どこにも怪我はないようでほっと息をつく。
するとおじさんが、全集中の呼吸を使った時の俺もビックリの速度で俺の体を抱きしめた。
「刃ァ!!無茶しやがって!!もし死んでたらどうするつもりだったんだ!?馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!!」
おじさんの叫びに、若干の罪悪感が走る。だがあの村には俺よりも強いどころか、あの熊を倒しうるほどの実力者はいなかった。大人が一斉にかかれば可能性は十分にあっただろうが、けが人死人は確実に出る。あそこで俺が走っていなければ村に大きな被害がでていたというのも事実だが、おじさんを含めた村民達に大きな心配をかけたというのも紛れもなく事実。
天秤にかけるにはあまりにも重量が違いすぎる、とる方が予め決まっていたような選択肢だが、これだけ親切にしてくれたみんなに心配をかければそりゃあ心は痛む。
そして、おじさんが俺を抱きしめる力を強めて、号泣しながら俺の耳元でもう一度叫んだ。
「ありがとう!!みんなを、守ってくれて、ありがとう!!!」
……ああ、やっぱり人の温もりは、暖かい。
──────────────
俺は今、狭霧山には戻ってきて、原作で炭治郎と錆兎が戦っていた岩の前で全集中の呼吸の練習をしている。
熊を倒した後、村の人達にめちゃくちゃ感謝された。おっちゃん方から軽くお説教も受けたが、ほとんどの人が泣いて感謝していた。
人から感謝されるのは悪くはないんだが、流石に大勢から号泣されてありがとうありがとうと連呼されるのは申し訳なかったので、報酬として俺の焼いた炭のお得意様になってくれるとのことで解決した。これで食糧難の問題も解決だろう。
俺はあの後、おじさんに話を聞いた。全集中の呼吸を使った時、誰より近く、俺よりも俺のことを見ていたからだ。
全集中の呼吸を使った時の俺のことをできるだけ詳しく教えてくれと詰め寄って、おじさんが言うには、
『なんかこう、おめえが息吸う時、ヒョォォって音が鳴って、辺りの風がおめえに集まってくみたいになっちまってて、そしたらなんかいきなりおめえの刀がピカーって光出してよ。神様でもいたのかと思っちまった』
かなり抽象的な表現ばかりだったが、その中にも役に立ちそうな情報はあった。
(周りの空気が俺に集まってった、つまり俺に向けて風が起こっていたように感じることができたってことは、それほど体に空気が供給され終わるまでが長かったってことだ)
つまり、息止めの時のように一瞬で酸素を取り込むんじゃなく、また、肺に全て閉じこめるイメージじゃなく、体全体に満遍なく酸素を行き渡らせることをイメージするんだ。
呼吸の仕方は、一気に供給するのではなく、口の形を細く、吸う時間は長く。呼吸の音が鳴るくらいの勢いで。
「スゥゥゥ」
さっきイメージした通りの呼吸で、岩へと向かっていく。
(全集中!水の呼吸、壱の型!水面斬り!!)
さっきと同じように腕を交差させて、岩の前に来たところで全力で腕を振り抜く。
だがしかし、その刀身は蒼色の輝きを放つことなく、ただ岩にガチーン!!とぶち当たって俺の体をしびれさせるだけに終わった。
「ッッッつー……全力で向かってっただけあって馬鹿みたいに痺れるな……」
こういう時、完全我流というのが痛い。体が水の呼吸に適していない炭治郎が二年半で水の呼吸を会得することが出来たのは、紛れもなく鱗滝さんや錆兎、真菰の力が八割程度あるだろう。早く習得できた炭治郎への妬みだと思われるかもしれないが、実際修行してみれば納得出来る。
(一体何が足りないんだ……?)
何度考えても分からない疑問を抱えたまま、今日が終わる。
日輪刀の色は変わらない。
翌日。今日は山を降りて修行してみた。もしかしたら山との酸素濃度の違いから使えなかっただけかもしれない。そう考えて、山の麓で昨日と同じイメージで木に向かっていく。
木はスッパリと切れたが、全集中の呼吸が発動したわけではなかった。
そして悶々とした悩みが残るまま、今日が終わる。
日輪刀の色は変わらない。
翌日。今日は全集中の呼吸を発動した日と、熊を除いて全く同じにした状況で発動を試みた。
だが、全集中の呼吸が発動することは無い。
日輪刀の色は変わらない。
翌日。今日は……。
翌日。今日……。
翌日。今……。
翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日翌日……………………………………………………。
……そして、また五年といくらかが経過した。
転生してから11回目の冬だ。
あの日以来、修行を続けても、何をやっても全集中の呼吸は発動しない。
そして今日は、また原点回帰で大岩の前に立っている。
(……まあ、どうせ今日も発動なんてしないだろうけど)
自分の言った言葉に背筋がゾクッとして、自分で自分が怖くなった。
気付かないうちに芽生えた弱さを振り払うように、大岩に頭を何度も打ち付ける。岩に血の池が出来ても、何度も何度も打ち付ける。
「挫けそう!負けそう!!頑張れ俺!!頑張れ!!!」
(最強になるんだろうが!!オラリオってとこにいるっていう強者達をぶっ倒すんだろうが!!こんなとこで挫けてどうすんだ!!!)
己を鼓舞し、決意を再確認して、岩にへばりついた体を起こして空を見上げる。
「……もう空が赤い」
いつの間にか、空は赤くなりかけ、カラスも鳴いている。今日は炭を売りに行く日だ。早く行かなければ。
麓の小屋まで戻り、なお血が流れ出る額を水で念入りに洗い、包帯を巻いてから、予め作っておいた炭を持って村へと向かう。
「おっ、遅かったな刃!」
「おっちゃん。ごめん、ちょっと修行が長引いちゃって」
「毎日頑張ってんな!ほれ、代金だ」
「まいど、おっちゃん」
おっちゃんが俺に小銭を渡し、炭を袋に入れていく。
五年間ここに通ってきただけあって、村にもだいぶ馴染んで、今ではほぼ村民みたいなものだ。
「おーいみんなー!刃が炭売りに来たぞー!」
「おっ、待ってました!」
「刃ー!炭早くー!」
「寒くてしょうがねーんだよ!早く炭くれー!」
おっちゃんが声をかけるとみんなが反応するのは、五年前から変わらない風景だ。
「あれ?どした刃!そのでこの傷!」
そして窓枠から顔を出して話しかける人たちのうちの一人のおっちゃんが俺に問いかけてきた。一応傷口を念入りに洗ってから来たのだが、それでも流石に血が完全に止まっていたわけではなかったらしい。
「ちょっと修行がうまくいってなくてさ。自分に喝を入れてたんだ」
「頭から血ぃでるとか、どんな喝の入れ方したんだおめえ!」
アハハハハハ、と村全体に笑いが起こる。俺としては若干笑えないのだが。
俺の後ろからおっちゃんが前と同じように、俺の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫で回してきた。
「ま、悩んだ時は一回パーっとなっちまうのが一番だ!頭カラッポにすりゃ、見える景色も変わってくるってもんだからよ!」
「おっちゃん……そうだね、ありがとう」
おっちゃんにお礼を言って、村に炭を配って回る。
おっちゃんの言葉はなんというか……不思議だ。聴くと心がフワフワするし、おっちゃんに励ましの言葉や人生のアドバイスを貰うと、おっちゃんの言ったことが全部良い方向に働く。
この調子で全集中の呼吸も……と考えると、早く修行がしたくてたまらない。悩みが全て吹っ飛び、それで頭がいっぱいになった。
もしかしたらおっちゃんは鬼滅で言うところの親方様ポジションにすらなるんじゃないだろうか……なんて考えていると、一本道の脇にズラッと並んだ民家の一番端のところで小さい子どもが、立てかけられている建築用の丸太の間にいる犬の手をとって遊んでいる。
(いや、あれは引っ張っている……?丸太と丸太の間にペットが挟まったのか)
「おっ、ありゃあ村長んとこの孫の帯助だな。微笑ましいねぇ」
おっちゃんはこの光景を微笑ましいと思っているようだが、俺には真逆の感情が湧いた。
(無理矢理引き抜いたら、丸太が帯助に倒れる!!)
気付いた時には既に帯助が犬を丸太の間から引っ張り出し終えたようで、犬が挟まっていた事でバランスを保っていた丸太は帯助に向かって倒れていく。
(ヤベエ!!)
俺から帯助までの距離は少なく見積もっても100メートル。丸太が帯助に当たるまでは多分2秒くらい。いくら鍛えた俺だといっても、この距離は流石に間に合わない。しかも運の悪いことに、帯助の近くで気付いている人は一人もいない。普通ならばこの時点で万事休すだ。
だが、俺の体にはこの絶体絶命すらねじ伏せる可能性を秘められている。
(頼む、発動してくれ全集中!!)
原作で善逸が言っていた。雷の呼吸、霹靂一閃は、呼吸をする時足の筋肉に最も意識を向けると。それさえ発動できれば、帯助を助けられる。
(だけどもし発動しなかったら?発動しても制御が効かず帯助ごと切ってしまったら?)
次々に浮かび上がってくる雑念に惑わされる。だが、
『頭カラッポにすりゃ、見える景色も変わってくるってもんよ』
浮かび上がる雑念に混じって聞こえてきたおっちゃんの言葉によって、頭の中が一掃された。
霹靂一閃を発動させる。それ以外の思考は、後からすれば良い。
右足と左足を前後に大きく開いてクラウチングスタートのような形をとり、体を大きく前方に傾け、左手で鞘を、右手で刀の柄を握る。
世界がスローモーションになった。俺が呼吸を始めた瞬間、周りを漂っていた空気が全て俺の方へと軌道を変え、口の中から肺へ、肺から全身の血流へ、そして足の筋肉に到達した瞬間、心臓だけでなく、体全体がドクンと大きな鼓動を打った。
今度は自分でも何をやったのかよく分かる。体全体が打ち鳴らす鼓動の様子からどこにどのように酸素が行き渡っているのかを把握し、最低限必要な部位にだけ多く酸素を残し、それ以外の酸素を全て足へと移動させる。
その瞬間、今度は先のものとは比ではない程の鼓動を俺の足が打ち鳴らした。
(……いける!!)
全集中の発動を確信し、その瞬間、日輪刀が鞘の中からでも認識出来る程、淡い黄色に輝き始めた。
【雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃】
俺の体は、一瞬という言葉では言い表せない速さで帯助のところまで到達し、黄色に光り輝く日輪刀が間合いに入った丸太を全て半分に斬った。僅か0.0001秒にすら満たない、正に刹那の出来事だった。
真っ二つになった丸太は見事に帯助の周りに落ちていくだけで、一度も当たりはしなかった。斬ればなんとかなると思って考えてなかったが、切られただけで軌道まで変わるってどういう原理なんだろう。
「帯助、大丈夫か?」
「うん!ありがとう刃兄!」
……一応丸太が自分に迫ってくるのは見ていたはずなんだが、なんとも肝の据わった子供だ。将来有望だな。
まあ身体にも精神にも怪我してないんだったらもう大丈夫だろう。それよりも今は早く山に戻りたい。完全に理解できた全集中の呼吸の感覚を忘れないためにも。
「みんな!今日は出血大サービスだ!!お金はいらないから炭はここに置いていく!!みんな好きに取ってってくれ!!」
最後に一言だけ言い残してから、炭の入った籠を置いて、村を突っ切って直ぐさま狭霧山へと帰っていった。
「…………ふぅ」
大岩の前で小さく息を吐いて、一度精神を落ち着かせる。
全集中の呼吸に必要だったのは二つだ。
一つは、細胞一つ一つ、全てに酸素が行き渡るための長い呼吸。肺だけに留めておくのではなく、身体中に満遍なく酸素を送り届ける。
もう一つは、その酸素を全て使い切ること。ただ吸っただけの呼吸ではせっかく取り入れた酸素も流れ出てしまい、筋肉の力を100%引き出すことは不可能だ。供給した酸素を100%肉体に流し込んで力に変えた時、力を何倍にも高めることができる。
この二つを持ってして初めて、全集中の呼吸は完成する。
大岩の前で腕を交差させ、長い呼吸で大量の酸素を身体に取り込む。すると酸素は一度肺に全て留まった後、身体の全ての細胞に酸素が行き渡っていく。そして一度掴んだそれを逃さぬように、細胞は酸素を取り入れた瞬間にそれを力に変えた。
瞬間、先ほどと同じように、体全体に鼓動が鳴り響いた。
そしてそれと同時に、刃の思惑通り、握っていた日輪刀の刀身が深い蒼色に光り輝き始めた。
(思った通りだ。日輪刀の色が変わらなかったのは、俺の剣術がそのレベルに達していなかったからじゃない。
この日輪刀は、
【水の呼吸 壱ノ型 水面斬り】
そうして俺が放った渾身の、二度目の水面斬りは、大岩を横一直線に切断した。
そうしてまた三ヶ月、俺が転生してから12回目の春が来た。
五歳から人生をリスタートしたため、転生した日を誕生日とすると、俺は今日で十六歳になる。
そして今日この日、俺はこの狭霧山を巣立つ。
「……長い間、お世話になりました」
ペコリと深くお辞儀をして、日輪刀と今まで炭売りで少しずつ貯めておいたお金を持って、小屋を後にする。長い雑木林を抜けて村に出ると、村民みんなが俺を待ち構えてくれていた。
「おう刃!ついにオラリオに出陣か!今までの強さでなんで冒険者じゃなかったのかって方が謎だが、おめえならきっとダンジョンもサクッと攻略しちまうだろうな!」
その中からおっちゃんが出てきて、代表で激励の言葉を飛ばした。突き出された拳に呼応して、拳を合わせる。
「ああ。最強になったらまた戻ってくるから、それまでに熊に襲われて死んだりすんなよ?」
「んにゃろ、調子に乗るようになりやがって。ちんちくりんの頃はあんなに可愛らしかったのによ。いや、背的にはまだちんちくりんか?」
「うるせえ!これでもギリ百八十あんだよ!」
最後だというのに平常運転な俺たちのやりとりに、周りを囲んでいたみんなから笑いが起こった。やっぱり変にかしこまった見送りされるより、こっちの方が落ち着ける。
「それにしても、こっからオラリオ行きの港までは結構あるぞ?やっぱり馬を一匹やった方が……」
「それは大丈夫だって昨日も散々言ったろ?それに馬借りるより自分の足で走った方が何倍も速いんだからさ」
そう、俺はこの三ヶ月間でようやく『全集中 常中』に辿り着いた。狭霧山を出ようと思ったのもこれの習得が主な理由だ。結局ヒノカミ神楽を疲労無しで踊りきることは叶わなかったのだが。どうやらヒノカミ神楽は、全集中の呼吸が使えるだけでは駄目らしい。
「刃ちゃん、これ船の中で食べてね」
「これも」
「これも」
「これも食べていいわよ」
「じゃあ私も」
「私もあげる!」
今度はママさん達から、旅の道中での食料を頂いた。その中で中心にいた、おっちゃんの奥さんだけ手を後ろに隠したままだと思い、なんだろうと考えていると、そのおっちゃんの奥さん……長いからばっちゃんでいいか。ばっちゃんが「ふっふっふ」とラスボスのような笑い方で目を輝かせた。
「あんた達、まだまだ甘いわね!」
そう言ってそのばっちゃんは後ろに隠していた両手を前に出し、広がった布でばっちゃんの顔は見えなくなった。代わりに俺の目に飛び込んできたのは、一枚の羽織。何の模様も付いていない黒の布地の上に、背中の中心に当たる部分にだけ燃え盛る大きな太陽の刺繍が施されている。
「か、カッケェ……」
心惹かれるその出来栄えに、感嘆の一言しか出なかった。
「さあさ!着てみてちょーだい!」
ばっちゃんに促されるまま、荷物袋を下ろして愛用の着物の上から羽織を羽織る。
「うーん、いざ着せてみると、なかなかの出来栄えだわ」
両手の親指と人差し指でカメラの形を作って俺を枠内に収めているばっちゃんを横目に、おっちゃんは何かに感づいたように手をポンと叩いた。
「なるほど。太陽、つまりお天道様と坊主の名字の天道をかけたのか」
「あったりぃ!流石私の夫!」
最高のプレゼントに、思わず目頭が熱くなった。だがここで泣くのをグッとこらえて、顔を上げる。
「ありがとうみんな!俺、必ず最強の冒険者になって、この村を俺が育った村だって自慢してくるよ!」
「おう!待ってるぜ、刃!!」
そうして見えなくなるまでみんなに手を振って、俺は村をも後にした。
「……さて、少し寂しさはあるが、くよくよしててもしょうがない!頭パーっとだ!!」
体全体に均等に行き渡らせていた酸素の一部を足に回し、ほどほどの出力で港に向かって走る。今まで感じた事のない羽織がバサバサと翻る音と感覚に少し違和感はあるが、不快感はない。
腰に差している日輪刀の柄に手を置く。思えばコイツの特性には散々不安を煽られたものだ。だが、もうコイツは理解不能な不思議の刀じゃない。俺の使う技の力を何よりも引き出してくれる、なくてはならない最高の相棒だ。
「待ってろよ、オラリオ!!」
この先に何が待っているのかは分からない。
だけどこれだけはなんとなく分かる気がする。
この先に起こるであろう全てのことの終着点にあるのはただ一つ。最強の称号であるということ。
これは、ある者によって作られた全てのシナリオを斬り裂き、可能性とかパラレルワールドとかそんなものを超越した、誰も知らない、『
熱出ているのに調子がよく、どんどんネタが出てくるとは・・・これはもしやヒノカミ神楽と同一のもの?(違う)
次からはいよいよオラリオに行って、原作突入!
P.S 先に11回目の冬が来てるのに次に来たのが11回目の春とかいう頭の悪さが露呈する事をしていました。申し訳ありません!