全集中の呼吸で「最強」を目指すのは間違っているだろうか   作:V.IIIIIV³

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オラリオ

 遠い昔。天界の神々が、俺たちの住む下界に、刺激を求めて降りてきた。

 

 そして神々は決めた。この下界で、永遠に暮らそうと。

 

 神の力を封印して、不自由さと、不便さに囲まれて、楽しく生きようと。

 

 

 

 …………というのが、この都市、オラリオに住まう神々が下界に降りてきた理由らしい。

 

 なぜ俺がこんな事を知っているのかというと、それは、オラリオに降りてきたという神々が、全て俺を転生させた女神様の部下だったらしいからだ。

 

『あのバカども、「ここはつまんないから下界落ちしまーす」なんて言って、私が許可する前にこっそり出て行きやがったんですよ。しれっと神の力も持ったまま。もし帰ってきたら、全員に上級神レベルの仕事を押し付けてやります』

 

 なんて、あの優しかった女神様がこめかみに怒りマークを浮かべながら笑顔で言っていた。笑顔が笑顔に見えなくて本当に怖かった。

 

「えーと、まずはギルドで冒険者登録が必要なんだっけ」

 

 オラリオの入り口で立ち止まっている現状から、ギルドに向かう道を示す看板に従ってギルドへと向かう。

 

「それにしても、なんかやっと異世界来たって感じするな〜」

 

 自分が歩いているタイルの感触。普通の商店街にビッシリと並んでいる祭りのような屋台。周りをすれ違う人間とは違う別の種族の者達。そして、天高くそびえ立つ一本の巨塔、ダンジョン。

 

 狭霧山とか村は時代は違ったがもろ日本だったので、この中世のような街並みを見てようやく異世界に来たという実感が湧いてきた。

 

 ここで俺の剣技がどれほど通用するのか、早く試したい。

 

「へー、ここがギルドか」

 

 異世界の景色に意識を奪われながら歩いていると、いつのまにかギルドへ着いていた。

 

 入り口の扉を開けて、ギルドの中に入る。

 

(……すげえ)

 

 ギルドの中を見渡してみれば、11年間狭霧山で修行しまくった素の俺の身体能力を超える人がわんさかいる。常中込みで考えると流石に数えるほどしかいないが。

 

「……あのー、他の冒険者のご迷惑になりますので、入り口から離れていただけませんでしょうか?」

 

 入り口のところでずっと立ち止まっていると、ピンク色の髪の職員っぽい人が俺に声をかけてきた。

 

「あ、はい。すみません。あの、冒険者登録ってのをしたいんですが」

 

「あ、新冒険者の方ですね!分かりました。受付にご案内します」

 

 そう言われて、受付のカウンターに誘導された後、職員の人は小走りでスタッフオンリーの戸から俺のいるカウンターの反対側に回った。

 

「お待たせいたしました。私はギルド職員、ミィシャ・フロットと申します。以後お見知り置きを」

 

「ご丁寧にどうもありがとうございます。俺は天道刃と言います」

 

「テンドウさん……珍しい名前ですね。極東出身の方ですか?」

 

「あー……まあ、そんなとこですかね。あと刃でいいですよ」

 

 実際生まれて生きてきた年数が長いのは日本だけど、今世で育ったのは極東にあった狭霧山だ。間違ってはないだろう。

 

「それでは、ヤイバさんの所属するファミリアを教えて頂けますか?」

 

「……ファミリア?」

 

 聞きなれない単語が俺の耳に飛び込んできた。いや、聞いたことはある。女神様が言っていた。

 

『下界に降りた神々はそこでファミリアという社会的集団を作っています。神の力を封印して下界に降りた神が出来ることは一つ。神の恩恵(ファルナ)を刻んでダンジョンを生き延びる力、ステイタスを授け、眷属を作ることです。そして神と神に恩恵を刻まれた者。その間の関係をファミリアというのです』

 

「……あの、もしかしてファミリアに所属していないということですか?」

 

「……はい。ファミリアに入ってなければ冒険者登録ってできないんですか?」

 

「はい。ついでに言うと、神からの恩恵を刻まれていなければダンジョンに入ることもできません」

 

 …………女神様。今から下界に降りてきて俺に恩恵下さい。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

「はぁ……どうしたものか」

 

 俺はギルドを後にして、ため息をつきながら屋台が立ち並ぶ商店街を練り歩く。

 

「……腹減ったな。とりあえずなんか食うか」

 

 道中でママさん達から貰った飯を食べてきたが、体は成長期なので食ってもすぐに小腹が空く。飯屋で食えるような上等なものじゃなくていいから、何か歩きながら食べられるものがいいな。

 

 そう思いながら屋台を見回していると、何やら興味惹かれるというか、馴染みのある名前が入った屋台の看板があった。

 

「異世界にもあるんだ……じゃが丸」

 

 前世では小さい頃に、父さんが仕事帰りによく買ってきてくれたものだ。

 

 懐かしい響きの揚げ物の名に体が自然と引かれていく。値段札を見て代金を確認し、その分のお金をポケットの金袋から取り出す。

 

「すいませーん。じゃが丸3つ下さーい」

 

「はいまいどー!360ヴァリスでーす!」

 

 俺の注文を受けた女店員さんは、俺の目からしたらかなりイカれた要素が詰まっていた。

 

 上背は140センチ……いや、こっちじゃセルチだっけか。明らかに十歳程度の身長しかない。まずこの時点で不当労働で訴えたくなるが、その思考を吹き飛ばす、圧倒的大きさの胸があった。一般的にいうところの、ロリ巨乳と言ったやつだろう。

 

 長い髪をツインテールにまとめ、かなり露出の多いホルターネックのワンピースを身につけている。

 

 ……この格好に誰も何も突っ込まないあたり、異世界ではこれが普通なんだろうか。

 

「君なかなかいい体してるね!強い冒険者なんだろう?あまり見たことないが、どこのファミリアの子なんだい?」

 

「いえ、俺は冒険者ではないんですよ。今日このオラリオに来たばかりで、今ギルドに行って冒険者登録しようとしたら、ファミリアに所属していなければ冒険者にはなれないって言われてしまって。絶賛路頭に迷い中です」

 

 俺がそう告げながらじゃが丸の代金を女店員さんの左手に渡して、右手に持つじゃが丸の入った袋を受け取ろうとするが、店員さんが手を離してくれない。

 

「ぼ……」

 

「ぼ?」

 

「ボクの眷属になってくれないか!!」

 

「……はい?」

 

 

 後三十分でシフトが終わるから待っていてくれと言われたので、じゃが丸くんを食べながら暇つぶしをして、三十分が経過した。

 

「待たせてすまないね!えーと……」

 

「天道刃です」

 

「刃君か!ボクの名前はヘスティア!《ヘスティア・ファミリア》の主神さ!」

 

「ヘスティア様……ですか……」

 

 なんか聞き覚えがある名前だな……一体どこで聞いたんだっけ?

 

 そう考えながら、豊満な胸を張りながら自慢げにしているのを見ていると、何かを思い出しそうになる。

 

 ヘスティア……神……そしてロリ巨乳……

 

「あ──!!!もしかして、神界からこっそり抜け出す計画を立てて、それなのに一人だけ計画がバレて捕まって、下界に降りた神様達の仕事押し付けられた挙句、懲りずに共犯つれて最近下界に降りたっていう、あの女神ヘスティア!?」

 

 俺の言葉に正面にいたヘスティア様がビックゥ!!と体を震わせて、顔を青ざめながら震えている。

 

「や……刃、君……それを、一体、誰から…………?」

 

 いかにも恐る恐るといった感じで訪ねてくるので、流石に失礼だったかと思うが、とりあえず質問を返す。

 

「え、えっと……実は俺、あまり大きな声では言えないんですけど、日本で死んでしまって、女神様に導かれて転生してこの世界に来たんです」

 

「ニホン!!」と俺の出身地を聞いた途端にもう一度大きく体を震わせた。

 

「か、確定だ……確実に大女神が関係している…………」

 

 頭を抱えて、ガクブルガクブルという効果音が聞こえてくるぐらいの震えっぷりを見せるヘスティア様。

 

 そして数秒が立つと震えが止まり、ヘスティア様が覚悟を決めた表情でこちらを向いた。そして、右足、左足の順で膝を地面につけ…………ん?

 

「数々のご無礼お許しください!!刃君、いえ天道様!!どうか!!どうか天界に連れ帰るのだけは!!!」

 

「えええええええええ!!!!!??」

 

 合計34年間生きてきた中でも一度も見たことがない、ものすごく綺麗な土下座だった。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

「じゃあ、本当に君は大女神がボクを天界に連れ帰るためによこした使いでも、ボクのことを裁きに来たわけでもないんだね?」

 

「はい。俺はただ普通にここに転生してきただけで、連れ帰るどころか連絡手段すらありません」

 

「本当の本当に?」

 

「本当の本当です」

 

 俺が出した大声と、ヘスティア様の芸術的土下座のせいで周りの視線が俺たちに全集中していたので、俺たちは商店街から移動してヘスティア様が住んでいるというホームにやってきていた。

 

 俺が女神様の使いじゃないと分かって、ヘスティア様が大きく安堵の息を吐いて溶けるように崩れ落ちた。

 

「コホン、なら本題に入るとしようか!」

 

 ヘスティア様は座っていたソファーから立ち上がって右手の手袋を外し、決意の表情を固めて俺に向けて右手を差し出した。

 

「ボクの眷属になってくれないか?」

 

「分かりました。よろしくお願いしますヘスティア様」

 

「へ?」

 

 即答して右手で差し出されたヘスティア様の右手を握る。その即決さにヘスティア様はあっけにとられたようで、反射的に出たような素っ頓狂な声を発した。

 

「えっ、本当にいいのかい?僕のファミリアは団員がいない弱小ファミリアだし、君は見たところ恩恵なしでもかなりの実力者に見えるし、君なら都市最強クラスのファミリアも放っておかないよ!?」

 

「ここで会ったのも何かの縁ですし、それに、その大女神様はあなたのことを「もし会ったら拳骨を落としてきて下さい」と言いましたが、そのほかにこうも言っていました」

 

『あの子は見た目的にも中身的にも人望があるとは言えないので、もしも困っていたら力になってあげてください』

 

「だ、大女神……様……」

 

「俺は、あの女神様にとても感謝しています。だからあの人の願いを聞いて、俺は貴女に使える眷属になります。これからよろしくお願いします、主神様」

 

 笑顔でそう言って、右手を握る力を少し強める。そうするとヘスティア様も決意の表情から普通の女の子のような明るい笑顔になって、俺に呼応して握る力を強めた。

 

「ああ!よろしく頼むよ、刃君!」

 

 こうして、俺の冒険者生活が今、スタートした。

 

「それじゃあ、恩恵を刻むから、服を脱いでそこのベッドに寝転がってくれ」

 

「分かりました」

 

 ヘスティア様の指示に従って、羽織と上半身に来ていた着物を脱ぎ、その後腰に巻いている刀を外してベッドに寝転がった。

 

「おおー。直に見ると本当に鍛え抜かれた身体だね」

 

 そうすると、手袋を外したヘスティア様が俺の上に馬乗りになり、小さなナイフを自分の人差し指に突き立てると血が流れだし、その人差し指を俺の背中の上にセットすると、血が一滴背中に落ちた。

 

「何してるんですか?ヘスティア様」

 

「そうか、これも知らないんだね。恩恵を刻む時は、こうやって主神の血を垂らして染み込ませるのさ。ボクの眷属だってハッキリさせるためにね。さ、次はステイタスを更新するよ。まあ誰でも恩恵刻みたての時は全アビリティが0からスタートするんだけど、一応記念にね」

 

 そう言うと、今度は俺の背中辺りが眩しく光り始めた。いかにもファンタジーというか、初めての経験ばかりで新鮮だ。

 

 どんなことが行われているのか気になってしまい、近くにあった手鏡を使って後ろで行われていることをこっそり見てみる。

 

 すると、俺の背中の上に何かしらの文字列が浮かび上がっている。だが空中に浮いているせいで角度的に見えづらいのと、反転しているせいでなんと書いてあるかは分からない。

 

「え……?」

 

 すると、ヘスティア様の口から疑問の声がこぼれ出た。

 

「どうかしましたか?」

 

「ちょ、ちょっと待っていてくれ」

 

 ヘスティア様が一枚紙を取り出して俺の背中に乗せ、慌てた様子で紙の上に指で円を描く。

 

「や、刃君。これを見てくれ。君のステイタスだ」

 

 ヘスティア様がベッドから降りて、俺にさっき乗せていた紙を見せてきた。

 

 ──────────────────────

 

 天道 刃 Level 1

 

 力:I0

 

 耐久:I0

 

 器用:I0

 

 敏捷:I0

 

 魔力:I0

 

 気配察知:E

 

 [スキル]

 

 〔全集中の呼吸〕

 

 発動条件:剣と連動して剣技を発動した時にのみ効果発動。

 

 効果:瞬間的階位昇華(レベルブースト)

 

 〔全集中・常中〕

 

 〔全集中の呼吸〕を行なっている間常に発動。力、耐久、器用、敏捷の習熟速度、上昇率大アップ。力、耐久、器用、敏捷に超補正。

 

 ────────────────

 

「あの、書かれている意味がよくわからないんですが」

 

「無理もないさ。代償、回数制限なしの階位昇華に常時発動の上昇率アップと超補正を合わせ持つスキルなんて聞いたことないからね。一体どんなことをすればこんなスキルが発現するんだい?」

 

 いや、そういうことではなく、そもそもとして知らない単語が多すぎて何を言っているのか分からない。言語理解の他に単語の知識とかも入れてもらえばよかったかな。

 

 要するに、全集中の呼吸の効力がオラリオの評価基準に直すとかなりの強さであるということだろう。全集中の呼吸は大女神様に授かって、会得するために肉体と精神をグッチャぐちゃにぶっ壊しながら十数年かけた唯一無二の必殺技だ。それなりの強さはあってしかるべきというものだろう。

 

 昔のことを思い出してしみじみしている俺を見たヘスティア様の顔から困惑が消え、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「いや、自分の眷属とはいえ、他人のスキルの詮索はマナー違反だね。すまなかった」

 

「そんな!全然気にしてませんよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。そうだ!そろそろボクのたった一人の……いや、もう二人だね。一人目の眷属がダンジョンから帰ってくる頃だ。とっても可愛い子だから、緊張しなくていいぜ!」

 

 ヘスティア様がにこやかな顔で、まるで自分のことのようにその眷属のことを語る。どんな人なのか楽しみだ。

 

 そしてヘスティア様からこの世界の常識的な用語を教えて貰っている(さっきのLevelやらアビリティやら)と、上の扉がガチャンと開く音がして、ヘスティア様が「おっ、帰ってきた!」とまたにこやかな顔になって言った。

 

「ただいま帰りました。神さ「ベールくーん!!!」ちょっ、待っ、うわぁ!!」

 

 白髪の少年が階段を降りてきたと同時に、今日イチの笑顔になったヘスティア様がおもいきり少年に向かってダイブした。いきなりで慌てた少年はヘスティア様のダイブをもろに受け、失神しかけの少年の胸に顔をスリスリと擦りつけていた。

 

「ちょ、痛いですよ、神様…………って、あれ?神様、そこにいる方はどちらですか?」

 

「ん?ああ!聞いてくれベル君!彼はね、ボクたちの新しい家族だ!」

 

「ええっ!!?ほ、本当ですか!!?神様!!!」

 

 白髪の少年が俺を見つけて胸元にいるヘスティア様に尋ねると、それに反応してヘスティア様が起き上がって俺のことを紹介した。

 

「はじめまして。ベルさん……でいいのかな?俺は天道刃。たった今《ヘスティア・ファミリア》の眷属になったばかりの新米冒険者です」

 

「え、あっ!ご、ご丁寧にありがとうございます!ぼ、僕はベル・クラネルと申します。よろしくお願いします天道さん!!」

 

 俺に向かって、嬉しさを表に出して頭を深々と下げるベル・クラネル。

 

 そんな礼儀正しい挨拶をしてくれている中、俺は反射的にベルの分析を始める。

 

 俺は前世でもこの分析はやっていた。きっかけは、剣道の試合の時、それ以前の試合の時とその時の戦い方が180度違うような選手が極々稀にだがいた事だ。それからは試合前の予習は先入観を持つだけだと考え、相手を視界に入れた瞬間から試合直前、あるいは試合中に分析するようになった。まあそういう経緯で、初対面の相手でも気配というか、雰囲気でなんとなく実力や人柄は分かるようになった。炭治郎の鼻的なものと考えれば分かりやすいだろう。

 ギルドでも反射的にやってしまったが、前世から続く最早癖だ。こっちの世界なら寧ろやった方がいいくらいかな。

 

(……潜在能力の塊というべきか。体の芯の奥の奥、ずーっと奥の方に爆発的なまでの可能性を秘めている。あと、一緒にいるとすごく楽しそうだ)

 

 これは人柄だけを見た純粋な感想だが、この人とはただの友達、戦う仲間って言うものよりも、もっと深い関係になりそうな気がする。単純に言えば気が合いそうだ。

 

「……刃でいいさ。俺もベルって呼んでいいかな?」

 

「は、はい!もちろんです、刃さん!」

 

「敬語もさんもいらないって。これからは背中預けて戦うことになるんだから」

 

 そう言って、ヘスティア様の時と同じように右手を差し出す。

 

 俺の言葉と差し出された右手に少々の戸惑いを見せたが、直ぐに表情はさっき見せた屈託のない笑顔に戻り、ダンジョンに潜ってきて汚れた手をズボンである程度拭ってから、俺の右手をがっしりと掴んだ。

 

「分かった。これからよろしく!刃!」

 

「ああ。これからよろしく、ベル」

 

 それが、俺たち【ヘスティア・ファミリア】最初の三人の出会いだった。

 

 そしてこの二人、天道刃とベル・クラネルが、未来永劫語り継がれる伝説となる事を、彼らは知らない。




刃を転生させた女神とダンまちの神々が繋がっていたっていうネタがやりたかった。
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