全集中の呼吸で「最強」を目指すのは間違っているだろうか   作:V.IIIIIV³

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今回はサクサクっといく前菜的ダンジョン攻略です。いきなり強敵出現でレベルアーップ!は流石に面白くなさすぎるしね。

と、今更ですが主人公の容姿設定。

身長180cm 体重75kg

髪型 日の呼吸の剣士と同じ(山で髪切るのが途中からめんどくさくなって、前髪以外伸ばし続けた結果)。髪の毛が少し赤みがかっている。

目 どっちかというと吊り目より。大きさ的には日の呼吸の剣士と炭治郎を足して2で割ったくらい。瞳の中が少し赤みがかっている。

装備 上に黒い着物、下が深い緋色の袴。その上に村のおばちゃんから貰った太陽の刺繍が入った黒い羽織を羽織っている。履いているのは転生直後から愛用している草履。

日輪刀。技を使う瞬間に色が変わる特殊な刀。もちろん描写していないだけで、雷や水のエフェクトも出ている。エフェクトは書いたり書かなかったりなので、そこは想像で。

まあこんなもんでしょうか。ちなみに主人公は赫灼の子設定です。語彙力ないから、後は皆さんのご想像にお任せします。


ダンジョン

 そして、オラリオで二回目の朝を迎えた。ワクワクを抑えきれず早朝からずっと起きていて寝たふりをしていた俺は、ベル達が起きる頃合いを見計らって飛び跳ねるように起き上がって、直ぐに羽織に袖を通す。

 

「よしっ!早速ダンジョンに行くぞベル!」

 

「まずは冒険者登録だよ。刃」

 

 秒速で出鼻を挫かれた。そういえば結局昨日は神の恩恵(ファルナ)を刻んでもらって、俺の身の上話を話して終わっちゃったんだった。

 

「そうだった……じゃあ、ギルド行くか」

 

「うん。そういえば昨日刃は、誰に受付してもらったの?」

 

「えーと……確かミィシャさんって人だな。ピンク色の髪した人」

 

「ミィシャさんか。それなら僕のアドバイザーと仲良しで信頼できる人だから、その人にアドバイザーになってもらうといいよ」

 

「アドバイザーか……」

 

 昨日ベルから聞いた単語だ。というよりも前世でけっこう聞いたことのある単語だが。新米冒険者へのダンジョン攻略の手引きから、冒険しすぎた冒険者を叱ることまで、その冒険者に親身になって助言をくれるありがたい人のことらしい。曰く、ベルも担当アドバイザーのエイナさんという人に何度か怒られたことがあるそうな。

 

 他にもいろいろな事を教えてもらいながら歩いて行くと、これまたいつのまにかギルドにすぐそこに見えてきていた。すると、入り口のところで掃き掃除をしていた、メガネをかけたハーフエルフ?の職員さんがこちらに「おーい」と手を振ってきた。この行動からして、恐らくあの人がベルのアドバイザーというエイナさんだろう。身体的特徴も一致しているし。

 

「おはようベル君。朝早くからギルドに来て、どうしたの?」

 

「おはようございますエイナさん。今日はこの刃の冒険者登録をしに来たんです」

 

「はじめまして。天道刃と申します。以後お見知り置きを」

 

「ご丁寧にどうも。ベル・クラネル君のアドバイザーをやらせて頂いている、エイナ・チュールと申します」

 

 そう言って社交辞令のお堅い挨拶を済ませると、エイナさんが「あっ!」と言って、何かを思い出したような表情で尋ねてきた。

 

「あなたが昨日ミィシャが言ってた子ね。すっごい強そうな佇まいしてたのに、冒険者じゃなかったどころか恩恵さえ授かってなかったおかしな人」

 

「お、おかしな人ですか……。その節は結局営業妨害をしただけになってしまって、迷惑かけてすいません」

 

「いえ、気にしないで。そういう人は確かに珍しいけど、全然いないってわけでもないから。何処かの誰かさんだってその一人だし?」

 

 そして、エイナさんがニヤニヤしながらベルの方に視線を向ける。ベルの方は少し頰を赤く染めて、「あはは……」と力なく笑った。

 

(ああ、そういえばベルもちょっと前に冒険者になったばかりなんだっけ)

 

「エイナー、事務処理手伝ってー……お!来たんだねヤイバ君!もう二、三日は放浪してると思ってたよ!」

 

 俺たちが入り口の前で談笑していると、ミィシャさんが乗り込んできた。ミィシャさんは仕事疲れでヘトヘトの顔をしていたと思ったら、俺を見つけると即座に顔の明るさが戻った。

 

「ミィシャさん。おはようございます。運良くヘスティア様に拾ってもらえまして」

 

「《ヘスティア・ファミリア》に入ったの!?良かったねベル君!友達できたじゃん!」

 

 そう言ってベルの両肩を掴んで揺さぶりまくるミィシャさん。なんというか、この人は人生を楽しんでるな。当のベルは顔を赤くしながら「あうあう」と言っているが。

 

「あ、あのミィシャさん。冒険者登録をお願いできますか?」

 

「おっ!そうだったね。じゃ、パッパと済ませちゃおっか!」

 

 そう言ったミィシャさんに連れられて、昨日のように受付へと進むと、受付には一枚の紙が置かれていた。

 

「まあ冒険者登録って言っても簡単なものだよ。ただ所属のファミリアを書いて、名前書いてLevel書いて終わり。多分ダンジョンについて大体のことはベル君やヘスティア様から聞いてるよね?」

 

「はい。ダンジョンは上層、中層、下層、深層に分かれてて、深くなるにつれて必要な強さもましていくってことくらいは」

 

「ま、だと思ってたよ」

 

「ベル君だしね」

 

「え」

 

 ベルから聞いたことをそのまま伝えると、何故かベルが呆れられた。

 

「それ自体は間違ってないよ。でも説明が雑すぎ。そんなんじゃダンジョン潜って秒で死んじゃうよ?」

 

 そう言って、ミィシャさんはダンジョンの略地図的なものを取り出した。

 

「全部説明すると長くなるから、上層の説明だけしよっか。

 上層は確かに冒険初心者、Level1御用達の階層のことを指すけど、Level1であれば上層全部を歩き回っていいってわけじゃないんだよ」

 

 ミィシャさんが略地図上の上層の上の方を指した。

 

「Level1で行っていい最大の階層は12階層まで。

 1〜4階層は本当に初心者中の初心者向けの階層。ステイタスI~Hくらいあればいけるとこ

 5~7階層はG~F。8~10階層はE~C。11~12階層はB~S。そこから先は中層で、もうLevel2の領域。まあステイタスSなんかいってたらその頃にはもうLevel2になってるだろうけどね」

 

 ミィシャさんの説明にエイナさんが続く。

 

「区切りの階層を超えると、モンスターの強さも急に上がるのがダンジョンの怖いところ。自分の強さを過信して深いところに行き過ぎると、すぐに死んじゃうよ」

 

 ふむ。なるほど。これに当てはめると俺とベルは1~4階層で冒険するのが適切なわけか。

 

 まあ、本来ならそれが適切なんだけど……。

 

「あの、ミィシャさん」

 

「ん?どうしたヤイバ君。何か質問かい?」

 

「俺、アビリティ超補正と階位昇華(レベルブースト)スキル持ってるんですけど、どの辺が適正ですか?」

 

「「・・・・・・・・・・・・はひぇっ???」」

 

 なんというか、ドン引かれた。

 

 ────────────────

 

「ついに!やってきたぜ、ダンジョン!!」

 

 ギルドでの一悶着を終えて、俺は無事冒険者登録を終えてベルと共にダンジョンにやってきた。ちなみにミィシャさんからは、

 

階位昇華(レベルブースト)や超補正なんてのがあっても自分の強さにあった階層に行くこと!冒険者は冒険しちゃいけない!これ鉄則!』

 

 というお言葉を受けた。まあベルもいる事だし、我慢するか。

 

「ほら、はしゃいでないで。モンスター来たよ!」

 

 ベルの言った通り、俺たちの進行方向から、一匹のモンスターが迫ってきた。確かあれは……コボルトだっけか。

 

 敵の姿を確認して、腰の刀を抜く。

 

「見てて。僕が手本「全集中──」を」

 

【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】

 

「見せ……」

 

 蒼色に輝く刀は波が打っているかの如く揺らめきながらコボルトの首に滑り込み、コボルトの頭を切り落とした。

 首のなくなったコボルトは体が崩れだし、灰のようになって辺りに散り、紫色に輝く小さな石を落とした。それを拾って眺めてみる。

 

「へー……これが魔石か。随分綺麗なんだな……って、どうしたベル?」

 

「……僕が初めて倒した時は五分はかかったのに」

 

 ベルが拗ねてしまった。

 

「フロッグシューターだ!あいつは中距離から舌で攻撃してくるから、少しずつ間合いを詰めて……」

 

「それなら俺らも中距離から一瞬で決めればいい」

 

【雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃】

 

「ダンジョン・リザードだ!あいつは壁や天井を縦横無尽に駆け回って攻撃する!奇襲に気をつけて!」

 

「なら俺も壁を走ればいい!」

 

【水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱】

 

「ゴブリンの群れだ!落ち着いて処理していかないと袋叩きにされる!」

 

「一気に始末すればいいだけだ!!」

 

【水の呼吸 参ノ型 流流舞い】

 

 次々と現れるモンスターを片っ端から倒していっていると、いつの間にか魔石を入れていた袋からずっしりと重みを感じるようになってきた。

 

「調子に乗ってだいぶ深いとこまで潜っちゃったな。これ以上いったらミィシャさんに叱られちまう。戻ろうぜ、ベル……ベル?」

 

 そうベルに問いかけても、ベルはいじけたように体育座りをして聞いてくれない。

 

「困ったな…………ん?ベル、あのモンスターなんだ?」

 

「え?1~4階層に出るモンスターはもう全部見たはずだけど…………」

 

 そう言って振り向いたベルが左から六匹、右から四匹の合計十匹のモンスターを見ると、顔を青ざめさせた。

 

「き、キラーアントだ……普通は7階層で初めて出てくるはずなのに、なんで4階層なんかに」

 

 戸惑いながらも立ち上がって腰からナイフを抜くベル。背中合わせになり、敵だけを見て会話する。

 

「俺が六匹の方を相手するから、ベルは四匹の方を頼む」

 

「分かった。潜ったばかりの刃に多く任せるなんてちょっと複雑な気分ではあるけどね」

 

 軽く笑い合った後、心の帯を締め直す。ベルはもちろんのこと、小規模でも群れをなしていれば常中で強化されたステイタスでも難しい戦いだ。

 

 二人の胸に初めて不安が生まれた。だけど、ベルはそれが分かっていても俺を信じている。もちろん俺も、ベルならやれると信じている。

 

 お互い背中合わせになっているはずなのに、向き合って会話をしているかのように心が通じ合う。

 

 深呼吸をすると、呼吸を通して心が完全に同調したような気になった。

 

「じゃ、さっさとぶっ倒すとするか」

「うん、行こう」

 

 俺たちは、それぞれの敵に向かって走り出した。

 

 敵に向かって全速力で走りながら、全集中の呼吸で空気を取り込む。

 

(六体程度で一箇所に集まっているなら、全て一発で倒す!)

 

 日輪刀が蒼色に輝き、走る刀が水の軌跡を描き出す。

 

【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】

 

 揺らめくような青い波が六体のキラーアントに襲いかかるも、傷はついたが致命傷は与えられていない。

 

(俺の剣技でもダメージが与えられない硬度……ステイタス的な問題はあっても、呼吸を使って斬れないなら上層にいていいモンスターじゃない。必ずどこかに弱点があるはず)

 

 そう考えて、キラーアントを分析する。すると、キラーアントの体のところどころに気配が色濃く映る箇所があった。そこは、人間で言うところの関節に当たる場所だった。

 

 そして、俺の刀から六匹目のキラーアントまで一本の糸が走る。

 

「──見えた」

 

 その糸は俺と刀を強く引いて、俺の刀は一匹目のキラーアントの甲殻と甲殻の隙間に吸いこまれる。

 

【水の呼吸 壱ノ型 水面斬り】

 

 振り切った刀の勢いをそのままに、次は横並びの二体のキラーアントに向けて糸が引く。

 

【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】

 

 そして最後。着地した後、倒れるほどの前傾姿勢になり、左手で的への焦点を合わせて右肩を限界まで引き絞る。そして、直列に三匹並んだキラーアントに向かって、右足で地面を強く踏み切った。

 

【水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き】

 

 矢のように高速で放たれた突きは三匹全ての首を貫いて、その息の根を止めた。

 

「……ふぅ。匂いじゃなくて気配察知だけど、見えるんだな、隙の糸」

 

 さて、こっちはやった。あとは頼むぜベル。

 

 ──────────────

 

「ハァッ!!」

 

 ベルは、自身の高い敏捷を最大限発揮した最初の特攻で、混乱に乗じて既に二体のキラーアントを始末し終え、残りの二体を纏めて相手取っている。

 

 なんとか攻撃を凌ぎつつ関節の隙間からダメージを与えていくが、中々距離がつまらない。

 

(刃はもうトドメに差し掛かってる。なら、こっちも早く倒さなくちゃ。ここでやらなきゃ、一人で仕留めなきゃ)

 

 刃が来る前に、自分に課せられた使命を全うすることを固く決意する。それは何が引き起こすものか。

 先輩冒険者としてのプライド?否。後から来たものに追い抜かされる焦り?否。

 

(任された分も倒しきれないなんて、カッコ悪すぎるだろ!!)

 

 ただ一人の冒険者の、吹けば飛んでしまうような『意地』と『駄々』だ。

 

「はあああああ!!!!」

 

 雄叫びをあげることで、己の士気を極限まで高め上げる。

 

「ギギィィ!!」

 

 キラーアントが左側に生える二本の鉤爪でベルに襲いかかる。

 

 ベルは自慢の敏捷を活かして鉤爪の後ろ側に回り、ナイフを逆手から順手に持ち替え、二本の鉤爪の甲殻と甲殻の間から露わになった肉に向かってナイフを振り下ろす。

 

「ギィィィィィ!!!!」

 

 振り下ろされたナイフは二本の鉤爪をキラーアントの体から切り離し、痛みに悶えるキラーアントが上を向いて耳をつんざくような雄叫びをあげる。

 

(やっぱり地獄みたいに痛い時に上を向いてしまうのは、生物の本能だ)

 

 だが、ベルの頭にはそれも計算に入っている。生物は大きな痛みを受けた時、何故か上を向いて現実から逃げてしまう。それが知性のないモンスターであるなら尚更だ。

 

 戦いを経験し、敗走を経験してきたからこそ出来る見通し。

 

 首が上を向いたことで、顔の甲殻と胴体の甲殻の間に大きな隙間ができた。再びナイフを順手から逆手に持ち替えて、首の肉を目掛けて一直線にナイフを突き刺す。

 

「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!」

 

 キラーアントが一際汚い高音を上げ、塵となって消えていった。

 

(まだだ!!ここからが本当の勝負。キラーアントは危険になると仲間を呼ぶ。最後の一匹は速攻で仕留める!!)

 

 瞬時に最後の一匹に意識を移し、キラーアントの周りをグルグルと走り回って敵を撹乱しつつ、鉤爪の隙間の肉にダメージを与えていく。

 

 そして、二本目の鉤爪を切り離したところでそれは来た。

 

 キラーアントがベルから飛び退き、息を吸う動作を始める。仲間を呼ぶ気だ。

 

「ギィィ「させるかよ!!」ガギ!?」

 

 だが、敏捷だけに限っていえばベルはキラーアントに勝るとも劣らない。

 

 飛び退いたキラーアントにすぐさま飛びかかり、仲間を呼ぶ雄叫びを上げる前に口にナイフを刺して発音を阻害する。

 

(しまった、ナイフを使ったからトドメをさせない!)

 

 飛びついた後のことを全く考えていなかったベルは、この先の始末を考えて焦った。

 

 だがそれもお構い無しにキラーアントは残った鉤爪でベルに襲いかかる。

 

「ベル!!これを使え!!」

 

 少し遠くでもう一つの群れの相手をしていた刃から声が聞こえてきた。そちらに顔を向けると、こちらに向かって一本の白銀の刀が投擲されてくる。それも、普通なら反応できない速度で。

 

 それでもベルはキラーアントの肩を踏み切り、上空を通る刀の柄に飛びついた。

 

「刃!!力借りるよ!!」

 

 初めて使う刀でも、刃を通して使い方は理解出来た。

 

 両手で刀を握り、落下しながら首の肉に狙いを定める。

 

「はあああああああああ!!!!」

 

 刃の思いものせた日輪刀は、その刀身が輝くことがなくとも、一閃でキラーアントの首を切り落とした。

 

「やったな、ベル」

 

「うん。ありがとう、刃」

 

 こうして二人のダンジョン探索最初のハプニングは、わりかしあっさりと幕を閉じた。

 

 

 ──────────────────────ー

 

「……で?調子に乗って二人して7階層まで降りて来たと?」

 

「………………はい」

 

「で、でも神様!お陰でこんなにお金が貯まって!今夜はこのお金でどこか外食でも「問答無用だあああああ!!!!!」あっちょっ神様ぁ!!」

 

 金袋を持ち上げて冷や汗ダラダラで弁明を試みたベルに、ヘスティア様からの容赦のないヘッドロックが炸裂する。

 

「ベル君っ!!君はまだ一番高い敏捷でもアビリティHだろっ!!それなのにそんな深いところまで降りるなんて……自殺しに行ったのかい君は!!」

 

「ごっごめんなさい!!反省してます!!だから首はっ!エイナさんにも絞められまくったのでこれ以上はっ!!あ、あと胸がぁっ!!」

 

「へ、ヘスティア様。どうかそのくらいで勘弁してやって「君もだぞ刃君!!」へっ?」

 

 ベルに対するヘッドロックを続けながら、俺に向かってヘスティア様がビッ、と指を指した。

 

「君が強いことは分かっているが、日本という安全な土地で育って来た上に最初のダンジョンなんだ!何かあったらどうするつもりだったんだ!?」

 

 そう言って、ヘスティア様はベルをヘッドロックから解放して、ベッドにちょこんと座って大きくため息をついた。

 

「過保護と思われるかもしれないが、君たちはこの世にたった二人しかいないボクの大切な子供達なんだ……」

 

 ヘスティア様が、今度は優しく、俺たち二人の体に手を回して、キュッと抱きしめる。

 

「頼むから、どこにもいかないでおくれ……。ボクを一人にしないでおくれ……?」

 

 先ほどとは打って変わって弱々しくなってしまったその声に、俺たちの心の中に大きな罪悪感が生まれた。俺とベルは顔を見合わせて、抱きしめられた状態のままヘスティア様に囁いた。

 

「すみません、神様」

 

「もう無茶はしないし、ヘスティア様を一人にすることは絶対にしません」

 

「……分かってくれればいいんだ。さ!ディナーにしようか!今日は質素な食事でいいから、貯まったそのお金は君たちの装備新調に使ってくれ!」

 

「「はい!」」

 

 そうして、俺たち《ヘスティア・ファミリア》は、ちょっとだけいい食材を使った俺の作った料理とけっこういい酒を振舞って、楽しい宴の時間を過ごした。

 

 そして疲れが溜まっていた俺とベルは、ステイタスの更新中にベッドの心地よさに吸い込まれ、ステイタスを見ることなく深い眠りについた。

 

 ただ一人、ヘスティア様を除いては。

 

「こ、これが……刃君のスキルの力……」

 

 ──────────────────────

 

 天道刃 Level1

 

 力:I0→G271

 

 耐久:I0→G243

 

 器用:I0→F307

 

 敏捷:I0→H186

 

 魔力:I0

 

 気配察知:E

 [スキル]

 

 〔全集中の呼吸〕

 

 発動条件:剣と連動して剣技を発動した時にのみ効果発動。

 

 効果:瞬間的階位昇華(レベルブースト)

 

 〔全集中・常中〕

 

 〔全集中の呼吸〕を行なっている間常に発動。力、耐久、器用、敏捷の習熟速度、上昇率大アップ。力、耐久、器用、敏捷に超補正。

 

 ──────────────────

 

 全アビリティ熟練度、初上昇値トータル1000オーバー。前世の全ての人間を見てきたような大女神ですら震えさせた少年の才能は、今世でもその門出に少々大きすぎる爪痕を残した。




おまけ

「な、なんだい刃君!この美味しい料理は!?」

「ただの塩で焼いた魚ですよ。結構良質なのを選びましたけど」

「嘘つかないでよ刃!それだけでこんなに美味しくなるわけがない!」

「数年間炭を焼いたり料理しまくった熟練の技だ。料理は火加減!」

刃が作った料理は極上のうまさだったそうな。


ちなみに刃の熟練度の上昇率がこんなに高いのは、ヒグマを倒した潜在経験値も貯まってたからです。まあそれでもトータル100程度の加算だったと思いますが。

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