ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

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 最終話です。
 エピローグ、後日談みたいなものです。


最終話 ミカン

 アサギシティのとある大型施設。この中で、今日も激しいポケモンバトルが繰り広げられていました。

 

「ラッタ、スタミナ切れ(・・・・・・)により戦闘不能。勝者、ジムリーダー、ミカン」

 

 フィールドの中央で審判(しんぱん)を行っていた女性トレーナーさんが、その姿に似合わない真剣な眼差(まなざ)しで公正にジャッジを(くだ)します。

 

「ありがとうございました」

「うぅ、ありがとうございました!」

 

 私と相対(あいたい)する少年トレーナーは、負けてしまった事実に目に涙を浮かべそうになるのと、グッと歯を食いしばって耐えています。

 

「成長しましたね。よく頑張りました」

「っ! は、はい!」

「ポケモンとの絆も大切にされていますし、技の選択も良かったです。後は、持久力と瞬発力をもう少し上げれば、この次はもっと良い結果を残せると思います。前回の挑戦から、ここまで成長を()げたあなたに、このスチールバッジを進呈(しんてい)します」

「え、でも……」

「確かにあなたは負けてしまいましたが、それは私のポケモンが日頃から体力作りを行っていて、スタミナがあったからです。同じ条件なら負けていたのは私かもしれません。それに、勝ち負けではなく、ちゃんとしたトレーナーとポケモンの関係、そして上を目指すに見合った実力を立派に示すことが出来ることがバッジを渡す条件です。ここは胸を張って受け取って下さい」

「はい! ありがとうございます!」

 

 以前対戦した時には駆け出しの新米トレーナーでしたが、これで立派なポケモントレーナーですね。本当なら30分の枠を取っていますので、余った時間で論評(ろんぴょう)、もしくは感想戦に移る所なのですが、上手い具合に戦いを進められ、ほとんど時間いっぱいの戦いとなってしまいました。

 あのコラッタが、ラッタへと進化して技も弱点を突いてきたり、(すき)を作ったり、逆に誘いをしてきたりと、面白い試合でした。最初の挑戦で敗北してから、アドバイス通りずっと訓練していたのでしょう。進化しただけではあれだけのスタミナを得ることは出来ません。

 指導者として、先人として嬉しいものです。

 少年が頭を下げてジムから出て行くのを見送り、私は一息()きます。

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です。レミさん」

「飲み物をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 このアサギジムのジムトレーナーであり、バリバリの女子高生ギャルトレーナーのレミさんからスポーツ飲料を受け取って、(のど)(うるお)します。

 

「ふぅ……」

 

 あのジョウト地方全体を巻き込んだ、ロケット団残党事件が解決してから1ヶ月が経ちました。あの後、”時間(とき)狭間(はざま)”から脱出した私達は、同じジムリーダーのグリーンさんと一緒にヤナギさんを確保。警察まで連行しました。

 シルバーさんにも窃盗(せっとう)などの容疑が掛けられていましたが、不問となりました。その背景として、別に指名手配のモンタージュが似ていないとかではなく、あくまで被害者であるウツギ博士が被害届を取り下げ、またオーキド博士とポケモン協会からの力添えもあったというだけです。

 それって、圧力とか忖度(そんたく)では……? 大人の世界は分かりません。あ、このポケモンの世界では私の年齢でも十分大人なんでしたね。でも気にしません。気にしませんから。

 まだヤナギさんの裁判が残っていますし他にも色々と細かいことがありますが、事件に関わった人達の事情聴取や逮捕(たいほ)起訴(きそ)をもって、(おおむ)ね事件の解決となりました。

 

「ミカンさん、また強くなったんじゃないんですか?」

「そうだと良いですね。まだまだ目指す先がありますので、それに近付くことが出来ているならそれに越したことはありません」

「ひぇ……それ以上強くなってどうするんですかぁ……?」

 

 呆れた様子の彼女に、笑みを浮かべつつ曖昧(あいまい)に答えます。

 セレビィが見せてくれた未来の映像。それが本当に起こる出来事なのかは私には分かりません。私の中の知識では、ヤナギさんを倒した所で物語が終わっていますから。それに、未来と言っても何年後なのかも分かりません。でしたら、出来うる限りの準備をしておくに越したことはありません。伝説のポケモンと戦うのです。準備のし過ぎということはないはずです。

 

「それを言うなら、レミさんも随分(ずいぶん)と強くなったじゃないですか。今でしたらチョウジジムのジムリーダーの席が空白なんですから、ジムリーダー試験受けるんでしたら推薦状(すいせんじょう)書きますよ?」

 

 ヤナギさんが逮捕、起訴されたことで、チョウジジムはジムリーダー不在ということになっています。ジムリーダーは、ポケモントレーナーの道標となるだけでなく、治安維持にも一役買っています。ですので、いつまでも不在というのはあまりよろしくありません。ロケット団の残党も、全員を捕まえた訳ではないのですから、そういった残党の残党が潜伏先としてジムリーダーのいない街を選ぶことは不思議ではありません。

 まぁそれを言えば、普通にタマムシシティのゲームコーナーの地下にいましたが。それに、ジムリーダー自体がロケット団幹部という所もあります。というか現役なんですかね? まぁロケット団のボスであるサカキさんも行方不明ですし、再起を狙っているのであれば、再び動き出す可能性もありますね。その時は全力でお相手しますが。

 

「えぇえ! いえいえいえ、そんな私では、まだ、そんな、ジムリーダーだなんて!」

「でもこの間、本気のシジマさんとの試合で勝利したじゃないですか」

「あれは、あの人が1匹しかポケモン使わないのに対して、こちらは3匹まで使って良いという変則ルールだったからですよ!」

「それでも勝ちは勝ちです。それに、シジマさんも実力者が増えて嬉しそうでしたよ?」

「うー……どちらにしても、まだ私は無理です!」

「そうですか。それは残念です」

「私はともかく、ミカンさんはどうなんですか? 四天王のお誘いがあったと聞きましたが?」

「え、何で知っているんですか? 内密だって言われていたんですけど」

「断ったからじゃないんですか? というか何で断ったんですか? 四天王ですよ? 四天王!」

「えー……まぁ、その、まだジムリーダー就任してから1年半も経っていませんのに、そんないきなり四天王だなんて無理ですよ」

 

 そう、現在四天王は4枠全て空席という前代未聞(ぜんだいみもん)の状態です。それが1年以上も放置されているので、何かしら手を打ちたいというのがポケモン協会の意向のようです。そこで、力のあるポケモントレーナー、特にジムリーダーや、ポケモンリーグでの優秀な成績を収めたことのあるトレーナーを優先してスカウトをしているみたいです。

 ただ、ジムリーダーの選別の方の優先度が高いからか、遅々(ちち)として進んでいない様子です。まぁ四天王、いてもいなくても正直どちらでも良いと思います。バッジを集めたら、その個数によってポケモンリーグ予選のシードもしくは免除の権利が得られるというだけですので。

 一応、リーグ優勝を果たしたトレーナーにのみ四天王への挑戦権が得られ、そして倒すことが出来ればその席を奪うことが出来るという仕組みです。そして4人全員を倒すことが出来た時に、晴れてチャンピオンという1番上の席へ座る権利が与えられるということです。

 ただ、ワタルさんが四天王に入ってからは誰も勝てなくなってしまったので、実質ワタルさんが四天王兼チャンピオンの役割を果たしていたのですが……行方不明なら仕方ないですね。四天王もないですし、今後どうなるかは協会次第(しだい)ですが、私はやりませんよ? 四天王。そんな堅苦しい席は、私には似合いません。

 

「確かに若いですし、任期もまだ短いですけど、十分実力は見せ付けているじゃないですか。対抗戦(エキシビションマッチ)でも、前回リーグ準優勝のジムリーダーさんを負かしたんですから」

 

 あの試合は、グリーンさんのジムリーダー就任から育て直したという、短い期間での育成から来る練度の差での勝利でしたので、同じ条件でしたら私が勝てていたかはすごく怪しい所です。

 

「え、えーと、この話はお(しま)いです。この時間予約はありませんので、少し早いですけどお昼ご飯食べに行きましょう!」

「あ、逃げた。じゃなかった。私も行きますから、待って下さいよー」

 

 別に四天王に入るのが嫌という訳ではないですが、私には夢があって目標があります。まだ高校1年生ですので進路について今すぐ考えなければいけないということもないですが、せっかくのジムリーダーになれたのです。まだまだ勉強したいことは沢山ありますし、様々なトレーナーとも関わりたいと思っています。四天王になってしまったら、強い人としか戦う機会がなくなりますからね。私、別に最強を目指しているとかではありませんので。

 所で、四天王の収入ってどうなっているんですかね? ただその席に座っているだけでポケモン協会から支払われるのでしょうか? ジムリーダーみたいに運営費などとして毎月支給されるのでしょうか?

 ちなみに、ジムに所属するジムトレーナーの給料は一応ポケモン協会から出ていることになっていますが、毎月支払われる運営費の中に含まれていて、それをジムリーダーが給料として出すこととなっています。当然ながらジムトレーナーの人数に応じて支給額が増えますが、上限はありますので、あまり多くのジムトレーナーを(やと)うと大変です。ジムトレーナーの人数については上限ありませんからね。

 

「お腹()きましたね」

「私はそこまでです。軽くなら食べられますが。というかミカンさんさっき隠れておやつ食べていましたが、もう空腹なんですか?」

「え、何で知っているんですか?」

「バレバレです」

 

 食事量の割に、間食をほとんどしない私ですが、時々シジマさんからお菓子が(おく)られてくることがあります。それをありがたく頂くのですが、そのお菓子にはカラクリがあります。シジマさんが隠していたお菓子が奥様に見つかって取り上げられ、しかし捨てるのも勿体(もったい)ないと、わざわざ飛行タイプのポケモンによる空輸によって私の元まで届けられるということです。

 言い訳をしつつ2人並んでアサギ食堂まで向かっていると、見慣れた男性を見つけました。

 

「あ、センリ(・・・)さん、こんにちは」

「ん? あぁ、ミカンか。こんにちは」

 

 そう、ホウエン地方のトウカシティでジムリーダーをしているあのセンリさんです。ただ、今の時点での彼はジムリーダー資格こそ持っていますが、まだどこのジムにも所属していません。本当なら空席となったチョウジジムのジムリーダーへ、真っ先に声を掛けられるべき人物なのですが、とある事情から単身でホウエン地方に向かうことになっています。

 あれは確か5年前ですか。私がまだ駆け出しの一般トレーナーの頃ですのでよく分かりませんが、ポケモン協会の特別研究所に関わる何らかの出来事に関わっていると、ジムリーダー就任後に噂で聞いたことがあります。

 

「どうかされたんですか?」

「いや、何。しばらくこの景色を見ることが出来なくなるんだなと思ってな」

「ということは、ジムが決まったんですか?」

「あぁ、そうだ」

「ちなみに場所は?」

「ホウエン地方のトウカジムだ。前任者が引退したことで空席となったことで、そこに所属することとなった」

「そうですか。センリさんとの鍛錬(たんれん)はとても有意義でしたので、(さみ)しいです」

「ウチの馬鹿息子にも聞かせてやりたいよ。オレの指導を(こば)んでコンテストばかり……」

「どのような道でも、(つらぬ)き通せば立派ですよ?」

 

 一応擁護(ようご)しておきますが、目の前の目付きの(するど)い男性は軽く鼻を鳴らすだけです。

 

「フンッ、アイツにそれだけの覚悟があれば良いんだがな。それに、アイツには強くなってもらわなければ、オレではアイツを守って上げることが出来ないかもしれないからな」

「それを彼に言って上げれば良いじゃないですか」

「言っても聞く訳ないさ。まだまだ()(まま)な子供だ」

「子供だと(あなど)ってはいけませんよ? 子供というのは本当に短い期間にあっという間に成長するんですから。技術も心も」

「あぁ、(きも)(めい)じておく」

「ご家族はこちらに残るのですか?」

「いや、まだ荷物がまとまっていなくてな。家内と息子は、3日後に引っ越す予定だ」

「そうですか。風邪など引かないようお身体には気を付けて下さいね」

「それに関しては全く(もっ)て問題ない」

「それもそうですね。それでは、私はこれで」

「あぁ、気を(つか)ってもらってすまないな」

「いえ、ルビー(・・・)さんと奥様によろしくお伝え下さい。時間が合えば私も見送りに行きますが。3日後はジムリーダーの会合がありますので、少々難しいかもしれません」

「そこまで気を回さなくても良い。だが、ありがとう」

 

 だからそれをちゃんと家族に伝えて上げて下さいとは口にしませんでした。

 私達は別れを告げて、再び移動します。今後、ホウエン地方で起こる出来事については言わないことにしました。言った所で信じてもらえないでしょうし、私がヤナギさんを助けてしまったことで、直接的でなくとも何らかの影響を及ぼす可能性があります。

 それに、セレビィは既にあの人(・・・)と一緒にいるのでしょう。何となくですが、時間の狭間を経験した身だからか、雰囲気(ふんいき)を感じる時があります。私以上に未来を見通せる者が身近にいるのです。どう未来が転ぶか分かりませんが、それをきっと修正して、救ってくれるのだと信じています。

 

「あ、レミさん! 見て下さい! 40分で完食したら無料ですよ!」

「いや、この量は絶対無理ですって。食べるなら1人で食べて下さい」

「分かりました。私、頑張ります!」

 

 事件が一応の解決を(むか)え、平和が訪れます。しかし、何年後かに再びこの地が戦いに巻き込まれることを私はセレビィから教えられました。その時までに、どれだけ時間が残されているか分かりませんが、未来を(たく)された以上は全力で(のぞ)むつもりです。

 

「デカッ! 生で見ると本当にデカッ!」

「これは食べ応えがありそうですね!」

 

 ただ今だけは、この平和な時間(とき)謳歌(おうか)し、お腹いっぱいご飯を食べたいと思います。

 

 

 

 

Fin(未完)




 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
 これにて本シリーズは完結とさせて頂きます。続きはございません。
 2ヶ月ちょっとの短い期間でしたが、(つたな)い文章にお付き合い下さり、本当に感謝感謝です。
 元のポケスペ本編が良いだけに、中々物語を大きく変えるというのは私の技量では無理でした。
 まぁ、このミカンちゃんでは、ほんの少しだけ未来を変えることが出来る程度の力しかなかったということでご容赦下さい。
 オリジナル作品のスランプで、息抜きとして始めた本シリーズですが、多くの応援によってここまで続いてしまいました(本当は最初の4話まで投稿してそのまま逃げる予定でした)。
 終わり方に納得出来ない人もいるかもしれませんが、私の技量ではこれが限界です。申し訳ないです!
 長々と失礼しました。これにて終わりです。ここまで読んで下さった皆様、お疲れ様でした。


 ここから若干補足。
 というかHGSS版もですけどORAS版も関わってくるとか、色々話がややこしいですね。
 あ、このミカンちゃんはHGSS版を知らないということは当然ORAS版も知りませんので、レックウザを逃がした真犯人も知らないことになります。
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