同級生に誘われホイホイ参加したライブで狡知ソング唄ったらアイドルバンドに目をつけられた   作:オパール

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※加筆しました


実際のところ

『わりぃ。ライブ一人で歌って』

「は?」

 

バンドやってる同級生からそんな連絡が来た。

本番の前日だというのにこれである。

他のメンバー達には連絡済みらしく、理由を聞いたら彼女とハッスルしすぎて腰をイわしたというクッッッソしょうもない理由だった。なので二次元オタクとして鍛えてきた語彙力で可能な限りの罵倒の言葉を送ったが、今となっては後の祭り。

 

元々、一度だけで良いからライブでデュエットやろうぜ、みたいな話を持ちかけられて、不承不承ながら了承して練習も一緒にやってはいた。

ぶっちゃけ死ぬほど嫌だったけど。その日はNFOのイベントがあるから無理、と何度も言ったのに、時間も場所も弁えず土下座までしてきたものだから手に負えない。

前々からイベントは一緒に、と約束してたフレンドからの好感度を下げてまで受けてやる義理は無いのだが、断り続けた結果とうとう家にまで押し掛けて来たので受けざるを得なかった。

フレンド二名にその旨を伝えたところ、当然ながら片方は怒り、もう片方は軽い文面ながら残念に思っているであろうことはわかった。めっちゃやむ。ごめんよRin-Rinさんと我が魔王……

 

こっちはこうまでしたのに、誘ってきたバカはこのザマ。殺していいんじゃないかとも思うが、よくよく考えたらわざわざ殺人犯になってまで殺してやる値打ち無かったわ。

 

閑話休題。

 

どうしようもないので早々に諦めながら腹を括り、メンバー達とリハーサルに臨む。

ギターとキーボードが女子、ベースとドラムが男子という、ガールズバンドが幅をきかせるこのご時世には珍しい、男女混成ユニットがこのチーム。

どうでもいいことだがギター担当はドのつく変態。何あの指の動き、気持ち悪っ。リハなのにヘドバンしてるし。

全歌詞英語の曲とあって、発音と発声がすげー大変だった。それでも数をこなせば自ずと結果は出てくるもの。家で歌詞を見ながら音源をヘビロテしまくって、本職とまではいかないがそれなりのレベルにはなれた、と思う。

 

……友人とのカラオケでもない、不特定多数の人前で歌うとか、陰キャのオタクにはあまりにもハードル高すぎると思いません?

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「衣装あるなんて聞いてないんだけど」

 

当日。

とりあえず人前に出ても最低限恥ずかしくない格好でライブハウスに出向くと、「衣装あるから着替えて」と雑に言われた。

何がなんだかわからないままに着替えさせられ、化粧台に座らされて髪はガッチガチにされたし何かファンデーション的なナニカ塗られたし。

そしてこの衣装がまぁクセモノ。

何ぞのコスプレかってくらいに派手派手なやつ。何この襟周りや腰周りの羽。いらねーだろただのサポート的なポジションでしかねーんだぞオレは。あ、普通に着脱式かい。

あと何で胸なり腹なり露出させていくスタイル? やめてくれよ、オレ人様に見せられるような身体してないんだから。インナーは着るぞ。着るからな!?

 

 

 

そんな舞台裏であれこれが終わり、いよいよ本番が近付いてきた。大して広くもないホール。裏にいても観客達の歓談の声が聞こえてくる。

ちょっとだけ気になって、バレないように注意しながら袖から客席を覗いてみた。

 

(え、気持ち悪)

 

女ばっかり、っつーか女しかおらんやんけ。

男どこ? こ↑こ↓?

参加するバンドもガールズバンドばっかだし、男ってもしかしなくてもオレらだけ? 嘘やん。え、実は男からの需要無いとかそういうあれ?

 

(帰りてぇー……)

 

どれだけ心の底からそう思ったとしても、もう開始まで時間も無い。キリキリ痛んできた胃をどうにか黙らせつつ、控室で待つメンバーの元へと戻る。

 

その道中、ふと曲の歌詞を思い出す。

 

ドギツイ下ネタやスラングのオンパレードな例の曲、なんか既視感を覚えるので、とりあえず曲前のMCでそれに照らし合わせたネタでも入れてみよう。うん、そうしよう。

 

「後悔しやがれアホめ」

 

ここにいないバカに向けて呪詛っておいた。

バンドの評判が地の底に落ちようが知ったことか。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

(ゆるして)

 

いやごめん、本当にごめんなさい。

帰してください、帰らして、切に。

 

ステージの上に立ったは良いけど、これ思った以上に緊張する。無理、やだ、吐きそう。

まずめっちゃ見られてる。舞台から見るの全然違う。人多い、多くない? しかもボーカル普段と違うって当然バレてるから。サポートいるなんて告知してないだろうし、しかもそのサポートがよりにもよってソロなんだもの。

めっちゃざわついてる場内、緊張なんて抑えきれるわけもない。絶対変な顔になってるって今。口角吊り上がってるの自分でわかるもの。

 

駄目だ、ちょっと黙ってよう。

いま口開いたら絶対何か出る。

 

「……やれやれ。やっと静かになってくれた。アンタら、発情期かナニカなのかい?」

 

ブーイングぅ。いやそりゃそうだよね、出て来て早々にこんなん言う輩が受け入れられるわけないもんね。

でもオレもうやるって決めてるから、ゴメンナサイネ

 

「ッハハハ! 図星だからってそうイキり勃つなよ。……でもまぁ、ああは言ったけど、こんなとこに暇潰しに来るような連中なんだ。それくらいサカっててくれないと面白くない」

 

後ろからの視線もかっ飛ばされてくる罵声も痛い。

でも仕方ないよね、オレだってやりたくてやってるわけでも好きでこんなとこにいるわけじゃねーもの。

やりたいだけやらしてもらうから。

 

「でもまぁ、あんまり鳴かれ続けても萎えちまう。もっと静かな、抑えようとしても、どうしても漏れちまう声ってのも乙なもんだ。そう思わないか?」

 

悲鳴が聞こえた気がした。違う、抑えきれなくてどうしても漏れ出る声ってそういうのじゃない。

あと誰だ「死ね」っつったの

 

「ん、オレの名前? 別にいいだろ。どうせオレが歌うなんて、この一回だけなんだ。一晩限り、行きずりの関係なんてのも素敵だろう?」

 

ふえぇ……大ブーイングだぁ……

悪役(ヒール)のプロレスラーでもこうはならんやろ……帰りてぇなぁちくしょう

まぁでもここまで来ちゃったし。立っちゃったし、煽っちゃったし。ベクトル違うけど盛り上げちゃったし。

 

「―――イイね。イイ塩梅だ」

 

みんなを見る。呆れてたわ。当たり前だ。

 

 

 

「―――オーケィ。ヤろうか……!」

 

 

 

演奏開始からしばらくすると、あれだけ荒れ狂ってた観客達はみんな静かになってた。賢者タイムか何か?

これならやりやすい、頭に叩き込んだ歌詞を、演奏隊の伴奏に合わせて口遊む。

……にしてもやっぱひっでえなこの曲。

 

 

 

―――達する、達する!!

 

 

 

流れ変わったな(確信)

ここからもうほんとひで。下ネタ連発、こき下ろすというか扱き捨てるというかマスでもかいてろと言わんばかりのアレな内容である。

 

だがそれでも、少なくともオレはこの曲が好きだったりする。めっちゃ惹きつけられるし。

 

気付けば曲ももう終わりの頃。

これの和訳を知った時には鳥肌もんだったね。

 

 

 

―――オレと姦淫しないか?

 

 

 

何か一人くらい会場出ていこうとしてるけど、正直どうでもいいかなって。もうフィナーレだし。

なので最後の歌詞を終えると同時に全力シャウトしたった。我が声ながらうるせえ。

そして演奏も終わり、テンション高くなっちゃったんでマイクスタンドを蹴り倒したりしてみたり。

そのままマイクを手に右手で例のポーズを決めて

 

 

 

「―――では、良い週末を」

 

 

 

明日から連休だからね、仕方ないね。

 

終わったら大歓声でした。なにゆえ

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あの馬鹿クビにするから正式にボーカルとして加入してくれると私達は嬉しい」

「なんで?」

 

例のド変態ギターからそんな話が来た。

何でもあのライブの映像が動画サイト等に出回ったらしく、どういうわけか『ボーカル変えろ』という声が相次いでるらしい。

腰痛が治って登校してきた例のバカは文句をつけてきたが、他の四人から総スカン食らって大人しく引き下がっていた。元々素行は悪かったからね。こないだの一件がトドメになったと見るべきだろう。

 

「いや普通にやだ」

 

当然である。

あの一回だけという約束だったはずなのに、何が悲しくて正式なバンドメンバーにならねばならんのか。

この数日、NFOのフレンド二人ともまともにチャット会話も出来てないから割と心は荒んでるぞぉオレは。そんなところにバンドに入れ? 嫌に決まってんだろ間抜けぇ。

 

何度も何度も頼み込んで来ているが、流石にこればかりは答えを変えるつもりは無い。

オレは陰キャオタクとしてこれからも過ごすんだ。陽キャ御用達(偏見)のバンカツなんてごめん被る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、何故か芸能人にカチコミされた




勘違いものって難しいんすね、ちぃおぼ

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