「雪風様の幸運に感謝するがいいのだ!」
まだ幼い容姿を見せる少女が胸を張って勝ち誇る。
白銀の髪に犬のような耳を頭の上に乗せた少女。
KAN-SENと呼ばれ、艦船が人化した姿と言われても違和感しか覚えないだろう。
しかし、この世界ではこれが現実。
セイレーンと呼ばれる敵対存在との戦闘を終えて戻ってきたばかりの彼女。
これはその日常のヒトコマである。
「雪風様は無敵なのだ!」
笑顔の少女に怪しく近付く影があった。
影は雪風のスカートの端を摘まみ、そしてめくりあげた。
「ふっ、白と青の横縞か……子どもだな」
「わうっ!? ……あ、あんた。死ね! もう死んじゃえ!」
その影は雪風の鋭い蹴りをかわして後ろに下がる。
すかさず立ち上がると服装を整え、敬礼を見せる。
「お疲れ、雪風よく帰って来てくれた」
「指揮官! あんた、今わたしの……!」
怒る雪風の追及をどこ吹く風と受け流す青年。
この港における最高責任者とも呼べる指揮官という存在。
KAN-SENと心を交わし、指揮することの出来る人類の決戦存在といっても過言ではない。
もちろん、能力と人格は別物ではあるのだが。
「雪風、前に言っただろ? 俺には夢があるって」
「だからって今……!?」
指揮官には夢があった。
幼い頃から神童と呼ばれ、真面目一辺倒で生きてきた彼にはついぞ出来なかったことだ。
KAN-SENは女性の姿で顕現する。
真面目で女性と付き合うなどもっての外だった彼にとって、この環境は刺激的すぎたのだ。
KAN-SENは女性の姿をしているだけあって恋愛もする。
彼も幾人かのKAN-SENと愛情を重ね、結婚に至った経緯がある。
それでも、その夢は全うされることは無かった。
それはスカートめくりである。
「ジャベリンやシェフィールドに頼めばいいのだ!」
「ジャベリンはめくる前に見せ付けて来るからダメだ!」
実際に彼も最初は結婚したKAN-SEN達に頼んでみたのだ。
ジャベリンはこの港に着任した際の最初の秘書艦になってくれたKAN-SENだった。
薄紫色の髪をした、とても元気な少女。
彼女に惹かれて結婚まで至ったのは運命だったと言ってもいい。
実は最初の結婚相手ではないのだが、ここで語るべきではないだろう。
青年は二番目のケッコン艦に当たるジャベリンに頼んでみたのだ。
返ってきたのは「ジャベリンが見せてあげますよ!」という言葉と捲し上げられたスカートの中身。
違う、違うんだと青年は落ち込んだ。
それはそれとして興奮もしたし色々と楽しんだが、それは別の話。
「シェフィールドは?」
「『端的に言って死んで頂けますか、ご主人様?』って蔑んだ眼で見られた。あれはあれで良かった」
冷徹な言葉と行動をもって指揮官に仕えるメイド姿の彼女に、指揮官は文字通り心臓を撃ち抜かれてしまった。
青年はマゾでもあったが、これも語るべきではないだろう。
「他にも居るのだ! インディアナポリスとかサラトガとか!」
「インディちゃんにそんなことやったら犯罪だろうが!」
「雪風相手でも犯罪なのだ!」
インディアナポリスは小麦色の肌が魅力的な控えめな性格のKAN-SENである。
指揮官の最初の結婚相手でほぼ一目惚れだった。
彼女の姉にあたるポートランドとはその際に色々と因縁は出来たが最近は姉妹丼という言葉に惑わされそうになっていることは割愛する。
「サラトガには……『艤装を指揮官の頭にコツンッとしたらどうなるか試させてよー』って笑顔で脅されました」
サラトガは幼い容姿でありながら古参兵である。
艦船としての戦歴もさることながら、KAN-SENとしても立ち上げ初期からお世話になっている存在であった。
「何でサラトガ相手だけ敬語なのだ……?」
「いやちょっと……何となく」
好き勝手やっている指揮官でも頭の上がらない相手は居るのである。
「確かに、この前『スカートめくりさせて!』って言われたけど……」
「泣かれたりされたら辛いんだよ、雪風みたいにしっかり怒ってくれる子がいいんだ」
指揮官にとっては大切な夢であった。
しかし、泣かれたり失望されたりは本意ではない。
ケッコン艦達に頼んでも心が満たされることは無かった。
しっかり叱ってくれて、さらにそのまま後に引きずらない。
そう、青年には雪風が適任に思えたのである。
「そ、そこまで頼りにされたら助けてあげなくもないのだ。雪風様に任せるのだ!」
そう答えたのはつい先日のこと。
雪風は忘れていたわけではないが、完全に虚を突かれただけだと主張する。
「でも、これで満足したのだ?」
「いや、もっとスカートめくりがしたい」
有り体に言えば最低の指揮官であった。
事あるごとに雪風のスカートをめくる指揮官の姿は港のあちこちで目撃されるようになった。
時折シェフィールドやサラトガに大破させられた指揮官の姿も見られるようになったが。
「雪風様は大人だからあんたみたいに子どもっぽいことはしないのだ!」
そう言いながらも思わず手が出てしまうのは女の性か。
この頃になると指揮官も打たれ強くなってきたのか、頬に青アザを残したまま仕事をするのもざらだった。
しかし、雪風にも変化があった。
以前はグーで殴るのも当たり前だったのが、最近では口答えはするものの手が出なくなってきていたのだ。
「指揮官、雪風ちゃんを遊園地に連れていってあげてください!」
そう言い出したのはジャベリンだった。
青年にも確かに思うところはあった。
いかに夢のためとはいえ、少女の下着を見るという行為は相手に負担を強いているのではないかという可能性に。
実際には可能性どころか更迭されてもおかしくないレベルの性犯罪なのだが、彼が最後まで気付くことはなかったと言っておく。
一方のジャベリンは雪風の内心にも気が付いていた。
伊達に指揮官のケッコン艦ではないのだ。
「デート? ふん、この雪風様がそう易々と誘いに乗ると思ったら……え、シェフィールドと行く? ま、待つのだ! 雪風様は機嫌がいいから付き合ってやるのだ!」
「大人の雪風様に遊園地なんて……え、言ってみただけ? ちょっと話し合うのだ! 遊園地だって良いところがあるのだー!」
「観覧車に乗るのだ? ふ、ふたりっきりでナニをする気なのだ!? ナニって何なのだって? し、知らないのだ!」
指揮官もまた気付いていた。
雪風と居るととても楽しい時間を過ごせることに。
だから、これは必然だったのだろう。
「指輪……? ふん、ようやく雪風様との未来を考えるようになったのか? うん、これはいいのだ……え、見せびらかしただけなのか!? ま、待って、自分がワガママだと分かってるけど、でも!」
「ウソだよ」
青年は雪風に告げる。
「え、何がウソなのだ?」
「俺は雪風が大好きです。結婚してくれるかい、雪風?」
からかわれたのかと思い、目に涙を浮かべる雪風を抱きしめる青年。
夢の成就に根気よく付き合ってくれた少女に恋をするのは当然だったのだろう。
その夢が例えスカートめくりだったとしても。
「雪風様がありがたく承諾してあげるのだ! 特別にお姫様抱っこさせてやってもいいのだぞ! さあ、何を戸惑っているのだ! 千載一遇のチャンスなのだぞ!」
「ハイハイ、仰せのままに。お姫様」
雪風を抱いていた指揮官の腰がグキリと嫌な音を立てた。
艤装を装備していないKAN-SENは本来なら見た目通りの重さしかない。
しかし、雪風の身体は高揚感により本人の意思とは無関係に戦闘状態になっていたのだった。
「ゆ、雪風様は無敵なのだ!」
「こ、腰が治ったらスカートだけじゃ済まさないからな!」
果たして二人がどうなったのかは語るまでもないだろう。
「雪風様は指揮官以外には無敵なのだ……」
雪風はしばらくテンションが低かったことだけはここに書き記しておこう。
私は舞鶴サーバーに居ますのでよろしく