好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
「ううっ……はー、はーくしょん!!」
ルディは大きなくしゃみをしていた。
何故なら彼は風邪をこじらせてしまったのである。
今日は学舎の日だが、行くわけにも行かないため休みを取っていた。
彼は家のベッドの上で静かに過ごしていた。
(はぁ……こんな時に風邪かよ……頭痛い……)
重い病気ではないもののやはり辛いものは辛い。
あまり動けるようなものではない。
(今頃学舎じゃ楽しくやってんだろうなぁ……勉強やんないのはちょっと嬉しいけど)
学舎での仲間たちの様子を想像する。
そして想像しているうちに彼女──ラティナが微笑んでいる所も想像できてしまった。
(……って俺はこんな時もラティナかよ……落ちつかねえと……!)
だが本人の意志とは無関係に段々とラティナのことが頭の中に浮かんできてしまっている。
(くっ……寝よう……寝ればいいんだ……)
無理矢理布団を被り、なんとか寝に入るルディであった。
――――――――
一方その頃、学舎では──
「ルディが風邪?」
「うん、僕がルディの家の前で待ってたらお父さんが来て今日はルディが風邪引いたからって休むって」
学舎ではルディの友達であるマルセルがラティナ、クロエ、シルビアのいつもの3人にルディが今日いない理由を話している
「風邪の流行りが終わったと思ったら、今度はあいつがかかるなんてね……」
「まあ、最近ルディも色々と頑張ってみたいだし……」
クロエとシルビアがラティナのほうを少し見ながら、頷いている。
それを気にせずラティナはルディのことを心配しているようで……
「……ルディ、大丈夫かな…?」
どうやら自分の風邪の経験と、彼女自身の優しい性格もあってか彼のことをかなり心配しているようだ。
引っかかっている「モヤ」にはまだ気づいてはいないが。
「あいつは風邪なんかで死ぬやつじゃないけど……ラティナがお見舞いに行きたいなら行ってもいいと思うよ」
「うん、ラティナが来るならきっと喜ぶと思うわ」
二人がそのラティナの背中を押した。
これも「お膳立て」の一つとも言えよう。
「うーん……お見舞い……」
ラティナがそう考えていると、先生が来たようで
「あ、先生来たよ」
アントニーの一声で皆は一時解散し、自分の席へ戻っていった。
(お見舞い……どんなのがいいのかな…?)
なおラティナは授業が始まってもそのことを考えていたそうな。
今日の学舎の授業は珍しく集中出来ないラティナであった。
――――――――
そして時間は昼を超え──
「………」
飯を食う気にもなれないルディはそのままベッドで寝ていた。
下では親父がいつも通り刀を打っている。
(……学舎はもう終わってるだろうな)
暇潰しに本やらを読もうにもあまり身に入らない。
(なにやってんだろ……俺……)
そう思っていると部屋のドアがコンコンと叩かれる。
きっと親父か兄貴、姉貴達が来たんだろうと思い、少し顔を上げる。
そしてドアが開かれると──
「……ルディ?」
「……え?」
入ってきたのは彼の想いの人であるラティナであった。
「な、な、なんでラティナがウチに来てんだよ!?」
「うん、お見舞いに来たよ?だめ?」
「い、いや…ダメじゃねえけど……」
ルディは物凄く驚いている。
顔も(元々風邪で赤くなっているが)紅潮している。
「……やっぱり調子悪いんだね…」
「あ、ああ……でもこんぐらい…なんでも……へーくしょん!」
大きなくしゃみをするルディ
なんとかタオルでカバーしたため拡散は避けている。
彼女に風邪を移したくはないというルディの優しさからの行動だった。
そしてラティナは心配そうな表情をしながらこう話す。
「……ごはん、食べた?」
「…いや……あんまり食欲ねえから食べなかった……」
「わかった」
そのルディの言葉を聞いた瞬間、ラティナは一言そう言って、持ってきた何かの荷物を持ち、ルディの部屋からいなくなった。
(もう帰った…わけじゃないな。ラティナのいつもの鞄はあるし…)
何をしているんだろうと微弱に考えながら過ごしていると、途端にいい匂いが漂ってきた。
「ん?」
(なんだこの匂い……うまそうなやつだけど……)
そして少し経つと再びルディのドアが開かれる。
「な、なんだよそれ……」
「スープだよ?リタがね、風邪の時はこれがいいって」
「そ、それ作ってたのかよ……親父の許可貰って…?」
「うん!」
ラティナがスープを作ったのも驚きだが、あの無愛想な親父がいくら息子の友達とは言え、そう簡単に許可するのかよとも驚いている。
やはりそこはラティナの健気な心ゆえなのか……。
「……」
そのスープは野菜スープであり、病人でも飲めるように濃くはなく、あっさりとしているものであった。
「あ、ありがと…う……」
その好意を無駄にするわけにもいかず……まあ本当は嬉しいのだが、彼はそこまで素直にはなれない。
しかし、お礼はきちんと彼女に伝えたようだ。
「うん、じゃあ…」
そうすると彼女はスプーンを手に取り、スープを掬い、それをふーふーと冷ました後、ルディのほうに持っていった。
「!?」
もちろんルディは驚く。
そしてそれと同時に前に起こった事を思い出し、まさかと思いラティナに質問する。
「な、なあ……それってもしかして……」
「うん、ルディにはこうすると良いっていつもお客さん達が言ってたの」
またかよ!?とルディは言いかけたが、ぐっと堪える。
彼女の純粋さというものは実に輝かしいが、同時に色々と心配である。
「……」
そしてそれを断るのも逆に不自然であり、下手すれば彼女のことを傷つけるかもしれない……と風邪ながらになんとか考えたルディはそれを受け入れた。
「う、うん……わかったよ……」
「じゃあいくね、はい」
「あ、あーん……」
そしてルディはそのスープを口に含んだ。
風邪な上、こうなった以上味なんてわかるわけがなかった。
そして顔が風邪によるものより更に紅潮していたのは言うまでもない。
――――――――
「はぁ……はぁ……」
あれから時間は経ち、ラティナは帰っていった。
途中ラティナのあーんにやはり恥ずかしくなりすぎて耐えれなくなったルディは「も、もう自分で飲むからっ」と自分でなんとかスープを飲んだ。
ラティナは少し不思議がっていたが、特に不満とは思わず、むしろ自分のスープをきちんと残さず飲んでくれたので嬉しかったようだ。
そしてその後は風邪を移すといけないため、彼はラティナを帰らせたのである。
「……」
少し気疲れやらこそしたが、彼の体調自体はよくなりつつあった。
薬もきっちり飲んだ上、そしてスープの味もよかったからでもあるが、やはり彼女に会えたことで少し元気を取り戻したようだ。
(ラティナの笑顔……よかった……な)
そして彼女の笑顔を思い出していた彼であるが、途中で少し眠気が来たのかそのまま眠ってしまった。
その寝顔はとても安らかであったという。
――――――――
所変わり、王都の宰相の家であるエルディシュテット公爵邸では、何故か大人気なく飛び跳ねている大人が一人居た。
「やっと帰れるぞラティナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
言うまでもなくラティナの保護者であり、親バカで有名になりつつあったデイル・レキである。
(くーっ……クソ面倒くさい依頼をクソ早く終わらせたかいがあったぜ!)
「よし、早速飛竜を手配していくz……」
「待て」
すぐにでも飛んでいきそうなデイルをなんとか止めようとする男は彼の友人であり、そのエルディシュテット公爵の三男であるグレゴールである。
デイルの変貌には当初は驚いていたが、今はもう慣れてしまったようだ。
「デイル……まだ色々と後始末が残っているんだが……」
「んな後始末適当でいいだろ!適当で!それよりラティナだ!ラティナ!」
「……」
(あの「魔人族」の子を拾ってきて本当に色々と変わったな……この前はその子から手作りポーチを貰ったと自慢してきて……)
グレゴールは毎回娘自慢をしているデイルには流石に呆れて物も入れないようで、色々と頭を抱えている。
なお仕事こそはきちんとこなす分、文句も言いづらい。
「あのな……お前は色々と重要だからそうはいかん」
「えーっ!いーじーわーるー!」
「なんとでも言え……」
「ちぇっ……だがもう仕事が終わったという連絡ぐらいはいいよな!?」
「……まあ、それくらいは…」
「じゃあ早速速達だ!竜騎兵借りっぞ!」
そしてそのままデイルはその連絡をするためにか、表へ飛び出していった。
おそらくこの時の速度はいつもの魔族退治の3倍…下手すれば300倍の速さなのかもしれない。
やはり親バカは恐ろしいものである。
「全く……あいつは……」
グレゴールも彼のこの様子では毎回こう言うしかなかったのである。
――――――――
「ただいま、リタ」
そしてラティナは虎猫亭へ帰宅する。
「あら、お帰りなさい……そうそう、さっき竜騎兵の人が手紙を届けてきてね」
「てがみ?」
「ええ、デイルからなんだけどやっと仕事が終わったみたいよ」
それを聞いた瞬間、目の色を変えてリタに乗り出す。
「デイル、帰ってくるの?」
「そうみたい、まだ少し時間がかかるけど「秒速で終わらせてくるから待っててくれ!」だって」
そう聞いた瞬間、ラティナはかなり嬉しいようで、色々と飛び跳ねていた。
やはり親子は似るということらしい。
「ほう、デイルのやつが帰ってくるのか?」
「うん、帰ってくるの!」
それを見た常連達は色々と構っていたそうな。
「しかしまあ……一応エリートの竜騎兵をそういう風に使っていいわけ…?」
「この親バカは留まるところを知らないようだな……普通の郵便の速達以上だぞこれ…」
もちろんリタとケニスはそのデイルの行動に色々と呆れていたのは言うまでもない。
それと同時に二人はラティナを見ながらルディのことを思い出していたようで
(やっぱりラティナにはデイルよね……あんなに嬉しがって……厳しいわね……)
(……まあ、ラティナにとってデイルは大きいわけだな……仕方がないとは言え……)
再び二人はルディの恋路を心の中で応援しながらも、酒場の客の注文を捌いていたのは言うまでもない。
親バカはかなり書きやすい(確信)