好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
「うわっ!?」
店の前に居たそのラティナに近い人物
それは父親とは結構な付き合いとなるケニスのことであった。
ケニスことケニス・クリューゲルはラティナとデイルが下宿している酒場「踊る虎猫亭」の主人であり、ラティナに料理の技術や客相手の作法などを教えた「師匠」でもある。
彼はその仕事柄、刃物を使う事が多く、当然その包丁などを鍛冶屋に手入れしてもらうために、度々ここに来ているようだ。
「お、今日はルディが店番か」
当然ながらルディとは顔見知りの関係になっている。
「こ、こんにちは!」
「おう、お父さんは奥にいるのか?」
「は、はい!」
いつも少し乱暴な口調だが、一応目上の人には敬語を使う彼
だが、モヤモヤの原因に近い人が急に現れたため、どこか硬く、なにやらおかしくなっている。
「じゃあちょっとお父さんに頼んでもらえないか?こいつを研いでもらいたいのでな」
「あ、はい……親父、ケニスさんが──」
――――――――
ルディの父はケニスに対し「この忙しい時に…」とぼやきながらも包丁を無言で研ぎ始めた。
そんなルディの父の様子を見たケニスは邪魔になるといけないからと店先で待つことにしたようだ。
「………そうだ!最近ラティナはどうだ?」
「ら、ラティナ?」
「そうだ、よく学舎で会ってるんだろう?」
「あ、えっと!……仲良くさせて……もらって……ます」
変わらず敬語口調のルディだが、急にラティナのことについて振られて、タジタジになってしまっている。
「ルディ、なんかいつもより元気がないように見えるが……」
「べ、別に……!そんなことは……」
とは言ったものの、「何か」の悩みがあるのはどう考えてもバレバレであった。
それを見たケニスはある一つの提案をする。
「何か悩み事でもあるなら俺で良ければ相談に乗ってやっていいぞ。お父さんとかにも話せないことなんだろう?」
「………」
ケニスからの提案に一瞬「いいえ」の選択肢が出たが、確かに親や姉、兄に話しにくいことである。
そこにケニスという信頼できそうな大人が相談に乗ってくれる。
「渡りに船」という言葉にピッタリだと思い、一か八かでルディは重い口を開き始めた。
「……実は」
――――――――
ルディはここ最近のラティナへの「モヤモヤ」のことを洗いざらい話す。
それでラティナに「いじわる」をしてしまったことや、ラティナについていつの間にか考えてしまうなどのことも全て話した。
そして一通りケニスにぶちまけた後、ルディは再び黙る。
(……これは間違いない…よな……ルディがラティナに……いやだがこれって俺よりリタのほうが良いかもしれないな……)
そしてケニスはその「モヤモヤ」についての答えはわかったものの、自分ではルディにとって最適な答えは出せないとも思い、
別の「相談相手」を紹介することにした。
「あのなルディ……それについては残念だが俺もあまりうまく言えない…。だが俺よりいい相談相手がいるんだ。それならきっとルディの「モヤモヤ」の答えもきちんと出してくれる」
「ほ、本当…ですか?」
「ああ、俺が案内する」
――――――――
そしてケニスがルディの父に「ちょっとルディを借りるぞ」と断り、ルディはケニスとともに酒場「踊る虎猫亭」に行くことになった。
ラティナと最初に出会った日、迷子になったラティナをクロエ達とともに(途中ジルヴェスターに会い、案内されながら)送り届けたその場所だ。
当然ながらまだ昼前であるため営業はしておらず、酒場に常連の冒険者達の姿はない。
「あら、お帰りケニス」
虎猫亭の女将であるリタはケニスを出迎える。
「おう、ただいま」
「お、お邪魔します……」
(相談相手って……ラティナの所の女将さんのことだったんだ…)
そしてその大柄なケニスの後ろにはルディがいる。
礼儀よく、礼もしている。
「あらあら、この子はあの時の……どうしたの?ここ連れてきて」
「ああ、ちょっとこいつの相談に乗って欲しいんだ。俺じゃどうしても言葉が悪くなるかもしれないからな……」
「なるほど、じゃあここに座って」
「は、はい!」
ちょこんとカウンター席にルディが座った後、使っていた家計簿を横に起き、ルディへの飲み物を用意する。
「ええっと、ジュースでいいかな?」
「お、お構いなく……」
リタはぱぱっと軽くオレンジジュースをルディへ用意し、自分はルディに対面できるようにイスを用意して座る。
「……じゃあその相談について話してみて。ゆっくりでいいから」
「は、はい……」
――――――――
「………」
ルディはケニスにも話した「モヤモヤ」をリタにそっくりそのまま話し、そしてジュースを飲んで黙った。
そしてリタは考える仕草をした後、柔らかい口調で話し始めた。
「そうね……ルディ君のその「モヤモヤ」は…きっと「恋」のことよ」
「こ…い?」
ルディは首をかしげる。
「こい」と言っても池や川に住む魚のことではなく、例外は少しあるが基本は男女間の「恋」のことである。
もちろんルディはそのことについて知らないわけでもない。
ただ彼の年齢上当然だが、自分自身でそんなことを全く感じたことが今までなかったため、すぐには理解出来なかったのである。
「こ、恋ってあれかよ!?男と女で……」
「そうその恋よ」
ルディは思わず敬語を解くほど驚き、自覚したためか更に顔が紅潮している。
(俺がラティナに……?)
ルディは驚いて、最初は「別にそんなんじゃ……!」と否定する言葉を漏らし掛けたが、自然と心の中でなにかの鍵が空いたような気もしていた。
それと同時にモヤモヤがある程度改善されて、スッキリしてきた。
そして、ルディは自分のラティナへの気持ちをはっきりと自覚する。
(この感じ……そうなんだな……俺……ラティナに……)
自分の恋心を自覚したルディはリタに今後どうラティナに接していけば良いのかを質問する。
「あの……恋したら……どうすればいいんですか…」
「そうね……まだラティナには多分恋とかわからないだろうし……多分告白しても普通に微笑んでくれるだけだと思うわ」
「そう…ですね」
確かにあのラティナは基本皆のことを好きと言う、いわば皆に愛を振りまいている。
そしてそんな時に、同じ歳の普通の子が「好きです!」と言っても「ラティナも!」と多分本当の意味を理解せずに返事することは容易に想像できた。
「でも、できればでいいからラティナを気にかけてほしいの」
「ラティナに?」
「ええ、ラティナの保護者のデイルは職業柄色々な仕事で王都やらに行くことが多くて、下手すると何日もここを空けることが多いの。だからラティナも寂しがっててね……」
「何日も…だからたまにラティナの調子がおかしかったりしたんだ……」
改めてラティナについて思い出してみると、だいたいは機嫌よくクロエやシルビアと遊んでいる時があるが、たまに遊んでいても表情に陰りを見せる時があった。
その時はあまり気にしなかったが、今その話を聞いているとやっとその表情の意味がわかった。
そう彼女は「寂しかった」のだ。
「………」
「お願い…できるかな?」
「はい、まだこの「恋」よくわかんないけど…………やってみます!」
「そう……あ、もちろん「いじわる」はなるべく止めてあげてね。その気持ちはわかるけど、ラティナは本当に気にしてるところもあるから」
「わ、わかりました!」
そしてルディはリタへ相談のお礼を言った後、再びケニスに連れられて、虎猫亭を後にし、自分の家の鍛冶屋に戻っていくのであった。
――――――――
その日の昼後
ケニスとリタは酒場の営業準備をしながら、昼前のルディのことについて話し始めていた。
「なあリタ、ルディのことなんだが……どうするんだ?」
「どうするって…なにかあるの?」
「ああ……あのラティナの様子じゃ興味はルディよりデイルの方に行ってる…まあ、その興味は恋とかそういうやつじゃないとは思うが」
「当然よ、あれくらいの時は同年代より年上の方が頼りになるって思うのが普通よ?私にも覚えがあるわ」
「ああ……だがあのままデイルの方に向いたままで、ルディのほうに振り向いてくれなければ……」
「……そこはラティナ次第よ、私達が指図することなんてできないわ」
その言葉でケニスは少し考え始める。
確かにリタの言葉はごもっともだ。仮に大人が介入したところで事態が悪化する可能性が高い。
だが恥ずかしい気持ちもありながらも、勇気を出して相談してくれた彼のことを放ってはおけない。足蹴にはできない……と包丁を止めて長く考えていると――
あることが閃いた。
「……なあ、俺達がフォローすることってできるのか?」
「私達が?」
「ああ、俺たちがルディへ贈り物の手伝いをしたりとか、雰囲気を作ってあげる…とかな」
「なるほど……確かにそれならいけるかもしれないわね……」
「ああ、もちろん必要以上に介入はしない。最終的にはルディ次第って所だ」
「そうね……それなら指図していることにならない。いいわよケニス!」
「なに……じゃあこれで……」
「ええ、少年の初恋を応援──」
リタがそう話していると、ドタドタドタっと表から急に足音が聞こえてきた
「あ!」
「こいつは……!」
そしてその足音が近づいた後、虎猫亭のドアが思いっきり開かれた。
そこには────
「ラティナあああああっ!ただいまあああああああああ!」
ラティナを拾い、彼女の保護者となった冒険者「デイル・レキ」の姿があったのだ。
もし、世界一親バカの称号があるなら彼に渡るであろうくらいの親バカでもある。
「デイル、今日は早かったわね!」
「リタ!ラティナは?ラティナはどこだ?」
「ラティナならシルビアの所に遊びに行ってるわよ…?」
「え?シルビアの所に…?」
そう聞いた瞬間、デイルは熱を失ったかのように床へ倒れるように萎んでしまった。
「ううっ……せっかくラティナに会うために即断即決で依頼終えてきたのに…」
「まあまあ……とにかくさっさと風呂入ってきたら?せっかくラティナに会えてもその状態だと「きたない」って言われるかもしれないわよ?」
「そ、そうだった!さっさと綺麗になってからラティナを迎えねえと!」
そう言うとデイルはとっとと部屋に上がり、着替えを持った後、風呂場に直行した。
この時の移動はおそらく世界新記録並の速度であった。
「……どうするんだ?デイルにあの事は…」
「言えるわけ無いでしょ……日頃から「俺のラティナに変な虫がつかないようにしないと…」とか「絶対に嫁にはやらないぞ!絶対に!」とか言ってるのよ?もしクラスメイトの男の子がラティナに好意を持ってるなんて知ったら……」
「ああ、確実に厄介なことになる」
もしデイルにバレると、ルディとラティナの交流が物理的に切断されかねない。
ただいくらデイルでも急にそこまではしないとは二人はもちろん思ってはいる。
だが彼のあのいつもの調子を考えるとあながち妄想とも言えなくなるのだ。
「とにかく……デイルにバレないように、フォローとかをしていきましょう」
「ああ……デイルにバレないように……だな」
虎猫亭の主人と女将は、密かに少年の恋を応援することを決めながら、酒場の開店を急ぐのであった。
「へーくしょん!!ううっ…急ぎすぎて風邪引いちまったかな……」
ルディ君、自覚してもまだまだのご様子
暫くは焦れったいことになりますがご容赦を………!