好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
主人公補正はつよい
『俺……ラティナのことが……好きだ!』
『ルディ……』
『………』
『ごめん……ね……』
『……!』
『ラティナ……が好きなの』
『そう……か……』
『ありがとう、ルディ……私のこと、好きになってくれて……ありがとう』
『……』
そこで彼の視線は暗転した。
―――――――――――――――――
目が覚めたルディはゆっくりとベッドから起き上がる。
窓の外からは陽が差しており、開店の準備やらをする他の店の音も聞こえてきた。
どうやらもう朝の時間帯のようだ。
「……夢…かよ」
夢で良かったと安心する反面、どうにもいい目覚めとは言えなかった。
もちろん良い気分な訳がない。
このところ彼女に避けられることが多くなり、この「夢」通りに振られる可能性が急に増えてきたのだ。
しかもこの夢はここのところ暫く続いていた。
「はぁっ……一体……なんだよ……」
(あと少しで学舎通いも終わっちまうのに……)
季節は秋に変わりつつあり、もうそろそろで学舎より出ることになる。
いくら同じ街に住んでいるとは言え、学舎という共通の行き場所が無くなればラティナと関わることが減ってしまう。
それ故にルディはこの状況に焦りを覚えているのだ。
(一体……どうすればいいんだよ……!)
進路の悩みと恋の悩みでルディはかなりの限界を迎えていた。
―――――――――――――――――
「……はあっ……」
学舎でもやけにため息ばかりをついているルディ。
この状況を打開できる策など思いつくはずもなく、ただただ時間を浪費しているだけであった。
そうしていると、ふとラティナ達の声がルディの耳に届く。
「虎猫亭のお客さん?」
「もしかして魔法使いの女の人?」
「……」
(客の話か?)
気になったルディは話しているラティナの後ろでその話を聞いてみることにした。
なお今日のラティナの髪型はいつもの二つ結びではなく、一部を編み込んで残りは肩に流している。
(……いつもと違うんだな、髪)
ルディがそう思っているとシルビアは続けてこう話す。
「前に冒険者の居場所を尋ねに詰め所に来たってお父さんが話してた。王都でも有名な魔法使いなんだって」
「へー……そんな魔法使いがここに?」
「でね、その人いっつもラティナのこと「小さいわね」「小さいからね」って言うの!ひどいの!」
ぷんぷんとラティナは怒っているようで、膨れっ面になっている。
(別に小さくても……なんだよ……)
ルディがそう思う中、ラティナは続けてこう言う。
「ラティナ見習いだけどお仕事もしてるのにちっちゃい子供だって言うの!ラティナ早く大人になりたいのに……」
「仕方ないよ。私達はまだ子供なんだし」
「そうね、どうせいつかは大人になるんだし」
彼女もクロエとシルビアの二人の意見はもっともだと頭では理解しているのだ。
しかし、自分自身の事やルディの事、そしてデイルがまた長期間空けてしまう事など色々と悩みが募っており、とても冷静ではいられなかった。
「大人だったら留守番しなくて済むし…きっと…この「事」も……」
ラティナがそう呟くが、それはルディの耳にまでは届いていなかった。
(…俺はラティナに避けられて、こんなに悩んでるのに…ラティナは店の客の事かよ……俺の事は…どうでもいいってことかよ……)
ラティナ達の話を聞き流していたルディだったが、話を聞いている内に色々と感情が溢れてきて、その表情はムッとしたものへと変わっていき……
そして、
「だってラティナちっちゃいもんな!」
その突然の言葉にびっくりしたラティナはこう言い返す。
「ふぇっ!?ラティナ、ちゃんとおっきくなってるもん!」
「ルディ!」
「あ……」
アントニーとマルセルは止めようとしたが、ルディは止まらずにこう話し続けた。
「ほら!小さいから自分のことを名前で呼ぶんだろ!…赤ちゃんみたいにさ!」
「ふぇ……えっ……赤ちゃんみたい……?」
ルディに言われたその瞬間ラティナは自分が知る大人の女性について思い浮かべた。
(リタ……クラリッサさん……おばあちゃん……え?)
そして、彼女はようやく気がついた。
彼女と同じように一人称を「私」などではなく、名前で呼ぶ女性が旅の途中で出会った獣人族の子「マーヤ」しかいなかったのだ。
(…ラティナ、マーヤちゃんと一緒!?)
その事実にラティナはショックを受けた表情のまま、まさにがっくりと力を失い伏せてしまった。
「あ……ラティナ…!」
「だ、大丈夫?」
そんなラティナの様子を心配したクロエとシルビアはラティナに駆け寄った。
「はあっ…はあっ………」
一方のルディは息切れしながら、ようやく冷静さを取り戻そうとしていた。
(あれ……なんで俺……って……!!)
そして自分がしてしまったことにようやく気づく。
彼女が1番気にしているそのコンプレックスをからかってしまったのだ。
ルディは元々ラティナの小ささでからかうことはあったのだが、好意を自覚して以降はめっきりとなくなった。
何故ならリタからの忠告もあったが、小さくても……いや小さいからこそ更に可愛いということに気付いたのもある。
それに加えて、彼女を傷つけたくない気持ちが強くなった為というものもあった。
「……」
(しまった……やっちまった……)
ルディはバタンと席に座り、そのままラティナと同じように顔をがっくりと伏せてしまった。
「……はぁ…」
彼女をまたからかってしまった。
彼女の気分を害してしまった。
それはつまり──
(最悪だ……絶対嫌われた……!)
もはや悔やんでも悔やみきれないものであった。
そして、落ち込んでいるラティナの方もその落ち込み方に変化が出てきた。
「ラティナ……」
「大丈夫…?」
心配して掛けよってきたクロエとシルビアの声にも気付いていないくらいラティナは思考の沼に沈んでいる。
(……ルディ……怒ってたけど……)
ルディが何故彼女に力んだように言ったのか、それが気になり始めた。
そして考えている内に自分が最近取っている行動について自覚し始める。
(そういえば……ラティナ最近、ルディのこと避けてる……)
なんとか自分の口でその想いを伝えようとはしたが、どうしても本人に言うことが出来ずそのまま彼を避け続けていた。
結果的に彼のことを無視してしまったのである。
(……もしかして…ラティナ、ルディに嫌われた!?)
そのラティナの行動が原因で彼を憤らせたと考え、ラティナは更に落ち込んでしまった。
想いの人に嫌われたと思ったラティナの表情は更に暗く……暗くなっていった。
しかし、それと同時に今まで相談してきた人達の言葉も頭に浮かんでくる。
『とにかくアタックしていくのが1番良いだろ。男連中は大体が鈍感だからなぁ』
『自分のタイミング次第でいいけど自覚したならできるだけ早くにアタックしたほうが良いわよ。彼がこのクロイツにずっといるとは限らない……彼、冒険者に興味を抱いていたしね』
『やっぱ一押し二押ししないと無理よ、あれ…』
(アタック……一押し二押し……そうだよね。このままじゃ…ダメ、だよね……)
そして、ラティナの暗くなりきった表情は徐々に決意の表情へと変わっていった。
「ねぇ、ホントに大丈夫……?ラティナ」
「私が代わりにルディのやつ叱ってこようか?」
「うん…もう、大丈夫……だと思う。ありがと、シルビア。クロエもルディにはラティ…私からちゃんと話すから」
しかし、不安がない訳ではないラティナであった。
――――――――――――――――
「……はぁー」
ルディはかなりため息を付きながらも、家へ帰る道を歩いていた。
先程の発言をまだ引きずっているようだ。
学舎でも、マルセルとアントニーから
『あれは言い過ぎだよ、ルディ。流石にヒドイ……』
『あのさ、思ってても絶対言っちゃいけない事ってあるんだよ…』
などと言われてしまった。
(俺……もう駄目かな……)
彼の心は絶望のどん底にあった。
そういうことを言ってはいけないと彼は心の中ではわかっていた。わかっていたはずなのに………。
(「初恋は実らない」って良く言うしな……)
などと思い、ほぼ諦めかけていたその時──
「る、ルディ!!」
「………え?」
後ろからラティナの声が聞こえてきた。
振り向くと走って近付いてくるラティナが見える。
「ら、ラティナ!?」
「はあっはあっ……あのね、あのね……」
ラティナは走ってきた息を整えもせずに何かを伝えようとしている。
「えっ…と、ゆっくりでいいから……」
「う、うん……」
(って…バカ!!今謝るとこだろ!!)
ルディは心の中で自分を叱責し、
ラティナは一度呼吸を整えて、深呼吸をしてから、大きく頭を下げて、こう言った。
「ごめんなさい!!」
「……え?」
まさか、ラティナから謝られるとは思っても見なかったルディは完全に思考が停止してしまう。
「なんで……」
なんとか言葉を捻り出し、ラティナの謝罪の理由を問う。
「ラティ…じゃなかった。私、最近ルディのこと避けてたから……それで……」
「別に…俺もラティナに酷いこと言ったし……第一そういう今のラティナが……その……」
「今の?」
「あ、いや!そう急に変わらなくていいんじゃないかってことだ!」
(あ、あぶねえ……思わず告白みたいな言葉口走ることになるところだった……!)
ルディは「その…」の後に「好きだ」と口走りそうになったが、それをなんとか飲み込んだ。
ラティナはそのルディの様子に首を傾げるが、深く考えずにこう続けた。
「う、うん……ラティナも急ぎすぎてたかも……。あ……また言っちゃった」
「だから、無理に変わろうとするなって……。いいよ、そのまんまで!その方が…ラティナらしいし」
――――――――――――
そして二人はそのまま一緒に歩いている。
特に言葉もなく、二人の間にはなんとも言えない距離があった。
(うっ……気まずい…なんか………あ!)
ルディはそう思い、ある話を切り出した。
「あ、あのさ…学舎通いが終わったらラティナはどうするんだ?」
「う、うん……ラティナは虎猫亭のお手伝いだよ?」
「そ、そっか……クロエとシルビアは?」
「えっとね……」
ラティナはルディに二人の進路を話す。
クロエは家の仕立ての仕事の手伝い。
シルビアは
ルディも自分が聞いたマルセルとアントニーの進路をラティナに話す。
「マルセルは家のパン屋で修行するって言ってたな」
「そしたらマルセルから本格的なパンの作り方を教えてもらえるかな」
「あいつ食べるだけじゃなくて作るのも大好きだからな」
「アントニーは?」
「ああ、アントニーは高等学舎に進むってさ」
「高等学舎はどんなこと勉強するのかな。いつか聞いてみたいな」
「だな」
(……やっぱ皆、俺よりしっかりしてる……)
自分で話しながら、未だに進路を決めかねていた自分と皆は大違いだと思っていた。
「……それで、ルディはどうするの?」
他の皆の進路を聞いた彼女は当然ながらルディの進路のことが気になっている。
対するルディは決めかねているわけで、彼は少し考える。
(俺は……何したいんだろ……)
憲兵予備隊に入れば厳しい訓練もあるが、確実に力を付けられ、ラティナを守る為の強さを持てるかもしれない。
ただし憲兵隊になるまでの4年間は「彼女」に会える時間がほぼ消滅してしまう。
何故なら予備隊に編入される4年間は寄宿生活となるからだ。
自由時間もあるにはあるが訓練や下働きでへとへとになり、外出することなんてないだろう。
(………)
それもそれで良かったかもしれないが、今の彼にとっては酷な選択である。
──なら少し回り道になるかもしれないが、この選択肢しかない。
「俺は……ジルさんに弟子入りして冒険者になる」
「冒険者に?」
「うん」
冒険者ならクエストで遠出することはあるが拘束されるようなことは犯罪でもやらかさない限りはない。
ただし、毎日が実戦となる為、憲兵よりキツイのは確実だろう。命を落とす危険も勿論ある。
だが彼女に会える確率はこちらのほうが上だ。
「そうなんだ……じゃあ常連さん達にルディのことよろしくってお願いしておくね」
「……別にそういうのは……」
冒険者になる理由についてとくに聞かれなかったことにルディはどうにも言えないことになった。
(俺が強くなれば……ラティナにもきちんと告白できるかもしれない……今の俺じゃ…………ん?)
そう考えていると彼はあることに引っかかった。
(……なんでラティナ、俺のことを避けてたんだろ……)
ラティナは避けていた事について謝っていたが、肝心な理由までは言わなかった。
理由もなく避けることは天使のような彼女では絶対にありえない。
故に彼はそのことを問う事にした。
「なあ、ラティナ」
「え?」
「どうして……俺のことを避けたんだよ?」
「……!」
「……なんか俺、さっきのこと以外にもやらかしてたか……?」
ルディは自分がさっきの「ラティナ小さいもんな!」の発言以外にもラティナの気に障ったことを言ったからラティナが自分のことを避けるようになったと考えていた。
「…ち、違うの!そうじゃないの!」
「え?」
しかし、ラティナは即座に否定した。
決してルディが自分のことを傷つけたから、嫌いになったから避けているわけではない。
その彼への想いを自覚し、どう接していいか分からず、その結果避けてしまっていただけであるためだ。
(もう……駄目……げんかい………!)
もちろんこの話に当たり障りもない理由で返すことは可能ではあるが、ただでさえ想いが強くなっていたラティナは自分を誤魔化すのにもう堪えきれない状態であった。
そして元々彼女が彼を追いかけたのはその「想い」を伝えたいということもあってである。
そして、彼女は勢いに任せて彼にこう言い放った。
「ラティナ……!ルディのこと……好きなの!!」
「……え?」
(次回は明日投稿です。)