好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
時系列的に結構オリジナルでお送りします。
赤毛の少年と幼き少女、進まない恋
年が明け、すっかり春真っ盛りとなった今日この頃
クロイツは言うまでもなく平和であり、人で溢れて賑やかである。
そしてルディとラティナは──
「ルディ、今日も依頼?」
「いや、今日は剣の修行。ジルさんのところで先生に教えてもらうことになったし…」
「そっか…頑張ってね、ルディ」
「あ、ああ……じゃあ……」
──全くと言っていいほど進展していなかった。
冒険者見習いであるルディはここ最近、小さな依頼と並行して剣術の修行もしている。
外へ出て魔獣と戦えるようになるためだ。
そしてもちろん虎猫亭へも行っている。
依頼を受けたり、食事を取ったりすることもあるため、それなりに彼女と関わる機会があるはずだった。
だがそれでも距離があまり縮まないのは──ある人物によるものであった。
「ふぁああっ……」
「おはよう、デイル」
「ううっ……今日もかわいいなラティナ……ってもうこんな時間か……昨日は遅くなったからなぁ……」
それはラティナの保護者であり、相変わらずの親バカのデイルがいたからというのがまずあった。
デイルはラティナが成長していくにつれ、段々と警戒レベルをあげるようになっており、彼が口説かれないように笑顔で威嚇し、監視していた。
まだラティナは11歳。少し気にかけるくらいのレベルでそこまでする時期ではないはずなのだが……デイルの親バカは少し異常だ。
このまま成長すれば警戒レベルは更に上がり、笑顔の中に段々と闇が紛れ込んでいくのは明白である。
そしてそれに対抗し、ラティナとルディの仲を見守る方々、「白金の妖精姫を見守る会」より発展して誕生したもはやクロイツの一大組織かもしれない「白金の妖精姫と赤き勇者を見守る会」(ルディは勇者ではないのだが、常連達の酒の勢いでいつの間にかその名がついたらしい)はデイルが見ている間はルディとラティナの接触を極力避けさせる策をとり、注文などはジルヴェスター経由で取る、二人にデイルが居る前では関わりを避けることを助言するなどして
なるべくデイルに彼と彼女の関係を悟らせないようにした。
だから、先ほどもデイルが起きてくるまでの間だけ、ジルヴェスターの家に行く途中で虎猫亭に寄り、ラティナと短い会話をするのと、修行終わりに店に来て、開店したら店の中に入る程度しかルディには許されていなかった。
いや、正確には許そうにもできなかったと言うべきか。
なお
「なあ、リタ。そういや最近気になってたが、ラティナの友達のルディって子は冒険者になったんだよな?」
「え、ええ。ジルヴェスターに弟子入りして、今は手伝いの依頼とか修行とかしてるみたい」
「へー…色々とあるのに冒険者かぁ……」
「ほら、やっぱり冒険に憧れたとかじゃないの?そういうのじっと見てたし」
「まあ、そうだよなぁ……俺は選択の余地はなかったけど、そういう外の世界って憧れるよなもんだよな……まあでもジルヴェスターが弟子取ったってのが一番驚いたけどな、そういうの今までなかったし」
「ま、まあ……ジルヴェスターも気が変わることがあるから……」
こういう感じでラティナとの関係について全く関知していないのであった。
とりあえず今のところは大丈夫なようだ。
デイルが居る時は二人の会う時間が制限されるのは当然であるが、それでもデイルが留守にすることはあり、その時に距離を縮める事は出来たはずだ。
それなのに距離が縮まなかったのは……やはり双方が優しすぎるからである。
双方とも優しく、謙虚であり奥手でもあるがゆえ、どちらかが攻めるといった事がなくなってしまったのだ。
そしてルディが暫く忙しかったため、ラティナは彼に遠慮してしまい……
結果、何も進展がないまま数ヶ月も時間が経過してしまった。
「鍛冶屋の息子が冒険者ねえ……あっ、そうだ。あと……」
その時、デイルの話を遮るように大きな鳴き声がした。
「おんぎゃー!おんぎゃー!!」
リタとケニスの間に出来た赤ちゃん、テオドールの鳴き声だ。
皆からはテオと呼ばれている。
ケニスは色々と慌てながらもリタにこう声をあげる。
「すまんリタ!またテオが泣き出した!多分今度はオシメのほうだ!」
「はいはい!」
――――――――――――――――
別の日、デイルがちょっとした依頼で森の方に出かける中、ラティナはクロエの仕立屋に茶菓子持参で出向いて、談笑をしていた。
学舎より出て以降、やはり関わることは少なくなってしまったが、それでもクロエとはたまにこうして会っている。
なおシルビアはどうしても忙しいため会う機会はほぼないらしい。
そして最初は他愛もないものだった二人の話は段々とラティナの恋人…つまりルディの話になっていった。
「そういえば最近あいつとはどうなのよ?」
「あいつ?」
「ルディよルディ、あいつ冒険者になったんでしょ?あいつとは最近会わないからラティナなら詳しく知ってると思って」
「う、うん……元気…だよ?」
そうはてなを付けながらもラティナが答えたためか、クロエは心配してこう返した。
「ラティナ、まさかルディに何かされたんじゃ……」
「ふぇっ!?ち、違うよ?……最近はデイルもいるし……常連さん達からデイルがいる時はルディと関わらないほうが良いって……だから最近はあんまり……」
「……」
(確かにあの保護者の前で二人の関係がバレるとまずい感じよね………まあそれなら……ん?)
親バカ全開のデイルの噂はこの東区まで流れ着いているため、クロエはその理由に納得しそうになるが、少し引っかかったことがあり、それをラティナにぶちまける。
「でもデイルさんが居ない時は結構あるんでしょ?大なり小なりの依頼とかなんとかで、その時にルディと関わることは普通にできるんじゃないの?」
「だ、だけど…ルディは立派な冒険者になるために頑張ってるから……ラティナが邪魔しちゃいけないとおもって……」
「………はぁ」
どうやらこちらが本当の理由らしい。
クロエはため息をついた後、少し声のボリュームをあげ、ラティナにこう話す。
「ラティナ、それじゃダメよ。恋人ならもっと積極的に関わったほうが良いって!」
「ふぇ?いいの?」
「いいの!ルディは今修行中なんでしょ?そこで水筒とか持って差し入れするとか色々とやればいいのよ」
「う、うん……わかった……」
ラティナはクロエの提案に同意しつつ、その「差し入れ」を用意するため虎猫亭の方へと戻っていく。
そしてその様子を見たクロエは仕立屋の仕事を再開しつつも、こう呟いた。
「……付き合えばゴールって思ってたけど……まだまだ先ってこと……シルビアにもどっかで伝えとこ……」
――――――――――――――――
ジルヴェスターの家は西区の高級住宅街の中にある。
かつて数々の偉業を達成したこともあり、かなりの富を得てるためか、立派な邸宅を持ち、大きな庭を持つ。
「………」
(大きい家……ジルさんの家ってこんな感じなんだ…)
そしてラティナは陣中見舞いの品(お茶を入れた水筒とタオル)を持って、その家の前に居た。
(確かにジルさんの家のほうで修行してるって常連さん達に聞いたけど……庭のほうかな……?)
ラティナは恐る恐る家の横の小路を通っていく。
すると次第に「彼」の声がしてきた。
「うおおおお!」
(……ルディ!)
家の角のところで立ち止まり、そこから覗くような形で声の聞こえた先を見てみる。
そこではジルヴェスターとルディ、そしてジルヴェスターより若い男が見えた。
どうやらその男がルディの言っていた「先生」らしい。
「まだまだ、踏み込みが甘いぞ!」
「くっ!?」
先生とは木刀で打ち合っているようだ。
なおジルヴェスターはその様子をじっと見ている。
「はぁ……はぁ……っ……まだまだ……!」
「その調子だ!」
そのまま修行の様子をじっと見るラティナ。
(ルディ……凄く頑張ってる……)
ルディが頑張っているということはもちろん聞いているラティナであるが、改めてその現場を見ると、改めて彼の頑張りようを実感できたようだ。
そしてそのままラティナはじっと見ていた。
それから少し経った後、ジルヴェスターはルディにこう声をかける。
「兄ちゃん、そろそろ休憩したらどうだ?」
「ま、まだまだいける…っ!」
ルディはそう言うがかなり疲れているのは明白であった。
それにジルヴェスターは頭を少しかきながらも、後ろの様子を少し感じ、こう話す。
「張り切りすぎては体が持たんぞ、後ろの「彼女」が見てるとは言え…なあ、嬢ちゃん!」
(ふえっ!?)
ジルヴェスターの声が聞こえたラティナはここにいることがバレたと察して驚いた。
かくれんぼは得意な方であったはずの彼女だがジルヴェスターの前では無力であったようだ。
「じょう……って!?」
「う、うん……」
ラティナはひょっこりと顔を出して、バスケットを持って、彼の元へと近づいてきた。
ルディはあまりにも予想外な彼女の登場にかなり驚いている。
「やっぱり嬢ちゃんか……兄ちゃんのこと気になって来たんだろ?」
「は、はい……」
「そう申し訳なさそうな顔をしなくていい、『彼氏』のことを気にするのは『彼女』として当然のことだろう」
先生がそう言うとラティナとルディの顔は少し赤くなる。
間違ってはいないのだが、相変わらず他人に指摘されると恥ずかしいようだ。
「……あ、そうだ!ルディ!」
「な、なんだよ……」
ラティナは思い出したかのようにバスケットから水筒とタオルを取り出し、彼へと差し出した。
「これ、必要かな……って思って」
「……お、おう…俺も持ってきたけど……結構飲んじまったし……」
そうしてルディはその水筒を受け取り、飲み始める。
同時にタオルで汗を拭く。
「ふぅ……あ、ありがと……な」
「う、うん……」
双方ともやはりモジモジしてしまっている。
そんなルディに剣術の先生はこう声をかけた。
「よし、じゃあもう一本行くか?」
「は、はい!お願いします!」
先生とルディは再び木刀を構え、修行を再開した。
「………」
そしてラティナはジルヴェスターとともにその修行の様子を見る。
やはり彼の目は真剣そのものであった。
その様子をじっと見てラティナはこう思う。
(……ルディ、やっぱり真剣……頑張ってる……)
「ここはこうしたほうが良いぞ?」
「は、はい!」
「………」
ラティナがいつの間にか彼に見惚れていたのは言うまでもない。
ジルヴェスターはそれに気づいてフッと微笑していたそうな。
双方優しすぎるゆえに進まない。
ホント健全すぎる。
ちなみにアニメでは最終回で駆けつけていたラティナ大好きな天翔狼のヴィントは原作のほうに合わせる形で13歳時から登場予定です。
次回は27日水曜日に更新します