好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
とある日の昼過ぎ
虎猫亭ではリタとケニスそしてラティナが午後の開店準備をしていた。
当然ながらテオドールのことを見守りつつであるが……
ケニスもラティナとともに下ごしらえ中であるが、何かを思い出したのか、リタに話し始めた。
「……ああ、そうだリタ、明後日は大丈夫だよな?」
「明後日?」
「いや、店の仕入れの打ち合わせが来ちまってな……この昼の時間にかなり東区まで出ないといけなくなっちまった」
「ちょっとまって……確か…」
リタは自分のスケジュール帳を開き、明後日の予定を確認する。
すると途端に少し顔色が悪くなる。
「……不味い、その日は
「そうか……こっちも先方がかなり忙しいみたいだから別の日は難しい………確かデイルも依頼に引っ張り出されるとか言ってたしな……」
「まいったわね……」
本来、二人が居なくても店が閉まるだけで問題はそうない。
だがしかし今の二人には大切な赤ちゃんがいる。
どちらか片方が居れば子守は出来るが、両方とも居なくなれば当然ながらできない。
なお留守番だけなら常連達にも頼めるが、子供の相手など殆ど出来ないだろう。
デイルもいない状況ではやはりどちらかが妥協するしかないのだが……そう簡単に妥協できるような用事ではないため二人共かなり悩んでしまっている。
二人で頭を抱えて悩んでいるとひょこっとラティナが顔を出す。
「ラティナ、テオのお世話できるよ?」
「……まあラティナなら大丈夫だろうけど…」
「だがな……ラティナ一人だけでは心配だ」
ラティナはしっかりしているため、子守もそれなりにできるであろう。
実際二人がどうしても手が離せない時などはおむつなどを変えることもでき、あやすことももちろん可能である。
だがいくらしっかりしているとは言え、ラティナ一人に留守番と子守を任せるのは二人共不安であった。
そうして考えていると、やはり「彼」の存在が頭の中に浮かんでくる。
「なら…「彼」に頼むしか無いわね…」
「ああ、「彼」だな」
「彼?……あ!」
ケニスとリタが同じ「彼」を想像する中。ラティナは最初は首を傾げていたが途中でその彼のことがわかったようだ。
――――――――――――――――
そして次の次の日
「じゃあ、後は頼むわね」
「ああ、なるべくすぐ戻るからな」
「は、はい!」
「うん!」
そこにはラティナとルディが居た。
「彼」とはルディのことだったらしい。
ラティナとルディに見送られ、ケニスとリタは外出していった。
なおルディは一応、依頼として受けたものである。
(本人としては別に報酬などなくても良かったのだが、押し切られたらしい)
「……はぁ、しかし子守りか…」
「うん、テオの子守りだよ」
「うーん、俺はあんまりそういうの知らないからな……ラティナは知ってるんだろ?」
「うん、だいたいわかるよ?」
「へー……」
(やっぱすげえなラティナ……)
子供たちの中ではかなりのしっかりものであり、比較的賢いというのは付き合う前からわかっていたが、最近はよく見るようになったためかなり実感していた。
そして自分の無力さも身にしみていた。
(俺ももっとしっかりしねえとな……はぁ…)
――――――――――――――――
そして二人は赤ちゃんベッドで寝ているのテオドールの様子を見る。
まだまだぐっすり寝ており、すやすやと心地よさそうだ。
そして二人共小声で話す。
「やっぱり大きくなってるよな…」
「うん、前より大きくなってるよ。ぶくぶくしてきたし」
「……」
「……んっ……す……」
二人が見守る中、テオはぐっすりと眠っている。
そしてこのまま見ている……というわけにもいかないので、二人は店のことをやることにした。
ルディは店の掃除を、ラティナは食材の下ごしらえをする。
なおルディはここ最近は虎猫亭を手伝っていることが多い。
もちろん冒険者としての依頼や修行なども無い時でデイルが居ない時に限りだが……
「いつも掃除してるはずなのに……やっぱゴミ多いな……」
ルディは頭をかいてぼやきつつもホウキでゴミを集めたりしている。
掃除しているにも関わらずゴミが多いのはもちろん常連達が毎晩、騒いで飲んでいるからであろう。
ルディはそんな常連達を思い浮かべて、少し呆れていた。
しかし、それと同時に他の考え事もしているようで。
(……恋人……って……あとどんなことすんだろ……)
それはやはりラティナとの付き合い方に対してだ。はじめて出来た恋人でまだ手探り状態なのである。
それ故に色々と案を考えているが、思いついていない。
ただ、これは「彼」に限ることではなく──
(うーん……恋人……あとどんなことすればいいのかな……?)
ラティナも下ごしらえやらをしながら彼と同じく付き合い方について悩んでいた。
クロエにも言われた通り、やはり彼との関わりはもっと増やすべきである。
だがそう簡単にそういう事が思いつかなかったのであった。
((どうすれば…?))
奇しくも同じ悩みで悩んでしまっている。
そこらへん二人はよく似ているということなのか。
そうしているとテオが起きたのか急に泣き出し始めた。
「おんぎゃあ!おんぎゃあ!おんぎゃあ!」
「あ!」
「な!?」
二人は仕事を置き、急いでテオのところに向かった。
「ええっとこういう時はどうすんだ!?」
「あーえっと、多分……!」
ラティナはおむつの様子を確認する。
すると案の定「あたり」だったようで、ルディにすぐさま指示を出した。
「おむつとかのセット取ってきて!多分カウンターのほうにあるから、リタがそこに置いてた」
「お、おう!」
そう返事をしたルディはすぐにリタがまとめておいたおむつ替えセットを持ってきた。
「ありがとうルディ」
彼にお礼を言った後、テキパキとおむつを替え始める。
やはり慣れているようで、特に戸惑いもない。
そしておむつを替えた後は抱えて、テオを笑顔にしようと色々とあやしている。
「ばーっ」
「あー、うー、えへっ」
「……」
(やっぱすげえよ、ラティナ……)
その様子を見ていたルディはやはり感心している。
とても同じ年には見えないほどテキパキしている。
小さい、小さいと言われるが実は自分含めこの年代では一番しっかりしているともルディは考えていた。
(……将来は良いお嫁さんになるんだろうなぁ……ってまた何考えてんだ…!?)
そしてルディは再び「未来」について考えそうになるが、それをなんとか振り払う。
彼にとってはまだ「未来」より「今」であるからか。
「はあっ……ん?なあ、ラティナ」
「どうしたの?」
「キッチンのほうからなんかグツグツしてる音が……」
「ぐつぐつ……あ!お鍋!テオお願い!」
ラティナはテオを赤ちゃんベッドに戻して、キッチンへ駆け込んだ。
どうやら火に置いておいた鍋が吹きこぼれたらしい。
「お、おう……」
「……んっ…すぅ…」
テオはラティナにあやされたからかうとうとと目を閉じたり開けたりして、再び眠りにつこうとしている。
(また寝るみたいだな……)
「…んっ…っ……」
「……よし」
テオの様子をある程度見て、大丈夫だと判断したルディは再び店内の掃除に戻っていった。
あまり掃除は好きではない彼ではあるが、珍しくラティナに負けないようにテキパキとやり、のちにそれに気づいた常連達からは感心されたそうな。
……まあ、結局その常連達がまた床を散らかすのだが……
ラティナってやっぱりかなりのしっかりものだと思う……
次回は12月3日投稿予定です