好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:モンターク
「ルディ、森にいくの!?」
朝の虎猫亭でラティナは珍しく驚いて声を出した。
「そんなに驚くことかよ?他の人と一緒でそう奥には行かないし…」
「ああ、それに今回ルディは俺達の仕事を見るだけだからな」
ルディの隣に居た常連の冒険者が話す通り、今回は常連の冒険者4人くらいのパーティとともに森へ出て、ルディは魔獣退治の見学…ということらしい。
当然ルディが直接戦うわけではなく、ただ見るだけなのでそう危険ではないのだが、ラティナにとっては前線に出る時点で心配なのであった。
「だいじょうぶなの……本当にだいじょうぶなの…?」
「そんなに心配することじゃねえって……別に……これからはよくあることになるんだし…」
「そうだぞ、嬢ちゃん。気持ちはわかるが……そう遅くはならんし…」
「う、うん……」
確かにこういうことはあの親バカの保護者も同様なため、過剰に心配するのはおかしいことであるはずなのだが、好きな人を離したくないという想いが強すぎるためか、こうなってしまっている。
その様子を見ていたリタとケニスはその親バカを思い出しながらもこう思う
(……この感じデイルに似てるわね……)
(やはり親子だな……)
「……」
そして、ラティナは冒険者パーティとルディのことを見送りつつ、なんとも微妙な表情をしていた。だが──
「ふぁあああっ…おはよう……」
「う、うん。デイル、おはよう」
「おお!ラティナ!今日もかわいいなぁ!」
保護者の起床により、とりあえず通常通りに戻っていった。
(デイルが最初あくびをしていたのにラティナを見たら目がパッチリと冴えるのはいつものことである)
「あら、デイル、昨日依頼だったからもっと寝てるかと」
「いや、今日は依頼主への報告をなるべく早く済まさねえといけねえんだ。あそこの依頼主、一回話し出すといろいろと自慢して下手すると夜までかかるんだよなぁ……」
「ああ……そういえばそうね…あそこの人は」
リタとデイルはその依頼主の想像をしていた。
その人は別に悪い人ではないのだが、話を脱線させまくるタイプのようだ。
「だからラティナ、今日はちょっと出てるからな……大丈夫だよな?」
「う、うん、だいじょうぶだよ?」
「そうか……ごめんなラティナ…はぁ…どこへでも簡単に連絡できる魔法とかありゃなあ…」
デイルがため息をつく中、ラティナはやはり「彼」のことを心配している。
(だいじょうぶ……常連さんたちもいるし……だいじょうぶ……だよね……?)
冒険者になった以上、街の外に出る事もよくあることになっていくので、自分でもここまで心配するのはおかしいとは思っている。
だがそれでも心配が抜けきれないラティナであった。
――――――――――――――――
心配するラティナの見送りで、虎猫亭を後にし、クロイツの外の森にやってきたルディたちは早速、依頼にあった魔獣と遭遇した。
今回討伐する魔獣はスライムウルフ。
狼の姿をしたスライムで比較的弱い魔獣の部類に入る。
しかし、他のスライムと違い、足の爪を立てて、木を斬り倒す習性があるので街の近くの森を住み処にしたスライムウルフの討伐依頼が
「おーい!そっちいったぞ!」
「任せろ!仕留める!」
森の中では大人たちが慣れた様子でスライムウルフの相手をする。
ルディは後ろで戦わずに、その様子を見ているが、彼らとスライムウルフの戦いに少し圧倒されていた。
(すげえ……魔獣退治ってあんな感じなんだな……)
大人たちも当然ながら真剣だ。
あの酒場で飲んだくれてる酔っぱらいの面影はほぼない。
まさに必死なのであろう。
「たく、ここらへんにしては珍しく厄介だな……!」
「おし!これで、最後!!」
冒険者の一人が剣を振り上げ、スライムウルフを真っ二つにした。
──だが
「グオオオオッ!!」
「な!?」
「しまっ!?」
「分裂か…っ!?」
そのスライムウルフは分裂し、二体の小さなスライムウルフへと変化した。
元のサイズより小さくなったものの、凶暴さは健在。
また動きも素早いものへと変わり、そのまま前線の冒険者の隙間をすり抜け、そして……
「ルドルフ!!避けろ!」
「……え?」
──それは一瞬の出来事であった。
――――――――――――――――
「………」
所変わり、夕方から夜に変わりつつあった虎猫亭では手伝いをしながらもそわそわと心配そうな表情をしているラティナの姿があった。
(もうそろそろだよね……遅くはならないって言ってたし……)
そうしていると酒場のドアが開く。
「あ!」
「彼」が来たと思い、そこに駆けていく。
そして彼女が見たその「彼」は──
「……!?」
腕やら手やらに包帯が巻かれている姿であった。
「お、おう…ラティナ……」
「ど、どうしたの!?」
驚いているラティナに付き添いの冒険者が説明をし始める。
「少し魔獣を逃しちまってな……兄ちゃんがそれで引っかかれて……面目ない……」
「だから、おじさん達のせいじゃないって俺がもうちょっと気を張ってれば……」
ルディ自身は別になんてことはないと思っている。
むしろ冒険者なのだからこういう事はよくあることなのだろうと
そしてラティナはルディに目を見せず、回復魔法を唱え始める。
「……"天なる光よ、我が名の元に我が願い叶えよ、傷付きし者を癒し治し給え《癒光》"」
「……!」
当然ながらこれで回復し、傷口などは完全に塞がった。
「あ、ありがとな……」
「………」
ルディは礼を言うが、ラティナは下を向いたままだ。
そしてルディは彼女を安心させるためか、こんな言葉を発す。
「こ、こんなの唾つけときゃ……別に……こういうのはよくあることらしいし……」
「……!」
ラティナはその言葉を聞いてビクッと反応する。
そして次の瞬間──
「もっと……」
「え…?」
「もっと自分を大事にしてっ!!」
「…!」
そう声を上げた彼女の表情は悲しみのものであり、目は涙で潤んでいた。
「ら、ラティナ……」
「……っ!」
ラティナはそのまま階段を駆け上がって屋根裏部屋へ行ってしまった。
「……」
これにより、酒場は静かになった。
突然のことに固まってしまったルディにジルヴェスターは声をかける。
「兄ちゃん。今日の嬢ちゃんはな、かなり心配してたんだ」
「そ、それはわかってるけど……あんなにまで……」
「確かに兄ちゃんにとってはそうでもないことかもしれないが……嬢ちゃんにとってはな……」
そしてジルヴェスターの言葉に付け足すようにリタがこうも話す。
「ラティナ、ルディ君が傷つくことを恐れてるのよ……ここで色々な話を聞いてるラティナだからこそ……というべきかしら……でも止めることもしたくないからそれで苦しんで……」
「……」
「とにかく、行ってあげて……」
「……はい…」
そう言うとルディは階段をゆっくりと上がる。
彼女と話すために……
(そうだよな。ラティナもデイルさんやジルさん、おじさんたちから冒険者の話は色々聞いてる。もしかしたら俺よりも危険な魔獣とかのこと知ってるのかもしれない……。ちょっと考えれば分かることだったのに……)
――――――――
「……ラティナ、入っていいか?」
「……ぅん……」
ルディが屋根裏部屋に足をすすめると、そこにはもちろんラティナがいた。
ベッドに座り、顔は下に向けている。
そしてルディは彼女に対して、謝罪を述べた。
「……その……ごめん、ラティナ……変なこと言って……」
「…ううん…ラティナも変だった。冒険者で怪我とかは普通なことだもんね……でも……ラティナ、ルディと離れたくない…から……!」
ラティナは拳を握り、震わせる。声も震えている。
うつむいているため、その表情は見えないが、うつむく彼女の瞳から流れる涙までは隠しきれていなかった。
その涙を見たルディは……
(俺はラティナの彼氏だろ……。それなのに、なんでラティナを泣かせてんだよ……クソッ……!)
自分への苛立ちを覚えつつ、ルディはラティナの隣に腰掛ける。
ベッドが少しぱふっと跳ねた。
外は日が暮れて、夕日がもうそろそろで見えなくなりそうであった。
数秒の沈黙。その後、ルディはゆっくりと口を開いた。
「ラティナ……俺、もっと強くなる……怪我とかそんなのしないような…もっと立派な冒険者になってやるよ。デイルさんくらい……までいけるかわかんねえけど、とにかく強く……なりたい……。いや、なる!」
「ルディ……」
そしてルディは彼女の手を取った。
その手は柔らかく、ルディより小さいものである。
その柔らかい彼女の手を握りながら、彼は決意の言葉を口にする。
「もう、ラティナを泣かせたりなんてしない!」
言った後に恥ずかしくなったのか、ルディはラティナの手を握る方と逆の手で頭を掻きながら、こう言った。
「………だから…もう泣くなよ……」
「………ぅん……ごめんね、ルディ……」
「別にあやまんなくても……も、戻るぞ……!リタさん達も心配してるし……!あと……」
「あと………?」
「俺は……いつもの……笑顔のラティナが好きだから……っ!」
「……ふぇっ…」
その言葉にラティナは赤面して、ルディももちろん赤くなっていた。
この後、二人共下に降りて、いつも通りに戻ったのだが、それでも紅潮が残っている二人を見て常連達がニヤニヤしてたのは言うまでもない。
なおデイルの帰宅はそれよりあとになり、帰ってきた後はずっと依頼主への愚痴を垂れ流していたそうな。
「絆」も大事にしていくのも目標です。
ラティナはデイルに少し似ている感じになったけど、ラティナだと心配でもこんなにかわいいんだな()
暫く充電したいので投稿は少し停止しますが、クリスマス(24日、25日)でまた新作を出す予定です。
今暫くお待ち下さい。