好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
「~♪」
ラティナは冒険者の仕事へ出るルディやデイルを見送った後、鼻歌を歌いつつ、本を読んでいた。
「自分」の部屋で。
そう、彼女がこの2年で変わったことは身体的な成長だけではなかった。
なんとラティナは自分の部屋を持ったのである。
その部屋は女の子っぽい小物やらが整頓されつつ置かれており、常連達から貰ったお土産なども飾られており、「女の子の部屋」で間違いはなかった。
事の発端は12歳の時。
クロエの一人部屋を見て自分の部屋に興味を持ったラティナはリタとケニスにお願いをした。
この虎猫亭は本職の宿屋ではないものの、宿屋としての機能はあるため、部屋自体はそれなりにある。そのためリタとケニスは反対はしなかったが、保護者であるデイルは猛反対したそうな。
だがリタとケニスの必死な説得でデイル側がなんとか折れ、こうして今に至る。
なお当初、デイルは我が娘の成長を喜びつつも複雑な気持ちで沈んでいたが、同じ屋根の下ということに変わりはなく。ラティナがかわいいことにも変わりはないため、意外と受け入れるのは早かったらしい。
ただその代わり、デイルは虎猫亭で目を光らせることが多くなり、若手の冒険者へはにっこりと挨拶をしつつも、その瞳の奥には闇を匂わせて威嚇しており、ラティナをくどく不届き者は今のところ居ない。
だがこの影響はルディへも少し出始め、時々ルディへ目を向けて、ルディ自身をビビらせていたりする。
(……もうそろそろかな?)
そう思ったラティナは借りていた本をまとめ、手に持ち下に降りていった。
そして、少し待っていると、赤茶髪のハーフエルフ族の女性が店の扉を開ける。
彼女は貸本屋の店員のゾフィ。
ゾフィは「商売道具」である本の詰まった木箱を持ってきていた。
貸本屋は西区に存在し、ラティナはそこへ借りに行くことも多いのだが、それなりに離れているため毎回西区に行けない人たちも多い。
貸本屋はそんな顧客のために道具を持ち歩き、巡回する営業も行っており、店に行かずとも貸出と返却作業を行ってくれるため、忙しい人達にとっては重宝されている。
そしてラティナも貸本屋に行けないほど忙しい時が多いため、よく利用しているのだ。
「ゾフィさん、こんにちは。今回のも面白かった」
「それは良かった。続きのも持って来たよ」
「嬉しいな。他の本もある?」
ゾフィが返却手続きをしている間に、ラティナは宝物を見るかのように木箱の中を覗き込んでいる。
これは貸本屋が来るとよくある光景であった。
「あとね、テオに読んであげる絵本とかお話とかあるかな?」
「ラティナちゃんが読み聞かせするなら、文章が多少難しくても、男の子の興味を惹くような話のものが良いよねえ……確かあれを持ってきたはず……」
リタとケニスの子であるテオもこの2年でぐんぐんと成長し、言葉も拙いながらも喋るようになり、そしてラティナもお姉ちゃんらしくテオのお世話をするために読み聞かせなどもするようになった。
「じゃあ、こんなところかな」
「あ……このひとの作品なんだ。でも、読んだことないよ?」
「最近入荷した新作だからね。面白さは私の折り紙付きだよ」
ゾフィが少し笑いながらそう言っていると別のことを思い出したのか、ラティナにこう問いかける。
「そうだ、今読んでるのはどう?」
「どきどきして…どうなっちゃうのか気になるけど、結末は、絶対内緒にしてね」
「それはもちろん……ネタばらしほど辛いものはないからね…なら、この本も良いかもしれないね」
「この本?」
そしてゾフィはある本をラティナに渡す。
題名を見る限り、恋愛ものの小説であった。
「ラティナちゃんの好みの恋愛ものだし…甘酸っぱいものばかりの…」
「ふぇ……」
「好きだよね?両片思いのものとか」
「ふぇえっ…」
「今読んでるシリーズのもすれ違いからの恋のものだし……」
「ふえぇぇ……」
「……結ばれる二人も同じくらいで……好きだよね?そういうの」
「ふぇええっ……」
変な声しか出てこないラティナはすっかり真っ赤に沸騰していた。
自分でもわかってはいたのだが、こうやって指摘されるとやはり恥ずかしいようだ。
そしてゾフィは当然ながらラティナとルディの関係のことを知っててこう身も蓋もないことを言っている。長生きしている「本の虫」ゆえにやはり「変人」なのだろう。
「まだ表現も控えめだから大丈夫だと思うんだけど、もっと「ハード」なものに興味があったら言ってね?」
「ふぇっ……」
(はーど?)
その言葉の意味がわからないラティナは首を傾けてはてなを浮かべていた。
――――――――――――――――
大まかな仕事もない時なのでラティナは自室にこもり、本を読んでいる。
ゾフィの指摘の通り、ここ最近のラティナの好みは恋愛ストーリーである。
やはりあまり進展のない「自分達」のことを少し重ねているのだろうと自分でも思っている。
(どんな物語の
ラティナがここまで「彼」に恋をしている理由は実ははっきりしていない。
いや正確に言えば、思い当たる節こそあれど、それが多すぎるのだ。
それ故にずっと前に親友達へ話した「段々色々なことが引っかかって……積もって……って言うのかな?ラティナ、よくわからない……」がそのまま当てはまるのだ。
ただ「大切な人」であるデイルとは別枠としてルディのことは世界で一番素敵で大事な人と思っているのは言うまでもなく、その恋の心は本物である。
そして本を引き続き読んでいるラティナなのだが、段々とその顔は赤くなっている。
(あ、ふぇっ……)
そのシーンは単なるキスシーンなのだが、ラティナにとっては初な乙女ゆえにかなりのものであった。
(な、何考えてるの…私……)
そしていつの間にか自分のことを重ねて想像しており、それに気づき、ぶんぶんと頭を振っていたのだった。
その後、ラティナは一度に読むのはもったいないと思い、キリのいいところでしおりを挟んで、ぱたりと本を閉じた。
(こっち、どんな話かな……?)
最後にゾフィに勧められた本を持って首をかしげる。今読んでいるやつを最後まで読んでから読みたいという気持ちと今から少し読んでみたいという気持ちが交差しているようで、暫く考えていたが──
(ちょっとだけなら……良いかな…?)
誘惑に負け、ラティナはパラパラと本のページを捲り始めた。
じっくりと読んでしまうのは、まだダメだと自分に言い聞かせ、あらすじがわからない程度に、ページ飛び飛びに見て文を追っている。
(ゾフィさんのおすすめだから……やっぱり面白そう)
飛ばし飛ばしで見ているがそれでも面白いとは感じたようだ。
そうしているうちに「あるシーン」にぶつかった。
「ふぇ……?」
よくわからない描写のためか、ラティナは首を傾げて前後の文をよく見て理解しようとする。
すると──
「え…?……ひゃ…!?」
心臓がバクバクと更に躍動し始めた。
一度本から目を離して周りを見渡しもした。当然ながら一人部屋のため自分しかいない。
確認して再び本の方に目を戻した。
「え?……え?……え?」
本の中の主人公達はとても濃いラブシーンを繰り広げていた。
キスシーンだけでも限界なラティナにとっては全く未知な「その先」のことであった。
(ひゃ……あっ……)
彼女は純粋な輝きを持つわけだが、「そういうこと」に興味がないわけではなく、むしろあるほうである。
だが初なためこんな感じの反応をしている。
(恥ずかしい……こんなこと……してるの……?……ふぇっ……)
そう思いながらも彼女の目線は引き続きその本にある。
ゾフィセレクトのその本はラティナの読みやすい「そういうこと」が書かれており、ある意味入門書みたいな感じになっていた。
――――――――――――――――
(ふぇっ…ふぇっ……)
そして彼女は恥ずかしすぎて途中で読むのを止めてしまい、ベッドの布団に包まり、ゴロゴロと転がっている。
赤面をなんとか取りたいものの、どうにも恥ずかしい気持ちを発散したいためかこうなってしまっている。
(ふぁっ……うっ…)
そうして包まって数分後、やっとゴロゴロするのが収まりつつあり、彼女も冷静を取り戻しつつあった。
そして今度は別の「悩み」が生まれていた。
「………」
(私……このままでいいのかな……)
自分達のことを改めて考えると、「その先」のことはもちろんだが、「キス」すら出来ていないということにラティナは気づいたのだ。
(……今のままでも……でも……)
ラティナは揺れていた。
このまま微妙な距離のままでいいのか、それとももっと進めるべきか
そう悩んでいるうちに──
「……あ!」
結構時間が過ぎていたことに気づき、すぐに下に降りていった。
午後の開店時間ギリギリであった。ただゾフィが来たときはだいたいこんな感じなのでケニスもリタも慣れていたそうな。
――――――――――――――――
「………」
そして今日も仕事をこなしているラティナであるが、先程のことでやはり悩んでいるようで、表情も微妙な感じだ。
(うーん……どうしよう……いいのかな……)
「おーい、嬢ちゃん」
「は、はい!」
暫くこんな感じであった。
そしてそうこうしているうちに本命の「彼」が帰ってきた。
「ただいま、ラティナ」
「お、おかえりなさい!何にする?」
少し言葉がアレになったが、とりあえず平然を装うラティナ
「とりあえずなんか飲み物……あと適当なやつを」
そしてルディはパーティを組んだ常連の冒険者たち共にテーブルに座る。
「ルディ、今日はどうしたの?」
「ああ、うん。今日はちょっとデカい魔物を退治してきた」
「今日の兄ちゃん凄かったな、まさかあそこで一刀両断しちまうとは」
「おう、素早かったな!」
「別に俺は……でも本当にあんな大きいのがいるんだ…いつもおじさん達が言ってるから嘘かと」
「あのな……でも俺が見たのはもっと大きいぞ!こんぐらいの!」
「へー……」
常連達と今日のことについて話しているルディであり、また新たな発見をしたようで、どこか嬉しそうだ。
そしてラティナはその注文をリタに届けながら、ルディのほうを見つつ、こう思う。
(でもまだ…良いかな……ルディの楽しいところ見てるだけで私は嬉しいから……)
とりあえず「先」のことは置いておくことにしたようだ。
そして再び気合を入れて、ラティナは仕事をしていくのであった。
健気やで……。