好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。   作:うちのこ

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灰色のもふもふ、襲来

「依頼の品はこれでいいですか?」

 

「はい確かに…いやあありがたいねえ。いつも薬草の依頼を受けてくださって……老いぼれじゃ森に行っても食われるだけで……」

 

そう話すのは今回のルディの仕事の依頼人である老婆。どうやら薬を作っている薬師らしい。

昔は冒険者も兼任していて薬草を自分で取りに行くほど活発な女性だったそうだが、今は行商人から買ったり、こうして依頼で仕入れたりしているのだ。

 

そして最近はルディの依頼の常連さんでもある。

 

「いえいえ、また何かあったらお願いします」

 

「はいはい……ああ、そうだ」

 

「ん?」

 

――――――――

 

(依頼料とは別に手作りクッキー貰っちまった………常連のお客がつくとこういうことがあるとは聞いてたけど……)

 

帰り道、包みから一つだけクッキーを手に取り、残りは肩掛けバックの中へ入れつつ手に持つクッキーを噛るルディ。

 

口の中にさくさくと拡散していくミルクの甘さを感じながら、ルディは彼女の顔を思い浮かべた。

 

(おいしい…ラティナにもあげるか……)

 

そう思っていつも通り虎猫亭へ足を進ませていると、その目的地の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 

「なん、だと……」

「オイオイオイ、ヤバイって…」

「まさか幻獣がなぁ…」

 

「ん?喧嘩か?」

 

その騒がしさにルディは最初、酔っぱらいの喧嘩かと思ったが、それにしては静かであると不思議に感じていた。

 

「まさか嬢ちゃんがなぁ……」

 

「ん?」

 

「嬢ちゃん」それは大人たちがラティナのことを呼ぶときによく使う言葉だ。

つまりこの件にはラティナが関係しているということであった。

 

(ど、どうしたんだ…?まさかラティナに…)

 

ラティナになにかあったんじゃないかと思ったルディは虎猫亭の入り口周辺の人混みをかき分けるようにしてなんとか奥まで入っていくのであった。

 

――――――――――――

 

(はぁ……人多すぎるっての…!)

 

「おお、兄ちゃん。いいときに来てくれた」

 

「ああ、ジルさん…ラティナは……って!?」

 

その時、ルディが目にしたのは──

 

「へいき。ラティナとこ、いく。いいって、いってた」

 

「そうなの?なら、大丈夫なのかな?」

 

「……!?!?」

 

「あ、ルディ」

 

見た目は犬の『幻獣』をかわいがっているラティナの光景であった。

ルディは思わずあんぐりとしてしまう。

彼は冒険者として勉強していくうちに当然ながら色々な生き物についても勉強していて、「幻獣」というのもそれなりに知っていた。

ゆえにこれほどまでに驚いていたのだ。

 

「ジルさん、これって……」

 

「ああ、見てのとおりだ……突然ここにひょっこりと現れてな……」

 

「え?でも街壁があるし、飛んできたらひと目で……」

 

「のはずなんだが、壁の隙間から入ってきたようでな……門番や憲兵の見張りをうまくすり抜けてきたわけだ」

 

「壁の修繕が不十分だったらしい……まあしばらく事件も何もなかったからな」

 

横からケニスも補足する。

ケニス自身もかつてはかなりの凄腕の冒険者であったがゆえに、この状況にはかなり困惑しているようで、いつもより冷や汗をかいている。

 

(で、今に至るわけ…か)

 

そしてラティナは相変わらずその「幻獣」ヴィントをモフモフしたりで色々と会話しているようだ。

その光景は言うまでもなく可愛い。

 

(まあ、ラティナだからなぁ……何があってもおかしくはないというか)

 

ルディ当人も納得しかけていた。

ただでさえ奇跡のような彼女である。幻獣を手懐ける「奇跡」もまたおかしくはない。

自分でもわからないが、なんとなくそう思った。

 

そうルディが考えているうちに後ろの大人二人はまとまったようで。

 

「……嬢ちゃんに完全になついてるっていうのは、本当らしいな」

 

「ああ、そのようだ……」

 

 

尻尾をよく振って、頭をラティナに擦り寄せているその姿はこの幻獣が本当の犬だと錯覚するほどのものである。

これでもしラティナから無理に引き離せばそれこそ非常事態になりかねない。

 

何故ならヴィントが属する幻獣は「天翔狼」と呼ばれ、とても仲間意識が強い。

仔一匹だけならどうってこともないものだが、下手に手を出して傷つけたりでもしたら群れ総出で報復に出る可能性がある。

しかもヴィントはきちんと行き先を伝えており、仮に追い出したりでもしたら仲間が翌日には報復措置で飛翔してきてあっという間に街が壊滅的打撃を受ける可能性もあったのである。

 

それゆえに下した判断は──

 

「俺の方で話は通す……」

 

そして次の瞬間、ジルヴェスターは声を張り上げるようにし、この台詞を口にした。

 

「これからすぐに緊急総会を開く!SSクラスの議題だ!伝達しろ!」

 

その台詞で集っていた冒険者たちの殆どが一斉に動き出し、またたく間に虎猫亭から結構な人数の冒険者が消えた。

 

「総会?」

 

「なんだろ……」

 

(……まあ、その「元」はあの二人なんだがな…)

 

急に冒険者が消えたことに、ルディとラティナは首を傾げており、その意味を理解しているケニスは「総会をする集団が結成された原因」とも言える二人を見つつ、仕事場に戻っていった。

 

「全く……はあっ」

 

「?」

 

なおリタはその冒険者の勢いに少し呆れつつ、テオにミルクをあげていたそうな。

 

 

「……あ、そうだ。ラティナこれ…」

 

ルディは包みに入ったクッキーを彼女に手渡す。

 

「これ?……くんくん……あ、クッキー!」

 

「依頼の人から貰ったからやるよ、あんま俺は食べないし」

 

「うん、ありがとう!」

 

なんてこともないいつもの二人の光景だが──

 

「………!?」

 

ヴィントはその様子を見て雷が落ちたかのようにショックを受けた。

自分とは違う顔を彼に見せたからで、ヴィントは何が何だか一瞬わからなくなった。

そして次の瞬間、ヴィントはルディを睨みつけ始めた。

 

「うーっ!!」

 

「な、なんだよ?」

 

まだ可愛いものだが、ルディからしてみれば突然で少しびっくりした。

 

「ヴィント、ルディは悪い人じゃないよ?」

 

ラティナはヴィントをよしよしと抑える。

 

「うう……つらたん……」

 

そしてヴィントは睨むのをやめて、少し脱力する。

ヴィントは言わば二人のやり取りに嫉妬してしまったのだが、当の二人にはわかっていないようだ。

 

――――――――――――

 

その日の夜にデイルが帰ってきたのだが、その目の前には言うまでもなくラティナと服を着せられた一匹の「獣」が居たのであった。

 

「おかえり、デイル」

 

「わんわん」

 

保護者からすれば相変わらずラティナの笑顔は可愛いが、その隣の獣の棒読みのような「わんわん」が滅茶苦茶引っかかった。

 

「ら、ラティナ……そいつってたしか……」

 

「『犬』だよ?」

 

「へ?だけど…」

 

「大人の事情で『犬』なんだって」

 

「わんわん…わん」

 

「え、は…え?」

 

デイルは困った顔のまま、兄貴分であるケニスに理由を求めた。

そう頷きつつ、こう返した。

 

「あれは『犬』だ。誰がなんと言おうとも『犬』なんだ」

 

「わんわん」

 

「……いぬ?」

 

「『犬』なら街のどこで飼われていても不思議じゃない。だから『犬』だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「????」

 

はてなを浮かべるデイルに畳み掛けるように常連客はこうも話す。

 

「ああ、犬だ」

「間違いなく犬だな」

「どう見ても犬だ」

「犬は犬だからな」

 

「あ、え……そ、そ……そうか……」

 

その同調圧力的な何かに押され、デイルは思考を半ば放棄せざるを得なかったのは言うまでもない。

 

(それでいいのかよ……)

 

そしてルディもまた、その「犬」について心のなかで突っ込みつつも、飯を食べていたそうな。

 




これは犬だ。
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