好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
「クロエ、今度のお休みの話なんだけど……」
ラティナは東区のクロエの仕立て屋に茶菓子持参で顔を出した。
まだ昼であり、虎猫亭も開店こそすれどそう忙しくはない。
なので買い物ついでに寄り道しているというわけだ。
まあお菓子に関してはただ単に自分が食べたいというだけなのだが、クロエもそれをわかっているらしく、仕事道具を隅に置き、お茶を飲むスペースを作った。
ラティナは特に遠慮もなく、自ら持参した包みを開けて、食べ始めた。
「この間、少し太ったって気にしてたのに……良いの?」
「平気だもん。食べ過ぎないし…これからの時間もいっぱい動くから!」
ラティナは口を尖らせつつもそう言っている。
なのでクロエはこれに少しいじわるするようにこう言い放った。
「えー?でもそれであいつが急に「太ったな」とか言ってきたらどうするの?」
「……っ!」
そうクロエに言われると途端にラティナの表情はショックを受け、手に持ってたお菓子をそっと戻そうとした。
やはり「彼」には一番綺麗に見られたいらしく、気にしていることであった。
(あ、しまった…)
地雷を踏んでしまったと感じたクロエは慌ててこう言う。
「だ、大丈夫!冗談よ!私から見れば全然良いし!」
「……本当?」
「ええ、ホントよ!」
そうするとラティナはいつもの表情に戻り、お菓子を再び口に運んだ。
「……でも、もう少しラティナは肉付いても良いんじゃない?気にしてる
だがクロエの言う通り、ラティナはスリムであるのだが、その分「ある部分」にも付いていないのである。
「成長期が…みんなよりゆっくりなだけだもん」
友人達がだんだんと大人になって、体つきも丸みを帯びつつあるのに対し、ラティナは身長こそ多少伸びているものの、未だ幼さが残るスッとした体型である。
当然それを気にしないラティナではなかった。
「ちょっとなら……大きくなってるから…!」
とは言うものの、服の上からは変化は確認できなかった。
クロエは苦笑いしつつ、この話題を続けるとラティナ的には流石にマズイと判断したため、あっさりと話題を変えることにした。
「で、今度の休みだっけ?」
「え…あ、うん。そうなの。シルビアもね、お休み取れるって言ってたの」
「シルビア…いくらラティナが虎猫亭にいるからって一応公共の伝言板にメッセージ送りつけるのは流石にマズイんじゃないの…?」
「どうなんだろう……シルビアは「これ位できないと、この世界では生き残れないのよ!食うか食われるかだし」って言ってたけど…」
「流石にそこはオーバーだと思うけど……」
『踊る虎猫亭』は『
当然その神殿との関わりは深いため、その関係もあって、時折神官が店を訪れる事も多い。
見習い神官であるシルビアの様子も人づてに聞くことができた。
それだけでなくどうやっているのか
伝言板にラティナ宛の個人的なメッセージを送りつけて来るときもあった。
シルビアの『加護』はそれほどのものではないのだが、よほど要領が良いらしい。
ラティナとクロエはそんな親友を想像しながら苦笑していた。
――――――――――――
『
クロイツでは様々な時期に様々なお祭りや催しが行われており、領主主催や商工会主催のものもあるが、その中で盛大に最大に行われるものこそ、ラーバント国の主神たる
他の神殿も祭りを行うものの、それらには到底及ばないほどのものである。
ラティナも毎年保護者であるデイルに連れられて見物していたお祭りであるが、今年は初めて友人達と見物に行くことが許された。
クロイツ一親バカなデイルは許可を出しながらもやはり不安らしく、ラティナを前にしてはうるさいほど口を挟んでくる。
『一人では絶対行動しない』『人通りの少ない道や路地には入らない』『知らない輩には先制攻撃をしてもいいから撃退しろ』など物騒な忠告まで挟んでいる。
まあ「彼」がいると思っていないからこうも言えるんだろうと思われる。
「憲兵に怒られちゃうよ?」という至極当然なラティナの声も「世の中は弱肉強食!食うか食われるかだ!それくらいの心構えは絶対いる!」と返すほどであった。
「ははは……」
なおそれを聞いているクロエは顔が半分引きつっている。
(ルディとラティナのことがデイルさんにバレたら大変なことになるわねこれ……聞くだけで半殺しされそうな勢いだし)
それと同時に二人について心配していたそうな。
そしてラティナはクロエが縫っている最中の服を眺めている。
「どうかなぁ……似合うかな?」
「布選びの時から何回も当ててみたじゃない、絶対似合うって」
「それでも、完成は楽しみだから…」
照れながらも少し笑っている。
どうやらその服は自分が注文したものらしい。
楽しみにしている夜祭りに合わせて、新しい服を着たいというのはごく自然な女の子の心理であるからだ。
「クロエに見立ててもらったもの、いつものと雰囲気違うから…ちょっとどきどきするよ……」
「私の見立てじゃ不安なの?」
「そうじゃないけど……大丈夫かな……って」
クロエからすればあのルディ相手にはラティナはどんな格好でも大丈夫だと思っているのだが、当の本人は不安に感じている。
自分を驕っていないということなのだが、クロエからすれば贅沢な不安であった。
(自覚がないってホントアレね……まあこの4年間で「そういうこと」も耳にしてない時点であのルディもそんな感じなんだろうけど……)
4年という時は意外と長いものなのだが、この二人の距離は4年前からそう変わってないとクロエは思っていた。
最初の距離よりはもちろん縮んではいたが、それでも…だ。
双方とも奥手というものはなんとももどかしいものか。
「ラティナはもっと押したほうが良いって、ラティナにはラティナの強みがあるんだから」
「強み?」
「うん、だから早く距離縮めてみたら?せっかくの初めての「祭りデート」でしょ?」
「……う、うん……」
ラティナは頬を少し赤く染めた。
先程の通り、今まで友達とも行くのも許されなかったこの夜祭り。
そして今回はデイルへは「友達と行く」ということに偽装してルディと行くこととなる。
まさに攻めどころであった。
なお「友達と行く」だがシルビアとクロエもとりあえず同行するため、嘘ではないのであしからず。
「が、頑張る……!」
ラティナがそう決意を新たにした…が
「…で……クロエ?」
「ん?」
「強みって……なにかな?」
「……あー……」
(そこから……ね)
とりあえずの「強み」をラティナに教えつつ、久しぶりに色々とお膳立てをしなければ…とクロエは思っていた。
この奥手のカップルには劇薬も必要なのかもしれない……と片隅に思いながら。