好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。   作:うちのこ

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再び投稿の巻

神達に拾われた男
まさかのうちの娘スタッフ陣がほとんど継続してるのは驚いた。
ああ、安心した……


氷色の青年、クロイツへ

彼が虎猫亭を訪れたのは、赤の神の夜祭りが開かれるまであと数日という時だった。

 

(ここか……)

 

彼はまっすぐな黒髪を後ろで束ねた精悍な面立ちの涼しげな容貌な青年。

 

それなりに育ちが良いとわかるような様相をしているが、急いでクロイツまで来たらしく旅装束はどこか乱れていた。

 

虎猫亭の扉を開いた彼を見た常連たちはその人物がかなりの実力者であると見抜いたようで、その緊張感からいつも騒がしいこの酒場が急に静かになる。

一部の者はすぐに酒瓶を手放し、武器を構える姿勢となっていたほどだ。

 

(ど、どうしたんだよ!?)

 

同じく店にいたルディもこの急変っぷりにさすがに動揺していた。

 

「いらっしゃいませ」

 

だが、そんな緊張感もこの看板娘にはなく、いつも通りのマイペース姿であった。

ちょうどルディと話してたが、それを切り上げてたたたっと小走りでその青年を出迎える。

その姿はまさに天使とも言えよう。

 

「初めてのお客さんですね。クロイツは初めてですか?」

 

「……ああ」

 

そしてその青年は青い瞳を少し見開くとこう呟いた。

 

「君がデイルの言っていた『妖精姫』か」

 

「……え?」

 

その言葉でラティナは笑顔を保ったまま凍りついた。

 

(あのバカは……)

 

店のカウンターで一部始終を見ていたリタは呆れ顔になる。

そしてラティナは表情が固まったまま、リタに振り返った。

 

「リタ、私、デイルに怒っても良いよね…」

 

「ええ、思う存分。出し惜しみなしでいいわよ」

 

良い笑顔でグッドサインを出すリタ。

そして周りの常連客もラティナにエールを送る。

常連客も裏で妖精姫呼びしているため、あまり人のことは言えないはずなのだが、この際棚の上に置いておくらしい。

 

その後、ラティナはデイルが現在休んでいる屋根裏部屋にずかずかといつもより足早に向かっていく。

青年は状況が読み取れないのかそのまま立ち尽くしていた。

 

(本当に親バカなんだよぁ…デイルさん……)

 

ルディも今までのデイルの親バカ行為を思い出しつつ、飲み物を口にしていた。

 

その後、やけに憔悴しつつも歩いてきたデイルに対し、彼はこう声を掛けた。

 

「どうした?」

 

「どうしたって……お前のせいだぞ……」

 

「いつも妖精姫と言ってきたのはどこのどいつだ?」

 

「仕方ねえだろう……かわいいことに変わりはねえし」

 

怒っているラティナもかわいいため、デイルは少し緩んでしまった。

それが一番まずかったらしく、かなり謝り倒した。

様々な謝罪というか土下座まで総動員した上である。

 

(それを全て断てばいいのではないのか…?)

 

彼…グレゴールも呆れるしかなかった。

 

なお余談であるが、ラティナはルディに対しては怒ったことがほぼなかったりする。

そして数少ないことでも怒ったとカウントしていいのか怪しいものであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その後、グレゴールはデイルからローゼの部屋を聞き、二人は再会を果たした。

ローゼは自らが信頼を寄せるグレゴールの姿を見るや否や、安心したのか泣き出してしまった。

デイルやラティナの前では気丈に振る舞っていたものの、やはり二の魔王に誘拐されていた時の恐怖は計り知れないものだったのだろう。

ローゼは泣いて、泣いて、そして泣きじゃくった。

 

数分もの間泣き続けたローゼは泣いた顔で皆の前に出たくないと言い、今は自室に引きこもっている。

なおデイルはラティナが怒っている時についでに言われた自室の片付けをしていた。

ここ最近デイルは冒険から帰って来てすぐバタンキューすることが多くなり、そのため散らかってしまっていたからだ。

 

ラティナは、改めてグレゴールにお茶を持っていきつつ、ぺこりと頭を下げて謝罪を発した。

 

「先ほどは失礼致しました」

 

「いや、こちらこそ不躾だった。最近のデイルは、君のことを『うちの娘はこの国…いや世界一かわいい!』と耳がたこになるほど言っていたのでな…つい口にしてしまった」

 

「…デイル……」

 

静かな怒りのオーラをラティナは発する。

やはり相当なものらしい。

そんな彼女を見てグレゴールは思った。

 

(…面白い)

 

今までさんざん友人の自慢の自慢の更に自慢に付き合ってきたのだ。

多少の意趣返しは許されるだろう。

 

「どこかの時では私の父上にも、君のことを自慢していたからな」

 

「…………そうですか」

 

そう言うとラティナはため息を付き、なんとか冷静になろうとする。

グレゴール相手に怒っても仕方のないことを彼女はちゃんと理解していた。

 

なおリタもリタで微妙な表情になっていた。

自慢するとは薄々思っていたが、まさかここまでとは思ってもない。

グレゴールの身分も薄々気づいていたため、その父上…ということは「それ相応」のもの──つまり「公爵」の身分にあるとわかってしまったのである。

 

(あのバカは……自重って意味わかってるのかしら…)

 

なおこれでもデイルとしては自重していたらしい。

だが公爵へ告げた時点で自重もクソもない。

どうやら公爵も公爵で孫ができたため、その話につられて……というのが原因であろう。

 

「私もデイルからよく貴方のお話は聞いていました。一番信頼している戦友だって……初めまして、ラティナと申します。ご挨拶が遅くなりました」

 

「……グレゴール・ナキリという」

 

「不思議な響きのお名前ですね」

 

「ある東方の辺境国由来の家名でな……」

 

なお公爵家であるがゆえに、本来の苗字である「エルディシュテット」は外では使わないようにしている。

 

ラティナは公爵家の名字ではないなどとは微塵も疑問に思わず、名字の響きに対し不思議そうな表情で少しにっこりしていた。

言うまでもなくかわいいものである。デイルがやけに大げさに言っているわけではないということを裏付けていた。

 

「それにしても意外だったな」

 

「え?なにか……」

 

 ラティナが不思議そうに首を傾げると、グレゴールはほんの少し苦笑した。

 

「デイルの話から想像していた君は、小さな子どもという印象だったからな。まあ、最初に聞いた時からいくらか時間は経っている……成長するのは当然なのだがな」

 

「でも……デイルにとっての私は、まだまだ目の離せないちいさな子どもなんだと思います」

 

ラティナは、初対面のグレゴールを前にしているためか、普段よりも澄ましたような顔をしている。

言うまでもなくいつものとは全く違うが、初対面の人にはいつもこういう対応をする。

 

普段のどこかゆらゆらして、幼さを出しているラティナの姿は気が抜けている…というより本当の素であろう。

 

そして初対面のグレゴールは、当然ながらラティナのことをよく知らない。

そのため、いくらか大人びた落ち着いた少女に見えている。

 

 

そんな時──

 

がしゃんっ!となにかが割れる音がする。

 

「お前、振り向いた時にコップ割るバカがどこにいる!」

 

「急に話しかけてきたのはあんただろうが!」

 

「落ち着け!それよりなんか拭くのをだな」

 

どうやら常連客のある一人が酒を入れたコップを落として割ってしまったらしい。

 

「おいおい大丈夫かよ!?」

「おう、ルドルフ早いな。誰も怪我とかはしてねぇよ」

 

近くにいたルディが駆けつける。

そしてラティナも同じく駆けつけた。

 

「ルディ、後ろから箒とか持ってきて!」

 

「お、おう!」

 

2人の息はかなりピッタリであり、またたく間に片付けは終わった。

 

(………なるほど)

 

その様子を見ていたグレゴールはやはりと言っていいのか、2人の関係に気づいたようだ。

 

(実に面白い…が、つまりあいつは……)

 

 

そんなこんなしているうちに、デイルも部屋の片付けを終えて戻ってきた。

 

「待たせたな、グレゴール…ラティナ、失礼なことしなかったか?」

 

「……した、と言ったらどうする?」

 

「お前が余計なことしたんだろうって思う」

 

「そんな所だろうと思ったさ」

 

なおグレゴールはあることが気になり、質問をする。

 

「ところで、デイル。ここ最近で変わったことはないか?」

 

「変わったこと?」

 

「ああ、どんな小さな事でもいい」

 

「変わったことか……野菜の値段が少し上がったのとかラティナの可愛さが更に上がったとかか?」

 

そのことを聞いてグレゴールはずっこけそうになる。

 

そしてデイルは延々と娘自慢を垂れ流す中、グレゴールはこう思う。

 

(……聞くのが間違いだったな。この様子だと恐らくは気づいていないだろう……ルドルフと言った少年と彼女のことを……まあ知ってればこのような反応にはならんだろうが……)

 

やれやれと思いつつ、グレゴールはデイルへある忠告をした。

 

「デイル、お前いつか奈落のどん底に突き落とされるぞ」

 

「どんなところだろうともラティナがいりゃ問題ねえよ!」

 

(だからその『ラティナ』がいなくなるんだが……)

 

相変わらずの親ばかにため息をつくしかなかったグレゴールであった。

 




未だに気づかない親バカである。
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