好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
「ふふふ……クロエ、これはちょっと楽しいね」
「でしょう?これ程の逸材……そうそうないわよ」
「何? 何?」
「やっぱり、ラティナにはオレンジ系よりもピンク系の方が良さそうだね」
「ふふふ……」
「え?え?何が……どうなってるの?」
新品のワンピースを着たラティナはクロエとシルビアにより、あれよあれよとメイクされてしまっている。
まるで人形遊びの延長のような感覚である。
二人も年頃の少女だ。並みの美少女相手ならば、妬みや謗りを抱くこともあるのは言うまでもないが、ラティナのような別の何かになった場合はもはや妬むのも羨むのもバカらしくなる。
4年前からあまり変わらず、しっかりものだけどどこか「ほわっ」としている天然娘である。
放っておけないし、憎めない。
(でも、こんなかわいいラティナのハートを射止めたあいつってホント奇跡よね……泣かしたら承知しないけど、何もしないもそれもそれでアレね……)
当然ながらクロエは相手のほうも考えてはいた。
お膳立てをして、そして結ばれた恋。
それを引き続き応援するという気持ちは全く変わってないが、流石にこの状況は呆れ気味であった。
二人の進まない恋路を不安に感じていながらも、クロエはラティナをメイクする手を緩める事はしなかった。そして……
「「いえーい!」」
そんなこんなでメイクが完了したようで、シルビアとクロエはハイタッチした。
ラティナは普段は化粧はしない。いわばすっぴんと言われるものだ。
当然ながらそれでも十分天使であるが、年頃の女の子としては少し異端とも言えた。
もちろん興味がなかったわけではないが、デイルからは「そのままでいいぞ」との一点張りで、リタも話こそ聞いてくれるが、仕事やテオの育児ということもあり、頼むのも逆に申し訳ないととラティナは思ったので、あまりそういうのを考えるのを止めていた。
ルディやケニスにも聞くわけにはいかないというのもある。
そのことをそれとなくクロエにラティナは話したら、こういう流れができたということである。
「本当、美人よね……ホント…」
「あいつが惚れるのもわかるわ。ホントあいつには勿体ないくらい」
「ど、どうしたの……?」
「よし、じゃあラティナ、笑ってーっ」
シルビアは鏡をラティナのほうに向ける。
「ふえっ!?」
そしてラティナはとても驚いた。
その鏡で見た自分はいつもの自分とは違っており、化粧一つでここまで違うのか…と思っていた。
「か、顔が濃い……よ……」
「そこまで濃いかしら?」
「シルビア……これで大丈夫なんだよね…?」
「大丈夫大丈夫!大船に乗ったつもりでいなさい!もう時間だし!」
――――――――
(ここで待ってろって言われたけどなぁ……)
一方ルディはクロエのその仕立て屋の前で待っている。
服装は一応余所行きの服であり、いつもの冒険者の服よりはきれいなものだ。
だがそこまでの正装というわけじゃない。
(これで……良いのか?)
ラティナの彼氏である以上、それ相応の服装やらで行くべき…と本人は考えたが、もともとオシャレなんて知らないルディには限界であったようであり、まあ「いつも」を超えることは無理であったようだ。
そして
「ほらほら、いったいった!」
「うわっ!」
クロエの家の中から弾き出されるようにラティナが出てきた。
「ら、ラティナ……」
「る、ルディ………」
案の定、2人はモジモジした反応を取る。
だが流石に話がないのはまずいので、ルディのほうからなんとか切り出す。
「ラティナ、その格好って……」
「あ、うん……クロエとシルビアがしてくれたんだ」
「そ、そっか……に、似合ってるってか……かわいいってか……」
「ふえっ………」
相変わらず初々しいことこの上なかった。
「ね?いつもあんな感じなのよ」
「予想通りというか予想以上というか……ホント先は長いわね」
その様子を見ていたクロエとシルビアである。
やれやれと思いつつ、だが少し羨ましさも覚えていたようで、シルビアはこうつぶやき始めた。
「ま、私にはこういうのも縁がなさそうだけど」
「縁がない?」
「神殿で働いているといろいろと時間取られちゃうのよね……周りの人も結婚してない人ばっかだし。情報収集やらで半日潰れることも良くあることらしいし」
「何諦めてるのよ。まだ私達14歳よ?チャンスなんてたくさんあるじゃない」
「だと良いんだけど……」
シルビアは恋愛に対し比較的敏感ではあったが、神殿においてはそんな話はあまり入ってこない。
緑の神の神殿の神官はその職務もあり、仕事に没頭しやすい。
逆に言えば恋愛している余裕はそうない。
もちろん全くゼロというわけではないが、少数派であった。
「第一、私はラティナほどじゃないしなぁ……」
「いや、ラティナと比較しちゃ駄目でしょ。異次元な存在なんだから」
「まあそうなんだけど……」
シルビアはどこか諦めていたようで、深刻な表情ではなかった。
だが何処か淋しげなものであった。
――――――――
そして4人は街の中心に進んでいくのだが、その少し逸れたところで繁盛している店を見つけた。
そこはマルセルのパン屋であった。
その店内も混みあっているが、それ以上に店の前に設えた屋台が混雑している。
「よっ、マルセル」
「ルディ、みんな。シルビアは久しぶりだね」
「ええ、結構繁盛してるじゃない」
相変わらずのおっとりとした口調であるが、手は動かしたままである。
祭りの見物客向けに軽食用に具材を挟んだパンを売っているため、マルセルは食材をせっせと挟んでいた。
「みんなはこれから、祭りの見物かい?」
「うん、そうなの」
「マルセルは忙しそうだね。猫の手も借りたいってやつじゃないの?」
シルビアのその言葉に、パンを切りながらもマルセルは苦笑した。
「そうなんだよ。今年はいつも入ってくれている人がお産で休みだから人手が足りないんだ~。はい、おまたせしました」
「…そういえば、前よりマルセル痩せたよな?俺が見る限りは」
「まあ確かに……運動とかあんまり好きじゃないんだけど、こうすると運動せざるを得ないからかな?2つお待たせしました」
話しつつもじゃんじゃんお客にパンを渡していく。
「僕は今年は見に行けなさそうだよ。アントニーは、居るんじゃないかな?」
「アントニー?」
「うん。アントニーのお父さんが領主館で働いているからさ、祭りの進行にも詳しいんだよ。まあ僕も最近会ってないんだけどね」
「あいつ最近連絡寄越してくんねえんだよなぁ……まあそれだけ忙しいんだろうけど。俺もしばらく忙しかったし」
「便りがないのはいい便りって言うじゃん。アントニーなら大丈夫だよ。じゃあこれサービス」
マルセルが笑顔で差し出した4つのパンを、クロエは悪びれずに受けとる。
「お、サンキューな!」
「ありがとっ」
「どーも」
「マルセル、いいの?」
「いいの、いいの。でも、出来たら店の近くで食べてね。飲み物も出すから」
ラティナとルディがはてなを浮かべ、シルビアはニヤニヤと察し、クロエはやれやれとする中、ラティナとルディはベンチで座り、シルビアとクロエはそこから少し離れたところのベンチで座り食べ始める。
「うん、おいしいね。ルディ」
「ああ、そんじょそこらとはやっぱちげえよな」
そのパンを食べているとルディはあることを思い出す。
「そういえば、ずっと前……あの時もこんなことしてたよな?」
「あの時……あっ」
2人が付き合うその前の話。
ばったりと休日に会った際。こんな感じてパンを食べていた時があった。
「………食べさせ合いとか……してたよな……」
「……ふえっ」
それと同時に2人は少し恥ずかしい記憶を思い出した。
ラティナの発案でパンの食べさせ合いもしていたのだ。
あの時はラティナは何も思っていなかったが、今ならわかっているようで、少し赤面している。
そしてしばらく無言で2人は食べていたが……
(ううっ……話さないと……!)
「じゃあ……また……する?」
「……え?…あ、う、うん?」
しどろもどろとなりつつも、再びすることになったようである。
(マルセル、これ仕組んだわよね……)
クロエがそう思う通り、その判断は命中したようで。
パンを食べ終わる頃には、屋台の前に行列ができたのは言うまでもない。