好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
二人は気づいていなかったがいつの間にか花火の時間になっていたようだった。
赤の神の夜祭りで打ち上げられる花火は炎の魔術を使った大掛かりなものである。
色彩こそ赤系統に限られているが、夜空に咲かせる赤き花のような光景は、他では見られないであろう。
そんな光景をラティナはルディと一緒に見ていた。
人通りもあまりないところだったので、二人っきりである。
「……凄いよなぁ」
「……うん」
一方、ラティナはラティナで悩みが残っていた。
手こそつなぐことはできたが、それ以上は全くといっていいほどない。
(なんとかしないと……なんとかしないと……!)
ラティナには焦りが見えていた。
こんな状況はそうはない。
これを逃してしまえば次はいつになってしまうのか……。
そんな状況になったためか、はたまたこの特殊な空気に当てられたからであろうか──
「ルディ、ちょっとしゃがんでこっち向いて」
「ん?」
(なんだ?)
疑問に思ったルディだが、断る理由も特にない。
花火の際は魔術で点火された街灯も消えるため、今はラティナのことは暗くてよく見えない。
そのためラティナの声がした方向を向いて、ちょっとだけしゃがむと……。
(ん?)
ルディの自分の唇にナニカ柔らかい感覚が当たる。
何かがわからなかったが、その次の瞬間、再び花火が上がったため──
「!?」
目の前の彼女の姿がくっきりと目に見えた。
そしてそれと同時にルディは今している行動にハッと確信する。
そう「キスしている」のだ。
(ら、ラティナ!?)
ラティナのその柔らかい唇の感触も伝わってくる。
その後、ラティナのほうから離れて一応収まったが
当然花火なんて見れるはずもなかった。
「………」
「………」
双方とも真っ赤なまま、花火の時間は終わり、消えていた街灯が再び点けられていく。
明かりとともにお互いの顔もはっきり見えるようになったが、二人の間に言葉はなかった。
少しの間、沈黙が続いたが、その沈黙を破り、口を最初に開いたのはラティナのほうだった。
「ねえ、ルディ……どう…だった……?」
「ど、どうって……んなこと言われても…っ……」
「恋人同士だから……良いと思った…んだけど……」
ルディはもちろんのこと、ラティナ自身も混乱していた。
我に返ったのはついさっきのことである。
「……」
(確かに恋人同士だしな……な……な?)
「ねえっ……やっぱりもう一回……いい?」
「あ、え!?」
(ふぇっ、何言ってるの……私……)
もはや何がなんなのか二人はわからなくなっていた。
「る、ルディが嫌なら…良いんだけ……ど……」
「んなわけ……ねえって…の……!」
(ぐぐっ……もうどうにでもなれ……!)
そうすると今度はルディのほうからラティナの唇を奪う。
いや、かなりソフトなので奪うといっていいか怪しいものであるが。
それでも二人にとっては刺激は十分なようであった
「ふええっ……」
「……い、いくぞ!もう結構遅いし…!」
なんとかルディは空気を変えようとしてるが、当のルディは心臓が破裂するほどバクバクとなっていたそうな。
先が思いやられるのであった。
――――――――
祭り自体は終了したものの、やはり人通りはいつもよりかは多い。
クロエ達と別れを済ませた後、二人はそのまま帰路についた。
「そういや、こんな大きい魚いたんだよなぁ。釣り道具なんてなかったからあのまま見てるしかできなかったけど」
「そんな大きいの、デイルも前に見たって言ってたような」
「いわゆる主ってやつか?」
そんな帰り道を他愛もない話をしながら進む二人。
いつもとあまり変わらないような気がするが、二人にとってはとても楽しい時間であった。
なおこんなラティナであるため、当然ながら他の人からそういう目を向けられることもあったりするが、ルディが殆ど隣りにいることや常連達が分散して監視行動やらを行っているため、声を掛けられたりする事はない。
狙う輩にとってはとてつもないハイリスクになっているのである。
だが……
「!?」
ルディはある殺気を探知する。
急に鳥肌がたつほどである。
ふと少し前方を見ると、そこには……
デイルが虎猫亭の前で仁王立ちになっていたのである。
恐らくはラティナを待っていたのであろうが、その殺気はラティナの隣にいるルディに気づいたからであろう。
(やばっ!?)
そして最悪な事にルディとラティナは手を繋いでいた。
デイルからして見れば、ただでさえ「知り合いの男が隣にいる」というだけでも大問題であるというのに
その上、手を繋いでいるというこの状況はデイルにとって看過出来るものではなかった。
デイルはルディを害虫…いや巨悪と判断しているのであろう。
今にも着火しそうな勢いであった。
「……」
ラティナもデイルのその様子には気づいていた。
いくら鈍感と言えども、着火する勢いのデイルに気づかないはずがない。
ラティナは少し苦い表情を浮かべる。
(やっぱり……)
だが、彼女は「覚悟」を決めたようだ。
「デイル……」
「ラティナ、遅かったな」
言うまでもなくデイルの声は物凄く硬かった。
「幼馴染」がついてきたという状況はまだ理解出来るようであったが、それでもかなり頭に血が上っているようで、冷静さを無くしつつあった。
一方のルディは一歩少し下がったところで、「ただ送ってきただけです」オーラを全開にして黙っていた。
下手な魔物よりも凄まじい気配に何か言うと何されるかわからなかったというのもある。
「ほら、早く中に入れっ。お前も早く帰れっ」
まるで悪いことをした小さな子供達に対するようなその接し方に、ラティナは更に表情を曇らせる。
そして、デイルの様子に対して、ラティナの中にいつもは滅多に出ない「不機嫌」の感情が現れつつあった。
ラティナはデイルと違ってまだ冷静でいる。
しかし、それも流石に我慢の限界であった。
4年間も我慢して、ようやく訪れた二人っきりのデート。
そのデートの終わりがこんな終わり方であっていいものか……
ラティナはそう思っていた。
ルディと別れなければいけない……
それだけは絶対に嫌だった。
(ルディと……離れたくなんか無い!)
4年もの間、積み上がっていたその想いがまるで打ち上げ花火のように自分の胸の中に広がっていき──
ラティナは気付けばデイルにこう言っていた。
「……デイル、私、もうちっちゃい子供じゃないよ」
「そういうことを言っているうちはそういう子供なんだよ」
「違うもん…違うもん……」
ラティナは小さなその手を拳にしてぎゅっと握りしめる。
二人の関係はいずれ明らかにする予定ではあった。
だがそれはまだ先の話だと二人は考えており、今は黙っていようというのが二人の約束である。
そうじゃないと、デイルが爆発しかねないのだ。
だけど、目の前でルディとの関係が否定されたように感じたラティナは段々と絞り出していった。
「私はもう…子供じゃない……だって……っ!」
ラティナは急にルディの腕を組み、そして──
「大好きな人だっているからっ……!」
ラティナは精一杯の声でデイルにそう訴えた。
(っ!?!?)
まさかこうなるとは思ってもみなかったのか、ルディは物凄く驚いていた。
そして、デイルは──
「…な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
ルディの驚きが比じゃないほど物凄く驚いていた。
そしてその大きな声は夜のクロイツに響き渡り……
声が終わったと思いきや、デイルはその場にバタンと仰向けに倒れてしまった。
「おい、デイル!何事だ?って……」
「失神してるわね……」
そこにケニスとリタが駆けつける。
「ああ……ラティナ、言っちゃったのね」
「……うん」
駆けつけたリタのその問いにラティナはシンプルに答える。
だが隠していたことを吐き出したからか、とても満足した表情をしていた。
「そうか言ったのか……まあ、いつかとは思っていたが……」
「あ、あの……俺は……」
「ああ、ルディ。今日は帰ったほうが良い。こいつが起きてきたら何するかわからんからな」
「わ、わかりました」
「じゃあ、またねルディ」
「お、おう…!」
いい表情をしたラティナとは対象的にルディは鳥肌が立ちっぱなしであった。
ついにカミングアウトしたというわけだが……あそこまで反応されるとは流石に予想はしていなかった。
(親バカすぎるだろ……つか俺はこれからどうすれば……)
自分のこれからのことを心配しつつ、ルディはため息を付きながらも帰っていくのであった。
とりあえず本編はここで一区切りですが…ある番外編を用意していますのでしばしお待ちを