好きな子の為ならば、俺はもしかしたら勇者を超えられるかもしれない。 作:うちのこ
そしてちょっとだけコミカライズ版由来のものも……
よろしくお願いいたします。
「積もってるなぁ……」
今日のクロイツは一面が真っ白な銀世界となっており、ルディはいつもより厚着の服を着て道を歩いている。
父親からおつかいを頼まれ、歩いていたのだが、そのおつかい先が急な休業でやっていなかったため、そこから家へと帰る途中、ついでに色々と見ていこうと寄り道しているのだ。
本当はいけないことなのだが、子供の好奇心の上では大人の注意も無力であるがゆえ致し方ない。
(雪が降るだけで街の景色もこんなに違って見えるだな……雪のことなんてよくわかんねえけど)
雪こそすでに止んでいるものの、積もっている雪はまだそこら中にたくさんある。
そのため、いつものクロイツの街並みがルディにはとても新鮮に見えた。
そして、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると……
「あ」
ルディはいつの間にか南区の中心近くまで来てしまっていた。
南区の中心と言えばあまり治安が良くないことで有名であり、父などの大人からも行くなと言われるほどのところである。
(しまった、ちょっと行き過ぎた……さっさと戻らねえと…)
とルディが思っていると──
「~♪」
ふと目に入ったのは、機嫌よく歩いているラティナの姿であった。
「!?」
(なんでラティナが…!?)
その格好はいつも見る格好とは少し違い、青基調のワンピース姿で、髪を結んでいるリボンは青系の水色のものであった。
「ん?そこにいるの……ルディ?」
「!」
そしてその様子を影から見ていたルディだが、当然ながらすぐにラティナにバレてしまった。
「よ、ようラティナ!こんなところで会うなんて奇遇だよな!」
とりあえず平然を装うルディ
「うん!ルディはどうしてここに?」
「あ、いや……親父のおつかいついでに…………んなことより、ラティナはなんでいるんだよ?」
「……?」
ルディの慌てようにラティナは少し違和感を覚え、頭の上にはてなを浮かべたが、詳しく追及はせずに自分が何故ここを歩いていたのかをルディにこう伝えた。
「あのね、ジルさんが忘れものをしてたからとどけてたの。それで帰るところなの」
「へー…」
(ジルさんって……あの時のヒゲモジャの人だったよな……)
ルディは「ジルさん」のことをラティナを送り届けたあの時の人だと瞬時にわかった。
まあラティナがたまにジルさんのことを話してたからわかったというだけなのだが。
(……これってチャンス…だよな?)
そう思ったルディはなんとか勇気を出して、こう提案した。
「じ、じゃあ俺もついてっていいか?ひ、暇だったし!」
「うん、いいよ!」
――――――――
「~♪」
「………」
一緒に道を歩いている二人だが、特に会話らしい会話はない。
(……あれ?これって……あんま変わってねえ…よな)
結局あの時二人っきりで帰ったのとあまり変わらず、会話らしい会話はできていなかった。
流石に同じような事を二回繰り返すのは不味いと感じたルディはなんとか話題を捻り出し、こう口を開く。
「ら、ラティナって……いつも結んでるよな、その髪」
「うん、そうだよ?」
「その……綺麗だよな……」
「うん!今日は自分でむすんでうまくできたの!」
「へ、へえ…自分で結んだんだな……」
いつも結んでるのと色以外の違いがよくわからないとルディは思っているが、本人にとってはかなり違うものらしい。
(そういえば俺、ラティナが髪結んでないところあんま見たこと無いな……まあ当然か…あれなきゃ角が見えちまうし……)
そう薄々と考えてると──
「うわっ!?」
突如強い風が二人に襲いかかった。
どうやら冬であるがゆえに風が強いようだ。
「ひゃんっ!?」
そしてラティナはその強風により浮き上がったスカートをとっさに押さえる。
「!?」
ルディはもちろん驚いた。
幸い「中身」が見えることはなかったが、それだけでも少年にとってはかなり刺激が強すぎた。
(み、え……って何考えてるんだ俺は……!)
「はあっ……ん?」
少し期待してしまった自分を心のなかでぶん殴りながらも、ルディはあることに気づく。
「ラティナ、片方のリボンが……」
「あ…」
ラティナが右側の結んでいた所を触ると、そこにあったはずのリボンがない。
どうやらリボンがほどけてしまったようだ。
「うーん…やっぱり結び方あまいのかな……」
ラティナがほどけたリボンを見つめながらも、色々と思考しているようで
(ラティナもラティナで大変なんだな……)
ルディはその様子を見ながら薄々思っていた。
「……大丈夫なのかよ?ほどけたまんまで……色々と……」
「うん、だいじょうぶ!あそこまでまっすぐですぐだもん!」
そしてラティナがほどけたリボンを仕舞い、再び歩き出そうとすると……
「よう、お嬢ちゃん達」
「ふぇ?」
「ん?」
突然、知らない男たちの声が前のほうから聞こえてくる。
その方向を見ると、いかにも「冒険者」のような風貌の男が親しげに笑いかけていた。
「……ぼーけんしゃのひと……?」
「そうだよ。お嬢さんに聞きたいことがあるんだけどね…」
「……門番や憲兵に聞いたらどうなんだよ?俺達は何も知らねえよ…」
「そう言わずに……」
男が一歩近づこうとした瞬間──
「ラティナに近付くな!これでも食らえ!」
ルディは咄嗟に道端の雪で小さな雪玉を作り、それを冒険者の一人に投げつけた。
「ぐわっ……!?目がぁ、目がぁぁ!」
その雪玉は運良く冒険者の一人の目の辺りに当たったらしく、その冒険者は目を擦り、苦しみ始めた。
(よしっ!今の内に……)
「行くぞ!ラティナ!」
ルディはその隙にラティナの手を取り、全速力で走り始めた。
「ちっ、くそ!追え!」
「逃がすか!」
「クソガキが!ぜってぇ許さねぇ!!」
――――――――
数分後
(く、まだついてくんのかよ……!)
かなり走ったが、未だに男一人がついてきていた。
途中でルディとラティナは逃げる方向を街の外壁方向へ替えたにもかかわらずだ。
(しぶといな……つかもうひとりは……って)
「うわっ!?」
「ふぇっ!?」
突如彼らの進行方向にもうひとりの男が飛び出してきた。
そう、二人いた男たちがいつの間にか一人になっていたのは片方が諦めたわけじゃない。
ルディとラティナの考えを読み、先回りしていたのだ。
先回りされ、追い詰められた二人は止まらざるを得なくなる。
「っ……!」
人数は同じだが、大人と子供の格差は歴然。
素早く動けばまだ分はあるが、その前に潰されたらどうしようもない。
「娘のほうは上玉だ、傷つけるなよ!」
「クソガキの方はそうだな……俺たちをおちょくった罰だ。痛い目にあってもらうぜ……」
後ろの方の男は捕らえる構えをし、先回りして飛び出してきた男はポキポキと拳を鳴らしている。
「くっ……!」
(俺は……結局……弱いままかよ……!)
ルディは自らの力の無さを痛感し……
(やっぱり…まほうを……)
ラティナはデイルから教わった魔法を使おうとしたその時……
先回りして飛び出してきた男の後ろから、見覚えがある男が姿を現した。
「嬢ちゃん達、どうした?」
そう、虎猫亭の常連であり、子供たちにも優しくしてくれているあの人。
ジルヴェスター──ジルさんである。
「ジルさん!」
「じ、ジルさん!」
ラティナとルディはジルヴェスターのところに飛び込んだ。
ラティナは半泣きで、ルディも涙こそ堪えてはいるものの今にも泣きそうな表情である。
ジルヴェスターは二人の頭をなでながら彼女らの様子と男たちの様子を見て、瞬時に何があったのかを察知する。
「見た顔だな……」
そしてジルヴェスターは男たちを睨みつける。
彼らは以前、ラティナの品定めの為に虎猫亭を訪れており、その時からジルヴェスターは彼らがラティナに何かするのではないかと警戒していた。
その予感はどうやら当たりだったらしい。
ジルヴェスターの鬼のような面相に押され、男たちの顔は徐々に真っ青になりつつあった。
「い、いや……別に…俺達は何も…」
「た、ただその子達に道を聞いただけで…」
そんな言い訳が通用するはずもなく、ジルヴェスターは表情を全く変えずに拳を強く握り……
「言いたいことはそれだけか。なら死ね…!」
「ひっ!?」
ジルヴェスターの怒りは凄まじく、すでに男たちは戦意を喪失し、大人らしくもなくガタガタと震えていた。
「あ、ああああ……」
「そこで何をしている!」
その時、別方向から凛とした声が響いた。
一同が目を向けると、そこには数人の憲兵の姿が見えた。
「なんだ、ジルヴェスターじゃないか」
「これはこれは…我がクロイツの憲兵副隊長殿。相変わらず堅苦しいツラだな」
「ん?」
そしてその副隊長がジルヴェスターの元にいるラティナとルディのことに気づき、部下の二人にこう指示をする。
「この二人を連行しろ」
「え!?俺たちは
確かに男二人は
しかし彼らは……
「まだ…と言ったな」
副隊長の言うように彼らは「まだ」とそう口を滑らせた。
つまり何かをする予定があったということは明白である。
「あ……!」
うっかり口を滑らせた事を今頃後悔しても時すでに遅し。
男たちはなすすべもなく、憲兵の部下達により拘束され、連行されていった。
「ここのところ他の種族を売買するブラックマーケットが暗躍している」
「らしいな」
「人里では珍しい魔人族の子は特に狙われやすいんだ」
「……」
(やっぱりラティナって珍しいんだな……)
ルディはラティナのほうを見ながら、改めて彼女の「希少性」を認識していた。
まあ「恋」の上ではそんなことは些細なことになりそうではあるが。
そして憲兵隊の副隊長は、先程の警戒する真面目な口調から、柔らかい口調に変えて話し始める。
「君がラティナとルディ君だね」
「え?」
「あ、はい……どうして副隊長さんが俺とラティナの名前を……?」
「いつも話は聞いているよ。娘のシルビアからね」
ラティナとルディの目線には「薔薇の花の刺繍がなされた手袋」が見える。
それは数日前にシルビアが学舎で話していた「パパにプレゼントした手袋」であった。
「「シルビアのお父さん!?」」
二人同時にハモるように驚く。
まさかここでシルビアのお父さんに会うとは思わなかったようだ。
(そういえばあいつなんか言ってたな…なんかの警備とかなんとかで……)
『私のお父さんも憲兵隊が今日から警備に駆り出されるって言ってたわ。隊長が安請け合いするからだって愚痴りながらだけど』
(こんな人で…しかも副隊長だったんだな……知らなかった)
「君がラティナを守ってくれたのかい?」
「いや……俺はただ無我夢中で……結局……」
ルディは言葉をつまらせる。
ラティナの手を咄嗟にとり、一緒に逃げようとしたのだが、男に先回りされ、結局ジルヴェスターがいなければ危なかったであろう。
「でも、その勇気はすごいことだよ。自信を持っていい」
「そう…なんですか……?」
「うん、シルビアからも
「!?」
その言葉でルディは顔が急に赤くなる。
おそらくシルビア経由で知られていたのだろう。
まあわかりやすいので、シルビア経由ではなくとも直ぐにバレていそうではあったが。
「な、それは……?!」
「ほうほう……そういうことか……兄ちゃんが嬢ちゃんを……」
「ち、ちが……わない……けど!」
「ん?」
ジルヴェスターとシルビアのお父さんは微笑ましい表情でルディを見ているが、ラティナははてなを浮かべている。
そして大人二人はそんなルディをからかうのは止めて、別のことを話し始める。
「ふっ……今度私も虎猫亭に寄らせてもらうよ」
「やめてくれぃ…荒くれどもが緊張して旨い酒飲めなくなっちまう」
「ははは、あなたよりは幾分マシだと思うがね」
(……)
(……)
(ジルさんってすごい人なんだなぁ)
(ジルさんってすごい人なのかな……?)
二人は改めてジルヴェスターのことを「すごい人」だと認識した。
仮にも憲兵の副隊長と普通に話せるほどであるからである。
「おうそうだ。嬢ちゃんは俺が送るから、副隊長さんは兄ちゃんのことを頼めるか?」
「ああ、構わないよ」
ラティナはジルヴェスターに、ルディはシルビアのお父さんに手を引かれ、ここで二人は別れることになった。
まあちょっとした事件があった後なので仕方がないが
「じゃあね、ルディ」
「ああ、またなラティナ」
そしてそれぞれ自分の家のほうへ帰っていった。
ルディのほうは寄り道やらの件であえなく拳骨を食らいそうだったが、ラティナを守ろうとしたことをシルビアのお父さん経由で聞くと拳を収め、手伝いをしろと言いながら再び刀を打っていたそうだ。
一方のラティナは──
「なんでシルヴェスターがうちのラティナといるんだよ!」
さくっと魔獣退治をしてさくっと帰ってきたデイルが、同じく帰ってきたラティナと一緒に居たシルヴェスターを認識して少しキレていた。
嫉妬というのは恐ろしいものである。
「忘れ物を届けてもらったのさ、なあ嬢ちゃん?」
「うん!」
「油断も隙も………大丈夫か?ジルヴェスターになにかされたりしてないか?」
「うん、大丈夫だよ?」
デイルがジルヴェスターに色々と言葉を向けている中、ラティナはルディが逃げる時に咄嗟にとってくれた左手のほうをじっと見ている。
「………」
(ルディの手の……まだあたたかい…………?)
ラティナは自分の左手に何か違和感を覚えていた。
嫌悪感はなく、何やら暖かい。
(ルディ、お外いっぱい走り回ってるもんね……だから、手が暖かいんだよね。それにお家のお仕事でもあついの触るし……)
ルディの手はラティナの手より活発な分、暖かった。それと鍛冶屋をやっているのも手が暖かい理由だと納得した。
その手の暖かさは物理的な暖かさではなく、ルディの心の暖かさである事をラティナはまだ気付かない……
そしてジルさんはやはり強い
次回より少し成長するかも
うちの娘。は深い(確信)