太陽と月のハイタッチ   作:黒樹

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最近、アプリゲームのデイリー消化だけで一日が終わります。


招待状

 

 

 

「–––と、いうわけで何故か同居?することになったレイヴェルちゃんです」

「……」

 

深夜を廻って女の子をお持ち帰りした僕に待っていたのは、無言の威圧だった。何も言われなくても正座してしまった僕の前でただ無表情でいるグレイフィアはなんだか怖い。何が怖いって、美女を怒らせるのが一番怖い。

傍であららー、と呑気にしているレイナーレはこうなることが判っていたかのように椅子に座って傍観している。

グレイフィアは小さく溜息を吐いて、ぼやく。

 

「まったく急な話ですね」

 

寝間着姿で腕を組み、椅子に着席する。その姿は大人の女性の魅力溢れんばかりで本来なら興奮していたところだが、今は別の意味でドキッとしている。

 

「……ですが、悪い話でもないのは確かです」

「と言うと?」

「それなりに悪魔とのコネクションも築けて、問題の大多数は解決するのですから」

 

今、抱えている問題というとグレイフィアの件だ。

彼女の顔を見ると、少し嬉しそうに頰が緩んでいる。

 

「でも、まさかレイヴェル・フェニックスが可愛かったからとか単純な理由ではありませんよね?」

 

–––それもちょっとある。

 

断れなかった理由の一つとして上がるのが、ただ単に可愛かったから。グレイフィア達にダメだと言われたらそれまでだったけど、どうも二人は反対派でもないらしい。まだレイヴェルの運は尽きてないようだ。

 

「あはは、まさか……」

「まったく可愛い子に弱いんですから」

 

仕方ないなという感じでそう言って、

 

「ですが、布団に予備がありませんね。仕方ありません、私のベッドを貸してあげましょう」

 

満面の笑みでそう続けた。

 

「あ、狡い!私がカナタ君と寝るんだから!」

「なら、三人で寝ましょう」

 

名案だとばかりの得意げな表情の二人に反論する余地はなかった。

 

 

 

◇

 

 

 

翌日、僕とレイヴェルは一緒に家を出た。学校への通学路を並んで歩く。レイヴェルは少し緊張した面持ちで付かず離れずの距離を保って、遅れれば小走りについてくる。それが何処か小動物じみていて可愛らしい。

 

「緊張してる?」

「え、あ、はい……人間界の学校は初めてなものですから」

 

恥ずかしげに頬を赤らめて俯き歩くレイヴェルは余所見をしている。危うく電柱にぶつかりそうなところを抱き寄せるように回避させ、その一連の出来事にまた彼女の顔の赤みが増す。

 

「そういえば僕も朝から誰かと一緒に学校まで歩くのは久しぶりな気がするなぁ」

 

基本、小猫とは学校でしか会わない故か、友達が少ないせいか通学帰路を共にする相手はいない。常に誰かが側にいて、学校生活を共にするのは小猫を除外すればいないだろう。そう思うと新鮮な気持ちになる。

 

小さな幸せは学校の玄関口まで。特に何かを話すわけでもなかったけど、少し不安げなレイヴェルにアドバイスというわけではないが少しだけ世話を焼きたくなった。なんというか、後輩は放っておけないというか……妙な愛着が湧いてしまうのだ。それは責任感の芽生えなのか、或いは自己満足か。

それでもやっぱり、僕は僕の幸せをお裾分けしてみることにした。

 

「お昼休みはだいたい中庭のベンチで寛いでるから、暇ならレイヴェルもおいでよ」

 

最初は友達作りに四苦八苦するだろう。……というか、僕は諦めた。だから、気晴らし程度になればいいと思って憩いの間を設けたわけだが、来るかどうかは彼女次第だ。返事を待たずに僕は自分の教室へと向かった。

 

 

 

昼休みはいつも通り定位置のベンチへと向かう。ぽかぽか陽気に何を待つわけでもなく和んでいると近づく気配が約一名、背もたれに体を預けて世界を逆さまに見てみれば、僕と同じ弁当箱を手にしたレイヴェルが妙にきっちりとした姿勢で立っていた。

 

「ん、来たね。まぁ、座りなよ」

「は、はい。失礼します」

 

妙に凝り固まった態度でレイヴェルが隣に腰を下ろす。それを確認してから僕は自分の弁当の包みを広げようとして……ふと、もう一つの視線に気づいた。

 

「あ、小猫ちゃん」

「おはようございます先輩。朝からいいゴミ分ですね」

「……あれ、ちょっと不機嫌じゃない?」

「気のせいです」

 

恨めしそうにレイヴェルと僕を見比べる小猫は、ふと何かを思いついたような顔をする。そうして芝居ったらしく棒読みでこう言った。

 

「……私の座る場所がありませんね。なら、仕方ないですね」

 

直後、躊躇することなく僕の膝の上に腰掛ける。そんな小猫の姿を見てレイヴェルが目を見開いた。

 

「ちょっ、この泥棒猫!?」

「どっちが泥棒ですか焼鳥娘。私の先輩の許婚になっておいて」

 

バチバチと僕の膝の上で繰り広げられる睨み合いに僕は両手を挙げて降参する。逃げてしまいたいところだが、此処は石像と化して巻き込まれないようにするのが吉だろう。

 

「先輩は私の方が好きですよね!?」

「カナタ様は私の方が好きですよね!?」

 

……ダメだった。逃げれないっぽい。

 

気がつけば、周りは包囲されている。

そもそも膝の上はロックされているため、逃げようがない。

 

「どっち……と言われても、ねぇ。許婚ってのは確定したわけではないし」

 

正直な話、恋愛対象として見るかどうかはあまり考えたことがないから判らないというのが答えだ。人柄や人格は嫌いではないが好きよりなのは確かだし他のヒトよりは好ましいと感じる。

なので、禁じ手を使うことにした。

 

「どっちも好きだよ(取り敢えず、後輩として)」

「「……ッ」」

 

顔を赤らめる後輩達。

君達、本当にそれでいいのだろうか?

 

「それよりご飯食べちゃおう」

 

後輩二人がフリーズしている間に弁当を広げる。ご飯とおかずに分けられた二段重ねの弁当箱を開封すると、中には色彩に富んだおかずが綺麗に盛り付けられていた。玉子焼きにたこさんウインナー、唐揚げ、サラダ、ちくわの磯辺揚げ、と並んでいるが大半は健康を考えられた野菜類で占められている。

 

「あー、美味いなぁ。これを食べるために学校に来ていると言っても過言ではない」

「大袈裟ですね先輩。というか、それなら学校に来る意味がないんじゃ……」

「唯一の楽しみだからね。この時間は」

 

可愛い後輩と一緒にご飯を食べるこの時間こそが学校に来る唯一の楽しみ。そう考えると、学園生活も捨てたものではない。

 

「ふふふ……それはいいですが小猫さん、少しはしたないんじゃないかしら」

「気にしないでください。此処、私の指定席なんで」

 

まだ僕の膝の上に座っている小猫をレイヴェルが咎めるが一向に退く気配がない。それもそのはず、昼休みは僕の膝の上に座るのが日課と化している彼女にとって、これは自然なことなのだから。

レイヴェルは恨めしそうな顔で小猫を睨んだが、これ以上の徹底抗戦は無駄だと感じたのか自分の弁当を広げ始めた。

 

「レイヴェルも座りたいの?」

「そ、それは、その……」

 

別に気にしないのだが、レイヴェルは顔を逸らし恥ずかしそうに顔を赤らめる。

しかし、もし学校で二人の美少女を膝に乗せて弁当を食べていたとなれば男子生徒達から異端認定待ったなしだ。

膝は二つあるが、二つともを使用するわけにはいかない。

–––そんなことを考えたが、他人の評価を気にする僕ではなかった。

問題があるとすれば、片膝に後輩を一人ずつ乗せると負担が倍になるということくらいか。昼休みが終わる頃には膝が痺れているかもしれない。

 

「帰ったら座る?」

 

今や一緒に住んでいるわけだし、時間ならいくらでもある。

そう提案すると、レイヴェルは無言ながらも確かにこくりと首肯した。

 

 

 

「そういえばだけど……」

 

弁当も食べ終わった頃、無口な二人に代わり会話の切り口を模索する。

 

「レイヴェルは学校に馴染めそう?」

「は、はい、問題ありません」

「……嘘ですね。さっきはクラスメイトに話しかけられてもろくな返事をしていなかったじゃないですか」

 

自分の嘘をばっさりと切って捨てた小猫をレイヴェルは睨む。余計なことは言うなと言わんばかりに。

 

「う、あ、あれは少し緊張していただけです」

「別に友達を作れとかは言わないけど、程々にね」

 

友達作りに失敗している自分から言えることはないのでそう励ましておく。

 

「そうだ。クラスメイトといえば……兵藤が休みだったな。何かあったの?」

「あの人まだ目を覚さないみたいです。ダメージが酷いらしく」

 

思い出しついでに聞いてみたが、兵藤が学校を欠席していた理由はゲームでの疲労かららしい。特に気にしてもいなかったので軽く流したが小猫は思い出したようにポケットを漁った。

 

「そういえばフェニックス卿から焼鳥娘にこれを預かってきたんでした。どうぞ」

 

と、言って小猫は僕に一枚の封筒を手渡す。それを流れるままにレイヴェルへ。どうして直接渡さなかったのかは深く聞くまい。

レイヴェルは即座に封筒を開封した。中から出て来たのは、小さな招待状のようなものと、一枚の手紙だ。

 

「なんて書いてあるの?」

「どうやらもう片方は結婚式の招待状みたいです。カナタ様宛に。それで手紙には……えっと、その日はカナタ様にエスコートしてもらうようにと」

「ライザーとリアス先輩の結婚式の招待状ね」

 

当然、レイヴェルは親族だし参加するだろう。そのパートナーとして呼ばれているらしい。

 

「先輩は行っちゃダメですよ」

「んー、僕も拒否したいところなんだけどなぁ」

 

小猫に言われるまでもなく全力で拒否したいがそうもいかない事情がある。グレイフィア曰く、婚約は悪い手段ではないし言い方は悪いが利用すべきだと思う。その相手の要望は可能な限り応えておいた方がいいだろう。

 

「当然のことながらリアス先輩は面白くないだろうね」

 

リアス先輩が僕に招待状なんて送るわけがない。彼女自身が拒否した結婚に誰が知人を招待するものか。

 

「さてさて、どうなることやら」

 

このまま終わるはずがない、そんな気がしてならなかった。

 

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