本作は夢小説風味な短編小説です。黒死牟さんの人間時代の奥さん(捏造)が出てきます。ネタバレ、あまあまな雰囲気が苦手な方は注意。

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作者は単行本派なので本誌で語られたというこくしぼーさまの過去を知らないにわかですが、支部やWikiで見た知識ならあります。
言い訳するなら、妄想が蓄積されて爆発した結果こうなったんです!許してくださいなんでもしますから!(えっ

二人の様子をモブが語る形式から始まります。死ネタ有。

※pixivでも載せさせてもらいました。



君がため −とある赫灼夫婦録−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは大正時代の鬼狩りの話では無い。

 

 むかしむかしのとある夫婦のひとときの平和なお話さ。

 語り手である「俺」はそんな二人を観察するのが好きだった村人Aとでも思ってくれ。

 

 時は戦国。

 

 「継国」という武家の嫡男様に美しいお姫様が嫁ぎに来たんだ。

 

 下克上の世である、まぁ当然政略結婚だったろうが二人は仲が悪いわけじゃなかった。

 旦那様は継国家の男児らしく見合った刀の才を持ち、まさしく日ノ本の武士と言っていい人格者だった。そう、悪い人じゃない。悪い人じゃないんだが……愛想がなぁ。男に愛想も糞もないと思うが、旦那にするのはちと難しいんじゃないか、所詮、仮面夫婦なんだろうと暇を持て余していた主婦が井戸端でそんな噂をしていた。

 

 

 だがそんな予想に反して、時が経つにつれ御二方は仲睦まじいおしどり夫婦と化していったんだ。

 

 

 結婚したのだからここからは一部姫様では無く奥さんと記そう。あ、間違っても俺の奥さんっていう意味じゃ無いからな? 旦那様に面白おかしく吹き込むなよ? フリじゃないぞ? 旦那様に「切り捨て御免」されるからな?

 

 話を戻そう。さっきも言ったがこの時代、下克上は珍しくない。継国の長男である旦那様もいつ自分の寝首を掻かれるか分からねえもんだからいっつもピリピリしていた。

 旦那様の弟様とも何かあったようで、心休まる時は無かったんじゃないかと思う。今思えば誰も彼もが敵に見えて仕方なかっただろう旦那様がよく妻を迎え入れたものだ。

 

 けど奥さんの笑顔に毒気抜かれるものがあったのか、四六時中というわけじゃねぇが奥さんと縁側で仲良くお茶している時だけはホッと気を緩めていたみたいだった。

 菓子を美味しそうに頬張る奥さんを隣から愛おしげに見つめていた目を俺は今後一生忘れない。

 

 でも気持ちはわかる。奥様は緋色がかった艶のある黒髪と瞳が美しい人だったけど、笑った顔も素敵な方だった。 

 

 また意外にも武術が得意で、部屋の奥で綺麗な着物を纏って歌を詠むより馬と戦場を駆け巡っていてもきっと戦乙女として似合っていた。

 ───そんな方を他の輩が放っておくはずもない。しかも「人妻」というそういう系が好きなマニアックな者には魅惑のソースが掛かってるんだ。

 だが地位的に叶うわけもなく平民は身の程を知って慎ましく羨望の視線を送り、地位の高い殿様なんかからは手を出されそうになったが、旦那様の手によって殿様はきりもみ回転しながら放射線を描きどこかへ飛んで行った。

 落下した先でどうなったかは知らない。

 

 ああそうそう、それで思い出した。

 

 愛妻家って言ったらそれでおしまいなんだが旦那様は妻への執着心てのが人一倍あってな。え? もうなんとなく察してる? まあまあ聞いてくれよ。こんな話を聞いたら旦那様の拗れた愛がもっとよく分かるから。分からなくていい? いいから聞けや。

 

 俺ァある日、据わった目をして「お前を殺して私も死のう」って刀を持った旦那様に追いかけ回されてる奥様を見かけたことがあるんだよ。

 後から人伝で聞いた話だが奥さんはこの時浮気の疑いを掛けられたらしい。まぁ浮気は旦那様の早とちりで奥さんはキッパリ無罪だった訳だが……旦那様のあの目は本気(マジ)だった。

 奥さん半泣きで旦那様とお揃いの色の髪を振り乱しながら何が何だか分からないって感じで逃げてて、今思っても可哀想だった。というか名高い武士である旦那様相手に逃げ切れるって奥さんマジ奥さん。

 継国家の人間が死ななくてよかったね、じゃ済まされない笑えない案件だ。

 

 

 そんなこんなで紆余曲折ありながらも翌年─────二人の間に待望の元気な男児が産まれたのである。

 

 

 俺ァ何も言うまい。

 

 

 まぁ夫婦仲が諏訪湖の氷が溶けそうなほどアツアツなことで良かったとだけ……。

 

 

 

『あなた、ほら、笑いましたよ』

 

 

 

 縁側でおくるみに包まれた我が子を抱き、旦那様に幸せそうに告げる奥さん。旦那様ははにかんでいる子の顔を見て、そうだなと返事をした。

 

『まだほにゃほにゃの赤ちゃんですけど、大きくなったらきっとお父さんみたいな立派な剣士になれますよ〜』

『私は特別な剣士ではない。特別な剣士とは、神の才に恵まれた(アイツ)ことだ』

『もう、またそんなこと言って。私から見たらあなたも縁壱さんも雲の上の存在(ひと)です。どちらも素晴らしい剣士様なのは変わりありません。───ですから、この子と私を守ってくださいね。私の剣士様』

『…………ああ』

 

 血生臭い殺伐とした戦国の世に寄り添う夫婦の風景は庭から覗き見する者の目を和ませた。俺は泣いた。

 旦那様から視線だけで生きとし生けるもの全てを殺せそうな睨みを頂戴したのでここら辺で引き上げた。真の武士に目で殺されそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滝から落ちて溺死────享年二十一歳。

 

 

 奥様はあっけなく亡くなられた。

 

 

 事故だった。前日は龍神様が通ったんじゃないかというくらいの大雨で、足元がぬかるんでいたのだろう。

 突き落とされたというなら抵抗した跡もない。自尽という線も出たが、あんなに明るく世継ぎもできて幸せそうな奥様が自ら身を断つなんて(もしかしたらただの農民である俺には計り知れない苦しみが奥様にはあったのではないかとも思ったが)あり得ない。という声が幾つも挙がったことで事故と処理された。

 

 高さのある滝から落ちて即死しなかったわけではなく、溺死というところがまた残酷だ。

 

 冷たかっただろう、寒かっただろう、苦しかっただろう。

 

 冬場だったからか奥様のご遺体は綺麗なものだった、美貌が損なわれてないんだから世の中ほんっと皮肉なもんさ。

 

 そうそう、問題の旦那様はどうしたかというとな、後添えを貰えといった声もあったが拒否したらしい。そりゃそうだよな。誰がどう見ても微笑ましいおしどり夫婦だったんだから、周りからどんなに言われようと旦那様はこの先永遠に後妻は貰わないだろうと俺たち農民は無言で承知していた。

 それに後妻を貰えば今度はあの世から出てきて薙刀を持った奥様に追いかけまわされるかもしれないし。

 

 それに縁壱様と一悶着あったみたいで、旦那様は俺たちから見ても精神的に益々疲弊していった。この時「少し寝たら?」って誰かが言えば良かったのかもしれない。

 

 俺はこの時確信したよ。大切なもんは亡くしてから気づくってのは本当なんだな。

 

 

 

 旦那様を癒せる人は奥様しかいないのだと。

 

 

 

 そんで奥様が死んでから半年、いや一年か? とにかくそのくらい経ったある日、まだ五つにも満たない幼い息子を家に残して、突如として旦那様は失踪してしまったんだ。

 どこに行ったのか、何故消えたのか、そもそも生きているのか死んでいるのかも分からない。縁壱様なら知っているかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 その日から、ある不穏な噂が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人喰い鬼が出たってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✳︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして私の髪は黒とも緋色とも付かない半端な色なんでしょう。

 

 他の姫君は烏の濡れ羽色をした美しい御髪なのに。

 

 どうして私の目は鬼灯のような紅い瞳なんでしょう。

 

 鬼の目みたいだと嘲られ揶揄(からか)われることもありました。

 

 でも己と同じ赫灼の色が好きだと、綺麗だと、この目を見て真っ直ぐと伝えてくれたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 他の誰でもない、あなただけなんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくお会いできて光栄です。巌勝様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互い死んでから再会とは世界とはままならないものですねぇ。

 

 え? なんでここにいるかって? ふふ、閻魔様に無理言って連れてきて貰ったんですよ。どうしても、どうしても言いたいことがあって。

 

 

 

 ────ごめんなさい。あなたとあの子を置いて逝ってしまって。

 

 

 

 あら、あなたのそんな泣きそうな顔、初めて見ました。

 

 …………いや、私だって嬉しいですよ? 三百年も会えず、黄泉の国で待ち続けて、凄く凄く嬉しくて今すぐにでも抱きついて……ゴホンッゴホン! 何を言ってるんでしょうか私は……。

 

 縁壱さんですか? 縁壱さんも黄泉の国であなたを待ってます。来なかった訳じゃないです。閻魔様曰く定員一名なので、縁壱さんに譲ってもらって、というか頑固として私を行かせようとしてましたね。なんというか、変なとこで頑固なのはやっぱり兄弟ですねぇ……。

 

 あなたを待ち続けている間、あの子とも会いました。びっくりするくらい成長されていましたよ。

 そうですね、外見は若い頃のあなたに似ていましたが縁壱さん曰く性格は私似らしいです。………って、笑わないでくださいよ巌勝様! どういう意味ですか!

 まったくもう、とにかくあの子はもう輪廻の輪に乗って転生されましたよ。今頃は新しい生を謳歌しているでしょう。

 

 ───ん、もう時間ですか……早いものですね。きゃっ! 炎が……ということは…閻魔様はあなたの行き先を地獄へ決定されたようです……。

 ごめんなさいあなた、こればかりは私には変えられません。

 

 えぇ、また長い長い時を過ごすことになるみたいですが何百年でも何千年でも私たちは待ち続けますから。

 はい。私も大好きですよ。ずーっとずーーーっとあなただけを愛します。

 

 刑期が明けたらいっぱい抱きしめて、いっぱいお話しましょうね。

 

 

 

 兄弟の仲直りも、(わたし)との時間も。

 

 

 

 

 まだ足りないものはたくさんあるのですから。

 

 

 

 








赫灼夫婦コソコソ噂話。
奥さんは旦那様のもさもさしたポニーテールがワンちゃんみたいで好きで、生前はよく弄ったり顔を埋めたりしていたそうですよ。
巌勝さんは最愛の奥さん死んじゃうわ、縁壱さんのこともあるわで追い詰られて鬼になっちゃった……っていう設定です。

ほのぼのしたお話とかも思いついてるんで本当に気が向いたら番外編とか考えてます。死後で会ったと書いてますがこくしぼー様まだ死んでませんし(マジレス)。下手なことは書けませんのでここで切らせていただきました。

ちなみに奥さんのモデルは戦国時代のとある武将の妻、瑠璃姫。長刀と吹き矢が得意なお姫様だったそう。彼女は敵に追い込まれ、最後は滝に身を投げます。
グーグルで瑠璃姫伝説って打てば出てくるよ!


言わせたかったけど需要が無い上、入らなかったセリフ↓

「でもね、あなた、祈ったって縋ったって結局誰も助けてくれないから。私だけはあなたに寄り添うと決めたんです」

有一郎くんの台詞に似せたもの。やっぱり先祖やなってことを伝えたいから描写したかったけど、ボツ。


無一郎くんがこくしぼーさまの直系の子孫なら奥さんいただろうし、こんなデッロデロに甘い巌勝さまがいてもいいはずだ(開き直り)


最後まで読んでくださった皆様方、ありがとうございました。

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