TS転生ベルベット・クラネル君の英雄讃歌   作:美久佐 秋

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 お久しぶりです。かなり……と言うか、ほぼ一年ぶりになるのでしょうか。今回も厨二病全開なので、気を確かに。


episode.20:繋ぐモノ

 大事な局面において、いつも思い出すのはまだ少年だった僕に語った祖父の言葉だった。

 

 ダンジョンには出会いがあると。

 英雄はカッコいいのだと。

 ハーレムは最高なのだと。

 

 そして、大神は決まってこの様に問い掛けてくる。

 

『───今度は“何”になりたい?』

 

 その言葉で思い出すのは熱狂するファン達の想いや感情をステージの中央で一身に受け、歌って踊る“私”(アイドル)の姿。だから、これからも。幾千一万も世界を超えても。己を賭した人の道を、英雄を讃える歌──英雄讃歌を歌いたい。

 どこまであの人が知っているかは、終ぞ分からなかった。だけどこれだけは変わらなかった。

 僕の答えをあの人は肯定も否定もせず、ただ満足そうに笑う祖父を今でも鮮明に思い出せる。

 

『そうか、ならベル。これだけは覚えておけ。英雄とは……剣を執った者ではなく、盾をかざした者でもなく、癒しをもたらした者でもない。己を賭した者こそが、そう呼ばれるのだ』

 

 そして眩しそうに眦を細めて、こう言った。

 

『お前は……折れも、挫けもしないだろうな。だから帰る場所を、弱みを見せれる女を作れ。それさえ在れば、お前はいつだって仲間を守り、女を救い、己を賭ける事が出来る。

 そんなお前は、儂の自慢の……一番格好のいい英雄(おのこ)だ』

 

「……あぁ、爺さん。貴方の言う通りだったよ」

 

 脳裏に思い出したのは美しい銀と紫紺の瞳、二房の黒髪と鈴の付けた笑顔が似合う2人の女神だった。

 ドクンッと跳ねる僕の心音。それに呼応してか、祭壇に付随していたリン、リン、という鐘の音色は、ゴォン、ゴォォン、という大鐘楼(グランドベル)の壮大な音色へと成り変わる。そんな僕を祝福する妖精達の後押しをありがたく思いながら、この僕達の前進に相応しい唄を歌うのだと───願いを束ね、想いもこの指に秘めて……世界に繋いだ(Access)

 

 

『「【 眠れないんだ 風もなく茹だりそうな夜に 君の声が耳元で揺らいだ……感傷─── 】」』

 

 駆け抜けよう……そんな詠歌の名ではあるけれども、足を踏み締めるように曲調はゆったりさせよう。

 だけど光源は頼りない洞窟(ダンジョン)は、いつだって逢魔時だ。張り詰められた不安と緊張で体力と気力もなく、挫けそうになると何時もキミの声を思い出す。

 

「『【KyarunaAuuAA!!!】』」

 

 身の危険を感じたのか、獣は再び劈くような咆哮による呪詛を僕に向けた。その『剥奪』を宿した呪奏に対抗するように、ゴォォン、と鳴り響く大鐘楼(グランドベル)

 その壮大な音色に共鳴して妖精達の福音が戦場に響き渡り、不吉な旋律を打ち消した。

 

『「【 ───に浸ってばっか 何も変わらない 笑えない日々を 抜け出そうぜ 君を連れ飛び出した 】」』

 

 それでもその声に縋ってばかりはいられない。此処にはいないから、代わりにキミがくれた恵を背負って、何時ものキミと笑いたい日常まで戻るから。

 

 ここで僕は一拍の呼吸を挟んだ。

 それが獣には隙と捉えられたのだろう。……学ばないね。わざとだよ。

 

『「【 風が通り過ぎた 】」』

 

 神々に【疾風】の二つ名を与えられたリューさんは敏捷と、さらに彼女が通り過ぎたと認識されるよう、リューさんの気配を少し後方にズラす程度の阻害効果を。そのまま彼女は通り過ぎ様に獲物を獣の間接部へ連撃攻撃を与え、疾風となって撹乱をし続けた。

 

『「【 闇と混ざり合った 】」』

 

 気配や視線を消せない『漆黒兜(ハデス・ヘッド)』の効果を最大限高めるために、アスフィには周囲の空気に同化させる程の偽装効果を。

 認識外から薬品で攻撃、またはわざと気配を露出させて挑発し、戦場のヘイトコントロールの役を買って出た。

 

『「【 君の笑い声が 小さく藍の空に響いて 】」』

 

 ダメ押しに“Cran el”の名の下に、キミの領域に癒しと破魔を宿した暖かな聖火の息吹を響かせる。

 そうすればアミッドさんの魔法効果を底上げされ、持続力と回復力が高まった。

 思い通りにいかずイラつき始めた獣が周囲をまとめて呪詛で吹き飛ばそうとすれば、待機状態にしていたアミッドさんが魔法陣を開放し、戦場の優勢を一切渡さんとする。

 

『「【 そんなんで生きていけんのか もう戻れないぜ? なんて揺らぎそうな想いは アクセルへ このまま地平線を追い越してやるんだ 】」』

 

 そして唯一この戦場で自分を付与(エンチャント)対象としなかった僕は不敵に笑い、悠然と佇み、詠歌を紡ぎ続けた。そこに悲観も、不安もない。僕よりも更に前を駆ける彼女達に比べれば、そんなものは些細なもので、だからこそ僕は領域と付与(エンチャント)の維持を同時並行───“多重詠唱”に全力を尽くす。

 その集中力は以前街中で【ロキ・ファミリア】の団員達に披露した時よりも次元を数段飛び越えて、第三の法に至るかもしれない程だった。

 ……いや、接続魔法という【     (コード・ヴァニタス)】の特性上では間違ってはいない。血の縁を辿り、藍の空から零れ落ちた天の恵を受けた今、凡ゆる無意識を共有化及び収斂を成功させ、僕の心音が大鐘楼(グランドベル)と共鳴する。

 ゴォォン、という壮大に鳴り響く音色───それが、決着の合図だった。

 

『「【 最前線飛ばせ僕たちは 星もない夜 ただ東を目指して行く 】」』

 

 最初にアスフィが薬品を獣の足元に薬品とばら撒けば、地面は融解して煮えたるマグマのように。

 

『「【 13秒先もわかんなくたって 精一杯僕を生きていく 】」』

 

 次にリューさんが両膝関節部周りの筋繊維のような触手を断ち切り、ガクリと支えを失った獣は前方に上半身を投げ出した。何とか手を付くことで地に這い蹲るのを避けた獣は、切断された触手に代わって周囲の触手で破損部を補完しようと意識を向ける。しかし、アミッドさんの魔法によって獣の行動の尽くが阻害される。

 ここにきて獣はこの舞台(ステージ)が終幕まで僅かであることに気づき、己が死の淵に立たされている事に今更ながら獣性に侵された思考に恐怖というものが浮かび上がった。しかし何もかもが遅く、僕は維持に回していた思考と術理のリソースを一気に領域へと回して完成を加速させた。

 

『「【 何も後悔なんてないさ 前を向け。止まらないさ きっと光の待つ方へ 】」』

 

 始まりがあるから終わりがある。それ故の生誕を謳う讃歌。

 原初の願いが綴られ、これより謳うは終焉への楔。

 

『「【 代行者の名に於いて汝が記し、我が唄う。与えられし汝が名は月ノ宮(Gullveig)、宙ノ化身星ノ皇 】」』

 

 そして遂に領域が完成し、聖火の燃ゆる祭壇が自由()を奪う……その直前。

 しなり、唸るような空気を裂く音に今更ながら、僕は武神の眷属達が言っていた“魔物”の攻撃方法を思い出した。思い出してしまい、致命的な隙を見せてしま───。

 

「まずっ「詠唱を!!」」

 

 ───ギリギリ僕との間に割り込んだリューさんが、迫る触手を斬り飛ばした。その一瞬を稼いでくれた彼女への返礼は続けろと言われた詠唱を完成させる事にあり、……まもなく詠歌の銘がここに紡がれる。

 

『「【 拝領せし宙の雫・十七節の章───Bloodborne(獣狩りの夜) 】」』

 

 虚空に浮かんだ青い波紋。そこから姿を現した鐘が、世界に鳴り響く。

 チーン、チリーン、チリーーン。

 瞬く間だったか、数分だったか、時間感覚がおかしくなったかのような奇妙な時間の中で何度か響いた鐘の音が染み渡るように洞窟内で広がっていく。

 そうして重なる声と弾ける泡の音が聞こえたと思えば……───バチン!!!!

 何かが大きなモノに挟み潰されたような衝撃音の先では、たった一つの青褪めた色を孕んだ魔石が大量の灰の中で埋もれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったのです、よね?」

 

 人智を超えた何かを垣間見た。

 目の前で起きた事象を言い表せないせいでモヤモヤとした痼りを一様に残した戦闘ではあったが、そのアミッドさんの言葉によって全員が現実に意識を引き戻された。

 

「……えぇ、終わったと見ていいでしょう。色は通常の物と異なりますが魔石もあります。食人花(ヴィオラス)と呼ばれていたモンスターの魔石は中央部分が極彩色でした。そしてこれは……青、というより空色?でしょうか」

「確かに空色、ですね」

「そうでしょうか?何方かと言えば、私は夜空のような印象を受けましたが」

 

 アスフィが灰に埋もれた魔石を手に取り、横からリューさんとアミッドさんが覗き込んでそう言った。

───おぎゃあ。

「ゲホッ……ゲホゲホッ……ゥグ

「クラネルさん、もしかして何処か怪我を?」

 

 不意に表れた身体の不調に逸早く対応しようとするアミッドさんと、アスフィとリューさんも様子見に寄ってくる。

 死線を共にした仲だ。皆が心配してくれるのは頼もしいけど、それよりも自分を客観的に見ているような感覚が酷く気持ち悪い。不調を自分のものであると感じられず、他の何か(・・)に意識を引き寄せられる。

───おぎゃあ。   

「これは……赤子の、泣き声?」

「赤子?そんな小さな子がダンジョンにいるわけが……クラネルさんッ!!」

 

 予想外な僕の言葉に、一瞬呆気取られるリュー達。

 奇襲は、その刹那の間に行われた。

 

 唸るように空気を裂く音。

 赤子の泣き声のせいで周りに気を張っていた僕がそれを最初に気づいた。全員が僕に寄って来ていたのが幸いして、皆を抱え込む様に引き寄せ、入れ替わる様にしてそのまま地面に倒れ込む。庇い、代わりに僕があの触手に何かをされたのは、自分の容体を見てもらうまでもなかった。

 

「うぁ、ゥグィァァァアアア!!」

「「「クラネルさん!?」」」

 

 洞窟の中に響く獣の様な悲鳴。

 庇った時に斬りつけられた腹部に外傷はなく、代わりに何かを埋め込まれ、そこから根を張り巡らせられる様な、未曾有の痛みに思わず我を忘れて地に這いつくばる。

 そんな姿に臆さず対応して見せたのは、やはりアミッドであった。

 

「詠唱を始めます!リューさんはクラネルさんを仰向けにして腹部を露出させて下さい!アスフィさんは私のポーチから刃物(メス)を取り出して消毒をお願いします!」

「は、はい!」

「わかりました。漁らせて頂きますが、貴女は治療に集中してください」

「グァァ、ギイィ……」

「えぇ、勿論です。……【 癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏(やくそう)をここに。三百と六十と五の調べ。癒しの(おと)万物(なんじ)を救う】」

 

 堪える様な唸り声を耳にしながらも各々が指示された行動を迷いなく実行していく。リューはエルフであるが故に、腹部を露出させるという行動に数巡の迷いを見せたが、最終的に吹っ切れたのかバッサリと大きくシャツの斬り口から引き裂いた。

 そうして露出された腹部を覆うのは、蠢く赤と青、そして黒の何か(・・)。触手だったそれは既に姿形を変え、着床した箇所から広がりながら侵食していく胞子の如き微生物の集合体だった。傷口は埋められ、そこから既に臍の辺りまで侵食の広がりを見せる何かに全員が目を見張る。しかし、アミッドは【戦場の聖女(デア・セイント)】の名に懸けて詠唱を止める事はなかった。

 

「【聖想(かみ)の名をもって、私が癒す───ディア・フローテル 】」

「……ッふぅ。助かったよアミッド(・・・・)

「?……はい。侵食はこのまま私が回復を欠けている間は止まっていますが治癒と侵食が拮抗している以上、それは魔力が尽きるまでの話です」

「あぁ、わかっている。だけどもう説明している時間はなさそうだ。気を確かに保てよ……飲み込まれるぞ」

 

 僕の口調がおかしい事に気づいたのはアミッドだけではなかったみたいだが、この状況下で一々訂正する時間すら勿体無い事をこの場にいる者は理解していた。

 そして僕の言葉が何を意味しているのかも、彼女達はほんの少しではあったが瞳に映してしまったらしい。

おぎゃあ。

「「「……ッ!!」」」

 

 赤ん坊の鳴き声に気を取られた、その刹那───宙と海が溢れ出た。

 

「これは……ッ!!」

 

 空想具現化。その亜種と知られる固有結界───リアリティ・マーブル。個と世界、空想と現実、内と外を入れ替え、現実世界を心の在り方で塗りつぶす、魔術世界における最奥の秘術。

 問題はそれが自らの意思で行われたのではないということだった。

 無間の領域。波風一つない夜凪の海の中心で、天に満ちる星々。その中でもいっとう美しく輝く銀の月は妖しく紫紺の光を孕み、僕達を見つめている。そこから更に外の領域から僕の心象世界を大事そうに抱え込む何か(・・)

 “名のない魔法”(コード・ヴァニタス)によって繋がっている根源的存在であるからか、それの性質を本能的に察して名前を口に出すことは決してない。けれど、ただ“あなた”と僕は呼んでいる。

 

 そしてこの状況は敵性存在からの侵食を受けて危機的状況に陥った僕を見て、僕の心象世界を無理矢理に表へ引っ張ってきたというところだろうか。反則技とも言えるこの状況は“あなた”と繋がった状態だったからであり、この領域にいる限り僕達は安心だと断言できるけれども、それでアミッドやアスフィ、リューが発狂でもしてしまったら僕はどんな手段を使ってでも責任を取らなければならない。

 だからこそ領域の外から見守るだけに留めてくれているのだろうけど、彼女達にとっては“あなた”の存在感を身近に感じるだけでもキツイに決まっている。

 

「クラネルさん。この状況をどうにかする手段があるのですね?」

 

 そう思っていたのだけど、彼女達は正気を保ったまま僕を見ている。その視線には確かな信頼が見てとれた。

 

「……ふは。あぁ、あるよ。まだ症状は出てないだろうけど、全員白血病に掛かっているみたいだ。侵食されて分かったけど、腹についている微生物の集合体のようなコイツにはそれぞれに繋がりを感じる。それが君達からもね」

「なっそんな軽い感じで伝えることでは……いえ、手段があると言いましたね」

「この状況下なら貴女達も含め、完治するわけではないけど初期症状が出る前にどうにかすることができる。特に【神秘】もちのアミッドとアスフィにはやってほしい。……ただ方法に抵抗はあるかもしれないけど」

「「「……それは?」」」

()の血を飲んでもらう。こいつの繋がりを感じる特性を利用して、血を(キー)にして身体に直接魔法を掛ける。その影響で【スキル】として発現するかもしれないが……」

 

 そこで僕達は視線をリューに向ける。心配なのはエルフであるリューが了承してくれるかどうか。しかし彼女が忌避感を感じている様子はなかった。

 

「何ですか、皆して私を見て。エルフだからと言って断るとでも思いましたか?」

「まぁ、正直に言えばそうですね」

「……確かにクラネルさん以外でしたら緊急時だとしても断っていたと思いますが、……私達は死戦を共に潜り抜けた同志です。少し抵抗感はありますが、飲んで見せましょう」

「リオンがここまで言うのです。必ず成功させてくださいね」

「衛生的にはあまり褒められた事ではありませんが、有効な手段ではあるのでしょう。よろしくお願いします」

 

 覚悟を決めた表情でそう言うリューではあったが、エルフである彼女にとっては一大事だ。他の二人からも了承を得たところで僕はアスフィの持つ消毒済みのメスを手に取り、右手首を躊躇いなく切り裂いた。

 

「手で杯を作ってくれ。全員が一斉に飲んだら、詠歌を唄い始めるから」

 

 背を支えてくれていたアミッドに一言ありがとうと礼を言って立ち上がる。そうして掌で作られた杯に手首から溢れ出る血を一人ずつ注いでいき、三人は一斉に両手の血杯を呷る。

 下ろした右手から人差し指まで滴る赫が、水面を揺らした。

 

「『【Access(綴る)─── 】』」

「『【───The world is full of miracles(世界は奇跡で満ちている) 】』」

 

 虚空を撫で切る動作を皮切りに淀みなく綴られ始めた英雄讃歌。“魔力”“想念”“神秘”を束ね、唄われる奇跡に夢幻の星の導きを。その宙と海に果てはなく、悠久の時を越えて泡沫を綴る。

 空間を支配する幻想的な文字群に使われているのは魔女の文字であり、“神秘”の煌めきに照らされている赫は今回の鍵である血液だ。それを魔術媒体として組み込み、魔女の文字と魔術効果を相乗させている。そしてその文字自体が神秘としての力を孕んでいるために他の作業との並列作業は困難を極めた。

 

「『【But Foam,See NoTouch.(されど泡沫、見えど触れ得ず。)Night Marble Phantasm.(唄う夢幻は宙と海。)

That endless road,write down eternity beyond(其ノ旅に果ては無く、彼方にて久遠を記す )】』」

 

 いつか『虚空』から届いた“私”の深く魅力的で甘い声。それがきっかけで【我は汝、汝は我(ペ・ル・ソ・ナ)】を発現し、結果的に“あなた"をも認識出来る様になった。そのように僕は思っていたけど、勘違いしていた。……本来は逆だ。

 “あなた"は“私”で、“僕”は“あなた”。

 “あなた"の声を聞いたから“僕”は“私”を認識出来る様になり、それは『自覚(啓蒙)』を齎した。いつか唄った魔術式・命題(コード)空ノ唄(ヴァニタス)』が接続魔法【     (コード・ヴァニタス)】として発現したのは()が記す者であり、()が唄う者であり、“あなた”が繋ぐ者であったからだ。

 

「『【I your singer, You my writer(我は汝を唄うもの、汝は我を記すモノ) 】』」

「『【Genesis Ragnarok,(創世も終末もなく、)Uroboros “All-in-One”(輪廻を繋ぐ“全なる一”)】』」

 

 そして詩を紡ぎ、心象を具象化させる【英雄讃歌(ソウル・リアリゼーション)】は“あなた”による力だ。何せ“僕”でもあり“私”でもある“あなた”にとって、僕達を繋ぐ事など容易いだろうから。故に“あなた”は“全なる一”。

 

「『【Phantasm to here,Eternity far away(夢幻は此処に、久遠を彼方へ) 】』」

「『【Thus,(斯くして、)Duetto and Burst bubbles of sound(重なる声と弾ける泡の音がした)】』」

 

 夢幻とは現実世界を塗りつぶした固有結界(リアリティ・マーブル)であり、久遠とは“私”が記す“僕”の人生の旅路。

 思えば世界を越えて新しい人生を歩んでいるが、また次がないとは限らない。円環の如く回り巡って、今度は“私”が“僕”を記すかもしれない。いや……記していた。確かに果てはなかったし、こうして彼方にて久遠(みち)を記している。そしてまた、彼方へと。

 

「『【 In the name of the spirit your write,I sing.(代行者の名に於いて汝が記し、我が唄う。)

Thy given Name Gullveig ,(与えられし汝が名は月ノ宮、)UniverseStar Emperor(宙ノ化身星ノ皇)】』」

 

 一章節の詠歌が唄われる度に文字群は円環───魔法陣となり、文字数によって大小様々な九つの円環が規則正しく回り続けながら順に重なり合い……これにて終幕。詠歌の銘が紡がれる刻、その(けん)は姿を表した。

 

「『【───Vanitatum Gullveig(天命廻す空虚なる鍵)───】』」

 




 “Cran el”の意味は「episode.10:智慧の女神」の後書きで軽く言及していますので、気になる人はぜひ。
 あと、次話辺りでひとまず第二章の中層進出(アンダーリゾート)編は完結させるつもりです。よろしくお願いします。

▽フォントなしverの詠歌です▽

「『【─── Vanitatum Gullveig(天命廻す空虚なる鍵) ───】』」

世界は奇跡で満ちている
されど泡沫、見えど触れ得ず。唄う夢幻は(そら)(うみ)
其の旅に果ては無く、彼方(かなた)にて久遠(みち)を記す
我は汝を唄うもの、汝は我を記すモノ
創世(はじまり)終末(おわり)もなく、輪廻(すべて)を繋ぐ“全なる一”
夢幻は此処に、久遠を彼方へ
斯くして、重なる声と弾ける泡の音がした
代行者の名に於いて汝が記し、我が唄う。与えられし汝が名は月ノ宮(Gullveig)、宙ノ化身星ノ皇
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