黒歌の魔法によって別の場所『月の都』の会議室に二人は転移されていた。
「……黒歌姉様」
「白音、迎えに来たにゃ」
二人は机と椅子があるだけの一室で向かい合い立っていた。
「もう、涼は悪魔を、三大勢力を敵と定めたにゃ」
「…そう、ですね。確かに戦争をするだけの理由を三大勢力は作り出しました」
涼が宣戦布告をしたのちに、種族の未来を見据えた者たちは闇に葬られていた三大勢力の過去の行いを洗い出していた。
自分たちに従わない者は虐殺し、無理やり従属させ。政治的な相手には、人質を使い、賄賂を渡さない者には濡れ衣を着せて、時には自分たちの悪事を擦り付けて殺してきた。
「私……最初は、宣戦布告を理解できませんでしたが多くを知って理解しました。三大勢力はもう戻れない所まで来てしまったんですね」
一度悪に手を染めたなら、ブレーキは軽くなり。二度、三度の繰り返され、三大勢力の悪事は、もう見て見ぬふりをすることなど出来ない所まで来てしまっている。
今までの行動を反省し、心を入れ替えて生きていく、など今の三大勢力にはもう出来ない。
親から子へ、また子へと洗脳の様に他種族を虐げる事を教育してきた教えはもう消せない。
戦争が終わった時、新しい魔王が生まれて時、和平が組まれて時、行動するタイミングはいくらでもあった。それを自分たちで捨て、大丈夫だろう、という希望的観測に結果を委ねた結果が、異世界との神殺しの戦争だ。
「うん、涼が…世界が三大勢力を悪としたにゃ。もう戦争以外の道なんて無いにゃ」
黒歌は、戦争を行う事を反対していない。
自分が、妹を守る為にはぐれ悪魔とされ、数年間心配して過ごしてきた過去があり。似た境遇の人も多く見てきた。
三大勢力があり続ける限り、負の連鎖は止まらない。
「私は、どうするべきなんですか」
姉である黒歌について行くということは、上層部に殺されかけた自分を救ってくれたリアスとグレモリー一家を裏切る事となり、リアスたちの元に戻るということは、黒歌とは敵となり十中八九、涼の力と《獣群師団》よって悪魔の一人として滅ぼされることだろう。
「白音…悪いけど、私は白音に嫌われても連れて行くにゃ」
黒歌は、もう決意をしている。
例え、二度と姉と呼ばれなくとも。一生、恨まれ、何と言われようとも今、妹を見捨てるくらいなら此処で行動を起こし、
小猫は迷いながら、差し出された
「私は、悪魔が正しいとは思えませんが、涼先輩が正義だと言う事出来ません」
他種族を虐げる事を悦とした悪魔とそれらを敵と定め。悪も、罪も、関係なく全てを等しく滅ぼすと決めた涼。
「だから私の正しいと思えることをします」
「…そうかにゃ」
少し悲しそうな顔をする黒歌。
「……だから、私は行動します。何が正しくて、何が正しくないのか、悪魔の傍に居たままじゃ見えない景色を見に行きます」
「…いいと思うにゃ」
「私は……涼先輩の傍で、黒歌姉様の傍で世界を見ようと思います」
「…うん、どんな理由でもいいにゃ、白音が帰ってきてくれるにゃら」
ぐす、と鼻を鳴らしながら二人っきりの会議室で静かに相手を抱きしめ、そこに居るという存在を確かめあった。
@ @ @
アザゼルの身に纏った『
天使や堕天使という種族が使う光の力で作られた先端が二又に別れた槍を片手に近接戦をしてくる。
俺はそれを両腕を変化させた獣の腕で防ぎ、隙を見つければ攻撃をするを繰り返し、全身鎧を観察し続けた。
「全身鎧か、強いドラゴンの禁手は全身鎧じゃないと駄目っていう決まりでもあるのかねえ」
ドラゴンの一番最初のモチーフは蛇だと言われている。
全身を覆う強固な鱗は蛇、四肢は獅子、翼は蝙蝠からだと言われている。それは人間が恐怖し恐れた獣を掛け合わされて想像されたのがドラゴンだからだ。その中でも特に蛇。爬虫類がドラゴンの特性を締める部分は大きい。
ドラゴンのに連なる上位の神器の禁手が全身鎧なのは、恐らく龍の全身を覆う鱗から来ているのだろう。
翼を羽ばたき旋回して体勢を立て直す。
見た感じ、『
「鎧なだけあって、防御は勿論、核になってる“「黄金龍君」ファーブニル”の力もある程度、上乗せされているのか」
現に、中級堕天使程度なら一撃でノックアウトする獣の腕の攻撃をまともに食らっても、アザゼルはピンピンしている。
「おうともさ、コイツはただ鎧を着ただけじゃねえ、パワーアップもするってことだ!」
振り下ろされる光の槍を躱し、脚をすぐさま腕と同様の獣の脚に変えて蹴りを叩き込むとガン!という音が響く。
脚を離し距離を取ると蹴りが当たった、肩の部分には罅が広がっている。
「おいおい、蹴り一発で罅が入るとかありかよ!」
堕天使龍の鎧に入った罅を指でなぞり、一撃で自信作の人口神器に罅を入れられて事にショックと想定以上の力を持つ涼に驚愕しながら鎧の罅を修正していく。
「……これは予想以上にヤバイな」
「そういう、アンタは予想していたくらいの強さだな。まだコカビエルに使った権能も使ってないのに」
マジかよ、と頭を抱えるアザゼル。
正直、『
「なあ、前から聞きたかったんだけどよぉ。なんでお前は俺たちに宣戦布告した?」
「は?」
何言ってんだ、コイツ?
「悪魔が人間を好き勝手に使ってるのは分かる、だが、堕天使や天使は悪魔ほど酷くはない、まだやり直せると俺は思っているんだがなぁ……そこの所、お前はどうなんだ?」
「……ああ、確かに悪魔に比べれば、天使と堕天使は可愛い位だろうな。だけどさ、お前、そこの言葉を堕天使に家族を殺されて奴に言えるのか。自分の子供を殺された親に、親を殺された子供に、ただ神器を持っていながらも家族と幸せに暮らしていた家族を全員を殺し笑っている奴らが、俺たちは心を入れ替えて生きていきます、だから手を取り合って生きて行きましょう!なんて言ってきて信用するか?その手を取るか?俺は無理だね」
『月の都』にはそんな奴らが沢山居る。確かに天使や堕天使、悪魔も少なからず住んでいるけど、それは自分たちを理解し、相手を尊重しているから一緒に暮らしていけているだけだ。
自分たちが悪いと理解せずに、いや、もしかしたらしているかもしれない。それでも死にたくないなんて我儘が通用するわけないだろ。
「お前は、
「全く、返す言葉もないぜ」
コカビエルの一件は、アザゼルにとっても思う所があったらしい。
「だが、何と言われようと俺は部下たちを守ってやらなくちゃいけねえ」
「それでいんじゃね、俺はその上で滅ぼすだけだ」
言葉は交わした。
そして、和解という道は閉ざされた。
なら、後は戦うのみ。
両者が構え、此処からが本番だと言わんばかりに空気は張り詰めるなかで入った横やり。
「空気くらい読めよ」
空中に展開された魔法陣から姿を現したのは黒色の長髪に、貴族風の衣装を着用した男。
「俺は真のアスモデウスの血を引く者クルゼレイ・アスモデウス!」
アスモデウスってことは旧魔王派の一人か。
「首謀者の一人がご登場ってわけだ」
「堕天使の総督よ、悪いが私の相手はお前ではない。そこに人間の小僧だ!」
わざわざ、俺の事を指さして名指ししてくる。
「俺?お前のことなんて知らないけど」
「真なる魔王派として、カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせてもらう。このオーフィスの力を利用することで、俺たちはこの世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を作り出す!」
手の平を見せつけるように前に突き出すと、手の平には二匹の蛇が互いの尾を噛み、∞のマークになった魔法陣が展開されている。
オーフィスの蛇つまりドーピングか。それって、ドーピングしないと自分は強くありません、って言ってるようなもんじゃん。
…はぁ~、折角、アザゼルといい感じに戦いが始まるって所だったのに出てきたのがこんなザコとかマジかよ
「良かったじゃねえか、神無月涼。名指しの指名だぜ」
いつの間にか『堕天龍の鎧』も解除され、元の短剣のような形に戻っている。
完全に戦う気なしか。
「うるせぇ。まあ、ついでだオーフィスの魔力も消しておくか」
クルゼレイに向かって右手を伸ばし、獣の腕から形を変化させる。
人差し指から小指までの四本の指は一体となり、親指は横に広がり、指の腹から歯が飛び出す。
その形状は、口いや“顎”と呼ぶべきものだ。
「『混沌獣・顎』」
右腕そのものが何かの生物になったように上顎と下顎が呼吸するかのように動く。
「また凄まじいものが出たな」
和平会談で涼が見せた、高熱のビームを発射した腕とは違う、そこにあるだけで捕食者という存在を感じさせるものだ。
「っく!化け物め!」
クルゼレイは、俺の腕を睨みつけてくる。
「これでも食らえ!
飛んできたのはただの魔力の弾。
狙いも甘い魔力弾の嵐を躱し、当たりそうなものは右腕の顎で食っていく。
「なぜだ!?なぜ、オーフィスの力を使っても勝てぬ!」
『混沌獣・顎』のモデルにしたのは、“フェンリル”、その特性は“捕食”。神話において軍神テュールの腕を食い、最後には、オーディンを噛み殺したと言われている。つまり、顎そのものがフェンリルの顎そのものであり、対象が何であっても捕食するのだ。ただ、食って、食って、食い尽くす。
右腕を振りかぶると『混沌獣・顎』は鰐の顎の如く上下に大きく広がり―――顎の奥の視認出来ない暗闇が全ての等しく飲み込み、クルゼレイという悪魔の欠片も残さず捕食した。
『混沌獣・顎』が閉じた場所には、最初からクルゼレイ・アスモデウスなど居なかったように、何も残ってはいない。
「マジかよ、旧悪魔が一撃か」
アザゼルは、クルゼレイが一撃で殺されて事を受け入れられなかった。
確かに、彼は、涼に比べれば弱い、だが、こうもあっさりと殺されるほど弱いわけではないが、結果は一撃。
仮にあそこに立っていたのが、自分だったら自分は生きているだろうか、そんな事を思わずにはいられなかった。
「これは出遅れてしまったようだね」
新しく描かれて魔法陣から姿を現したのは、魔王サーゼクス・ルシファーだ。
「来たのか、サーゼクス」
「ああ、アザゼル。クルゼレイ・アスモデスウの魔力が感知されたから魔王の役目を果たすべく来たんだが……」
「いま、食われたところだぜ」
そう言いながら、俺の事を見てくる、アザゼル。
「そのようだね。やあ、神無月涼君」
「ああ、サーゼクス・ルシファー」
形だけの挨拶を交わしそれ以上の会話は無かった。
「戦争以外の選択肢はないのかい」
「無理だろうよ、悪魔がいまから、人間と共存を選んでも、俺たちはそれを受け入れられない。今までにやってきたことのツケをまとめて払えるとは思えないだろ」
「確かに…君の言う通りかもしれない、三大勢力が他の神話勢力に協力を求めても、誰もが良い顔はしなかった」
魔王として外交の矢面になっているサーゼクス・ルシファーやセラフォルー・レヴィアタンはその兆候を目の当たりにしているのだろう。
日本神話は勿論、北欧は既に、俺と手を組み。
エジプトやインド、ギリシャなどはまだ答えを出してはいないが悪魔とはあまり友好とは言えない。
個々人で見れば多少はあるだろうが組織としては、悪魔に、三大勢力に手を貸そうとする組織は残念ながら無いに等しい。
「だが、それを受け入れるわけにもいかない」
空間に出現した「滅びの力」の魔力の弾は、クルゼレイとは比較にならない威力を「滅びの力」を宿した攻撃だ。
素早く左腕を盾の代わりとして撃ち込まれた魔力弾を防ぐと、魔力弾は腕に触れて瞬間、弾けて消えてなくなり、俺の腕に傷を与えることは出来なかった。
「流石にこれでは倒せないか」
「みたいだな」
いくら「滅びの力」と言ってのカンピオーネの魔術、呪術の無効化を突破するのは難しいらしい、いや権能が腕を覆っている時点で、鎧を身に纏っているようなものだ、その上から攻撃を与えてもダメージを与えるには程遠いか。
右腕を獣の腕に変えて戦う準備をすると。アザゼルの手の中にある『堕天龍の閃光槍』の柄頭に取り付けられたファーブニルの宝玉が反応するように輝く。
「お前、自身が姿を出すとはな、“
サーゼクスとアザゼルの視線の先には空中に腰を掛けるような体勢で浮かんでいる、オーフィスの姿があった。
@ @ @
「くそ!オーフィスの蛇を使ってもこれだけ差があるのか!」
ディオドラの魔力の弾をオレンジ色の六角形が無数に接続して生み出された魔力の盾で防ぎ、ディオドラはオーフィスの蛇を使った上でも魔力で作られてだけの盾を破る事が出来ないこと、つまり、グリューヌより自分は劣っているという現実を受け入れられず叫ぶ。
グリューヌは兄のファルビウムと同様に「絶対的な防御」の魔力を宿しているがその戦い方は大きく違っている。
ファルビウムは、受けた攻撃を魔力に変換して溜め込んだ魔力を一気に解放してカウンターを食らわせる、という絶対的な防御力にものを言わせた後手の攻撃。
対して、グリューヌは同じ「絶対的な防御」の魔力を持ちながらカウンターではなく、防御力と同時に攻撃力を求めた。
カウンターとはつまり、相手から攻撃されなくては攻撃出来ないということ。必ず攻撃が相手よりも後でなくては発動出来ない。それでは、相手が自分の防御を破る攻撃をしてきた時、自分が死亡することになる、現に、主である涼と手合わせした時には「絶対的な防御」の魔力は容易に破られた。
「防御が=盾だけだと思わないことです!」
「絶対的な防御」の魔力とは盾であり鎧にもなる魔力だ。
そこで、グリューヌは考えた。
人間の作った武器、銃の弾丸があれほど威力があるのは、弾は軽いが速いからだ。ならば、盾や鎧の硬質つまり硬度、硬さを持つ魔力の弾を弾丸の速度で撃ちだしたらどうなるか、と。
弾丸は、軽いが速い。
魔力の弾は、硬くて重くてそして速い。
グリューヌの周囲を漂い意思に従って弾となり放たれた卓球の球ほどの大きさの魔力の弾は、ディオドラの魔力を紙切れの様に貫通して背後の石の壁に穴をあけた。
「ば、バカな!」
「いうなれば、私の攻撃は鉄球を飛ばしているようなもの。手の平サイズの大きさにもなれば悪魔を殺すのに十分な威力を発揮する」
グリューヌの魔力で生まれた球体はその大きさを一回り肥大化させ、卓球の球のサイズからボーリングのボールほどの大きさに変わった、つまり大きさは重さに直結し、重さは威力になる、ということだ。
「この僕が、お前のような奴に負けるはずないんだよ!」
盾のように展開していた魔力を消し去り、すべての魔力を攻撃に変えた、ディオドラ。
「一つ良いことを教えてあげます……私は、貴方の事が昔から大っ嫌いだった」
「知るかそんなこと!」
ディオドラは死にたくない一心で、全身全霊の魔力をビームように発射し、グリューヌは指を動かすだけでボーリングの球ほどの魔力の塊を撃ち出した。
結果は分かりきっていたことだ。
グリューヌの魔力は速度と威力は勿論、それ自体が「絶対的な防御」の魔力だ。盾そのものが飛んでいくようなもの破壊するのは難しく威力も高い、食らいたくなければ避けるのが取るべき行動だった。
オレンジ色の魔力の塊を腹に打ち込まれ、石の柱に埋め込まれてオブジェクトなった、ディオドラ。
意識は微かにあるようだが、もはや戦うなどという選択肢は取れそうにない。
「つ、つえー!一撃であれかよ!」
「ええ、私が知っているグリューヌはあそこまで強くは無かったわ、ファルビウム・アスモデウス様同様にカウンターをメインとして戦い方だったのだけど、攻撃活用するだけでこれだけの威力があったなんて…」
「リアス。
石の柱から落ち、床に転がるディオドラを指さす。
「それは任せてもらっていいわ。それよりも小猫を何処に連れて行ったの!」
「それに関しては知らないという事しか出来ない、黒歌が彼女を説得すると言っていましたからどうなるかはわかりません」
「な!小猫が貴方達についていくなんてそんな事があるはずないでしょ!」
「それを決めるのは貴女ではなく、彼女ですよ。彼女の家族を引き裂いたのも元は悪魔です」
「…っく、それは…そうだけど」
「眷属を信じるのも王であり、眷属のよりよい未来を与えてあげるのも王だと思いますが。それよりも囚われている彼女を助けたらどうですか?」
玉座を改造した謎の装置に囚われていた、アーシアは一誠の
その時―――上空から降り注いだ光の柱。
アーシア本人も一誠たちも反応出来ない中で、その場にいた唯一人が迅速で動いていた。
アーシアと光の柱の間にドーム状に展開されたオレンジ色の魔力の障壁。
障壁が光を弾く。
周囲に弾かれた光が飛び散るが光の柱が収まると、頭を抑えたアーシアの無事な姿だった。
「何が!アーシア!無事かアーシア!」
突然の出来事に一同戸惑い、一誠はアーシアの名を叫びながら走って近寄る。
「大丈夫です、イッセーさん」
よかった、と言いながら障壁越しにアーシアの無事を確かめた一誠は膝をつく。
「グリューヌ…ありがと」
「これは古い友人への手向けです」
パチン、と指を鳴らすと障壁は解除された。
「そ、そんな馬鹿な……確かに協力すれば、アーシア・アルジェントを僕にくれると」
「そんなもの嘘に決まっているだろう、そうすればお前が言う通りに行動すると思ったからだ」
上空に展開された魔法陣から軽鎧に茶色の長髪の男が姿を現した。
「何者!?」
「忌々しき魔王の妹と弟もいるか。真の魔王ベルゼブブの正当なる後継者“シャルバ・ベルゼブブ”。グリューヌ・グラシャラボラスめ生きていたか」
「ええ、貴方たち程度に負けるなんて、我が主の顔に泥を塗ることになりますから。作戦でもなければ負けるわけないじゃありませんか」
「シャルバ!助けてくれ」
「しゃべるな、愚か者め」
アーシアにも使われた光の柱が身動きの取れない、ディオドラにも振り下ろされた。
悪魔に取って光はどれだけの鍛錬を積もうとも弱点だ。いくら強くオーフィスの蛇を使っているとしても数秒と耐えられない。
光の柱に飲まれた、ディオドラは叫び声と共に肉片も残らずの光の中に溶けていった。
「一応は部下でしょうに、躊躇なしですか」
「そもそも、真の血統が旧などと呼ばれること自体が間違っている、それに貴様の抹殺もまともに行いないような者、生かしておく価値もない」
あっさりと仲間を斬り捨て、自ら手を下すという行動に一誠たちは理解できなかった。
それほど、血が大事なのかと。
「さて、サーゼクスの妹君には死んでもらわねば、なにより、グリューヌ!貴様のような人間風情に付き従う純潔悪魔にもな!」
シャルバの身に纏うオーラが膨れ上がった。
アーシアを抱きしめている一誠やリアスたちはその強大さにたじろぐが、グリューヌだけは違った。
「人間風情というのは、我が主―――涼様のことですか?」
「当たり前だ!何が異世界の魔王だ!神殺しだ!人間風情が悪魔を滅ぼすだと?笑わせるな、人間は悪魔に使われるだけの家畜に過ぎん。これから始まる新世界には、あのような者も、人間も、お前のような偽物の悪魔も必要ない!」
「―――わかりました。もう喋らなくて結構ですよ」
その瞬間、宙に浮かんでいたシャルバは地面に押しつぶされた。
「がぁあああ!?」
シャルバの体は上からオレンジ色の魔力の障壁によって抑えつけられ、地面とサンドされている。
メキメキッ!と神殿の床に罅が入っていく。
「な、舐めるなぁあああああ!」
オレンジ色の障壁を打ち消し立ち上がった、シャルバ。
「血だ、血だとくだらない。魔王となりたいのなら、魔王らしい行いをすればいいものを」
グリューヌは、ディオドラにも使ったボーリングの球の大きさの魔力の塊を四つ作り出し撃ち出された。
「っく!この程度!」
シャルバは手から光の柱を撃ち、迫りくるオレンジ色の魔力の塊を狙っていくが光が魔力の塊を飲み込んでも魔力の塊は進み続け、グリューヌが敵と指定した、シャルバを狙い続ける。
「がぁあ!ぐぅう!」
シャルバの体はくの字に曲がり、ドゴン、という鈍器が振り下ろされたような鈍い音が響く。
「馬鹿な……なぜ、貴様ごときに真なる魔王の血筋である、私が!」
「そんな分かりきったことを。それは、貴方が弱いからですよ。ただそれだけ」
その言葉は、シャルバの怒りを一瞬で頂点に至らせた。
シャルバは右手の中に光の力を集め始めた。
「嬲り殺しにしてやろうと思っていたが、貴様など一片も残さずに消し飛ばしてくれる!」
集められて光の力が、グリューヌに向かって放たれた。
「悪魔である以上、光の力には耐えられない!」
完全に勝った気でいる、シャルバの予想に反して、グリューヌは極太の光の力を「絶対的な防御」の魔力で作った障壁ですべての光を吸収して魔力に変換していく。
「な!光を全て吸収しているだと!」
「我が主を貶す者が存在する価値などありません」
光の力を魔力に変換して手に入れて魔力の全てをビームのようにして放った。
光の力に全力を出したシャルバに迫りくる魔力のビームを防ぐ手立てはなかった。
「私が、真なる魔王たるこの私がぁああああああ!!」
その言葉も全てが飲み込まれて消えていった。
「さて、本来なら足止めだけのはずでしたが、まあいいでしょう」
パン、パン、と執事服についた砂埃を払い落としながら耳元に、黒歌相手に通信用の魔法陣を展開して会話をしている。
「……そうですか、分かりました。リアス、塔城 小猫いえ、白音と呼ぶべきでしょう。彼女は黒歌と共に生きて行くそうです」
「そんな、ありえないわ!」
グリューヌの言葉を、リアスは受け入れられなかった。
確かに、彼女が姉の黒歌と別れる原因を作ったのは悪魔だ、だが、彼女は自分の元で心の傷は癒えた。
「言ったはずです、眷属のよりよい未来を良き王ならば選ばせてあげるべきだと。では、私も行かせていただきましょう、ごきげんよう」
一礼して、グリューヌは魔法陣の中に消えていった。