ようやくIアイランドでの騒動も終わりました。
本当は2~3話くらいで収めようと思っていたのにこんなに長くなるなんて思ってませんでした。
次回はこの騒動のまとめで短いのを一話書いて、その次から林間学校編に突入します。
ようやくラストスパートです。
ジャイロがサウンドマンを追うために離れてからもジョニィは一切の油断をしていなかった。車椅子に座って、爪弾が回転している人差し指を拳銃のように突き付けていた。
まさしく1センチほどしかない超至近距離で突き付けられているため何度か黒霧の実体部分を掠めて、その度に苦悶の声が漏れていた。
「……もう少し離していただいてもいいのでは? さっきから貴方の爪が私の身体を削っている……」
「身体が無くなる前に決着がつくのを黙って祈ってろ」
黒霧が若干辛そうに言うものの、能面のように表情を変えず切り捨てられる。しかしその瞳に宿った『漆黒の意思』の炎はより一層のことメラメラと燃え上がっている。あの眼だ。黒霧は数日前に出会ったある殺人鬼のことを思い出していた。
『ヒーロー殺し ステイン』 あの男が隠れ家にやってきて、自分たちのことを粛正すべき者と見限ったときに一度とはいえ向けられた
しかし、このまま捕まるわけにもいかないことは事実だ。
黒霧は静かに、決着がつくまでに脱出する方法を模索し始めていた。
静かになったな。
さっきまで爪弾が掠るたびに何かしらの声を出していた黒霧が大人しくなった。諦めた…わけはない。きっとこの場を切り抜ける策を考えているんだろう。
相手は自分のような学生よりも経験が豊富な
このときジョニィは、ミスを犯した。
ヒーローを目指す者としてだけではなく、戦いの中に身を置く者として重大なミスに気が付けなかった。
いま彼の目の前には、
だから絶対に油断などしてはいけない状況だった。
もし原因があるならば、それは職場体験の時に生き残ったことだった。
重傷を負い、再起不能にまで追い込まれたものの彼らは生き延びた。そしていまジョニィは失った両腕も取り戻して、課せられた試練も達成しようとしている。
これらは全て様々な偶然や幸運が重なった結果だと、ジョニィ本人も自覚している
(ジャイロは大丈夫だろうか……。前回とは違ってサウンドマンの能力を把握しているから、一方的にやられることはないだろうが)
しかし無意識の部分では、『まあ、なんとかなるだろう』という過信があった。
ーーーーそしてその無意識からくる油断が最悪のタイミングで表に浮上してきた。
グワッシャアアアアアアアッッ
巨大な破壊音が響いた。ジャイロ・ツェペリの鉄球がサウンドマンに命中して決着がついた。
その一瞬を、ずっと気を張り続けていた黒霧はその一瞬のチャンスを逃さなかった。
ずっと背後から
すぐにジョニィが爪弾を撃つも、『一手』遅れた弾道は黒いもやの中を通り抜けてしまう。
「ぬぅゥゥゥーッ!!」
普段は絶対にしないような急な動きで脱出した黒霧は、前もって考えておいた反撃へと転じる。
ずっと頭の中でイメージしていたものと、チラリと見たジョニィの正確な位置の情報が合わさった瞬間、ジョニィの手元と背後に手のひらサイズの小さなワープゲートが作成された。
「……少しヒヤッとしましたが、形勢逆転です。おっと! 撃たない方がいいですよ。
わかるとは思いますが、君の指はその背にピッタリとくっついている。もし回転させれば、背中がきれいな円形にえぐられることでしょう」
悠々とした態度でちょうどさっきとは逆に自分が後ろを取った。意趣返しも兼ねて拘束されたジョニィの顔は自分の油断と、同じように拘束されたことへの屈辱がありありと浮かんでいた。何も言い返してこないのは強がっているからだろうが、逆に黒霧の気持ちをスカッとさせていた。
危機を脱して仕返しも済んだ黒霧は、ふぅと一息ついて先程の音がした方へと振り向く。いまの衝撃音からして二人が激突したのは間違いない。問題はどっちが勝っているのかだがーーーー
これからのことを思案する黒霧は気が付かなかった。
ジョニィの瞳が、また燃え始めていた。
ここに来る少し前。
ジャイロが買ったっていう土地の決済を僕が代わりにしていた時のことだ。
(これでだいぶ金は減ったが、まだ3千万円もある。あの場所で交換したものは全て使い切らなくてはならないってのに、いったいどうやって全部使い切るんだ?)
すべ、て・・・?
『あなたが落としたのは……こっちの紙束? それとも左の紙、腕時計も超ブランド物のヤツ? それともこの古い方?』
『オレが落としたのは配られてた
そうだ・・・あの場所で手に入れたのは"宝石"や"金"だけじゃない・・・
『おまえの鞄もひっくり返せ!』
『あっ、なにすんだよ!』
あのとき! シュガー・マウンテンが拾って交換したのはッ!
『この、「人間の手」ですか?』
それに気が付いてしまった彼の目は、震えてスマホを落とした自分の両手に注がれていた。
あれだけ騒がしかった周囲の音が遠ざかり、自分の心音が早まっていく音が大きくなっていく。
ジャイロ! 振り向いて見上げた顔は、一切笑っておらず厳しさすら感じるものだった。それが自分の悪い予感を肯定するものだとわかると、顔が一気に青ざめるのを実感した。
その厳しい顔のまま今にも絶望しそうな青年に顔を近づけて、この島に二人が来た時空港でホット・パンツが言っていたことを思い出せと諭した。
『私の「個性」は「肉スプレー」であって、それ以上でも以下でもない。
あくまで君たちの手足を「治す」のは私の個性による副産物だ。それを誤解するな』
そうだ、直すのはあくまで『ホット・パンツ』だった。
そして、これはその治療を受けるにふさわしいかの試練だ。
ーーーーしかしいったいどうやって!?
「ジャイロッ!! いったいどうすれば!!」
「ああ わかっているぜ、この性根の悪い試練のことはな。だがそれを外で、しかも大声で叫ぶんじゃねえぞ。見張られてんだからよ」
ジャイロの言う通り、僕らが余計な事を口走らないように今もどこからか監視されているだろうことは予想できた。しかしそれにしても、ジャイロは落ち着きすぎていた。その理由を聞いたら。
「……オレの
「造作もって……でもただ切り捨てるだけじゃ駄目じゃないの?」
「それは……まあなんか思いつくさ」
「あのなあぁぁぁ~~!」
結局そのあと、どうやって『使い切る』のかいいアイデアは出なかった。
「なるほどな……」
ジョニィがぽつりと言ったことに、黒霧が怪訝な目を向けた。状況は変わっていないが、ジョニィの表情から悔しさが消えて黒霧をにらんでいた。
正直に言うと雄英高校に通い始めた数日は聞いていて「ああ、自分は雄英にいるんだな」という満足感があった。やる気が出たし、本当にいい言葉だと今でも思っている。
しかし慣れてくると、他にレパートリーはないのか?って気持ちも出てきてありがたみも薄れてくる気がした。
「この状況ならーーーいいや、こんな状況だからこそありがたく思える。
わからないか? 僕にとってお前は『受難』なんだ。テストや成績なんかメじゃないくらい乗り越え甲斐のある壁だ」
言い終わるとほぼ同時に
「
ドンッ
背後から自分の爪弾を食らったジョニィの胸に風穴があき、衝撃でジョニィの身体がわずかに跳ねて血が黒霧の服に散った。
さっきまでの抵抗が嘘のようにあっさりと自分の命を絶つ行動に、それまで静かに揺らいでいた黒い霧がブレた。
あっけなさすぎる。諦めが早すぎる。ただの高校生のガキがこうも簡単に自分の命を差し出すなんて。うろたえた黒霧の脳裏に過ったのは、いつも不機嫌で不安定な
しかしそれをすぐに否定する。違う。彼は、死柄木弔とこのガキは違う。ヴィランとヒーロー志望、その根本が違うのだ。
ではこの異常性はなんだ?いまも貫かれた穴からどくどくと血が流れているこの様を。流れる血が車椅子を伝っていく様子を見ようとした黒霧の目には、汚れていない倉庫の床が映った。
「は・・・?」
呆けた声を出した黒霧の視界の外で、爪弾の作った『穴』は静かに移動していた。
それが近づくにつれてジョニィの顔色も悪くなってく。しかしその眼に込められた『覚悟』の色は力強く鮮やかさを増していった。
「まさかッ!」黒霧が気づいたがもう遅い。『穴』は、拘束されたジョニィの手首で止まった。
ブッシャアアアアアアアアアッ
「がああああーーーーッ!! ハァーッ ハァーッ 」
手首で炸裂した
回転など意識する余裕はない。とにかく後ろの敵から離れるために、動く上半身を勢いよく前に倒した。金属の床に体中が痛めつけられて目の前に火花が散ったものの、ジョニィは距離を取った。
肉、血、骨、皮膚、自身の中に意図せずして入り込んできた大量の異物。胃の中のものを吐き戻すように外に出せたらどんなに良かったか。経験したことのない圧倒的な不快感に、冷静さなど保っていられない。目の前の車椅子をなぎ倒して苛立ちを露わにする。
「な、なんてガキだ・・・。
「ハァーッ ハァーッ ハァー・・・そうだ。逃れるために『使い切ってやったぞ!!』」
芋虫のように地面に這ってわけのわからない事を言うジョニィには目もくれず、黒霧はとにかくこの不快感をなんとかしなくてはと躍起になっていた。
ドグシャアアアアアアアアア
しかし、まるで
「くそっ・・・!! よくもやりやがったなジャイロ・ツェペリ!」
「サウンドマン!? まさかあなたが!」
吹っ飛んできたのはサウンドマンだった。ボロボロで、そこかしこが血濡れの状態だ。更にその胸で回り続けている鉄球が、誰にやられたかを雄弁に語っていた。
「ゲートだ黒霧ッ! 撤退だ、急げ!!」
撤退!? こんな屈辱を味あわされて撤退するだと!? 即座に否定しようとした黒霧は、しかしその脳裏にかつての雄英襲撃事件の光景が過った。
計画がうまくいかず、ヒーローたちに煮え湯を飲まされた死柄木弔が、こちらの撤退の意思をすぐに
「・・・!! この借りは、必ず返させていただきますよ!」
いまだ床の上に這いつくばっているジョニィを睨みつけながら苦々しく言った黒霧は来た時よりも荒々しくゲートを開き、それが閉じるまでジョニィから目を離さなかった。
まさしく嵐が去ったあとの静けさが漂っていた。
今は、もう日没後なのか? さっきのはジャイロの鉄球だ、無事だったんだな。
全て使い切れという試練は、間違いなく達成したはずだ。
しかし、自分の手を元に戻す代わりに僕が得たのは二度目の敗北だった。まるであの時の焼き直し。
マイナスが、マイナスになっただけ。全く変わらない。
疲労に押しつぶされるように体が重くなる。悔しさに泣き叫ぶのも億劫になった。
まるで他人事のように血がどくどくと流れ出る手首を見やり、気怠さに沈むように静かに目を閉じた。
ジョニィ・ジョースター
両手首欠損に加え出血多量、意識不明の重体。
二度の大敗による精神力の低下。
再起不能
ジャイロ・ツェペリ
リベンジマッチに勝利するも右腕部と左脚部欠損。
再起可能
黒霧
目立った外傷なし。
体内に異物をとりこみ不安定な精神状態になるも、除去は可能。
再起可能
サウンドマン
リベンジマッチで敗北するも、僅かに安堵の色を浮かべる。
再起可能