革命軍記章デザイン闘争事件   作:kuraisu

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ちょっと私生活忙しくて、小説全然書けてなかったから、リハビリ感覚で書いたので、いろいろ拙いところあると思います。

イゼルローン共和政府は、皇帝ラインハルトを崇拝の対象としない異端者たちの、民主主義の楽園。
で、あるからこそ、いろんな思想の変人がいてほしいと私は思っています


革命軍記章デザイン闘争事件

「イゼルローン共和政府は一年に満たぬ短期間しか存在しなかった。しかしそれでも短い期間の間に様々な事件が起こり、構成員達は目まぐるしくも濃密な時間を過ごした。そんな彼らに一番大騒動になった事件はなんであったかと問えば、おそらく全員が一致した見解を持つであろうと思う。そしておそらくは、もっとも馬鹿馬鹿しい事件はなんだったかでも、皆が揃って同じ騒動の名をあげるであろう」

 

 ダスティ・アッテンボローは自身の回顧録において“革命軍記章デザイン闘争事件”をそのように評価した。後世の人間はもとより当時の人間からしても、ひどくバカバカしく、拍子抜けするような内容の事件でしかないのだが、その騒ぎが闘争レベルにまで発展したというのは、にわかには信じがたく、ヤン・ウェンリー元帥の死後もイゼルローンにとどまり共和主義の旗を掲げ続けた彼らの異端者ぶりを端的に表現しているのかもしれない。

 

 騒動の発端は、共和政府主席フレデリカ・グリーンヒル・ヤンにとある進言がされたことにであった。

 

「軍の記章を、エル・ファシル革命予備軍の頃と変えてほしいってどうしてですかアンドレさん?」

「どういうこともなにも、あれはエル・ファシル独立政府が規定した記章でして。すでに帝国への降伏交渉に入っている独立政府の方々からしたら、まだ自分たちが革命運動に参加しているのではないかと帝国に誤解されるのではないかという不安からの要請ではありませんかな」

 

 アンドレと呼ばれた男は、頭髪が一切ないほど綺麗に禿げ上がっており、ちょっと似合わないくらいに大きめの丸メガネをかけ、いつも眉間にシワがよっていて険しいオーラを醸し出しているという、とても個性的な頭部をしていた。多くの者は、彼を見て、非常に気難しい人間なのだろうという第一印象を持つことだろうし、事実としてそれなりに気難しい人間であった。

 

 彼はイゼルローン共和政府に参加した有力人士としては珍しく、革命運動から離脱しなかったエル・ファシル独立政府の有力文民政治家であった。いや、その表現はいささか正確性を欠く。正しくはロムスキーが率いたエル・ファシルの与党である自由独立党の政策立案審議会長という重要ポストで、エル・ファシルの“理想的で潔癖な民主主義社会構築のための政策”の多くを手がかけ、ロムスキーの政権運営を支えた政策屋であった。

 

 そんな彼はロムスキーの死後、なし崩し的に解散ムードになったエル・ファシルの独立政府に見切りをつけ、志を同じくした党の仲間たち数十名を連れてイゼルローンに身を寄せたのであった。その実績と経歴からイゼルローン共和政府でも厚遇され、主席顧問として主に内政方面で活躍し、後世の歴史家達からは“イゼルローン共和政府における事実上の内政局長”であったと評されている。

 

 なぜ“事実上”という形容詞がつくことになったのか。そこを疑問に思う人も少なくないであろうから解説すると、本当は内政局長のポストを提示されたのだが、彼が拒否したからである。なぜ拒否したのか? それは彼がロムスキーに負けず劣らずの理想家で、原理的な民主主義の信奉者であったからであった。

 

 そもそも彼はフレデリカが革命運動の顔役である主席になったことに納得していなかった。かつての革命運動の顔役であったロムスキーが卑劣な暗殺で倒れた以上、その側近であった自分の役目であるべきだろうという意識が少なからずあった上、フレデリカの主席就任が、本人の能力や人望とかではなく、ヤン元帥の妻であったという七光りに由来していることが丸わかりであったからだ。そして死んだヤン元帥に対する扱いには、もっと納得していなかった。

 

 なるほど、たしかにヤン・ウェンリーは民主主義最大の擁護者であった。だが、所詮は軍人ではないか。実際にロムスキー主席のように民主主義的な政府を運営したりしていたわけではない。なのにロムスキーが忘却の彼方にでもいってしまったのかというほど無視されており、翻ってヤン元帥はというと国父アーレ・ハイネセンと並んで大きな肖像画を掲げるほど持ち上られている。とても納得できることではない。それならそこにロムスキーの肖像画も加えるべきであるし、それ以前の問題として、国父以外の肖像画を民主主義のシンボルとして掲げることそのものが、個人崇拝的で許容しがたいことである。

 

 そうした信条から、彼は正式な形でイゼルローン共和政府の要人として参加するのを嫌がったのである。とはいえ、エル・ファシル独立政府が瓦解した今、イゼルローン共和政府が彼が尊敬したロムスキーの唯一の政治的遺産であるし、民衆の心に訴えかけるにあたってロムスキーよりヤン元帥の方が良いという理屈に納得できなくても理解できないほど頑迷というわけでもなかったので、ロムスキーの死が無駄にならないためにも私的な顧問として協力してやろうと妥協したのであった。

 

 こんな面倒な背景のある人物であり、内部的には色々と面倒な火種であったかもしれないが、イゼルローン共和政府が発足から一年程度でその役目を終えたため、幸運にも大きな問題は特に起こさなかったこともあって、彼はその経歴と素行より名前によって後世の人々に強い印象を残した。アンドレックス・アンドレムス・アンドレェイディエスという名前で、ファースト・セカンド・ファミリー、すべての名前が全部似ているのである。

 

 そのため、様々な文献資料で名前の誤記が多発しており、歴史研究の専門家の中も正確な名前を覚えるのに非常に苦労すると語るほど。というか、当時直接接していた人間でさえ彼の名前を正確に覚えている者が非常に少なかったらしく、ファーストネームやファミリーネームより、もっぱら愛称の“アンドレ”で呼びかけており、それしか覚えていない者が圧倒的多数派であったらしいが。

 

「……エル・ファシル独立政府の動きはとてもはやいのね」

「ええ、ロムスキー主席や私の政策が裏目にでてしまったのでしょうね」

 

 フレデリカの若干失望したような色のある発言に、アンドレは肩を落としてそう言い、続けた。

 

「自分を批判してくれる人たちの権利と自由を守るために総力を尽くす。それこそが民主主義の理想であり真髄なのである。それがロムスキー主席の信条でありました。そのため、独立そのものを批判する者達も、犯罪でも起こさぬ限りは政治的活動を自由にさせていましたから、政策転換がはやかったのでしょう」

「そうだったのですか?」

「ええ、過激派の連中があんな反革命分子は拘束すべきだと叫んでも、ロムスキー主席は決して首を縦に振らず、むしろ過激派の暴挙を抑えようと色々手を尽くしていました。民主主義における最高主権者は民衆であり、民衆多数が独立と自分を支持してくれているからやっていけてるが、そうでなくなった時、代わって民意を実現していく者達がいなくてどうするのか。民衆多数から支持されない政権運営などやっていける自信はないし、民主主義者としてすべきでもない。それがロムスキー主席の信念でした。ほんと立派な方でした。……そんな人が第三者の暗殺で現実から退場させられ、その理想が粉砕されるなど、あってはならないんですよ、本来ならば」

 

 郷愁じみた回顧を語り、地球教への怒りをうかがわせる発言をするアンドレの姿を見て、フレデリカは鏡を見ているような感覚にとらわれていた。アンドレは自分たちがあの人に対して抱いていた思いと同じようなものを、死んだロムスキーに向けているのであろう。だからこそ、現実的にみて仕方ないとは思いつつも、ロムスキーの軽視や自分たちが死んだヤン元帥を持ち上げることに不満を禁じ得ないに違いなかった。

 

 それだけに信頼できるとフレデリカは思ったし、少々のことは任せても大丈夫だろうと感じた。だから革命軍の記章を新たに制定することについてアンドレに一任してしまうことにした。この案件を処理にするにあたって、アンドレは考えた。自分は内政屋としてはともかく、芸術方面にかんする知識はからっきしである。ここはその種の専門家を探し出してやらせるべきだろう。

 

 そうしてアンドレはイゼルローン要塞内にいる民間人の中で、漫画家をやっているゲロ・カンキチに革命軍の記章作成を依頼した。ゲロは突然自分に飛び込んできた、ひょっとしたら歴史に残るかもしれないデザイン考案依頼に、驚愕すると同時に、自身に湧き上がってくる高揚感を自覚したという。

 

 ゲロはイゼルローン要塞に居残っているだけあって熱烈な民主主義者である――などということはなかった。同盟時代から多彩なジャンルの短編漫画執筆を得意とする速筆漫画家として有名ではあったが、あまりにも作風にこだわらない姿勢でも有名だった漫画家で、政治思想に関しても無関心というか、ひどく定見を欠いていた。ゲロ本人の言葉を借りるのであれば「浮気性なのだ」ということになる。

 

 憂国騎士団を英雄視する漫画を描いたかと思えば、次には反戦運動家を持ち上げる漫画を描く。どんな命令にも忠実な軍人像こそ理想であるという雰囲気の戦争漫画を描いたかと思えば、自由気ままに敵と上官の思い通りにならない軍人を理想とする漫画を描く。ルドルフが現代に蘇って同盟を帝国化してハッピーエンドという問題作を発表した一週間後には、いくつかの数奇な運命で帝国に亡命することになった同盟人たちが貴族領主と親友になって彼らを民主主義の道に導いて銀河連邦復活という作品を発表する。それくらいとりとめがなかった。

 

 そんなゲロが革命運動なんかに参加している理由は、エル・ファシルの独立騒ぎがおもしろそうだったという野次馬根性で現地に訪れ、数日して故郷に帰るつもりであったのだが、一緒に同行していた息子が革命の熱にあてられて革命軍に志願し、息子を見捨てられずにしかたなく居残って自分も参加したというものであった。

 

 そうした経緯のために、ゲロは息子を連れて革命運動から離脱できる機会はないかと常々伺っていた。だから、主席ロムスキーや革命予備軍司令官ヤンが暗殺され、エル・ファシル独立政府が解散するということになった時、これで馬鹿息子も革命病から冷めるだろうと思い、革命運動の終了を祝って高級酒を開け、祝福ムードを全身で表現しながら息子の無駄な苦労を慰めようとしたのだが、なぜか強烈に反発されて、そのままイゼルローン共和政府に参加することを意固地に決意されてしまった。だからゲロは「どうしてこうなった!」と地団駄を踏みながら、息子にふりまわされる形でイゼルローン要塞まで同行するハメになったというわけである。

 

 そんなわけでゲロは革命運動が愛する息子を危険な目にあわせているのだと良い感情を持ってはいないのだが、それ以上に激しい気分屋であって、日によってはすごく真剣な革命漫画家のようでエル・ファシル独立政府やイゼルローン革命政府を褒め称える作品を作ることもあったし、息子が武勲をあげた時などは、それはもうハイテンションで息子を連れ回してまわりの人間に自慢しまくったりするなど、芸術活動以外への情熱が本当に安定しない人間であった。

 

 仕事の依頼を受けたゲロは、やはり当事者の意見を聞くのがなにより大事だと思い、革命軍司令部を訪ね、ユリアン・ミンツ中尉と会談した。ゲロから事情を聞いて、新しく軍の記章をデザインしなくてはいけない必要性は理解したものの、そうした事柄にあまり関心がなかったユリアンとしては、なんともコメントのしようがない。

 

「僕みたいな若輩より、将官のほうが良い意見をだせるんじゃないでしょうか」

 

 そう言ってユリアンは逃げの手をうったが、ゲロの方はたしかに少年司令官より大人である将官方のほうが、芸術方面への造詣が深かろうと納得した。そしてイゼルローンに残っている将官の姿をゲロは脳裏に浮かべた。キャゼルヌ中将、メルカッツ上級大将、アッテンボロー中将、シェーンコップ中将……。

 

 キャゼルヌは優秀な軍官僚だが、それだけのユーモア精神の欠けらもあるまい。メルカッツは無骨な軍人であることに加え、元々帝国軍の高級将校だから仮にそっち方面の才があっても望ましくないだろう。そしてアッテンボローはなんか偉そうに革命論について話しているのを聞いたことがあるが、あまり芸術性的なものを感じられなかった。所詮、まだまだ孺子(こぞう)ということだ。ならば消去法で意見を聞くべきはシェーンコップ中将であろう。偏見かもしれないが、芸術への理解がなくてはおもしろい話などできまいし、おもしろい話ができなければ女性にモテないだろうし。

 

 そしてゲロは参考意見を聞く相手を決めたわけだが、聞かれた方のシェーンコップにしては珍しく鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。どう考えても自分のとこに持ち込まれるような案件じゃないだろうが、と、思わずにはいられなかったのである。しかしながら、一応、まともに考えはして、自分が率いていた薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)の記章から連想して、意見を言った。

 

「……花ってのはどうだ?」

「花って薔薇ですか?」

「別に薔薇にしろってわけじゃないが、花の記章を軍の象徴にするのは悪くないんじゃないかと思ってな。風情があって」

「なるほど、それで、どんな花をモチーフにするのが良いと思います?」

 

 そう言われてシェーンコップはまた考え込んだ。民主主義の旗を掲げている軍隊なのだから、“自由”という花言葉があるのがいいだろうとは思う。その意味の花言葉を持つクフェア、ラークスパー、ロックフォイルなどはどうも軍隊を象徴するエンブレムとしてはあまりに似つかわしくないように思えるのだった。

 

 そこへいかなる用件によるものかポプラン中佐が司令部に入室してきた。シェーンコップはちょうど良いタイミングだと思い、相手の案件を聞く前に、ポプランに新しい軍の記章への意見を聞いてみることにした。するとポプランはしたり顔で言い出した。

 

「じゃあ、俺の顔をモチーフにすればいいんだ。本当はヤン元帥の顔と言いたいんだが、ちょっとモデルとしていまいちだからな、代わりにこの俺を、さ」

「ほう、ヤン元帥に遠慮する姿勢を一応見せる慎み深さがお前さんにあるとは知らなかったが、お前さんの顔をイゼルローン革命軍の記章にするのは悪くない意見かもしれんな」

「へぇ、どうしてです?」

 

 絶対反発されることを想定した意見であったのに、シェーンコップが何度か頷きながら肯定的に受け取ったので意外に思って尋ねた。

 

「いやな。帝国の装甲擲弾兵どもからすれば、敵兵を一人屠るたびに生意気そうな伊達男の顔をぶった斬れるということになるわけで、とてもおもしろそうなことになりそうだと思ってな。どうだ、ゲロ、ポプランの意見で決定でいいんじゃないか」

 

 げっ、という声を出してポプランはゲロに自身の意見を採用しないよう懇願し、事実上撤回した。軍の記章ということになれば、当然、自分たちの軍服のワッペンにもそれをつけることになるということを失念していたのである。女性兵士の軍服に自分の顔がモチーフのワッペンがつくのは喜ばしいが、野郎どもにたいしてもそうされるなど気持ち悪い悪夢である。

 

 気を取り直してポプランは他の意見ってどんなのがあるんだと尋ねて、シェーンコップの案を聞いた。いかついオッサンが花をモチーフに記章を考えているなんて、ちょっと笑い出したくなってくるが、悪くない意見であるようにポプランも思えた。とっさに思いついたのは古代フランスのフール・ド・リスであるが、元々は王家の紋章みたいなものだったという話を聞いたことがあるのを思い出してないなと思い、なにかそれらしい花がないかと再び頭を悩ませる。

 

 悩んでいる最中に花がよく女性を指す言葉としても使われているというほうに思考が流れ、ポプランの頭脳に素早い電流が走った。そうこのイゼルローンには男性比率が高い。彼らの騎士道精神を刺激するために、イゼルローンで一番の美女の肖像を記章に盛り込むというのはどうだろうか。考えてみれば画期的なアイデアではなかろうか。

 

「趣旨はわからないでもないけど、イゼルローンで一番の美女ってだれになるんだ」

「そりゃあ、我らが麗しの主席になるに決まってるだろ」

「……異論の余地はなさそうだが、その場合、さっきの問題が今度はヤン夫人に降りかかることになるぞ。第一、ヤン夫人が承認するものかね」

「そこはそうなってはならぬと兵士たちが奮い立ち、士気高揚につながると考えましょうや。そしてヤン夫人の許可についてだが、それについて説得するのは俺たちじゃなくて、ここの漫画家様なわけだ」

 

 その言い草にゲロは眉をひそめた。シェーンコップはというと、もう面倒臭くなってきたので、ポプランの意見でいいんじゃないかと言って我関せずの姿勢をとって逃げた。ポプランは自分の意見で決まりだと得意げだったが、ゲロからしたらたまったものではない。なんだって絶望的な革命運動の政治的指導者相手に、自分が「ちょっと顔を使わせろ」なんて言わなくてはならないなんて、勘弁願いたいところである。

 

 ポプランに引きずられる形で(実際にはそんなことなかったが、精神的な意味では絶対ひきずられているとゲロは思った)主席執務室へと向かいながらなんとか方向転換はできないものかとあれこれ考えていると、たまたまアッテンボロー中将の姿が目に入り、遮二無二ポプランを振り切り、彼にも意見を聞くという体面で巻き込むことを決心した。ユーモアのなんたるかも理解せぬ馬鹿野郎といえど、革命とやらの原則にはそれなりに忠実な彼であれば、政治的指導者を軍の記章にしようとする案には反対するに違いない。

 

 そして案の定、アッテンボローはなかば怒り、なかば呆れた調子でポプランに向き直って言った。

 

「ヤン夫人を軍の記章にしようだなんて、下手したら英雄崇拝になるだろうが。アーレ・ハイネセンとヤン・ウェンリーの肖像画を掲げる場所を総会議場と中央委員会と主席執務室、それと革命軍司令部の四ヶ所だけに限ると限定したのが何のためだったのか忘れたのか」

 

 そう言われてポプランは自己の不明を悟り、残念そうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに指を鳴らしてその問題を解決するナイスアイディアを思いついた喜色に満ちた顔色になった。

 

「それならイゼルローン要塞を擬人化した美女キャラクターを作成してそいつをモチーフに革命軍の記章をですな――」

「おまえはいったいどんな革命軍にするつもりなんだ?! 発想が女だけか!!」

 

 アッテンボローが思わず大声をあげてツッコミを入れ、まわりにいた革命軍の将兵たちも「なにごとだ」と近寄ってきて、なにやら自分たちの軍隊を象徴する記章のデザインについて話し合われているらしいことを把握した。そして、どういうわけか、その情報が凄まじい速度でもってイゼルローン要塞中に伝播したのである。

 

 すると革命軍の将兵らは乏しい想像の翼をはためかせ、思い思いに“民主主義的で革命的な軍の記章”をデザインし、僚友たちと激論を戦わせ始めたのである。ひょっとしたら、こうなったのは時期的な要因も大きかったかもしれない。帝国軍がイゼルローン回廊から姿を消し、フェザーンに遷都して本格的に人類統一社会の秩序づくりに着手した以上、ほとんどの者が今後しばらくは戦う機会はないと考え、練度管理や未来の方針にも気に使わなくてはならない高級将校はともかく、それ以外の者たちは若干暇を持て余し気味で、自分たちの軍の記章デザインを考えるのは格好の暇つぶしになりえたのである。

 

 またもう少し深堀りすれば、まだ多くの者たちがヤン・ウェンリーの死の衝撃から完全に立ち直れているわけではなく、その喪失感に苦しんでいたから、それを少しでも埋め合わせできるような馬鹿騒ぎの種をどこかで欲していたのかもしれない、という考察も可能であろう。ともかくもデザイン論争は大いに盛り上がった。

 

 それはそれでけっこうなことであったかもしれないが、それが論争に止まらず、口でなく拳が出ての殴りあいにまで加熱し、怪我人が続出するところまでいってしまったのだから、大問題であった。もはや収拾がつかなくる直前で、ある将校が叫んだ。

 

「こうなったらミンツ司令官の判断を仰ごうじゃないか、俺たちの新最高司令官閣下に!」

 

 その叫びに、多くの将兵が賛同した。正直なところ、多くの将兵が自分たちの新しい年少の司令官の力量を疑問視していて、この難題をうまく捌けるのかどうか疑わしく、もし捌けるのであれば人を率いる才覚をある程度認めてやろうと無理難題を承知で問いかけてみたくなったのである。

 

 だが、急にそんな立場におかされたユリアンからしたらたまったものではない。芸術方面にはあまり理解がないがためにゲロからの質問をうまくいなしたというのに、いなした問題が恐ろしく面倒なことになって自分のところに戻ってきたのである。しかも自分の司令官として、人の上に立つ才覚もあるかどうか疑う視線が詰め寄る将兵らから察することができただけに、「なんでもいいのではないか」などとはいえそうにもない空気だった。

 

「……それで、実際にデザインを作るゲロさんはどこにいるんですか。実際に描く彼の意見を一番聞きたいんですけど」

 

 詰め寄る群衆の中に肝心のゲロの姿が見えないことに気づいたユリアンがそう問いかけると、全員が首を傾げた。そういえば、この件に関する決定権保持者はどこに消えたのだと今更思ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変に奇を衒っても仕方ないですし、同盟軍の記章にイゼルローン要塞とトールハンマーの稲光を盛り込んだものでいいんじゃないですか?」

「なるほど、こんな感じか」

 

 ゲロが紙に簡単にそれぞれの配置を記したラフ画を描いて、その男に見せた。

 

「ええ、そんな感じです」

「よしわかった。じゃあ、この方向で磨きをかけてアンドレさんに提出する。ありがとうリンツ大佐」

 

 要塞中の騒動を他所に、第一四代薔薇の騎士連隊長の意見を採用してゲロがデザインを作り上げ、すでにアンドレを通して軍政局長キャゼルヌの承認も得て決定済みである。その事実を知ったユリアン以下、おおくの革命軍将兵はこれなんのための騒ぎだったのかという呆然とした。

 




>アンドレックス・アンドレムス・アンドレェイディエス
いくらエル・ファシル政府の首脳部が革命運動から脱落したといっても、文民全員が脱落したわけではなかろう
そんな着想から、出来上がったキャラクター。ロムスキーのシンパ的な理想家肌の政治家としてデザインした。
名前はスターリン時代のソ連のお偉いさんの名前をテキトーに弄ってできあがったものであるが、名前の借用元であるだけで、完全に別人であります。

>ゲロ・カンキチ
イゼルローン要塞にいた人間って民主主義のために戦う覚悟があるからいるって決まってるわけでもなかろうという発想から誕生。
個人的に、芸術家って強固な政治的信念を持っている相手に全力で喧嘩売ってるような作品を無感覚に作っているという偏見がありまして、その偏見を元に無節操さをプラスしてたら出来上がったキャラクター。
古より伝わる古代文字でフルネームを記すと「下呂勘吉」となるだろう。

>革命軍記章
OVAだとエル・ファシルの頃とデザインが違うものになってるんだが、ほんと誰が考案したんだろ?


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